表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
邪神アベレージ  作者: 北瀬野ゆなき
【外の理】
62/82

記念SS:まんぷくアンリさん

「………………んぅ……」


 各地から流れ込んでくる信仰に、神族としてのアンリは僅かに目を細めた。

 神族にとって信仰とは栄養分のようなものであり、満ち足りていれば人族における満腹感に近い感覚が得られる。

 逆に、信仰が足りなくなった場合は激しい飢餓感に襲われる上に、食物を摂取しても満たされないため、地獄の苦しみを味わうことになるわけだが。


 もともと、「恐怖」の権能を持つアンリが得られる信仰はかなりの量を保っていたが、ここ最近は更に流れ込む信仰に拍車が掛かっていた。

 理由は、人族のアンリが書いた自伝だ。

 彼女が自身の来歴の一部を記した自伝は教皇経由で広められ、それを通してアンリのことが広く知られたため、流れ込む信仰の量が増えたのだった。


「──────♪」


 人は満腹になれば幸福になる。それは人族ならぬ神族も同じだった。

 いつになく浮かれた感じでふらりふらりと舞うように神殿の廊下を歩くアンリは、前方に人影があるのを見付けた。


「これはアンリ様。

 ……? 何やらご機嫌がよろしいようで」


 人影は邪神殿にてアンリの執事を務めるインペリアル・デスだった。

 本来、地下ダンジョンの第三十階層のボスを担う彼であるが、そこまで到達する侵入者が皆無であることと、現在の邪神殿に家事が出来るものが他に居ないという理由から、緊急時を除いてアンリの傍に仕えることとなったのだった。

 完璧な姿勢で礼をする不死皇だが、そこでアンリの雰囲気が普段とは異なることに気付き、疑問を述べてきた。

 アンリはそれを受けて頷くと、自身の機嫌が良い理由を説明する。


「人族の私が書いた本のおかげで、信仰が増えた」

「ほう、それは素晴らしい。

 心よりお祝い申し上げます」

「ありがとう」


 アンリに絶対的な忠誠と信仰を抱くインペリアル・デスにとって、アンリの喜びは自身の喜びである。

 表情など存在しないインペリアル・デスだが、その紅い眼光からは心からの喜びが伝わってきた。それを感じ取ったアンリも、朗らかに礼を述べる。


 アンリはインペリアル・デスと別れると、相変わらずふらりふらりと舞うような歩き方で自室へと戻った。


「ふむ……」


 そのアンリの後ろ姿を見ながら、バトラー不死皇は何かを考え始めた。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 「ふぅ……」

 

 自室に下がったアンリは、漆黒の天蓋ベッドに身を投げ出すと満足げな溜息を吐いた。

 しばらくそうして横になっていたが、やがて仰向けになったまま枕の横へと手を伸ばし、そこに置いてあった一冊の書籍を掲げて見詰めた。


 それは、人族のアンリが書き上げた(くだん)の自伝だった。

 教皇経由で出版した自伝だが、人族のアンリは神族のアンリにも見本を一冊くれたため、大切に身近に置いてあるのだった。


 人族のアンリと神族のアンリは、元を辿れば同一人物だ。

 つまり、この自伝は人族のアンリの自伝であると同時に、神族である彼女の自伝でもあるということになる。

 アンリは心地よい満腹感に満たされながら、仰向けになったまま自伝を開いて思い出を振り返るのだった。

書籍版「邪神アベレージ」重版記念ショートショートでした。


先日9月7日に発売した書籍版「邪神アベレージ」ですが、重版出来のご連絡を頂きました。

これも一重に応援して下さっている皆様のおかげです。

本当にありがとうございました。

まだ読まれていない方々も、これを機にお手に取って頂ければ幸いです。


「邪神アベレージ」特設ページ

http://www.wtrpg9.com/novel/treasure/takarajima/average/average.html








ちなみに、売れ行き次第では代わりに「はらぺこアンリさん」を書くつもりだったのは内緒です。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