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邪神アベレージ  作者: 北瀬野ゆなき
【付篇~平均之章~】
68/82

03:蹂躙される世界

評価ポイントを入れてくださった方々、ありがとうございます。m(_ _)m

 あれから三日、各国は突然の邪神像の襲来に大混乱に陥っていた。


 何しろ、神殿と同じくらいの高さをした像が好き勝手に動きまわっているのだ。

 事情を知らない人が見たら恐慌状態に陥っても不思議ではない。

 それに、たとえ事情を知っていても脅威であることには変わりない。



『東の王国で城壁が踏み潰されました!』



 教皇に手配して貰った追手からは次々と続報が送られてくる。

 その情報を邪神殿三階層の会議室で聞いていた私は、次々に飛び込んでくる凶報に肩身が狭くなり、身を縮こまらせるしかなかった。


 広めの部屋には中央に大きなテーブルが置かれ、その上に教国を中心に据えた大陸の地図が広げられている。

 もっとも、実際この国は大陸のほぼ中央に位置するわけだけど。


 地図の上に報告を受けて邪神像の動向が次々に書き込まれてゆく。それによると、邪神像は教国を出発点としてまず北東に進んでいったようだ。

 幸いにして、今のところ城壁を掠める程度で済んでおり、街を直撃するような被害は出ていないようだ。

 人的被害が出ていないことには、心の底からホッとした。



『北の山脈を通過していきました!』



 その後、邪神像は弧を描くようにして教国からみて北側に位置する山脈へと向かったらしい。

 山々に生えている樹を薙ぎ倒しながら、山脈を横断してゆく邪神像。自然破壊極まりないが、他国に被害を出していないだけマシと考えるべきだろうか。

 少なくとも、人家がないところを歩いてくれた方が、私としては安心出来る。

 比較的少ない被害で済んでいるのは、邪神像がコースを選んで歩いているためなのか単なる偶然なのかは分からないけれど、今後大きな被害を生み出す恐れがある以上は早く止めなくてはならない。



『神像は魔族領の方に向かいました!』



 ……まずい。


 邪神像はその大きさを除けば私に瓜二つの姿をしている。私のことを知る者が見れば、関連性は一発でバレるだろう。

 魔族領には、以前私と共に暮らしていた人物が居る。目撃されたらおそらく……。


 私の予想を裏付けるかのように目の前に突然黒い光が起こると、その中に映像が映し出された。

 通信魔法のチャンネルが開かれたのだ。

 私は次に来る衝撃に備えて、両手で耳をしっかりと塞いだ。


「アンリ様?」


 部屋の中に居るテナを始めとする私以外の人達が、私の突然の行動に不思議そうな表情になる。

 耳を押さえた方が良いと思うよ?



『こらーーーーーーッ!』



 通信魔法の光を中心に放たれた怒声で、室内の空気がビリビリと震えた。

 部屋の中に居た人達は突然の大声に耳を押さえて蹲る。幸いにして私は予め耳を塞いでいたため、被害は最小限で済んだけど。

 最初はピントがずれていた映像も、次第に鮮明になってゆく。

 そこに映っていたのは予想通りの人物だった。以前この教国で暮らし、魔族領へと帰ったレオノーラだ。

 まさか、別れからそう時をおかずに映像越しとはいえ、こんな再会が待っているとは思わなかった。



『あの像はお前の仕業だろう、アンリ! お前は一体何をやってるんだ!?』



 レオノーラは教国で銅像が建造されていたことを知っているし、私の姿も知っているから、邪神像を見ればすぐに私が関わっていると推測出来ただろう。

 実際、邪神像が動いているのは私が加護付与してしまったせいなので、彼女の推測は概ね正しい。

 しかし、私が何かを企んでるように思われては困る。


「確かに原因ではあるけれど、私の意志じゃない。あれは不可抗力」


 そこだけは主張しておこう。わざとじゃなかった。


 そう告げて真っ直ぐに彼女の目を見詰める。

 こうして、レオノーラと目を合わせるのはかなり久し振りだ。映像越しであるおかげで魔眼の効果が発揮されないから出来ることである。


 しばらくそうして無言のまま見詰め合っていたが、彼女は私の性格も知ってるし、私が故意にやったわけではないことは信じてくれたようだ。

 ただ、故意ではないということはイコール私の意志で動いているわけではないということで、それは幾ら私に訴えかけても止まらないということでもある。

 レオノーラは先行きの不安に頭を抱えながら溜息を吐いた。


「魔族領の被害状況は?」



『幸い、城や街に被害は出ていない。

 巣を踏み荒らしたらしく、本来出没しないような場所で魔物が暴れることはあったが、すぐに鎮静化した。

 ただ……』



 ただ、何?

