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邪神アベレージ  作者: 北瀬野ゆなき
【外の理】
63/82

記念SS:異伝「クリスマス禁止令」

時系列は三神戦争(笑)の最中です。

 クリスマス、それは元の世界におけるキリスト教の宗教祭である。

 本来はイエス=キリストの降誕を祝う日であった筈だが、何故か聖ニコラウスの逸話を起源とするサンタクロースがそこに混ざって、プレゼントを贈る日となっている。


 まぁ、そこまでであれば別に良い。

 問題なのは、そんな厳かな宗教儀式である筈のクリスマスが、何故か不純異性交遊を推奨する日となっていることだ。

 本当に何故そんなことになっているのか私にもサッパリなのだが、クリスマスと言えば恋人達が熱い夜を過ごす日と言うのが一般的なイメージだろう。


 そして同時に、街全体がそんな雰囲気に包まれる中、そんな相手が居ない者にとっては肩身の狭い日となる。

 たとえ恋人が居なかったとしても仲の良いグループなどがあればパーティなどを開いて充実した日に出来るのだろうが、私のような半ば孤立した人間にとってはそれも夢のまた夢。

 煌びやかなイルミネーションから背を向けて、そそくさと家に帰る惨めな日──それがクリスマスだ。



 尤も、それらは全て元の世界の話。

 今私が居る世界にはキリスト教も存在しないので、クリスマスという日自体が存在する筈がない。

 だから、元の世界の鬱憤を晴らす軽い冗談のつもりで夕食の場で言ってしまったのだ。


「この世界において、クリスマスは禁止とする」







 ──その瞬間、空気が凍り付いた。


「?」


 思わぬ反応に首を傾げる。

 てっきり「クリスマスって何だ?」と言った質問が来ると思ったのだが。


 中でもソフィアとアンバールの態度は顕著で、あからさまな怒気を漂わせながらゆらりと立ち上がった。


「良い度胸ですね……」

「ああ、まったくだぜ……」


 二柱は凄まじい魔力を放ちながら、私を睨み付けてきた。


「──私の生誕祭を潰そうとするとは!」

「──俺の生誕祭を潰そうなんてな!」


 あ、被った。何だかピシッという音が鳴ったように聞こえた。

 ソフィアとアンバールは相手の言葉を聞き、私を睨むのを止めてお互いに睨み合った。


「………………今、何と言いました?」

「………………今、何つった?」


 おどろおどろしい声でお互いに問い掛ける二柱。

 緊張感は加速度的に増していき、やがて破裂する。


「クリスマスは私の生誕祭だと言いました」

「ふざけんな、俺の生誕祭だろうが」

「私の生誕祭ですよ、しゃしゃり出て来ないでください!」

「図々しいのはそっちだ、引っ込んでろ!」

「なんですって!?」

「あぁん!?」


 ヒートアップして互いに口論を飛ばす二柱。

 今のところ手は出ていないが、それも時間の問題に思える。


 取り敢えず矛先が私から逸れたことに安堵し、事の原因を探るために他の人達に聞いてみることにした。


「クリスマスって、何の日?」

「?」

「ええと……」

「闇神様の生誕祭だな」

「え?」


 リリは何のことか分からず首を傾げていたが、テナとレオノーラの間でも意見が違うようだ。レオノーラの回答に、テナは意表を突かれたように驚きを露わにしている。


「テナの知ってるクリスマスは違うの?」

「はい、聖女神ソフィアさんの生誕祭です」


 テナは今でこそ使徒族だが元々人族だったことを考えると、人族はソフィアの生誕祭としていて、魔族はアンバールの生誕祭と認識していると言うことのようだ。


 しかし、そもそも神族に生誕とかってあるのだろうか?

