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邪神アベレージ  作者: 北瀬野ゆなき
【神之章外伝】
53/82

外伝01:ある宗教の転落模様

以前お伝えしていた通り、後篇の外伝を投稿開始致します。

前篇の時ほど数は多くならない予定です。


なお、書き溜めゼロのため不定期投稿になると思います。(なるべく定期的に更新出来るよう努力はしますが)


まずはジャブとして、とある宗教のざまぁ……じゃなかった、因果応報な転落模様です。

裏側(本編)を考えなければ、一見結構シリアス風味。

「邪神を信奉する国家樹立じゃと……」

「なんという……」


 ルクシリア法国の上層部が集まる会議場は荒れていました。

 原因となったのは先日彼らが討伐のために聖光騎士団の派遣を決定した相手が、国家樹立の宣言を各国に通達したことです。

 尤も、議題が明らかになった時点で会議が荒れることは目に見えていたため、さして驚くべきことではありません。


 会議場は四角く机が配置され、それぞれ南北東西に分かれてルクシリア法国の重鎮達が座っています。

 入口から一番奥に当たる北側には法国の国事を統括する法王庁の枢機卿と大司教二名。

 東側には聖光教の教義を司る聖典省の枢機卿と大司教二名。

 西側には各国との外交を含めた教区の管理を行う教区省の枢機卿と大司教二名。

 最後に南側には聖職者の育成などを司る修道省の枢機卿と大司教二名。

 そして法王庁の重鎮の背後、部屋の一番奥に置かれた御座には当代の法王が座しています。

 計十三人がこのルクシリア法国の上層部であり、また人族領の最大宗教勢力である聖光教の上層部でもあります。


 各人はそれぞれ従者を後ろに立たせており、かく言う私もその一人、修道省の大司教の従者としてこの場に居ることを許された身です。尤も、私の場合は本来この場に同席すべき者が「偶然にも」体調を崩したために代理としての参加なのですが。


「ふざけるな、そのようなこと認められるものか!」

「そもそも、邪神などと言う存在自体がまず疑わしい!」


 怒鳴り声を上げたのは聖典省の者達でした。

 聖光教の教義を司る彼らにとってみれば「邪神国家樹立」というのが受け入れ難いというのは理解出来ます。

 しかし、「邪神」の存在が疑わしいというのはどういうことでしょうか……と、以前の私であれば疑問に思ったかも知れません。

 元々「邪神」とは彼ら聖典省が声高に存在を提唱していたものなのですから、存在が疑わしいという言葉はそれまでの彼らの主張と矛盾します。

 しかし、裏事情を知れば、彼らがそのように考える理由はすぐに分かりました。



 ──まさか、「邪神」という存在に対する聖光教の主張がでっち上げによるものだったとは。



 架空の対立存在を設けて教義に組み込むことで信徒達の恐怖を煽り結果的に聖光教への依存を高める……彼ら──と言っても、実行したのは数代前の話になりますが──の狙いはそんなところでしょうか。

