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邪神アベレージ  作者: 北瀬野ゆなき
【付篇~平均之章~】
71/82

06:対策会議

「それでは、対策会議を始める」

「はい、わかりました」

「ああ」

「お任せください」

「ええと、私も此処に居て良いのでしょうか?」


 私の宣言に、対策メンバー達がそれぞれに返事を返してくる。

 テナはこの場の良心と呼んでも過言ではないので、是非とも居てほしい。


「ただ、始める前に……」

「「「「?」」」」

「まずは自己紹介から」


 この場に集まったメンバーはお互いに良く知らない人も居るので、まずはそれぞれ自己紹介を行って相手のプロフィールを把握するところから始めたい。


「時計回りに名前と役職、それから得意な武器やスキルを話して」


 そう言うと、私は円卓で私から見て左側に座っている薄紫色の髪の少女へと仮面越しに目を向けた。


「わ、私からですか!?

 えーと、オーレインです。

 聖女神様より聖弓を授かり、勇者をやってます。

 聖女神様からのご命令で協力させて頂きます。

 得意なのは弓術で、あと光魔法も使えます」

「現在は聖弓をなくして転職活動中の見習い大工」


 情報が不足していたようなので、私の方で横から補足してあげた。


「しません!

 転職なんかしません!

 というか、せめてこの作戦の間だけでも聖弓返してください!

 じゃないと私、戦えないですよ……」


 確かに、聖弓がないと彼女の戦闘能力は半減どころの騒ぎではないだろう。

 私はアイテムボックスから聖弓を取り出す。

 その瞬間、オーレインの視線が私の手元に釘付けになった。


 試しに聖弓を持つ手を左右に動かしてみると、ピッタリ追随するように彼女の視線も動く。

 ちょっと楽しい。


「返しても逃げたりしない?」

「も、勿論です!

 勇者たるもの一度交わした約束を反故にしたりしません!」

「でも、ちょっとくらいは逃げちゃいたいと思った?」

「ちょっとだけ……って、違います!

 そんなこと思ってません!

 惑わさないでください!」


 屋敷の建設工事は結構大変みたいだし、逃げたくなっても無理はないと思う。

 どちらにせよ、彼女の戦闘能力も必要だし聖弓は返しておこう。


「はい」

「ああ、ありがとうございます!」


 私が手に持った聖弓を差し出すと、オーレインはバッと奪い取るようにそれを取り、二度と離すものかと言わんばかりに抱き抱えた。

 まるで、我が子を守る獣のような様相だ。


 これ、事件が解決した後にもう一度取り上げるのやり辛いな……。


 私はしばらく彼女を生温かい目で見詰めてから、次の人物へと視線を向けた。

 二人目は見知った仲の紅い甲冑ドレスを纏った魔族の少女だ。


「次は私か。

 私の名はレオノーラ=ロマリエル、当代魔王陛下の娘にあたる。

 闇神様の手で送り込まれた。得意なのは格闘と火魔法、闇魔法だな」

「お気に入りの人形を常に抱えていることから、付いた二つ名が『人形姫』」


 彼女が膝上に抱えている人形について、気になっている人も居るみたいだから私から補足してあげよう。


「お気に入りじゃないし、好きで抱えているわけでもない!

