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邪神アベレージ  作者: 北瀬野ゆなき
【付篇~平均之章~】
74/82

09:対策会議、再び

 邪神像との戦いから逃走して街に戻ってから一日経った。対策の練り直しとか色々やることはあるけれど、まずは取り敢えず……。


「お仕置き」

「ああぁぁぁ〜、申し訳ございません!」


 敵前で戦意喪失をやらかしてくれた教皇にお仕置きするが、どうにも効いているようには見えない。正座して貰って上に座ってみたんだけど。


 ちなみに、私とテナはそれぞれレオノーラとオーレインを抱えて戦場から撤退したけれど、彼のことは後ろに放り投げたまま忘れていた。

 後からひょっこり戻ってきた時に初めて気付いて「しまった」と思ったけれど、後の祭りだった。

 幸いにも当人は置き去りにされたことを特に気にしていないみたいだけど、ちょっと気まずい。それもあって、あまり強く責められないというのが実情だ。


 まぁ、それでなくても私の姿をしているから攻撃出来ないと言われてしまうと、照れくさい部分もあって追及し難い。


「じゃれあってないで、そろそろ会議を始めないか?」


 教皇の上に座ってた私に、椅子に座っているレオノーラからジト目と共に呆れたような声が投げ掛けられた。じゃれあってるわけではないのに。

 まぁ、お仕置きも効果がないようだし、いつまでもこうしているわけにもいかない。

 私は立ち上がると椅子へと座り直した。


「お仕置き、終わり」

「そ、そんな……」


 何故残念そうな表情をするのか。


「早く座って」


 私が促すと、教皇はがっくりと肩を落として席に着いた。




   ◆  ◆  ◆




「まずは反省会から」

「そうだな」

「反省会、ですか」

「えーと……」

「何を反省すれば良いでしょうか?」


 貴方は全部反省して。


 まぁ、教皇のことはひとまず置いておいて、一番の反省点は邪神像に知能が付いていることを事前に見抜けなかったことだろう。そのせいで、落とし穴作戦は無駄に終わってしまった。


「神像があんなに頭が良くなってるとは思わなかった」

「確かに。てっきりゴーレムのようなものだと思っていたんだが、少々見込みが甘かったみたいだ」

「知能というか、感情のようなものもあるみたいでしたね」

「そうですね。最後は何だか落ち込んじゃってましたし……」


 テナの言葉にその時の経緯を思い出した私は、思わず原因になったレオノーラの方に目を遣った。私の左隣に座っているオーレインも、私と同じように邪神像すら落ち込ませたレオノーラの「武器」をギラギラした眼で見詰めている。


「な、なんだ!?」

「確かにあれは」

「凶器ですね」

「あ、あはは……」


 ちなみに、テナは私やオーレインと違って睨み付けるようなことはせず、苦笑している。これが持てる者と持たざる者の格差か。


「あと反省点としては、思ったよりも耐久力があったこと」


 こちらも完全に想定外だった。仮に戦闘になったとして、倒しきることは出来なくても歩けなくするくらいは出来ると思っていたのだが、四人掛かりであれだけ攻撃してもあそこまでダメージが与えられないとは思わなかった。

 教皇が初っ端から戦線離脱していたこともあるが、仮に彼が戦列に居たままだったとしてもおそらく結果は変わらなかっただろう。


「まったくだ。あそこまで硬いとは思わなかった」


 レオノーラが手をさすりながら述べる。邪神像との戦いで痛めた彼女の拳は既に魔法で治癒されているが、あの時の痛みを思い出しているのだろう。


「私も牽制が精一杯でしたし」

「それは仕方ないですよ」


 オーレインが自分の戦果を卑下するようなことを言ったのを、テナが慰撫している。実際、彼女の牽制には大分助けられたし、私としてもテナに同感だ。


「神の像に相応しい耐久力と言ってよいでしょう。素晴らしい、流石はアンリ様」


 何故か誇らしげに喜んでるこの人、殴っていいかな。

 いや、なんだか悦びそうだからやめておこう。


「しかし、問題はこれからどうするかだ。ハッキリ言って、このままでは何度挑んでも同じ結果に終わりそうだ」

「それは……そうですね。少なくとも、戦力を増強しない限り勝てないでしょう」


 確かに二人の言う通りだと思うけれど、生半可な戦力では増強しても役に立ちそうにない。例えば、騎士団とかが居たところで、あっと言う間に全滅させられるところしか想像できない。

