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邪神アベレージ  作者: 北瀬野ゆなき
【付篇~平均之章~】
66/82

01:危険な邪神像

5月25日に予定されている3巻発売に先立ちまして、Webへの掲載を行います。

詳細につきましては、4月26日の活動報告をご覧ください。

http://mypage.syosetu.com/mypageblog/view/userid/556653/blogkey/1400855/

 それはまだ黒薔薇邸の建設が途中だった頃の話。




   ◆  ◆  ◆




 ある日、私は教皇に呼ばれて邪神殿の隣へとやってきた。

 邪神殿の隣……そこには、建設中だった巨大像が存在する。五階建ての神殿と同じくらいの高さがある、私の姿を模した像だ。

 今は全体に布が掛けられていて中が見えないが、一度取り払われればその威容が下手をすれば近隣の街からも見える恐れがある。


 ……余計なことを。


「それでは、アンリ様。建造した像を御覧ください」


 像に掛けられた巨大な布の端を掴みながら、豪奢な司祭服を纏った教皇が私へと告げてきた。

 今日彼に呼ばれたのは、完成した像を一番最初に見てほしいと言われたためだ。

 本当であれば呼ばれるべきなのは神族の「私」のような気もするけど、流石に仮にも神族をこの場に呼ぶわけにはいかないため、私が代役ということなのだろう。

 本当は逃げたかったのだけど、家を建てて貰っている恩がある以上は無碍には出来ず、やむなく出席することとした。


「さぁ、布を外します!

 我らが神の御姿に世界がひれ伏す瞬間です!」


 ひれ伏さないから。

 思わず口に出さずに突っ込むが、教皇はドヤ顔のまま布を掴んだ手を勢いよく引いた。

白い布が空を舞い、巨大な像が白日の下に晒される。


 高さ一メートル程の台座の上に、巨大な銅像の姿があった。

 銅像は教国が崇める神の姿──イコール、私の姿──を忠実に再現し、その造形は執念すら感じさせる程の緻密さが見て取れる。

 今も私が纏っている黒死薔薇のドレスを着た姿を描いているのだが、ドレスの皺一つまで再現されているのではないかと思う程のリアルな仕上がりだった。


 ……物凄く恥ずかしい。仮面を着けておいて良かった。


「如何ですか、アンリ様!?」


 教皇がキラキラした目で私に感想を求めてくる。

 この像の図面を引いたのは彼であるという話だし気になるのは分かるが、そんな勢いで来られても困る。

 私は思わず自分の顔が引き攣るのを感じるが、少なくとも銅像の出来としては非の打ちどころがないものであるのは確かだ。

 正直、こんなところに無駄な才能を発揮してないで、もっと別のところに注力してほしいと思う程に。

 国政は国政できちんと運営しているから性質が悪いのだけど。


 まぁ、良く出来ているとは思うのでそう答えてあげよう……と口を開き掛けたところで、私はハタとあることに気付いた。


「? アンリ様? どうかされましたか?」

「ちょっと気になることが」

「?」


 教皇が不思議そうに問い掛けてくるが、私はそれを横に置いて銅像へと近付いた。


 気になったのは、銅像──邪神像って呼ぼうかな──のドレスについてだ。といっても、別にドレスの造型におかしい部分があったわけではない。

 むしろ、逆だ。

 邪神像のドレスがあまりにも実物を忠実に再現しているから気になったのだ。


 私が纏っている黒死薔薇のドレスは、ノースリーブの漆黒のロングドレスで、胸元に薔薇の意匠が施されている。

 元々は普通のドレスだったのだが、加護付与によって黒く染まってしまった。

 勿論、それに伴って防御力や耐性といった性能面でも破格の性能になっているのだが、もう一つ変わったことがある。



 危険なのだ、デザインが。



 ドレスのスカート部分にかなり深いスリットが入っていて、脚が見えてしまっている。うっかりすると、下着まで見えてしまいかねない。

 その下着もまた、加護付与によって危険なデザインになってしまっている。

 具体的には、本来隠すべき部分が隠れてないという危険さだ。断じて人に見られるわけにはいかない。


 で、翻って問題の邪神像。

 ドレスは実物を忠実に再現しており、深いスリットも健在だ。

 銅像なので生足と言って良いかは疑問だが、脚もばっちり見えている。



 そこまでは、まあいい。

 いや、あまり良くないけれど、今は置いておく。



 問題は、そこより上だ。

 まさか今私が穿いている下着まで忠実に再現しているとは思わない──もしも再現されていた場合、何処でそれを見たのかとか色々と問題がある──が、この凝りようから言って普通の下着くらいは再現していそうだ。


