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邪神アベレージ  作者: 北瀬野ゆなき
【付篇~平均之章~】
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13:戦慄の結末

 悲壮な覚悟を決めてから暫くが経ち、私達は教皇に呼ばれて彼の執務室を訪れた。

 部屋には私と教皇以外に、テナ、リリ、レオノーラの姿がある。

 オーレインに関してはアキの対策が完了したので、大工仕事に戻ることになった。流石に、聖弓をもう一度取り上げることはしていない。

 本来ならばレオノーラも国に戻らなければならない筈なのだが、事後が完全に落ち着いてから戻ることにして、暫くこちらに滞在するそうだ。


「各国からの回答があったの?」

「はい、距離によって多少の前後がありましたが、回答が来そうな国に関しては概ね出揃ったと言ってよいでしょう」

「回答が来そうな国?」


 来ないところもあるのだろうか?


「聖光教の総本山であるルクシリア法国とその影響が強い国は門前払いに遭いましたので、回答はありません。アンリ様からのお達しだというのに不遜な対応ですが……」


 成程、聖光教の本家──フォルテラ王国が立ち上げたオリジン派が居るため、元々あった方を本家と呼ぶことにしていた──の方は教国の存在自体を認めていない。話も聞きたくないということだろう。


「それはそのままで」

「かしこまりました」


 良い状態かと言われると疑問だが、どのみちあの辺の国と仲良くするのは難しいだろう。今回に関しては抗議もして来ないことを好都合だと考えるようにしよう。


「それで、他の国からは?」


 誠意は金銭で示すと伝えたから、幾ら払えという請求が集まっている筈だ。果たして、どれほどの額の請求が来ているのか。高まる緊張感で私の背中に冷たい汗が流れた。

 しかし、彼は横に置いてある大きな袋を持ち上げ、執務机の上に置いた。重たげな袋だが、中から金属のぶつかり合う音がした。どうやら、大量のお金が入っているようだ。

 私は袋の口を開いてみるが、予想通り金貨が詰まっているのが見えた。


「???」


 何、このお金?

 何かの予算か何かだろうか。しかし、何故彼がこのお金を私に見せたのかが良く分からない。自慢?


「これは各国から回答と一緒に送られてきたものになります。尤も、ごく一部ですが」


 ??? 請求書ではなくお金が送られてきた?

 一体どういうことだろう?

 もしかして、災害の被害にあった国に送る義援金とかかな。各国にも被害を出してしまっているだろうに、その賠償を請求するどころかこちらの被害を心配してくれるとは。世の中捨てたものじゃない。


「回答の文面はそれぞれ異なりますが、趣旨としては同じような内容でした」

「どんな内容?」

「そうですね。要約すると……望みのお金は払うから襲わないでください、といったところでしょうか」

「は?」


 思わず開いた口が塞がらなくなった。意味が分からない。

 つまりこのお金は襲われないように支払ったものということなのか。誰だ、義援金なんて言ったのは。

 しかし、「望みの」とはどういうことだろうか。まるで私達がお金を要求したと言わんばかりの口振りに見える。


「ああ、ひょっとしてお前が言った『誠意を金銭で対応する用意がある』というのを、『金銭で誠意を示せ』という意味に捉えられたのではないか? それに、アキが各国を練り歩いたのも強請りのためのデモンストレーションだと思われているのかも知れんな」


 何故、そうなる!?

 もしもレオノーラの推測が正しければ──実際に此処にお金がある以上正しそうだけど──私は巨大な像を操作して各国を襲った上で、本腰を入れて襲撃されたくなければお金を払えと脅迫した悪の黒幕か何かだと思われていることになる。

 素直に謝罪して賠償金を払うつもりだったのに、この扱いは流石に酷くないだろうか。


「それで、どう致しましょう?」


 教皇の問い掛けに、私はしばらく悩んだ。

 選択肢としては、このお金を各国に返して改めて謝罪するか、このまま勘違いしていて貰うかの二択といったところだろう。

 ケジメと言う意味では前者を採るべきなのだろうが、私が持たれているイメージを考えると混乱が悪化しそうな気もする。下手をすれば、誠意が足りないとみなしたと思われて、自棄になって反発される恐れもある。

 その点ではやはり後者を選ぶべきだろうか。アキを教国の外に出さないようにしていれば、丸く収まる筈だ。汚名を被ることになるが、それはやむを得ない。今更だし。


「各国に受け入れた旨を回答して」


 そう、これがこれ以上の騒動を起こさないために一番良い筈だ。決して、お金に目が眩んだわけではない。

 各国から渡されたお金については一度国庫に回して、その何割かを防衛費としてアキの派遣料として貰うこととした。




   ◆  ◆  ◆




 気が付くと、私は先日三柱から査問会を受けた部屋に立っていた。

 先日と同じように私は部屋の中央の台の上に立っており、前方の机にはソフィアとアンバール、そして神族の「私」が座っていた。


「それでは、報告会を始める」


 神族の「私」の宣言が為される。

 しかし、報告会と言っても……。


「つっても、状況は大体分かってんだけどな」

「ええ、事の顛末は見届けさせて頂きました」


 そう、彼ら神族は「情報閲覧」の力でこの世界の出来事を見通すことが出来るのだから、改めて報告するようなことはあまりない。

 にもかかわらず、こうやって二度目の呼び出しをされた理由。もしかして、アキを倒したり封印したりせずに教国の守護神役に据えたことに対してのお説教だろうか?

