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邪神アベレージ  作者: 北瀬野ゆなき
【前篇~邪之章~】
8/82

08:お引越し

 こんにちは、アンリです。

 唐突ですが……宿屋から追い出されました。


 正確に言うと当初の5泊から宿泊延長することを断られた形だ。

 自分でも気付いていなかったのだが、宿屋のおばさんが酷く怯えていたので何処かでうっかり目を合わせてしまったのだろう。

 そのうちそんなことになるのではないかと思っていたけれど、ここまで早い段階で追い出されるのは想定外だ。

 叩き出されるのではなく「お願いだから出てってくれ」と懇願されるのは心に突き刺さった、結構落ち込んでる。

 代わりの宿屋を探すべきかも知れないけど、ショックが大きくてその意志が湧かない。

 それにある意味においては丁度良かったのかも知れない。

 収入と支出のバランスが釣り合っていないという問題は解決していない為、本気で何とかすることを考えるためのいい切っ掛けだったとも言える。

 そうとでも思わないとやってられないだけだけど。


 以前も使った中央広場のカフェで紅茶を頼んで一息吐きながら、方策を考える。

 検討の方向性は2つだ。

 1つ目の方策は別の収入源を確保すること、2つ目は支出の大半を占める「住」の問題を何とかすること。

 前者の収入源については冒険者ギルドに登録する際にも考えたのだが、困難だったために諦めた経緯がある。

 性格的にもスキル的にも接客業には壊滅的に向いていないし、技術があるわけでもないから生産職も不可能。

 私が収入を得ようとしたら冒険者くらいしか道が存在しないのだ。

 加護付与を使った錬金術──安物を買って加護付与を行ってから売り払う──も考えてみたが、付与した武具や衣服は呪われた代物になる比率が高い為、まず売れないし、仮に売れたとしても非常に目立つ行為になるためトラブルが付き纏うだろう。


 後者の住居についても難しく、手持ちの金貨5枚では家を買えるだけの金額ではないし、借家も宿屋と同じように追い出されるリスクがあるため落ち付けない。

 そもそも周囲に人が居る環境で定住する場合、絶対に目を合わせないように始終気を遣っている必要が発生するので最初から無理がある。

 理想的なのは「周りに人が居ない住処」で、「借家ではなく私の持ち家」、加えて「そこそこの生活環境が整っている」こと。

 欲を言えば、「お金を稼ぐ手段」が一緒に付いてきてくれたりするとベストだ。


「そんな都合のいい場所……」


 あるわけがないと言いたいところだが、実は手段を選ばなくてよいなら存在するから困っている。

 主義を取るか実益を取るか……そんな天秤が掛けられた時点で既に私の心は傾いていたのだろう。

 背に腹は代えられないのだ。

 ん? 武士は食わねど高楊枝?

 私は武士じゃないから問題ない。


 考えを纏めた私は食糧を買い込むために商店へと足を向けた。



◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆



 3時間後、大量の食糧をアイテムボックスに詰め込んで、私は先日のダンジョンへと来ていた。

 主義を捻じ曲げて実益を取った選択、ダンジョンに住むために。


 「周りに人が居ない住処」……街から徒歩で2時間、周囲に住む酔狂な人間は居ない

 「借家ではなく私の持ち家」……私がダンジョンマスターだし

 「そこそこの生活環境が整っている」……今は整っていないけど、増築も改装も好き勝手に出来る

 「お金を稼ぐ手段」が一緒に付いてきてくれる……多分お金を持ったカモが今後幾らでもやってくる


 デメリットは平穏が阻害されることと私の良心が痛むことだが、前者はダンジョンの強化を行うことで、後者は最悪の場合でも死人を出さないようにすることを私の中のルールとすることで折り合いを付けたい。

 私はそうやって心を決めると、ダンジョンへと入っていった。


 ダンジョンマスターの能力は「何となくこういうことは出来そう」という微妙に曖昧な感覚で把握出来た。

 例えば、ダンジョンはダンジョンマスターの支配領域と言うことでダンジョンマスターはダンジョン内に限定して好きな場所に移動出来るし、自身がダンジョン内に居る時限定のようだが、ダンジョン内のあらゆる場所を見聞きすることが出来る。

