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邪神アベレージ  作者: 北瀬野ゆなき
【後篇~神之章~】
43/82

11:四の天に座す王

『フンッ、ここが邪神とやらの神殿か』


 新たに神殿の入口に挑戦者が立った。それ自体は連日のことであり特別に注視するべきことでもないのだけど、今回の人物は他の挑戦者とは一線を画している。

 短いツンツン頭の大柄な体格をした精悍な男性だが、銀髪で紅い瞳というレオノーラと同じ様な特徴をしている……魔族の特徴だ。

 神殿内の信徒達もそのことに気付いたようで、他の挑戦者の時とは異なり遠巻きに彼の事を見ていた。レオノーラと接することで魔族にも多少は慣れている信徒達だが、やはり初めて見る相手だと勝手が違うのだろう。



  名 前:イジド

  種 族:魔族

  性 別:男

  年 齢:31

  職 業:魔導士

  レベル:26

  称 号:なし



 ステータスを表示して確認してみたが、やはり魔族で間違いないようだ。それにしても、彼のステータスにはどこか気になる部分が……


「ああ、漸く来やがったか」

「ぬ……よりにもよってアヤツが来るとは」


 何処が気に掛かるのかが分からず首を傾げていた私の横で、映像越しに彼の姿を見た闇神アンバールとレオノーラが反応を見せた。闇神アンバールの方は兎も角として、レオノーラが嫌そうな顔をしているのが気になった。


「知り合い?」

「四天王の一人なんだが、以前から私に言い寄って来る奴でな」


 いたのか、四天王。


「四天王ってどんな存在?」

「ん? 四天王のことを知りたいのか?

 我が父でもある魔王陛下は大勢の配下を従えているが、その配下の中で特に強い力を持つ4人の高位魔族のことを四天王と呼ぶのだ。

 四天王は四属性をそれぞれ司っていて、あの男──剛地鬼イジドは『地』だな」


 四属性というと、地・水・火・風かな。司ると言っても神族というわけではないので、その属性の魔法を得意としているということなのだろう。


「他には『風』の烈風騎レナルヴェと『水』の血氷将ヴィクトがいる。

 今回はイジドしか来ていないようだが……」

「? 3人しか居ないみたいだけど」


 四天王と言っていたし四属性を司っているなら4人居る筈なのに、地・水・風の3人しか名前が挙がっていない。もう1人、『火』を司る四天王が居ないとおかしい。


「いや、その……ワタシだ」

「は?」


 ワタシ? それが最後の四天王の名前?


「だから、私が最後の一人……『火』を司る魔炎姫レオノーラだ」


 恥ずかしそうにしながら応えるレオノーラ。そう言えば、彼女は闇魔法の他に火魔法も得意としてたな。

 魔王の娘なのに四天王なのか、王族は配下とは別枠になりそうなものだけど。


「四天王だったんだ。これからは魔炎姫レオノーラって呼んであげる」

「頼むからやめてくれ、結構恥ずかしいんだ」


 顔を赤くして恥ずかしがるレオノーラの姿に少し悪戯心が湧くが、あまりいじめ過ぎると嫌われそうなので自重しておくことにする。


「それで、彼はどれくらい強いの?」


 先程見たレベルからするとレオノーラと同等くらいの筈だが、実際に強さを知っている人の意見が気になった。


「私と同格だが、地属性はどちらかというと防御向きだからな。

 一対一で戦えば、おそらく私が勝つだろう。

 本人の性格とは一致しないが、攻撃に秀でた者と組むことで真価を発揮する男だ」


 そうだ、先程彼のステータスを見て何かが引っ掛かっていたが、それが何だったのか漸く分かった……職業だ。

 レオノーラは魔導拳士であり、肉弾戦も魔法もこなす万能型だ。前衛も後衛も一人でこなせる彼女だからこそ、ソロでダンジョンを攻略すると言う荒業も可能だった。

 それに対して、画面に映ってる男は魔導士……剛地鬼とかいう二つ名には似つかわしくないが、職業を考えれば後衛型になる筈だ。普通に考えれば、ソロでダンジョン攻略が出来るとは思えない。