 生半可でない戦力にも伝手はある。アンリルアーマーを借りてきたみたいに、神族の「私」からヴニやインペリアル・デスを借りてくるという手段だ。けれど、それをやると周囲への被害が大きくなってしまいかねない。ダンジョンの中なら兎も角、地上で怪獣大決戦はまずい。

 八方ふさがりだ。


「打つ手なし、か」

「参りましたね」

「どうしましょう」

「困ったものです」


 私もそうだけど、レオノーラ達も良い案が思い付かないようだ。みんな溜息を吐いている。困ったと言いながら全く困ったように見えない教皇以外は。


「取り敢えず、あの後の神像の動向について教えて」

「かしこまりました」


 このまま悩んでいても良い案が出そうにないので、私は情報を整理するために先日の敗走後の邪神像の動向を教皇に尋ねた。

 教皇は恭しく頷くと、円卓の中央の地図に印を書き加えながら解説する。


「先日の落とし穴を掘った場所が此処です。神像はあの後暫くしてから東の方向へと向かいました」


 東……人族領側か。


「しかし、進みは遅いようです。最初にこの国から東に歩いていった時と比べると、およそ三分の一程度の早さで進んでおります」


 彼は地図に邪神像が歩いたとされる軌道を書き加える。

確かに、これまでと比べると格段に襲い上に、なんだか軌道が右に行ったり左に行ったりとよたついているようにも見える。


「この前の戦闘のダメージか?」


 レオノーラが疑問を上げる。もしも先の戦闘で足に与えたダメージによって邪神像の歩みが鈍くなっているのであれば、敗走したとは言え一定の戦果を上げたと言えるだろう。彼女も手を痛めてまで戦った甲斐があるというものだ。

 しかし、そんなレオノーラの希望は一言で切って捨てられる。


「いえ、歩く速さ自体は変わっていないため、それはないでしょう」

「? 歩く速さ自体が変わっていないのに、どうして進みが遅くなるのですか?」


 妙な答えを返してきた彼に、テナが首を傾げながら問い掛けた。


「それが……どうも時折寝っ転がったり、何かに気を取られてフラフラとそちらの方に歩いて行ったりしてまして、歩いている時間自体が短くなっているのです」


 成程、確かにそれなら歩くスピード自体が変わらなくても進行速度は遅くなる。要するに、サボりがちになってるということだ。


「なんか、最初に聞いた話と比べて随分と人らしい行動をするようになってますね」


 確かに、周囲のものなど認識せずに前進するだけだった最初の時に比べて、急速に人染みた行動を取るようになっている。


「人らしいというか……」

「テナ?」


 何か気付いたことがあるようなテナの呟きに私は問い掛けてみた。何処に突破口があるかは分からないから、今は何でもいいから情報がほしい。


「いえ、その、アンリ様らしいなって」


 ガーン!?


 テナにそんな風に思われてたのか、私。

 心外な。私はそんなに怠惰じゃない……と言いたいけれど、テナ達は私が一年くらい外出せずに引き籠ってたことを知っているので、下手に反論出来ない。迂闊に反論すると藪蛇になりかねない。


「……成程、そっくりだな」

「……あ、あはは」


 何故かレオノーラが私にジト目を向けてくる。テナはそんな彼女の呟きを受けて苦笑している。


「成程!」


 何故か私の胸の辺りを見ながら物凄い納得しているオーレイン。何を想像したかは大体分かるけれど、一つだけ言っておく。

 貴女には言われたくない。


「ふむ、アンリ様の像とアンリ様……何か繋がりがあるのかも知れませんね」


 繋がり、か。

 確かに、認めたくはないけれど邪神像の行動は私の行動パターンから何か影響を受けているとしか思えない。外見は私そっくりだし、加護も付与してしまったからその辺りの影響……あ。


