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邪神アベレージ  作者: 北瀬野ゆなき
【特典之章】
79/82

アンリ様のダイエット

【祝】主人公続投!

WEB版からタイトル、主人公、視点を変更し全面改稿した続編、

「邪神アトランダム 平均的邪神娘と召喚勇者」が10月24日に出版されることになりました。

上で主人公続投と述べた通り、アンリさん主人公に改稿しての刊行となります。


お知らせを兼ねまして、「1年経過したからそろそろOK」と許可を頂けましたので、

書籍版1巻発売時に一部の店舗で特典として付いていたSSを投稿致します。

 それは、不幸な出来事だった。悲劇と言っても良い。


『お腹だってこの通り……ぷにっ……あ……』


 大丈夫だと思ってお腹のお肉を軽く摘まんでみて、うっかり摘まむことが出来てしまった時の絶望感。これに匹敵するものがあるとしたら、トイレで紙が無いことに気付いた時くらいではないだろうか。


 この世界に来てからそんなに贅沢な生活はしていない筈なので大丈夫だと油断していたけれど、やはり運動不足は祟るということなのだろう。確かに最近、運動らしい運動は全くしていない。それどころか、テナが来てからはダンジョンから一歩も外に出ない生活を送っている。

 これでは太……じゃなかった、ちょこっとだけふくよかになってしまうのも無理はあるまい。

 そして、気付いてしまった以上、対策を講じないわけにはいかない。これでも私も一応乙女の端くれなのだ。


『ゆったりとしたローブを着ていれば、誰にも気付かれないと思う』


 頭の中で悪魔が囁くが、私は努めてこれを無視する。

 誰かに気付かれるとか気付かれないとか、そういう話ではない。これは乙女としてのプライドの問題なのだ。


『でも、運動するの面倒くさい』


 それは確かに……って、いけないいけない。

 誘惑に負けてはダメだ。私は鉄の意志を以ってダイエットを敢行することに決めた。




   ◆  ◆  ◆ 




 さて、ダイエットを敢行するに当たって採るべき具体的な方法についてだが、これには二つの方法があると思う。

 そもそも人が太……じゃなかった、ちょこっとだけふくよかになってしまうのは、摂取カロリーが消費カロリーを上回るからだ。余ったカロリーが忌まわしきお肉となってくっ付くのだ。

 なので、ダイエットの方法は大まかに分ければ次の何れかになる。消費カロリーを増やすか、あるいは摂取カロリーを減らすかだ。


「運動は無理」


 前者に関しては二秒で断念する。元々私はあまり運動する人間ではないのだ。いくら痩せたいからといって、いきなり運動を始めるというのは無理がある。

 それ以前に、ダンジョンに隠れ住んでいる今の生活状況で出来る運動など殆ど存在しないという根本的な問題がある。

 よって、この方針は不採用とする。決して、運動するのが面倒だからというわけではないことだけは断言しておく。


 ならば後者はどうか。

 食事によって摂取するカロリーを減らすのは、運動に比べればまだ可能に思える。

 別に断食のような無茶な食事制限をする気はない。野菜中心のメニューに変えたり、炭水化物を減らすようにする程度だ。

 うん、これなら十分に実行可能な範囲という気がする。


「アンリ様? お食事出来ましたよ」

「分かった、今行く」


 考えごとをしている間に食事の時間になっていたらしく、テナに呼ばれた。洗面所で手を洗って食堂に向かうと、食卓には既に夕食が並べられていた。


「──────ッ!?」


 私はそのメニューを見て硬直した。

 基本的にテナは素朴な家庭料理が得意なので、普段のメニューはシチューなどであることが多いのだが、今日に限って何故か特大のステーキが中央に鎮座していたのだ。

 よりによって、何故このタイミングでステーキ……。

 私は引き攣りそうになる表情を何とか抑えて、テナに問い掛けた。


「今日は随分とメニューが豪勢なようだけど……」

「はい! アンリ様、最近何か悩まれているようなので、元気になってほしいと思ったんです。だからちょっと奮発して、お肉たっぷりのメニューにしてみました」


 彼女の気遣いは嬉しい、とても嬉しいけれど、今の私には嬉しそうに小首を傾げるテナが可愛らしい悪魔に見えた。

 その「最近の悩みの種」であったお腹のお肉を更に増量してくれそうなメニューに、私は内心で滝汗を流した。


「あの、どうかされましたか?」


 硬直して食事に手を出そうとしない私の態度に不安を覚えたのか、テナがおずおずと聞いてきた。

 ここでこのメニューを食べてしまえば、更にお肉が増える結末は目に見えている。心苦しいが、ここは断固として……


「その……ご迷惑でしたか?」

「豪勢な食事にびっくりしていただけ。いただきます」


 無理でした。

 上目遣いで涙目になったテナの顔を見たら、ダイエット中だから要らないとか外道なことは絶対に言えない。

 そもそも、ダイエットをしようとしていることをテナに面と向かって説明するのは、ちょこっとふくよかになってしまったことを認めるようなものなので、出来れば避けて、もっとさりげなく要望を出したい。


 うん、ダイエットは明日からにしよう。

 一日くらいでそんなに変わるものでもないし、明日から気を付ければ良いだろう。






 なお、お肉の結果については黙秘させてもらうことにする。

 ただ、一つだけ言えることがあるとしたら……私が喜んだと思って、テナが肉料理をメインにするようになったことは大きな誤算だったということだ。

 お願い、もう許して……。




   ◆  ◆  ◆ 




 この世界に放り込まれて色々と苦労する羽目になったけれど、当然ながらそれだけではなく良かったことも存在する。

 その中の一つに、世の女性達を絶望の底に突き落とす悪魔の機械がこの世界には存在しないということが挙げられると思う。そう、体重計という悪魔の機械が、この世界には存在しないのだ。

 何だそんなことか、などという人は悪魔の機械の餌食になって絶望するといい。

 兎も角、体重計が存在しないため、多少の増減については計測する方法がない。

 少しくらい体重が増えてしまったからといっても、計測が出来ない以上は誤差の範囲だ。

 だから気にしない気にしない。





 ぷにっぷにっ……ダメだ、やっぱり気になる。

 後日、私は結局恥を忍んでテナにダイエット食を用意してもらうように頼み、ダイエットに取り組むのだった。

書籍版「邪神アベレージ」1巻の特典シリーズ第1弾でした。

なお、この時の特典SSは4種類書きました。(こんなに書いたのはこの時だけですが)

邪神アトランダムの発売日が4週目なので、週1本ずつだと丁度良い感じ。

そんなペースで投稿していきたいと思います。

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