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邪神アベレージ  作者: 北瀬野ゆなき
【付篇~平均之章~】
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05:選抜メンバー

 三柱による査問会から生還した私は、召喚されるまで居た邪神殿三階層の会議室に自分の足で帰ってきた。

 予想した通りあの部屋は邪神殿の四階層に設けられた部屋だったため、階段を下りればすぐだ。

 私をあの部屋まで運んだ方法は分からないけれど、何かしらの権能を使ったのだろう。

 しかし、テナを始めとする周囲に居た人達から見たら忽然と消えた形になっていたため、私が戻った時には大騒ぎが起こっていた。


「アンリ様!?

 ご無事だったんですね。

 突然消えてしまったので、何処に行かれたのかと……」


 姿を見せた私に、テナが涙目になりながら縋り付いてきた。

 心配掛けて、ごめん。


 全部彼らが悪い。


「ちょっと、上に呼ばれてて」

「上って……」


 私が天井を指差しながらそう答えると、テナは指の先を追って天井を見上げた後、首を傾げた。


「神像を止めるための人員を貸してくれることになった。

 集まり次第対策会議を始めるから」

「ええと、はい。分かりました」


 まだ理解が追い付いていない様子だが、テナは私の説明に納得してくれた。


「ところで、人員ってどなたが来られるのですか?」

「ええと……」


 そういえば、私も聞いてないから分からない。

 何人来るかも分からない。

 ソフィアとアンバールがそれぞれ派遣することは確定しているので、最低でも二名になる筈だが、それで全員だろうか。

 それに、あまり悠長にはしてられないのだけど、一体いつ来るのだろう?

 彼らだって時間に余裕がないことくらいは分かっている筈なので、そんなに遅くなることはないと思いたい。


「あの〜……」


 そんなことを考えていたところに、横合いから遠慮がちな声が掛けられた。私がそちらを向くと、そこには薄紫の髪をした少女の姿があった。見習い大工のオーレインだ」

「違います! 私は見習い大工じゃありません! 勇者です、勇者! 聖弓の勇者、オーレインです!」


 しまった、つい声に出してしまっていた。


 大工と評したことに対して、オーレインは顔を真っ赤にして憤りの声を上げている。

 しかし、今の彼女は勇者の証である聖なる武具──聖弓も持ってないし、従事している仕事も大工仕事だから見習い大工と呼ぶのが適当だと思う。


 聖弓は私が持ってたりするけれど。


 それにしても、彼女を始めとした勇者達は私の屋敷の建築に従事している筈だ。

 それなのに、何故此処に居るのだろうか?

 事と次第によっては減給ものだ。


「なんでここに居るの? サボり?」


 私がそう尋ねると、オーレインは首を横に振った。 


「サボりじゃありません。

 聖女神様に此処に行くように言われたんです」


 ソフィアに言われて此処に?

 それはやっぱり……。


「やっぱりサボりか」

「どうしてそうなるんですか!?」


 いや、だって……雇用主は私だし。

 他の人──人じゃなくて神族だけど──の指示で仕事を放り出したら、それはサボり以外の何物でもないだろう。

 まぁ、彼女達正勇者がソフィアの命令を拒める筈もないし、タイミングから考えれば先程話していた邪神像対策の人員として派遣されたのだと分かるから本気で咎めるつもりはないのだけど。


 でも、反応が良くて面白いから、ちょっとだけからかってみよう。


「雇用主である私以外の指示で持ち場を離れたのだから、サボりであることに変わりはない。

 光神の命令があったとしても、それは同じ」

「え? あ、それは……」

「聖弓を返す代価として働いて貰っていた筈なのに、その仕事を投げ出すというのなら……」

「そ、そんな!?」


 私の言葉に、オーレインはサッと青褪める。

 このままでは聖弓を返して貰えなくなると思ったのか、彼女は半ばパニックになりながら弁解を始めた。


「ま、待ってください!

 持ち場に戻りますから!

 だから、聖弓は──ッ!」


 慌てて身を翻して立ち去ろうとするオーレインの姿に、私はちょっと焦りを覚える。

 からかい過ぎたかも知れない。引き留めないと本気で帰ってしまいそうだ。


 ……ソフィアからの命令はよいのだろうか?


