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邪神アベレージ  作者: 北瀬野ゆなき
【付篇~平均之章~】
67/82

02:邪神像起動!

 カンカンカンと釘を打ちつける音が鳴り響く。

 等間隔に立てられた杭の上に、横倒しになった棒を固定されてゆく。

 それは、邪神像の周囲を囲むように柵を設けるための作業だ。


「おーい、その杭はもう少し右に寄せてくれ」

「これくらいか?」

「そっちは左だ」

「お前から見て右かよ!?」


 私は大工さん達が作業している様子を、邪神像の足元に座って眺めていた。

 一応、お願いして作業して貰うからには見届けるべきだと思ったためだ。


 最初は邪神像の台座に腰掛けていたのだが、微妙に高さがあって足が地面に着かず落ち着かないのでこちらに移動した。

 銅像のつま先が高さから腰を掛けるのに丁度いい感じだった。

 本当は何か手伝った方が良いのかも知れないけれど、生憎と私は大工仕事なんてやったことがないので戦力外だし、教皇からも見ているだけで良いと言われてしまったため、こうして監督業に勤しんでいる。


 そう、監督業だ。

 決して暇だからぼーっとしているわけではない。

 見ているだけで指示も何もすることはないけれど。


 これで周囲に柵が設けられれば、少なくとも真下から像のスカートの中を覗き込まれるようなことは無くなる。それならまだ、拝まれることくらいは我慢しよう。

 本当は恥ずかしいから像を作られること自体嫌なんだけど、出来上がってしまっているものに今更文句を言っても仕方ない。


「ふー、これで九割くらいは完成したか?」

「そうだな、あともう少しだ」

「よし、残りは一気に仕上げちまおう」

「おう」


 それにしても、良い天気。

 陽射しも暖かく風も穏やかで、ポカポカした陽気に思わず眠気が……と、危ない危ない。意識が飛ぶところだった。

 人に仕事をさせながら寝こけてたら、流石に顰蹙ものだろう。

 いや、文句は言われないかも知れないけれど、私自身が罪悪感を覚えてしまう。

 しかし、こんなお昼寝日和で寝るなというのは、正直拷問に近い。

 響き渡る金づちの音が単調で、また眠気を誘う。

 幸いにして仮面で顔が隠れてるからちょっとくらい寝ていても気付かれないのではないか、そんな誘惑が私を襲う。


 私は自身の内から沸き上がってくる眠気と必死の戦いを繰り広げるのだった。







『邪神像に加護を付与しました』







 !?


 何処からか聞こえてきた言葉に、眠気が一気に醒めた。


 ……まずい、やってしまった。

 触れたまま一時間が経過したことにより、加護付与スキルが発動してしまったのだ。


 頭上を仰ぐように見上げると、巨大な邪神像を包み込むように闇が集まるのが見えた。

 闇が像の足元まで包み込む前に、私は取り敢えず台座の端の方に退避する。


「? おい、なんだアレ……?」

「うん? って、おいおい」

「アンリ様の像に何か黒いものが……」

「あれは一体……?」


 不穏な様子に気付いたのか、周囲で柵を作っていた人達も作業の手を止めて何事かとこちらを見ている。


 その場に居る者達全ての視線が集まる中、邪神像を覆う闇が薄くなってゆく。

 闇が晴れた時、そこにあったのは先程までとそれほど変わっていない邪神像の姿だった。違いと言えば、単に色が黒く染まったくらいだろうか。

 後は、よく見ると額にテナの額にあるのと同じ、「S」の字を横に倒したような印が浮き出ていた。しかし、全体としては劇的な変化というには程遠い。


 いや、油断は出来ない。

 これまでの加護付与のパターンから考えれば、視界に映るだけで見るものの身を恐怖に竦ませるような効果や瘴気を撒き散らすような効果があっても不思議ではない。


 そう考えた私は、邪神像に注目していた周囲の人達に目を向ける。

 しかし、驚いて固まってはいるものの特に異常は見受けられない。


 杞憂だったか……と安堵した次の瞬間、突然周囲が暗くなった。


「………………?」


 しかし、よく見ると暗くなったのは私の周囲だけで少し離れた場所には普通に太陽の光が射し込んでいる。


「…………???」


 不思議に思って上を見ると、巨大な金属の塊が私目掛けてゆっくりと振り下ろされ……って、うわ!?