 当然、この場に集う上層部の者達にとってはそれが共通認識であったため、実際には実在した「邪神」の存在を今更簡単には受け入れられないのでしょう。


「聖光騎士団の先行部隊として軍を進めたフォルテラ王国からは、本物の邪神を目撃したと報告が来ておりますが……」

「馬鹿馬鹿しい、単なる見間違えか敗走したことに対する言い訳だろう。

 寄付金を値切ろうなどという不信心者達の言うことだ、信じるに値せん」


 この中では最年少──それでも壮年ですが──の大司教がフォルテラ王国からの報告書を見ながら言いますが、教区省の枢機卿に切って捨てられました。

 尤も、言った側も報告を信じていたわけではないらしく、発言を否定されたことに対して不満そうな様子は見られませんでした。


「まぁ、この際邪神とやらが本物であろうと偽物であろうと関係なかろう。

 我らのするべきことは何も変わらぬのじゃからな」

「然り然り、邪神などを信奉する国家と言う時点で我らに対する……否、人族領全てに対する敵対宣言と言えよう」


 修道省の枢機卿の言葉に、法王庁の枢機卿も同調しました。そしてそれは、この場に座す全ての者も同意見のようです。

 無論、背後に座す法王も含めて、です。


「聖女神様にお仕えする下僕として、斯様な宣言を認めるわけにはいかぬ。

 当然のこととは思うが、異論はないようじゃな」


 老齢の法王が御座から立ち上がり、重鎮達を見回しながら言いました。


「それでは、法王猊下……」

「私の名で宣言の否定を表明しなさい。

 また、各国にも我らに同調するように呼び掛けなさい」

「は、そのように」


 法王の勅命を法王庁の枢機卿が受け、会議は終わりました。



◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆



「フォルテラ王国は何を考えている!?」


 先の法王の声明に対するフォルテラ王国の対応を受けて、急遽、臨時会議が召集されました。

 元々この会議は年に一回程度定期的に開催されるものであり、このような短期間で二回も緊急召集されること自体が極めて異例です。

 しかし、状況を考えればその対応も当然と言えるでしょう。

 フォルテラ王国はルクシリア法国の呼び掛けを拒否して邪神国家樹立宣言に対して中立の立場を取っただけでなく、現聖光教上層部──つまりはこの会議場に集った者達の不正を訴えて新たに派閥を形成し敵対の構えを取りました。

 聖光教の総本山であるルクシリア法国に対して反対勢力がこれまで皆無であったわけではないですが、一つの国家が丸ごと対立姿勢を見せたのは有史以来初めてのことです。

 勿論、それが単に聖光教を否定するものであれば、聖光教を国教とする各国とも反目しフォルテラ王国は孤立することになったでしょう。

 しかし、王国は聖光教自体を否定するのではなく、現上層部の腐敗を訴えた上に女神の教えの忠実であることを主軸とした新たな派閥──オリジン派を立ち上げました。

 それは、彼らにとって単なる敵対よりも遥かに脅威でした。


「オリジン派だと……我らの教義を否定するとは、戯けたことを」

「大方、先の聖光騎士団の派遣に関しての反発といったところだろうな」


 教義を司る聖典省の枢機卿はその報告にあからさまに顔を顰めています。彼らからすれば、自分達の顔に泥を塗られたようなものですから、それも無理はないでしょう。

 教区省の枢機卿も不機嫌そうですが、それは別の理由によるものでした。


「それで、各国に対する影響はどうだ?」

「抑えに動いては居るが、かなり動揺が広がっている。

 あまり派手に抑圧すると逆効果になりかねんから、慎重にならざるを得ない」

「それもやむ無しか……ええぃ! 忌々しい!」


 教区省の者達の頭を悩ませているのは、フォルテラ王国によって暴露された聖光教上層部の不正の情報に対する情報統制でした。横行する贈収賄や職権濫用から始まり教義に関するでっち上げまで、彼らが長年行ってきた悪事が一挙に表沙汰となり、信徒達からの疑惑を抑え込むのに東奔西走しているのです。

 無論、それらが根も葉もない噂であれば抑え込むことはそれほど難しくはなかったでしょう。しかし、大半が真実であり各国も暗黙の了解として周知のことであったため、情報統制は容易ではありませんでした。

 国土も小さく人口も少ないルクシリア法国が各国よりも優位に立っているのは、聖光教の総本山と言う絶対の権威があったためです。逆に言えば、その権威が揺らげばあっと言う間に優位性を失うことになりかねません。


「今はとにかく他の各国がフォルテラ王国の作る派閥に取り込まれないよう、働き掛けるしかないな」

「そうじゃな。各国の教会派に工作させるとしよう。

 フォルテラ王国に対する直接の対処は後回しとなるが、そこは仕方なかろう。

 派閥が広まってしまっては手が付けられなくなるからの」


 権威が利権を生み、利権が権威を生む。長年に渡って彼らが伸ばしてきた根は各国の中にも深く根差しており、その人脈を駆使しての工作は非常に高い効果を発揮するでしょう。

 当然、王国側もそれは理解しているでしょうから、それを抑えに掛かる筈です。当分は水面下での熾烈な勢力争いが続くことが予想されます。

 しかし、動員出来る工作員の数からしても法国側の方が有利と言わざるを得ません。

 何か根本から覆すような事態が発生しない限り、王国側が優位に立つことは難しいでしょう。


 それを理解しているからこそ、不機嫌ではありながらもこの場に集った法国の重鎮達は比較的余裕のある態度でした。



◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆



「バ、バカな……聖女神様が何故……?」


 先の会議から暫く経ったある日、事態は急変しました。

 聖女神ソフィアによる全人族に対する啓示という異例の事態に、一夜にして各国の情勢が一変しました。

 啓示の内容はこれまで人族に知らされていなかった闇神の存在と、これまで知らされてきたものとは様相の異なる「邪神」の存在、そしてそれらの神々との三つ巴の勢力争いのために、人族によるダンジョン攻略が必要なことなどでした。