「どうした? 何か気付いたことがあったのか?」

「ちょっと待って」


 レオノーラが問い掛けてくるが、先に頭の中を整理させて貰うことにする。彼女達は察してくれたのか、ジッと黙って私の次の言葉を待っている。

 繋がりという言葉で一つ思い出したことがある。邪神像の額に浮かび上がった眷属印だ。もしかして、あれが何かの影響を及ぼしているのだろうか。


「テナ」

「は、はい?」


 私はテナに推測したことを伝え、眷属印の影響に心当たりがないかを聞いてみた。


「ええと、ハッキリとしたことは言えないのですけど……ただ、アンリ様の考えられていることが何となく分かったりすることはあると思います」


 元々気の利く性格だというのが大きいと思うけれど、かゆいところに手が届くお世話をしてくれていたのは、その辺りも関係しているのだろうか。


 いずれにしても、眷属印によって何か繋がりのようなものがあるのは確かなようだ。だとすると、邪神像の行動パターンが私に近くなってきていることも、それが影響している可能性は十分にある。

 テナよりも影響が遥かに強いように見えるけれど、元々自我のあるテナと非生物だった邪神像では影響に差があってもおかしくはない。むしろ、差がない方がおかしい。

 私が推論を伝えると、レオノーラ達は深く頷いた。


「成程、ありそうな話だな」

「そうですね。確証を得るのは難しいですけれど」

「この印にそんな効果があったんですね」

「ふむふむ……こんな感じでしょうか……」


 取り敢えず、爪で自分の額に同じ印を刻み付けたとしても何の効果もないから、教皇は無駄なことはやめるように。


「それで、もしそうだとすると何か突破口になり得るか?」

「行動パターンが分かれば、対策もしやすくなるのでは?」

「しかし、行動パターンと言っても戦闘時の行動パターンではないだろう。アンリが怠惰なようにあの像が怠惰だとして、戦う上で何か役に立つのか?」


 待って、さり気なく批難されてる気がする。


「確かに、戦闘に直接役立てるのは難しいかも知れませんね」

「あ、でも……」

「テナ、何か思い付いたの?」

「はい。アンリ様の好きな物とかがあったら、あの像を誘導することも出来るんじゃないかなって」

「それだ!」


 え?


 テナの言葉を聞いた瞬間に、レオノーラが叫んだ。何か良い案が浮かんだのだろうか。


「アンリの好きな物で釣って罠に誘い込むんだ」

「罠ですか。また落とし穴……いえ、既に一度使っているので同じ罠では避けられてしまうかもしまいませんね。何かもっと別の罠を用意した方が良いでしょう」

「そうだな。流石にあんな風に剥き出しの落とし穴では幾ら誘導しても引っ掛かりそうにない。もっと隠匿性があり、かつあの像を封じ込めることが出来るだけの罠が必要だ」

「封じ込めるなら、封印の結界などが最適ですね。光魔法の領域なので、聖弓を通して聖女神様にお伺いを立ててみます」

「そうしてくれ」


 レオノーラとオーレインの間でとんとん拍子に話が進んでゆくが、私やテナ、そして教皇は置いてけぼり状態だ。


「封印の結界に追い込むのは分かったけれど、一体何で誘き寄せるつもりなの?」


 私が質問すると、レオノーラは自信満々の様子で答えた。

 しかし、私はレオノーラが述べた作戦内容に不安を覚えた。果たして、そんな物であの邪神像が釣られるのだろうか。


「そんな物で上手くいくの?」

「大丈夫だ、必ず上手くいく」


 私としては上手くいっても複雑なのだけど。


「……分かりました、ありがとうございます!」


 聖弓に耳を当てて誰かと話をしていたオーレインが声を上げた。おそらく、ソフィアからの啓示を受けていたのだろう。


「何か分かった?」

「はい。聖女神様があの像にも通じる封印魔法を授けてくれるそうです。ただ、確実を期すためには触媒として使うため聖弓だけでなく聖剣、聖槍の三振りが揃っていた方が良いそうです」


 ソフィアが通じると言い切ったのであれば、多分大丈夫だろう。仮にも光神だし。


「聖なる武具は全部此処にあるから、大丈夫」

「よし、それじゃ罠に関してはそれで大丈夫だな。後は誘き寄せるための物か」

「そちらは私の方で手配しましょう。材質的に完全に再現することは難しいかも知れませんが、外見上似せることは出来ると思います」

「それで十分だろう。それでは手配は任せた」


 こうして、邪神像対策の第二作戦が開始された。


 ……どうでもいいけど、私が対策委員長だった筈なのに、いつの間にかレオノーラが仕切り役になってるな。

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