 ソフィアとアンバールは創造神から別たれて生まれた存在の筈だ。

 そう言う意味では、二柱の生まれた日が一緒でも可笑しくないのかも知れない。

 しかし、仮にそうだとして何故彼らの生誕祭が「クリスマス」なのかが分からない。


 考えても分からないので、もう直接二柱に聞いてみることにした。


「創造神から別れた日がクリスマス?」

「いいえ、違います」

「と言うか、日付なんざ覚えちゃいねぇ」


 違うらしい。

 もう、わけが分からない。


「なら、何故生誕祭なの?」

「お前の世界から来た奴が、『神様の誕生日』だと言ったからだ」


 アンバールの回答で、全てが察せられてしまった。

 この世界には過去に私と同じ世界から召喚されて勇者として活躍した者達が居ると、以前レオノーラから聞いた。所謂、召喚勇者とか言われている者達だ。

 召喚勇者はこの世界に喚ばれた際に何らかの力を与えられ、その強力な力を以って英雄として振る舞う。それこそ、物語にでも登場する「勇者」のように。

 そんな立場になれば、さぞかし異性からもモテたことだろう。で、イチャイチャするためのイベントの一環として「クリスマス」をこの世界に習慣として広めた、と……。


 よ け い な こ と を ッ ! 




 で、この世界で「神様」と言えばソフィアかアンバールだから、人族と魔族でそれぞれ彼らの生誕祭としたわけか。当神達も満更ではなかったようだが。

 アンバールの言葉にあった「神様の誕生日」と言うのが素で間違えているのか、この世界に合わせて変えたのかは分からないけれど。



 しかし、そうだとすると肝心なイベント内容が心配だ。

 元の世界のそれと同じく、「恋人達の恋人達による恋人達のための日」になってるのではなかろうか。

 嫌な予感がしたので、再び聞いてみることにする。


「クリスマスって何する日?」

「男性が女性に衣装を贈る日だな。

 赤と白の特徴的な服で裾が短くて……ええと、『みにすかさんたこす』だったか」

「はい、それで女性の方がそれを受け取って着たら、二人は恋人同士になるんです」


 どうしよう、予想以上にヘンテコな日になってる。

 サンタクロースや贈り物の辺りに片鱗は残ってると言えば残っているが、裾の短さや受け取って着替えたら恋人同士と言う辺りにピンク色な期待が見え隠れする。

 どうやら、過去の召喚勇者達が自身の欲望に走って色々な風習を混ぜ込んだらしい。わざとなのか結果的にそうなったのかは分からない。十中八九、前者だと思うけど。


 と言うか、イベント内容に全く絡んでいないのだが、ソフィアやアンバールの生誕は何処に行った。それで良いのか二柱共。




 しかし、どうしたものか。

 先程は冗談半分でクリスマスを禁止すると言ったが、むしろ正常に戻すべきなのではないかという気がしてきた。主に私の精神的安定のために。



 ──よし、決めた。

 私が影響力を及ぼせるのはこの国だけだけど、せめてここだけはまともにクリスマスを祝うようにしよう。


 そうと決まれば、教皇に何て指示を出すかを決めなければ。


 まず一点目、お祝いの名目については神様の生誕祭という現状のままでいこう。ソフィアやアンバールを無駄に煽るのは避けたいし、この世界で預言者とか救世主とか言っても誰も分からないだろう。

 そして二点目、贈り物については採用としよう。それ自体は別段悪いことではないし、やはりクリスマスと言えばプレゼントだろう。

 次に三点目、サンタクロースに関しては敢えて採用しない。いや、イメージ的にはこれが無いとという思いもあるのだが、過去の召喚勇者のせいで蔓延してしまっているミニスカサンタ衣装の風習を排除したい。

 最後に四点目、これが何よりも大事なのだが、当日はみんなで集まって大々的に祝うこととする。二人きりの甘い夜も、逆に独り身の寂しい夜も無しだ。決して、私の都合というわけではない。


 この国においてクリスマスとは、「みんなで集まって神様の生誕を祝しながら贈り物を贈る日」だ。私が今そう決めた。




 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆




 邪神殿の大広間の中央には篝火が焚かれ、大釜が乗せられている。

 大釜で煮立てられた怪しげな液体からは薄いピンクの煙が立ち昇り、人々を高揚させる効果を為していた。

 国中の者達が集ったこの空間には、その人の多さからか異様な熱気が立ち込めていた。

 いつぞやの焼き直しのような光景。

 端的に言えば、サバト再び。


 かつてのように教皇がサッと手を挙げて宣言を行った。


「それではこれより、アンリ様の生誕を祝し生贄を捧ぐ儀を始めます!」







 ──どうしてこうなった。

なお、生贄は鶏肉なのでご安心ください。

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