 不安半分好奇心半分で私は邪神像の足元まで行くと、上を見上げた。

 こうしてみると、やはり大きい。

 像自体の大きさに比例してドレスのスリットも大きくなっているため、そこから中に入れてしまう程だ。


 いや、入らないけど。


 ただ、中に入らなくても、すぐ傍まで行けばスカートの中を覗き込むことは出来る。


 ……うわ。


 スリットの中を覗き込むように見上げた私の視界に映ったのは、内部までしっかりと造り込まれたスカートの中。そして、今私が穿いているもの程ではないにせよ、かなり際どいデザインの下着だった。

 一体どういう思惑で、私の姿をした邪神像にこの下着を穿かせようと思ったのか、教皇を小一時間程問い詰めたい。

 いや、答えられても反応に迷うことになるのが目に見えているので、やっぱり聞きたくない。


 それにしても、今は人払いがされていて他に人が居ないから良いけど、これを多くの人が見ることになるの? 

 それはちょっと……いや、かなり恥ずかしい。

 これはあくまで銅像だから、別に私のスカートの中を見られるわけではない。

 それは分かってる。

 分かってるのだけど、ここまで精巧にかたどられていると、まるで自分のスカートの中を大勢の人に晒しているような気分になってしまう。


「何か気になる点でもございましたか?」

「………………」


 改めて聞いてきた教皇に、私は思わずジト目を向けた。

 しかし、彼は相変わらず魔眼に怯むこともなく、また私の恨めしい視線の意図を察することもなく、不思議そうに首を傾げてた。


 この助平。


 とはいうものの、彼が私に対して女性に対する視線を向けてきているとは欠片も思わない。

 自分で言うのもなんだけど、彼の中の私は最早そういう次元の存在ではないことは、これまでの言動からも理解出来ている。

 ある意味、男性としては最も安心出来る存在であると言えるだろう。

 しかし、そうすると本当にどうしてこんなデザインになったんだろう。答えを聞くのが怖いけど、やっぱり聞いてしまおうか。


「どうして、こんな下着にしたの?」

「は? 下着……ですか?」


 回りくどいことを止めて私が直球でそう尋ねると、教皇はきょとんとした表情になり、答えてきた。


「流石にアンリ様にモデルをやって頂くわけにもいきませんでしたので……」

 モデルなんて勘弁だし、仮にやるとしてもスカートの中まで覗かせるようなつもりはないよ。

「なので仕方なく、ご友人のレオノーラ様にどのようなデザインにすべきか相談致しました」



 レオノーラーーーー!?


 なんてことをしてくれたんだ。

 いや、確かに私が穿いている下着は危険なデザインで、彼女はそれを知っている。そう考えると、まだ控えめにしてくれたと言えなくもないかも知れないが、そもそも好き好んでこんなものを穿いているわけではないことも知っているだろうに。

 もしかすると、呪いのテナ人形の解呪を忘れてたことに対する意趣返し……?

 いや、確かにあれは悪いことをしたと思っては居るけど。


「下着のデザインに何か問題でもございましたか?」

「……見られると恥ずかしい」

「はぁ……」


 抗議したつもりだが、教皇から返ってきたのは生返事で、どうも伝わっている感じがしない。


「何も恥ずべきことはないと愚考致しますが、一体何が問題なのでしょうか」


 真剣な表情を見る限り、どうやら本気で言っているらしい。

 やはり私は女性として見られていないようだ。

 しかし、ここは断固たる意志を示さねば、作り物とはいえ大勢の人に下着を披露する羞恥責めを味わわされてしまう。

 ただ、作ってしまった銅像は削ることは出来ても増やすことは出来ないだろうから、今から下着を露出度の低いデザインに変更したり、覗かれないようにスリットを塞ぐことは難しいだろう。

 なので、せめてもの対応として、至近距離から覗かれないように対処をしてほしい。


「あまり近くに人を寄せないでほしい」

「!? 成程、確かにアンリ様は高みに居られる御方。余人をあまり近寄らせるのはよろしくないですね」


 そう言うつもりじゃないんだけど、まぁこの際どうでもいい。


「像の周りに柵を作って、足元に近付けないようにして」

「かしこまりました、すぐに作業に取り掛からせます」

「お願い」


 私がそう頼むと、教皇は恭しく頷いた後、慌ただしく立ち去っていった。

 取り敢えず、像の周りに柵があれば真下から覗かれることもない。それなら、まだマシだろう。

 一応、頼んだからには作業を見届けた方が良いかな。

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