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邪神アベレージ  作者: 北瀬野ゆなき
【外の理】
64/82

記念SS:謎伝「明けまして同文化交流」

「それではこれより、新年を祝し生贄を捧ぐ儀を始めます!」

「それはもういい」




◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆




「明けましておめでとう」

「新年、おめでとうございます。アンリ様」

「……おめでとうございます」

「新年おめでとう」


 食堂にてテナとリリ、それからレオノーラと新年の挨拶を交わし合った。

 今日は私がこの世界に来て初めて新年を迎える日だ。


「ところで、この世界だと新年のお祝いって何をするの?」

「そうですね……まず皆でオセチを食べます」

「おせち料理? あるの?」


 テナの口から出てきた懐かしい言葉に、俄然期待してしまう。

 普段食べているような料理も美味しいことは美味しいのだけど、偶には和食が食べたくなるのだ。

 里芋の煮物食べたい。


「はい、ちゃんと用意してますよ。

 ちょっと待っててくださいね」

「お手伝い、する」

「ありがとう、リリ」


 テナはリリと一緒に厨房へと一度下がると、やがて二人で何層にもなった箱を運んできた。

 それをテーブルに置き、蓋を開けて各層をバラして並べてゆく。


「さぁ、どうぞ」


 箱の中にはステーキやサーモンなど彩鮮やかな料理の数々がぎっしりと詰め込まれていた。

 うん、ご馳走だ。ご馳走なんだけど……私が知ってるおせち料理と違う。

 これは、元の世界で言う洋食を箱に詰め込んだだけではないのか。


「オセチは大昔の勇者様が発案したとされる由緒正しい新年の料理なんです」

「ああ、それで……」


 クリスマスの時にもあった、過去の召喚勇者の「功績」か。

 ご馳走を重箱に詰めるくらいの説明しか出来なかったんだな、多分。

 そこまでしたなら和食をこの世界で開発して欲しかった……。


 まぁ、料理は普通に美味しそうなので別に害は無いからいいか。


「いただきます」


 うん、美味しい。




「他に、新年らしいことは?」

「あとは、えっと……」

「オトシダマだな、新年の祝いとして子供などに特別に金を渡すものだ」


 ああ、お年玉の風習もあるのか。

 私はオセチ料理を食べる手を止めてアイテムボックスから銀貨を数枚取り出すと、テナとリリに渡そうとする。


「ちなみにだが、直接手渡すのではなく目の前から落とすように渡すのがしきたりだ」


 それ、多分オヤジギャグが混ざってる。

 風習を広めた召喚勇者、一体どんな人が来てたんだろうか……?

 まぁ、いいや。敢えてツッコむ必要性も感じられない。風習通りにしよう。


「いつもありがと」

「あ、ありがとうございます!」

「ありがとうございます」


 私は銀貨をテナとリリの目の前まで持って行って、放した。

 重力に従って落下する銀貨は、二人が反射的に差し出した両掌の上に落着する。


「私には?」

「レオノーラはもう子供じゃない」


 何が悲しくて自分よりも大きな相手にお年玉をあげなきゃならないのか。いや、年齢的には私の方がいっこ上だけど。


 それはさておき……と私は横に目を向けた。

 先程から和気藹々と新年を祝っている横で会話に参加せずにいたソフィアとアンバールの方に、だ。

 二人は私が起きた時から既にお酒を飲み交わしていた。


「朝っぱらからお酒?」


 この駄目人間共め……あ、人族じゃなかったか。


「いいんだよ、新年なんだから」

「新年には神族にお酒を捧げる風習になっているのです。

 だから、私達がお酒を飲むのは神族としての義務なのです」


 確かにお神酒を奉納するということはあるけれど、二柱はそれを口実に飲みたいだけにしか見えない。

 まぁ、今はそれは置いておこう。


「…………スッ」

「?」

「何だこの手は?」


 勿論、決まっている。


「オトシダマ」


 プリーズ。

 神族初心者の私はベテランの二柱から貰う権利がある筈だ。


「阿呆か、何で俺らがお前にオトシダマなんてやらなきゃならねぇんだ」

「まったくです」

「可愛い後輩に偶には先輩らしいところを見せてもバチは当たらないと思う」

「そう言うことは、もう少し可愛げを持ってから言いやがれ」


 痛い、差し出した掌を上からパシンと叩かれた。


「大体にして、神族はお金なんて持ちませんよ」

「ああ、手前くらいだ。金稼ぎなんかに精を出している神族は」


 確かに、彼らのような生粋の神族であればお金は必要ない。衣食住など無くても問題ないし、買い物をするような場面がないからだ。必要ないのだから持ってもいないというのは道理だ。

 つまり、彼らは一文無しだ。


「びんぼーにん」

「それはそれで腹が立つな、オイ」


 まぁいいや、最初から二柱にはそこまで期待していなかったから駄目元だったし。

 もうこの酔っ払い達は放っておこう。


 私は二柱からお年玉を徴収することを諦めてテナ達のもとに戻った。


「他に何かある?」

「後はネンガジョーか?

 離れている相手に近況の報告書を送るものだ。

 私もつい先程魔族領に報告書を送ってきた」


 それ、本当に年賀状?

 何かニュアンスが違う気がする。


「何でこのタイミングでそんなものを?」

「いや、何故かは知らんが、昔ながらの風習で報告書は新年のタイミングで送ることになっているのだ。

 年一回だと足りん部分もあるので、私は普段も定期的に送っているのだがな」


「新年の報告書を送る」じゃなくて「報告書は新年に送る」か。

 これ、もしかして報告書を面倒くさがった例の人が、年賀状の風習を持ち出して年一回にしようと足掻いただけなのではないだろうか。


 少なくとも、私は特に報告書など送る相手が居ないから、この風習は放っておこう。


「後はハツモウデですね。

 別に今日じゃなくても新年の早い内なら良いのですが、新年に教会に参拝することをそう呼ぶそうです」


 初詣か……そう言えば、私も元の世界に居た時は元日に神社へ行ってお賽銭投げておみくじ引いたな。

 なお、おみくじの結果については黙秘する。


 でも、参拝と言っても──


「ここが神殿」


 そして、私が神様。

 誰に参れと?


「あはは。そ、そうですね」


 そのことを言うと、テナもそれに気付いたのか苦笑した。

 が、次の瞬間真面目な顔になってリリに何やら小声で耳打ちし始めた。


「???」


 何だろうと思って首を傾げていると、二人は胸の前で手を組んで目を閉じた。




 ……もしかして、私今お参りされてる?


 どうしよう、信徒とかが遠くでやってる分については良かったけど、目の前でやられると凄くこそばゆい。

 ちなみに、レオノーラはお酒を飲んでるアンバールに向かってお祈りしている。

 私は恥ずかしさを誤魔化すように、二人の頭を撫でた。


「今年もよろしく」

「はい、よろしくお願いします!」

「よろしくおねがいします」











 ところで、初詣があるなら三柱がこんなところに居て良かったのだろうか。

明けましておめでとうございます。

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