 しかし、彼らの様子を見てもそれほど厳しい雰囲気は感じない。


「心配すんな、別に咎め立てするために呼んだわけじゃねぇ」

「人族領や魔族領を脅かしている巨大な像をなんとかするようにとは言いましたが、倒せとか封印しろと言ったわけではないですからね。みだりに周囲の土地を徘徊するようなことが無ければ、見事解決したと言っていいでしょう」

「おつかれ」


 三柱からの承認を得られて、私はホッと胸を撫で下ろした。もしも、破壊しろとか封印しろと言われたらどうしようかと思ったところだ。

 しかし、話はここでは終わらなかった。


「但し、だ。それもあの像……アンリルキーパーだったか? あれが今後同じようなことを引き起こさないっつうことが前提だ」

「今日ここに来て貰ったのは、そのことについて確認するためです」


 成程、確かに破壊や封印をせずに事を収めた以上、同じことが起こらないようにというのは当然の要求だろう。

 私としてもアキをしっかりと管理して国外に迷惑は掛けないようにはするつもりなので、そのことに異存はない。、

 しかし、一体どうやってそれを証明すれば良いのか。


「どうすれば証明になる?」


 結局、私がきちんと管理するつもりだという口約束しか出来ない。それも、アキが私の指示を聞くということが前提だが、それについては保証がない。


「まぁ、あの像が言うことを聞くかに関しては信用するしかねぇな。眷属印がある以上は、多分余程のことがねぇ限りは大丈夫だろうよ」

「貴女がきちんと管理するということについても、誓って貰えれば信じることにします。こちらのアンリが後見となるということですので」

「うん」


 ソフィアが中央に座る神族の「私」の方を顎で指しながら、そう告げてきた。神族の「私」もそれには納得していたのか、頷く。 

 どうやら、フォローしてくれたようだ。素直に有難い。


「分かった。他の国に迷惑を掛けないようにきちんと管理する。これで大丈夫?」

「まぁ、いいだろ」

「はい、それで構いません」

「これにて一件落着」


 先程はぬか喜びだったが、今度こそ大丈夫だと再び胸を撫で下ろした。




   ◆  ◆  ◆




 数日経ったある日、私は散歩がてらアキの働きぶりを見てみようと神殿の近くまでやってきた。

 一連の騒動の後に再度作り直された柵の前に、大勢の信者達が集まっている。大人も老人も子供達も、男性も女性も、みんな熱心に祈っており、私は思わず自分が場違いなように思えてしまった。

 こっそりの紛れ込んで見上げてみると、仮面越しにペタンとお尻を地面についた俗に言う女の子座りをした像の姿が見えた。どうやら、下着を見えないように隠してと頼んだ結果、この格好に落ち着いたらしい。

 ちなみに、昼間に立ってることもあれば、私はその現場を見たことは無いが夜になると横になって寝ているという噂もある。

 周囲に気付かれないように小さく手を振ると、私のことを認識していたらしく手を振り返してきた。

 拝んでいた信者の人達は動き出したアキに怯えるでもなく、むしろ大興奮の様相だ。どうやら、神像が動くこと自体は既に受け入れられているらしい。この国の人達も大概図太い。


 上手くやってくれているらしいアキの姿に満足した私は来た方へと戻るべく、晴れた空の下を歩き出した。




 柵の辺りに設けられていた賽銭箱は見なかったことにする。

以上、平均的な日常編(?)でした。

なお、今回掲載分を収録した3巻は5月25日発売予定です。早い場所では、明日くらいから店頭に並んでいるかも知れません。

今回掲載分を計算に入れても、3巻は1巻や2巻に比べると書き下ろしの比率は高めになります。(おそらく3割程。視点改稿分も含めると5割近く)

WEB版をご覧頂いた方にもきっと楽しんで頂けると思いますので、是非よろしくお願い致します。


また、3巻発売記念として新連載開始します。


「乾坤一擲パイルバンカー♂」

http://ncode.syosetu.com/n1310dh/

尖った性能の武具を手に入れてしまった青年のお話。ファンタジーコメディ。

ストック切れるまで毎日投稿。

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