 私は慌てて転がるように横に逃れ、間一髪のところで振り下ろされる巨大な金属の塊の下から抜け出る。

 その直後、その金属塊……邪神像の右足は台座の上に大きな音を立てて落着した。台座には踏みしめられた邪神像の足元から蜘蛛の巣状の罅が広がり、その圧倒的な質量を物語る。

 危ない危ない。危うく、ぺちゃんこにされるところだった。


 しかし、事態はそれでは終わらない。

 今度は左足が上がり、台座の外の地面へと振り下ろされる。金属で出来た台座ですら罅を入れる程の質量だ。地面は足の形に凹み、地響きが周囲を揺らす。


「…………うそ?」


 台座の上で尻餅を突いて呆然としていた私だが、位置が離れて全体像が視界に入ることでようやく事態を理解することが出来た。

 あの巨大な邪神像が突如として歩きだし、台座の上から外へと踏み出してしまったのだ。

 理由は考えるまでもない。先程私が加護付与してしまった影響だろう。

 見るものを恐怖させるとか瘴気を放つと言ったレベルの話では済まなかった。幾らなんでもこれは非常識過ぎる。

 しかも、動きだした邪神像は二歩歩み出ただけでは止まらずに、更に前方に向かって足を運んでゆく。


「に、逃げろ!」

「一体何がどうなってるんだ!?」

「いいから走れ、踏み潰されるぞ!」

「うわーーーー!?」


 硬直していた周囲の人達も事態を呑み込めたのか、慌てて邪神像の進行方向から逃げ出す。

 その数秒後、周囲に築かれていた柵の一角が邪神像によって踏み砕かれた。

 とはいえ、別に狙って踏み潰したというわけではなく、真っ直ぐ前に向かった結果、たまたま被害にあっただけのようだ。

 先程私も危うく踏まれそうになったが、それも単に私が邪神像の正面に立っていたからというだけの話なのだろう。


 動きだした邪神像は見たところ色は変わったものの金属は金属のままで、関節部分がどうなって歩くことが出来ているのか、その辺りの原理については不明だ。

 しかし、重要なのはそこではない。

 五階建ての神殿と同じような高さの巨大な像が歩いている、そこが一番の問題だ。


 しかも、その歩みは止まることなく次第に遠ざかってゆく。

 このままでは何れ教国から外に出てしまうことだろう。そうなってしまったら、どれだけ大問題になるか想像が付かない。

 でも、それを止めたくても止める手段がない。


「おお!? アンリ様! 何処へ行かれるのですか!?」


 何処にも行かない。

 そもそも、それは私じゃない。


 遠ざかってゆく邪神像に向かって意味不明なことを叫ぶ教皇の頭をしばき倒したくなったが、我慢して彼に近付いて袖を引く。


「アンリ様?」


 教皇が振り返って私の方を向くと、首を傾げる。

 しかし、今はつべこべ話している余裕はない。

 私は端的に要求だけを口にした。


「お願い、あの像を誰か人に追い掛けさせて」

「かしこまりました」


 邪神像が何処に向かって何を引き起こすのか、今後対策を考えるためにもそれらの情報が必要だ。

 見失って所在が分からなくなってしまったら、対処が遥かに難しくなってしまうだろう。

 動きだした邪神像の様子に興奮気味だった教皇だが、私の真剣な声に息を呑んで態度を改める。

 私が焦っていることを理解してくれたようだ。

 そして、邪神像の動向を探るために、手早く近くに居た者に追い掛けさせることを手配してくれた。


「数人で神像の後を追わせましたので、直に情報が入って来るでしょう。

 どうかアンリ様は神殿でお待ちください」

「ありがとう」


 私は教皇に礼を言いながらも、既に頭部くらいしか見えない程遠くに行ってしまった邪神像を、不安で一杯な気持ちで見詰めた。


 これからどうなるんだろう……。


 先行きの暗さに頭を抱えたくなる衝動に駆られながらも、今の私は歩き去ってゆく邪神像を見続ける以外に出来ることは無かった。

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― 新着の感想 ―
折角作った柵が無駄になってしまったな。 踏まれそうになった人々に下着を見せびらかす破廉恥な邪神像と化してる。
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