 というか、いい加減外してくれ!」


 神族の「私」なら兎も角、私にそれは外せない。


「もしかして、エリゴールさんの娘さんですか?」


 レオノーラの自己紹介の中で気になるところがあったのか、オーレインが質問を挙げてくる。


「む? ああ、そうだが……成程。

 そう言えば、陛下やレナルヴェ達がダンジョン攻略に挑んだ時のメンバーだったな」

「はい、その節はお世話になりました。

 エリゴールさんはお元気ですか?」


 確かに、オーレインは先日の三神戦争でレオノーラの父親であるおじ様と一緒にダンジョン攻略に挑んだ仲だ。

 本来であれば、勇者と魔王は不倶戴天の敵同士なのだが、あの時結構交流を深めていたから最早魔族に対する敵意はないようだ。


 ただ、それとは別にレオノーラの身体の一部分に対して親の仇を見るような視線を向けているのを注意した方が良いだろうか。

 和やかな会話とのギャップが半端ない。


 ちなみに、オーレイン自身はかなりスレンダーな体型をしており、私と同じ派閥に属している。


「元気過ぎて困ってるくらいだ。

 件のダンジョンが攻略出来なかったことが相当口惜しかったらしく、

 王位を私に譲ってダンジョン攻略に再挑戦したいと言い出してな。

 必死に止めているところだ」

「あ、あはは……」


 おじ様、意外と負けず嫌いだったのか。


 しかし、今レオノーラがここに居るということは、おじ様を止める人が居なくなってしまっていることを意味する。

 早く戻らないと、彼女が帰った時には譲位が決定していたりするかも……。


 このことをレオノーラに告げるべきか迷ったけれど、今は邪神像攻略に集中してほしいので敢えて黙っておくことにした。


 私は三人目の方へと視線を向ける。豪奢な法衣を身に纏った金髪の青年は私の視線を受け取ると、恭しく頷いた。


「私の名はハーヴィン、我らが神アンリ様の忠実な下僕です。

 畏れ多くも、この神聖アンリ教国の教皇を任せて頂いております。

 この度は、アンリ様のご意志を受け参戦させて頂くことになりました。

 得意としているのは杖による近接戦闘です。

 魔法は使えないのですが、アンリ様のご加護があれば何も怖いものはありません」


 そこまで一息で言いきると、何故か彼は私の方へとジッと視線を向けてきた。

 キラキラと輝く瞳は何かを期待しているようだ。

 もしかして、オーレインやレオノーラの自己紹介の時にやったように、私が補足することを期待しているのだろうか。


 えーと、何を言えば良いだろう……。


「時々暴走するから要注意」


 こんなので良いのかと思いながら補足すると、はっちゃけ教皇は嬉しそうに頷いた。こんなのでいいのか。


「あ、あの、ハーヴィンさん? 今教皇って……」


 オーレインが彼の自己紹介を聞いて信じられないような顔をしながらおずおずと聞いてきた。


 はて?

 彼女ははっちゃけ教皇のもとでこき使われ……いや、監督のもと大工仕事に従事している筈だが、今更何か疑問があるのだろうか。


「そう言えば、貴女達にはお伝えしてませんでしたね。

 いかにも、この神聖アンリ教国の教皇を務めております」


 言ってなかったのか。

 オーレインの顔が盛大に引き攣る。これまで普通に話していた相手が国家元首だと聞かされれば、驚くのも無理はない。

 そもそも、仮にも国家元首が一軒の屋敷の建築に従事しているとは普通は思わない。言われなければ気付けないのも当然だ。


 私はちょっと彼女に同情しつつも、その辺の折り合いはそれぞれで付けて貰うしかないと考えて放置することにした。


「あ、あとアンリ様って……」


 オーレインが私の方にチラリと視線を向けながら教皇に問い掛けた。

 事情を知らない彼女にとっては確かに意味が分からないだろう。

 彼女達に屋敷の建設を依頼した時にも説明を端折ったため、それも無理はない。

 邪神と呼ばれる神と私が同一にして別なる存在など、想像するのは難しい筈だ。

 彼は神族の「私」も私も同じように呼ぶので、私自身も時々混乱する時がある。


 仕方ないので、フォローしておこう。


「名前が同じだからややこしいかも知れないけれど、

 この国で祀られてる神様からの命令を受けたという意味」

「あ、そうだったんですね」


 納得してくれたようなので、次に行くことにした。

 四人目は勿論、私の従者である金髪の少女。


「あ、はい。テナと言います。

 アンリ様の従者をしています。

 戦ったりするのは得意ではないのですけど、レオノーラさんに教えて貰った闇魔法は使えます」

「最近、派閥転向の兆しあり」

「はい?」


 私が補足するも、テナは意味が分からなかったようで首を傾げている。

 しかし、オーレインは私が向けた視線で何のことだか気付いたらしく、信じられないものを見る目でテナの胸元を凝視していた。


 使徒族であったときに成長が止まっていたことの反動か急成長している彼女の胸部は、現時点で既に年上である筈のオーレインを追い抜いているようにも見える。

 いや、確実にテナの方が大きい。

 レオノーラのように化け物クラスというわけではないが、まだまだ発展途上ということを考えれば脅威だ。


 私?

 聞かないで。


「あ、あの……?」

「ハッ!? す、すみません! 何でもありません」


 彼女のあから様過ぎる視線に気付いたのかテナが戸惑いの声を上げると、オーレインはハッと我に返って謝罪する。

 どうも、彼女のコンプレックスも結構根が深そうだ。


「最後に対策委員長の私。

 名前はアンリ。

 私も戦うのは得意ではないけれど、闇魔法は使える」


 得意ではないという以前に、一度も戦った経験がないわけだけど。


「役職は?」


 む、そこに突っ込んでくるか。何て言って良いか分からなくて敢えて省いたのに。

 しかし、今の私の役職と言われても答えに困る。公的な役職はないし、肩書きや身分なんかも曖昧だ。

 仕方ない、正直に言おう。


 「……職業、無職」


 周囲の目線が生温かくなった。




   ◆  ◆  ◆




 さて、自己紹介も終わったことだし、今度こそ会議を始めよう。


 私は中央の円卓の上に地図を広げた。

 地図上には邪神像の進路を示す赤い線が記されている。

 それは、中央に位置する教国から出発し、楕円を描く形で大陸の北西部まで伸びていた。


「神像は現在、魔族領に居る。

 そこからこちらに向かっていて、おそらく明日の昼頃にこの国に戻ってくる」


 私の言葉を受けて、教皇が懐から取り出した掌くらいの大きさの人形を、邪神像の所在地と思われる地点に置いた。


 ……その人形について、ちょっと後で話しがあるから。


 どうして、私の姿を模した人形が用意されてるのか、そして何故それがさも当然のように懐から出てくるのか、小一時間程問い詰めたい。


「この国に戻ってくる明日がチャンス。

 なんとしても、そこで神像を止めたい」

「ちょっと良いか?」


 私がそこまで言うと、レオノーラが軽く手を挙げながら発言の許可を求めてきた。


「なに? レオノーラ」

「止めるというのは、具体的にどうするつもりだ?