 何か隠し玉でもあるのかとも思ったが、レオノーラの説明を聞く限りではそれもない。


「地属性ってどんな魔法?」

「火魔法や水魔法がそれらの現象を『生み出す』ものであるのに対して、地魔法や風魔法は既に存在するものを『操る』ことを主とする。地魔法であれば大地を、風魔法であれば大気をと言った感じでな。

 地魔法での主な戦闘方法は岩石を身に纏って鎧にしたり、大地を隆起させて盾としたり、それから土からゴーレムを創り出したりといった感じだな」


 成程、大地の上に立って戦うことで最大の力を発揮する魔法というわけか。バトルフィールドの選択が非常に重要になるスキルのようだ。しかし、そうだとすると気になることがある。


「ダンジョン内はレンガで舗装されてるけど、地魔法使えるの?」

「無理だな」

「…………………」


 キッパリと無理だと宣言するレオノーラに、次の言葉が見付からなくなってしまった。


「普通のレンガなら色々使えるとは思うが、ダンジョンの内装は基本的に破壊が出来ないからな。

 地魔法で操ったりすることも出来ない筈だ。

 地肌が剥き出しのダンジョンであれば、まだ何とかなるのかも知れないが」


 それってつまり、彼はダンジョン内では全くの役立たずになるということではないだろうか。魔導士なので肉弾戦にも向いていないだろうし、得意の地魔法は使えない。


「アヤツも魔族だからな、あまり使っているところを見たことはないが地属性以外に闇魔法は使える筈だ。

 ただ、このダンジョンの魔物はアンデッドが多いからな、闇魔法は効果が薄い。

 まぁ正直……無理じゃないか」


 仮にも同僚なのにそんなあっさり……本気で彼のことが嫌いなんだな、レオノーラ。引き攣りそうになる顔を努めて無表情に抑えながら、私は闇神アンバールの方を向いた。


「人選ミスじゃない?」

「あぁ? 知らねぇよ。

 俺は当代の魔王にダンジョン攻略を命じただけだ、人選までは口出ししてねぇ」


 つまりは魔王──レオノーラの父親がそんな人選をしたと言うことだろうか。直属の部下の能力くらいは把握出来ていそうなものだけど、何で不向きな人材を投入するような真似をしたのだろうか。四天王が同格なら、他のメンバーでもっとダンジョン攻略向きの力を持っている人物を派遣すればいいのに。

 意見を求める為に、再びレオノーラの方に目を合わせないように気を付けながら振り向いた。


『クソッ、何でだ!? 何で魔法が発動しねぇんだ!?』

「ふむ、父上の思惑か……。

 そうだな、一番役に立たない奴を捨て石にしたのかも知れないな」


 何だか今日はレオノーラの発言にいつになく毒が混ざっている気がする。一体彼はどんな言い寄り方をしたのだろうか。

 しかし、捨て石と言っても彼を捨て石にすることで何か得られるかと考えると疑問だ。正直、ダンジョン攻略する気がないとしか思えないけど……って、もしかしてそれが正解だろうか。魔族はこのダンジョンの攻略に積極的では無くて、取り合えずの義務を果たしたというポーズのために四天王の一角を派遣したと言うことであれば納得がいく。

 確かに私が神族になってしまった時の経緯を考えると魔族からは相当恐れられているだろうから、このダンジョンの攻略に積極的になれないというのは当然なのかも知れない。山とか半壊したらしいし。

 ただレオノーラ……もしもその推測が真実だとすると、今この場でその発言には大きな問題があるんだけど。


「つまりは何か? アイツは俺の指示をシカトしやがったってことか?」

「え……ッ!? め、め、め、滅相もございません!」


 そう、魔族がダンジョン攻略に積極的でないとすると、それは闇神アンバールの命令に背いたことになる。彼の言葉を聞いてそのことに気付いたレオノーラは瞬時に真っ青になった。


「じゃあ、どういうことだ?」

「え、あ、その……そう! 偵察です!

