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邪神アベレージ  作者: 北瀬野ゆなき
【付篇~平均之章~】
77/82

12:後始末

「大体お前はいつもいつも行動が突飛過ぎるんだ。少しは周りで見ている私達の身にもなれ!」

「私達があんなに必死に封印魔法を展開してたのに、全部無駄になってしまったじゃないですか!?」

「もしもその像が暴れていたら、一体どうするつもりだったんだ!?」

「それはまぁ、封印なんてせずに収められるならその方が良いのは分かりますが、私達の苦労はどうなるんですか?」


 邪神像の台座の上でそのまま正座させられた私は、レオノーラとオーレインによって左右から同時にお説教を喰らっていた。


 確かに、今回の件に関しては私が悪い。眷属印による繋がりの影響か、かなり衝動的に動いてしまった部分がある。

 一つ間違えれば大惨事に繋がっていたかも知れないし、邪神像の対策のために一緒に動いていた彼女達からしたら裏切り行為だと責められても仕方ない。


 だから、彼女達が怒るのは理解出来る

 出来るのだが……ダブルでお説教は勘弁してほしい。私は聖徳太子ではないのだ。左右から同時に話し掛けられると、聞き分けられない。


「聞いてるのか、アンリ!」

「聞いてるんですか、アンリさん!」

「聞いてる」


 聞いてはいる。いや、耳に入ってはいる。だから、一人ずつ話してほしい。

 ちなみに、お説教する側に回っているのはレオノーラとオーレインの二人だけだ。残りの二人は何をしているのかというと、テナも教皇も私に付き合って横で正座してくれている。

 彼女達が正座する必要は何もないのだけど、教皇が


「アンリ様だけに苦行を負わせるわけにはいきません!」


と言って正座をし始め、それを聞いたテナが


「それなら、私も正座します」


と言い出したため、三人で並んで正座している。

 二人とも正座は二度目だが、まだ慣れてない様子で結構辛そうだ。かくいう私もそろそろ足がつらい。

 私達の後ろには件の邪神像が居る訳だが、何を考えたのか私達の真似をするように正座している。当事者の一人(?)だし、正しい姿かも知れない。この巨大な邪神像がちょこんと正座していると何だかかわいらしく思えてくる。

 私の姿を模しているので、そんなことを言うと自画自賛になってしまいそうだけど。


「………………」

「………………」

「ん?」


 なんだか強い視線を感じたので邪神像を眺めていた視線を外してそちらを向くと、笑顔を二割増しにしたレオノーラとオーレインが無言で私を睨んでいた。

 あ、まずい。余所見がバレてしまったようだ。二人とも輝かんばかりの笑顔のまま、滅茶苦茶怒った雰囲気を醸し出している。


 一応言い訳をさせて貰うと、魔眼の影響を避けるために二人とも目を合わせようとしないから、ついつい他に目を向けてしまうのだ。


「どうやら、反省が足りないようだな」

「みたいですね。どうします?」


 目の前で交わされる不穏なやり取りに、私は思わずおずおずと右手を挙げながら言葉を挟もうとした。


「弁解の余地は……?」

「ない」

「ありません」


 しかし、一言で斬って捨てられてしまった。

 その上、レオノーラが左手を、オーレインが右手を伸ばして、それぞれ私の頬をギュッと摘まんで引っ張ってきた。


「い、いはいいはい!」


 痛い痛い!

 暴力反対!