 思わせぶりに言葉を切るレオノーラに、私は思わず息を呑んで彼女の言葉の続きを待った。



『あれだけ巨大なものが徘徊していれば、当然目に付く。

 国の至る所でパニックが起こって大変なことになってる』



 それは、ごめんなさい。



『昨晩、寝に入ったところを叩き起こされてな。

 以降ずっと国内の騒動の片付けに追われてるんだ』



 よく見ると、彼女の目の周りには隈がハッキリと浮かんでいる。

 寝に入ったことを叩き起こされたと言っていたし、おそらく殆ど徹夜なのだろう。

 ほんと、ごめんなさい。

 なお、私はこの三日間も普通に睡眠はとっているが、これはいざという時にちゃんと行動出来るようにするためだ。



『それで、何故あんなことになってるんだ?』



 私はレオノーラの質問に、これまでの経緯を掻い摘んで説明する。


 邪神像が完成して、その姿を教皇に見せられたこと。

 その像のデザイン上、至近距離から見上げられると教育上よろしくない光景が見えてしまうため、急遽周囲に柵を作って貰うことにしたこと。

 その作業を依頼者として監督している時に誤って加護を付与してしまい、邪神像が歩きだしたこと。


 話すうちにレオノーラの目が段々とジト目になってきた気がするが、きっと気のせいだろう。

 一連の流れは改めて振り返ってみても、こうなることは避けられなかったという事実がよく分かる。


「避けられない悲劇だった」



『ど こ が だ!』



 怒られた。



『柵を作るところまでは良いとして、

 お前が誤って加護を付与したことには必然性がないだろうが!』



 流石に付き合いの長い彼女にはバレてしまった。

 しかし敢えて言い訳をさせて貰うと、あのポカポカした陽気の中で居眠りしてしまうのは仕方のないことだと思う。

 全ては太陽のせいだ。



『何か変なことを考えているだろう』



 脳筋の彼女がいつになく鋭い。


「何のこと?

 それより、もし分かるなら教えてほしい。

 あの像は魔族領をどんなルートで移動してるの?」


 ちょっとわざとらし過ぎる話題の逸らし方だったが、今一番気になっていることでもあるので真剣な問い掛けだ。

 移動し続けている邪神像が次に何処に向かったのか。それは重要な情報だ。


 レオノーラもそれは同意だったのか、真剣な表情になる。



『像の侵攻ルートは北東部からだった。

 そこから魔族領の北部を半円を描くように移動している。

 最新の情報がないが、おそらく現在地は魔族領の中央より少し北辺りだろう。

 このまま進めば、明日の今頃は人族領の方に向かう筈だ。

 そうだな、ちょうどお前の居る教国に戻るような形になりそうだ』


 つまり、教国から大陸北部を逆時計回りで楕円を描くようにして一周してきたことになるわけか。

 随分移動速度が速いけれど、あれだけの大きさならゆっくりと歩いているだけでも進みが早いのも頷ける。何せ歩幅が違う。

 いずれにせよ、邪神像がこの場所に戻って来るのなら絶好のチャンスだ。なんとか止める方法を考えなければ。



『それでは、一旦切るぞ?』



 言いたいことと知りたいことが済んだのか、レオノーラは通信の終了を告げてきた。

 怒られたけれど、彼女の齎してくれた情報は現状を打破するのに役立つ貴重なものだった。


「うん、分かった。

 連絡、ありがとう。

 何か続報があったら教えてほしい。

 こっちからも情報があったら連絡する」



『ああ』



 レオノーラはそう言うと、通信魔法を解除した。


 さて、まずは状況を整理しよう。

 そうして、部屋の中央のテーブルに広げられた地図に、レオノーラから貰った情報を書き込もうと思って椅子から立ち上がった私の視界が唐突に真っ暗になった。




   ◆  ◆  ◆




 暗転した視界に戸惑った次の瞬間、私は全く別の部屋に居た。

 その部屋は先程まで居た会議室より面積としては少し狭いくらいの広さで、代わりに高さはこちらの方が高かった。

 部屋の中央には台が、前方には裁判所で見るような大きな机が三つ置かれている。私はいつの間にか、中央の台の上に立っていた。


 三つの机にはそれぞれ人が座っており、私から向かって右側には全身甲冑を着た金髪の女性、左側には紅いマントを羽織った薄緑の長髪の男性、そして中央には今私が着ているのと全く同じ黒薔薇の意匠が施されたドレスを纏った黒髪の少女が座っている。

 机がかなり大きく高さもあるため、必然的に上から見下ろされるような構図となる。

 威圧的で、見下ろされるこちらとしてはかなり居心地が悪い。


「………………」

「………………」

「………………」

「………………」


 部屋の中には私を含めて四名が存在するが、誰も口を開くことなく緊迫感のある沈黙が周囲に満ちていた。

 しばらく沈黙の時間が続いた後、中央の席に座る少女が徐に口を開いた。


「これより、査問会を始める」

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