 私は転移を使用してダンジョンコアのある部屋へと移動した。


 6畳くらいの小部屋に50センチ程の蒼いクリスタルが浮かんでいる。

 これがダンジョンコアなのだろう。

 私はダンジョンコアに手を当てながら呟く。


「ダンジョンステータス」


  名 称:邪神の聖域

  属 性:闇・死・瘴気

  階 層:3

  魔力値:1532


 私自身のステータスもそうだが、ダンジョンのステータスも禍々しいことこの上ない。

 名称と属性は見なかったことにして、残りの項目に目を向ける。

 階層の3は初心者ダンジョンのものをそのまま引き継いだのだろう。

 色々と基本構造は変わっているが、階層は変わらないと言うことらしい。

 魔力値はダンジョンコアに蓄積されている魔力の残量のようで、これを用いてダンジョンの拡張や整備を行うみたいだ。

 ダンジョンコアに魔力を蓄積する方法は2つ、ダンジョンマスター自身が魔力を注入するか、ダンジョン内で侵入者が死亡した場合にその者の魔力が取り込まれるようだ。

 ダンジョンコアは貯金箱のような役目も果たしており、ダンジョンマスターは日々コアに魔力を蓄積することで自身のキャパシティ以上の魔力を使用出来る。

 例えば、ダンジョンマスターの平均的な魔力値は1~2万で、ダンジョンの階層を増やすには100万が必要になるため、そのままでは永遠にダンジョンの階層を増やすことが出来ないが、ダンジョンコアに溜めていけば自身のキャパシティに関係なくダンジョンの階層に行使出来るため、日々1万ずつ溜めていけば単純計算で100日毎に1階層増やせる。

 しかし実際には自身の魔力を全て蓄積するわけにもいかないだろうし、他の事に魔力を使用するためだろうからそんな単純にはいかず、階層の追加はもっと長いスパンで行うことになる。


 ダンジョンコアからそれらの情報を読み取った私は内心で苦笑する。

 やっぱり魔力値300万は異常だったみたいだ。

 一晩寝れば大体魔力は回復するので1日3階層、100日で300階層作ることが出来ることになる。

 いや、そんなに階層増やしても管理出来なくなるだろうからやらないけど。

 う〜ん、魔力に何か単位を付けたいな。ポイントで良いか。

 取り合えず300万ポイントをダンジョンコアに注ぎ込み、そこから200万ポイントを使って階層を2つ追加する。

 ダンジョンコアがある階層は自動で最奥になるらしく、現在居る階層が第5階層になり新たに第3階層と第4階層が追加された。

 第3階層と第4階層はオーソドックスな迷宮にするが、第5階層は残りの100万ポイントを使用して根本から改装する。

 幾つかの部屋に分けて寝室、居間、台所、浴場、トイレ、倉庫、そしてダンジョンコアを安置する執務室を作成する。

 ついでに魔力による疑似太陽を作成して昼夜の区別を設定。

 窓の外からではなく屋内に直接光が発生するのは違和感があるが、その内慣れるだろう。

 後は少々広めの部屋に屋内菜園を作成……収穫は当分先だろうけど。

 好き勝手に改装したせいであっと言う間に100万ポイントを使い切ってしまったが、取り合えず居住区として最低限の体裁は整っただろう。

 最後にダンジョン内に棲息する全ての魔物に対して侵入者への迎撃を指示するが、その際に殺さずに気絶させることを厳命しておく。

 普通の魔物だと不満が溜まったり本能で命令を無視する可能性があるが、このダンジョンに棲息している魔物は自我のない非生物のものばかりなので、命令には絶対に従うだろう。


 魔力を大量に使用したせいで眠いが、何とか気力で堪えて浴場へと向かう。

 久々の入浴の機会、堪能するまでは寝落ちするわけにはいかない。

 数日振りのお風呂はとても沁み渡り、私は湯に浸かりながら寝てしまった。

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― 新着の感想 ―
[一言] 小さい邪神「おお、浴槽で寝落ちして溺れて再びここの領域に戻ってくるとは情けない。」
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