「アンリ様にあまりご無体な真似は……」

「お前は黙っていろ」

「その、それくらいにしては……」

「テナさんも黙っててくださいね?」


 横で正座している教皇とテナが見かねて諌めに入ってくれたが、怒れる二人は聞く耳を持たない。


「これで余所見は出来ないだろう。さて、それでは最初からだな」

「仕方ないですね。余所見をして聞いていなかったアンリさんが悪いのですから」


 そして悪夢の時間が始まった。




   ◆  ◆  ◆




 あれから約二時間、この鬼二人は本気で私の頬を抓ったままお説教をし続けた。その上、私が少しでも余所見をしようとしたら、ギュッと強く引っ張るのだ。


「まぁ、こんなところにしておくか」

「そうですね。手が疲れましたし、喋り続けていたせいで喉も渇きました」

「………………」


 ここで余計な口を挟むと更にもう一ラウンドという羽目になりかねないので、私は黙ってジッと嵐が過ぎ去るのを待った。

 ずっと摘ままれたままだった頬が漸く放され、私は両手で頬をさすった。

 いたひ。

 鏡がないから見られないけれど、きっとこれでもかと言わんばかりに真っ赤になっているだろう。

 おまけに、足は完全に痺れていてジンジンとした刺激が伝わってくる。いきなり動かすととんでもない目に遭うので少しずつ動かして血行を戻さないと……。

 なお、頬は兎も角として足の方はテナや教皇も似たような状態だ。


「それで、実際のところこの像はどうするつもりなんだ?」


 ジリジリと足を動かして痺れを取ろうとしている私にレオノーラが問い掛けてきた。


「まずは、名前を決めようと思う」

「は? 名前?」


 ずっと邪神像と呼んできたけれど、意志があるならそんな物に対するような呼び方は相応しくないのではと思ったのだ。それと、代名詞も「それ」とかは気後れしてしまう。


「どんな名前になさるのですか?」


 うーん。咄嗟の思い付きだったので、特に良い名前の案がない。

 しかしその時、視界に先程まで私が搭乗していたアンリルアーマーの姿が映った。


 これだ。

 私は痺れる足をなんとか堪えながら立ち上がると、未だに正座したままの邪神像に対して先程のように語り掛けた。 


「これから、貴女の名前はアンリルキーパー。教国の守護神アンリルキーパー。どう?」


 む? 反応が芳しくない。邪神像だけでなく、テナ達もだ。

 物に対する呼び方が相応しくないといったわりに、まるで役職名のような名前だからだろうか。流石にこの姿の邪神像にジョセフィーヌとかシャルロットとか付けるのは、それはそれで痛々しい感じになりかねないからこの辺が許容範囲かと思ったのだけど。

 しかし、安心してほしい。腹案はある。


「略称はアキ」


『ア』ンリル『キ』ーパーの頭一文字ずつを繋げて、アキだ。安直かも知れないが、これなら物や役職名ではないと言えるだろう。

 今度は納得したらしく、邪神像──改めアキは右手を挙げた。気に入ってくれたようだ。


「アキ様ですか。良いお名前だと思いますが、教国の守護神とは?」


 まだ足の痺れと戦っている様子の教皇が聞いてきた。


「このまま此処で神像として立って貰って、いざという時には防衛戦力になって貰う」


 防衛戦力と言っても、このサイズの動く像が立っているだけで警戒して襲われないと思うので、抑止力としての効果の方が高いかも知れない。

 現在のこの国は殆ど戦力と呼べるものが存在しないため攻め込まれた場合のことを懸念していたが、アキがその任に就いてくれるのであれば安心出来る。


「成程、良い案です。そうして頂けると、こちらも助かります。必要でしたら、防衛費から幾らか予算を割いておきます」

「派遣料金については別途相談で」

「かしこまりました」


 私の眷属を派遣するのだから、その派遣料は私が受け取るのが正しい流れだ。そして、必要に応じてその派遣料の中から当事者に給料を支払うことになる。

 尤も、アキに関しては食事とかお金の掛かることはない筈なのでお給料は要らないだろう。

 但し、普通の銅像と違って意志があるため労働条件を決める必要はある。お給料は無しでも休憩や休暇くらいはあげても良いかも知れない。

 嬉々として特大金貨を集めていた様子を見ると、お金がほしいと言い出す恐れも微妙にありそうだけれど、その時は交渉するしかない。

 とその時、足の痺れから復活したテナがおずおずと手を挙げて私に問い掛けてきた。


「あの、アンリ様?」

「なに?」

「その、アキ……さんなんですが、ここに立って貰うとしても他の国から苦情が来たりしないでしょうか」

「それは……」


 確かに、それは私も考えながらも後回しにしていた事柄だ。

アキは人族領や魔族領の広い範囲を歩き回っており、建物を壊したりなどの被害を出してしまっている。それでなくても、各国に混乱を与えたことは間違いなく、このまま教国に安置すると言ったら文句を言ってくる恐れはある。人的被害を出していないのがせめてもの救いだ。

 しかし、一度助けると決めた以上、それについては私が責任を持って謝罪や賠償を粘り強く続けて認めて貰うしかない。

 ……なけなしの所持金がすっからかんになりかねないけど。

 私は様子を窺うようにレオノーラに視線を向けた。


「うちの国は特に賠償などを求めるつもりはない。混乱は起きたが、実際に何かの被害が出ているわけではないしな」


 よかった、取り敢えず魔族領の方は問題ないようだ。これで人族領の方だけに専念出来る。

 私は教皇の方へと向かい、一つの依頼を出した。


「各国に対して、連絡をお願い。今回の顛末と、アキ……教国の守護神アンリルキーパーを今後も教国に置こうと思っていること、それから誠意は金銭で対応する用意があることを伝えて」

「かしこまりました、ただちに対応致します」


 教皇も足の痺れから脱したらしく、立ち上がって一礼すると隣の邪神殿の方へと立ち去っていった。


「大丈夫なのか?」

「お金のこと?」

「ああ、国家間の賠償だぞ。幾ら先日の件で得た金があると言っても、個人で支払うのは厳しい額になるのではないか」

「そうだけど、ケジメは付けないと」


 そう、アキが此処に居れるようにするためには、ケジメを付ける必要がある。多少の金銭の支払いは認めなければならないだろう。

 ……多少では済まないかも知れないけれど、これは彼女を眷属にした私の責任だ。たとえ借金生活になったとしても、逃げるわけにはいかない。

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