 破壊するということだと考えて良いか?」

「それは……」

「反対です! アンリ様の神像を破壊するなど、とんでもない!」


 レオノーラの問いに答えを返そうとした私の言葉を遮る形で、彼女の左隣から反対の声が上がった。


「そんなことを言ってる場合ではないだろう!」

「しかしですね……」


 破壊すべきと主張するレオノーラと断固反対の教皇との間で言い争いが始まってしまった。

 オーレインもレオノーラに賛成で、テナは中立のようだ。


 今思ったのだけど、この会議のメンバーって脳筋比率高い気がする。

 レオノーラは勿論として、オーレインも先日のダンジョン攻略の様子を見る限りではそっち派だ。

 教皇はこれを脳筋と称するのが正しいか疑問はあるけれど、物事を深く考えないという点では似たようなものだ。

 この中では、テナだけが頼りだ。


「アンリ、お前はどうなんだ!?」

「アンリ様のご意見は如何ですか!?」


 ステレオで詰め寄らないでほしい。

 取り敢えず、私の意見としては……。


「作戦は捕獲優先」

「む……」

「おお、流石はアンリ様!」


 レオノーラが不満そうな表情になり、教皇は喜色満面という様相だ。


「何故だ? まさかお前まで破壊するのが嫌だからとは言わないだろうな?」

「そんなつもりはない。もっと単純な理由」

「単純な理由、ですか?」


 首を傾げながら問い掛けてくるテナに、私は頷いて答えた。


「どうやって壊すの?」


 あれだけ巨大な金属の塊、人の手で破壊出来るとは到底思えない。

 それに、ただの銅像だったのならまだしも、加護付与によって謎の金属へと変貌している。

 どれだけの防御力があるかも不明だが、少なくとも元の状態より脆くなっているとは思えない。

 私がそう言うと、レオノーラもオーレインも私の言いたいことが理解出来たのか、唸りを上げた。


「それは……。そうだ、ダンジョンのボスをやっているあの黒龍をまた借りてくるというのはどうだ?」


 成程、巨大な敵には巨大なものをぶつけるという発想は正しい。

 でも、生憎とそれはなしと言わざるを得ない。


「却下。破壊出来るかも知れないけれど、周辺各国が焦土と化しそう」


 ヴニなら高空からブレスで一方的に攻撃出来るかも知れないけれど、周囲への被害も大きくなってしまう。

 邪神像も巨大さに見合う耐久力があることを考えると、倒しきるまでにどれくらいの被害が出るか想像も出来ない。


「それもそうか」

「でも、それだと捕獲も同じくらい難しいのではないですか?」


 それを言われると、少し弱い。

 確かに、破壊するのも難しい程に巨大な邪神像を捕獲するというのも、なかなかに難題だ。


「捕獲……落とし穴とかで捕まえたりする感じでしょうか」


 私の横に座っているテナが、提案をしてくれる。

 落とし穴か、シンプルだけどこの場合は一番適切かも知れない。


「準備の時間も限られてる以上、それくらいしかないな」

「問題は明日までに巨大な落とし穴を用意出来るかですが……」

「それについてはお任せください。

 信徒達を総動員すれば、なんとかなるでしょう」


 時間がないことを考えれば、少々強引に人海戦術で押しきるしかない。

 それを考えれば、信徒を総動員するという教皇の提案は最適だ。


「お願い。それと、もしも失敗した場合は捕獲を諦めてなんとか破壊する方向で」

「破壊は難しいという話ではなかったのか?」


 確かにさっきはそういう話だったけれど、第一案が失敗した場合の次善の策としては持っておく必要があるだろう。


「完全に破壊するのは無理かも知れないけれど、足とかに傷を付けて動きを鈍くすることが出来れば少しでも被害が減らせる」

「成程、そうですね」

「ふむ、決まりだな。それで良いか?」


 私の発言を受けて、レオノーラが先程強行に邪神像の破壊に反対していた教皇に対して問い掛ける。


「むぅ、アンリ様が仰るなら仕方ないですね」


 私が提案したということと、あくまで捕獲失敗の場合の第二案ということで、彼も渋々ながら了承してくれた。


「それでは、各自準備を始めて」

「ああ」

「分かりました」

「お任せください」

「はい、アンリ様」

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