「ちょっと待……」

「すぐに戻りま──ふぎゃっ!?」


 慌てて止めようとした私の声を聞きもせず部屋の外に向かって駆け出したオーレインだが、彼女が部屋の外に出ることはなかった。

 部屋を出ようとした彼女の上空に魔力で構築された陣が浮かび上がり、そこから落下した何かが彼女を押し潰したのだ。


「な、何だ!? 何が起こった!?」


 オーレインの上に尻餅を突く形で彼女を踏み潰したのは、物ではなく人だった。

 しかも見覚えがある姿と声……先日魔族領で別れた筈のレオノーラだ。


 床に落下した彼女の後を追うように、呪いのテナ人形が落下してきてレオノーラの頭に乗っかった。


 先日別れたと言っても、ついさっきまで通信していた相手でもあるので、あまり久し振りの感じはしない。


「アンリ? 何故魔族領に……?」


 辺りを見回して私の姿に気付いたレオノーラが、そんな質問をしてきた。

 どうやら、此処が教国であることにまだ気付いていないらしい。


「さっき振り、レオノーラ。

 それと、ここは魔族領じゃなくて教国の神殿だから」

「は?」


 私の言葉に、彼女は理解が追い付かなかったのか大きな口を開けて固まった。


「取り敢えず……」

「取り敢えず?」


 首を傾げて聞き返してくるレオノーラに、私は彼女の下に指を差しながら告げた。


「そろそろどいてあげたら?」

「え? ……うわ!?」


 自身のお尻に潰されて目を回しているオーレインのことに初めて気付いたレオノーラは、慌てて立ち上がり介抱を始めた。




   ◆  ◆  ◆




「ひどい目に遭いました」


 数分後、レオノーラの介抱の甲斐あってオーレインはなんとか復活した。

 腰を押さえながら涙目になってる状態だけど、一応復活と言っていい筈だ。


「その、すまなかった」

「え? いえ、貴女のせいじゃ……」


 申し訳なさそうに頭を下げるレオノーラに、オーレインも慌てて止めに入る。

 実際、レオノーラは此処に落とされただけで不可抗力なので、彼女のせいではない。

 彼女を落とした者が悪い。そして、それをやったのは十中八九アンバールだろう。

 ソフィアがオーレインを派遣してきたように、アンバールが派遣してきた人員がレオノーラというわけだ。

 大分横着で荒っぽい派遣の仕方だったけど。


 ただ、派遣されてきたのが彼女というのは、正直ありがたい。

 私としても、気心知れている相手だとやり易い。


「レオノーラ、状況は分かってる?」

「いや、何の予告も無く此処に送り込まれたから、なにがなんだかさっぱりだ」


 説明無しかい。手抜きにも程がある。

 まぁ、怠惰なアンバールにそんなことを期待するだけ無駄か。


 仕方ないので、私は彼女に状況を説明した。

 と言っても、邪神像のことはレオノーラも知っている話なので、話す内容はそう多くはない。

 三柱にあれを止めるように指示されたことと、そのための人員が派遣されること、それから彼女がその人員に指名されたであろうことだけだ。


「成程な、私としても協力するのはやぶさかではない。

 闇神様のご命令なら尚更だ。

 ……出来れば、飛ばす前に説明してほしかったが」

「そういうことだったのですね」


 ようやく得心したと頷くレオノーラの横で、一緒になって説明を聞いていたオーレインも同じように頷いていた。

 彼女はソフィアから説明されて此処に来たんじゃなかったのかな。


「光神から説明は無かったの?」

「え? いえ、聖女神様からは此処に向かうようにと言われただけで、

 それ以上は行った先で聞くようにというお話でした」


 そっちもか。

 兎も角、レオノーラとオーレインの二人がソフィアとアンバールの派遣した人員なら、このメンバーで邪神像を攻略しなければならない。

 私は改めて二人の方を向くと、声を掛けることにした。


「大変だと思うけれど、力を貸し……」

「アンリ様!」


 私の声を遮って、横から声が掛けられた。ふと見ると、そこには走り込んできた金髪の青年、はっちゃけ教皇の姿が。


「何?」

「アンリ様の命により、アンリ様の手伝いを仰せつかりました」

「???」


 一体何を言ってるんだろう、彼は?


「どうぞ、何なりとご命令ください」


 よく分からないけれど、手伝ってくれるならいいか。


「テナ」

「はい、アンリ様」

「お茶をお願い」

「分かりました」


 さぁ、対策会議を始めよう。

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