 啓示を受けたのが極一部の者であれば虚言として片付けられたかも知れませんが、全人族に対して齎されたこれを嘘だと断じることは、聖光教の上層部も含めて誰にも出来ませんでした。


 そして、それは同時にルクシリア法国が窮地に立たされたことも意味します。

 他ならぬ信仰対象である聖女神によって、これまで主張してきた教義が一部とはいえ否定され、またその否定内容がフォルテラ王国による暴露と合致しているのです。

 主張の一部が肯定されれば、当然他の主張についても正しいと考えるのが自然な流れです。他の主張……すなわち、聖光教上層部の不正についてもです。おそらく全ての信徒達が思ったことでしょう、王国の主張が正しいのではないか、と。


「まずいのう、このままでは……」

「早急に何らかの手を打たねばなるまい」

「しかし、手を打つと言ってもどうするのじゃ。

 この状況で王国に対して強硬手段に出るのはおそらく逆効果になるじゃろう。

 問題の国に対する工作も禁じられておるしの」

「それは……」


 法王庁の枢機卿の言葉に、他の者達も黙り込みました。確かに彼の言う通り、この状況下で下手に聖光騎士団の派遣などを宣言したところで疑惑は逆に強まるだけでしょう。

 「邪神国家」に対する攻撃や工作で疑惑や不満の矛先を逸らすという選択肢も、他ならぬ聖女神からの命により禁じられています。


「やむをえまい、邪神に関するフォルテラ王国の主張については、教義の誤りを認めるしかないじゃろうな」


 会議場が沈黙に包まれる中、法王庁の席の後ろから声が投げ掛けられました。


「猊下、しかしそれは……」

「聖女神様によって王国の主張が肯定されてしまった以上、ここで強硬に反論するわけにはいかぬ。

 無論、他の主張については否定し、少しでも損害を減らすようにせねばならぬ」


 それは、これまで人族領を裏から支配してきた聖光教が妥協し、一部とはいえ実質的な敗北を認めた瞬間でした。

 王国側はこの機を逃さずここぞとばかりに責め立ててくることでしょう。


 長きに渡って権威を保ってきたルクシリア法国に、冬の時代が訪れました。



◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆



「報告は以上になります」

「御苦労様でした。

 ふっふっふ、聖女神の啓示はこちらの有利に働きましたね。

 彼ら聖光教が派閥争いにかまけている間に、我が国は国力の増強を図るとしましょう。

 それが、アンリ様の意にも適いますからね」

「御意に」

「さぁ、これから忙しくなりますよ。

 布教活動にも力を入れなくてはいけません。

 例のモノの建造も進めなくては」

活動報告の方ではお伝えしましたが、ご覧になっていない方も多いと思いますのでこちらでも御連絡させて頂きます。


<1.なろうコン最終選考通過>

おかげ様で第三回なろうコンの最終選考を通過し、書籍化に王手が掛かりました。


http://www.wtrpg9.com/novel/


ここまで来れたのも読んで下さっている皆様のおかげです。

ありがとうございます。

上記サイトトップページにて受賞作21作品が列挙されていますので、ご興味がおありの方は是非ご覧下さい。



<2.Twitter始めました?>

実際には結構前からアカウントだけ登録してはいたので、「始めた」は不正確です。

重要なことは活動報告でもお伝えするつもりですが、それ未満のことはこちらで呟くかも知れません。

まったり進行ですのでツイート少なめです。(使いこなせてないだけという噂もありますが)


アカウント:@yunaki_kitaseno



<3.童話パロディ>

童話パロディ「本当はとても邪神な童話集」を非開示設定で投稿しております。

非開示設定のためマイページには直接表示されませんので、ご興味がおありの方はシリーズの方からご覧下さい。

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