 確かにアヤツではダンジョン攻略は不可能でしょうが、本命である後発部隊の攻略の可能性を上げるためにダンジョンの情報を収集する偵察の役割を負っているのです!」


 冷や汗を掻いて焦りながらも、何とか闇神アンバールに対して言い訳をするレオノーラ。勢いがあり過ぎて逆に説得力が薄くなっている気がするけど、今の彼女にはそんなことを気にする余裕も無さそうだ。


「ま、そんならいいけどよ」


 勢いに圧されたのかそれとも本気で納得したのかは不明だが、闇神アンバールはレオノーラの言葉を受けて引き下がった。

 魔王が実際にどんな思惑でイジド一人を派遣してきたのか真偽の程は不明だが、彼女がこう宣言してしまった以上は闇神に逆らっていないことを証明する為にも、後発の戦力を投入しないわけにはいかなくなってしまった。


『ぐあああぁぁぁーーー!?』


 あ、雑魚敵にやられた。




◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆




『フンッ、昨日はたまたま調子が悪かっただけだ』


 一体、彼は誰に言い訳しているのだろう。

 昨日呆気なく途中で倒れたイジドだが、翌日に再度ダンジョンへと挑戦を仕掛けて来ていた。普通の挑戦者は倒れた後は暫く休養するのだが、彼のタフさには思わず感心してしまった。

 なお、昨日このダンジョンに挑戦した時と異なり、イジドは周囲に彼自身と同じくらいのサイズの土で出来た人形を10体従えている。おそらく、あれが昨日レオノーラが話してくれた地魔法によって創り出したゴーレムなのだろう。

 確かに、ダンジョン内の地面を利用することは出来なくても、外で魔法を行使してそのままダンジョンに入ってくれば問題は解決する。昨日の失敗を顧みて、彼も対策を取ってきたのだろう。

 それにしても、10体ものゴーレムを同時に操作するなんて芸当が見られるとは思わなかった。流石は四天王の一角と言うべきだろうか。地面さえあれば無限にゴーレムを生み出せると言うなら、ダンジョンの中では兎も角として屋外であればかなり強力な戦力となることは想像に難くない。


『ハッ、魔法さえ使えればこんなダンジョンくれぇ楽勝だぜ』

「無理だな、魔法は使用出来るかもしれないが、ずっと使い続けていては魔力が持たない。

 途中の階層で魔力切れになって立ち往生が関の山だ」


 相も変わらずバッサリと切り捨てるレオノーラ。本当に彼は何をやってこんなに嫌われているのだろうか。聞くのが少し怖いけど、やはり気になる。


「随分と彼のことが嫌いみたいだけど、どんな言い寄られ方をしたの?」


 私が尋ねた瞬間、レオノーラの顔が嫌なことを思い出したかのように盛大に歪んだ。


「言い寄られ方、か。

 『俺の女になれ』とか言いながら厭らしい目で見たりベタベタと触ってきたりされてな。

 あしらってはいたのだが、正直腹に据えかねていた」


 セクハラか……それは確かに私も好感が持てない。それにしても、レオノーラは魔王の娘なのに、彼は王族相手によくそんな事が出来るな。ある意味で大物というべきなのだろうか。


『ぐふっ……』


 あ、もう魔力が尽きたみたい。意外と早かった。




◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆




『これまでは様子見、ここからが本番だぜ』


 この日彼は3日連続ダンジョン攻略挑戦という称賛すべきか呆れるべきかよく分からない快挙を遂げた。子供の言い訳みたいなことを言い始めているけど、一体何が彼をここまで奮い立たせるのだろうか。

 なお、本日の彼は昨日のゴーレムを引き連れて居ない代わりに、大きな袋を背負ってまるでサンタクロースのような格好になっている。

 一体何を持ってきたのかと疑問だったが、その疑問に対する答えは彼が魔物に遭遇した際に判明した。


『ハッ、喰らいやがれ!』


 彼が袋の中身をぶちまけると、そこには大量の土が広がった。そして、彼が詠唱するとその土が盛り上がって人型を為す。成程、常時ゴーレムを操作していると魔力が持たないから、使わない時は土の状態で運ぶつもりなのか。地味だけど、魔力の温存としては確かに効果はありそうだ。凄く地味だけど。そして格好悪いけど。


「アンリ! 頼みがある!」


 イジドの涙ぐましい奮闘ぶりを観戦していたところに、レオノーラが扉を叩き付けるように開いて部屋に入ってきた。その様相はまさに怒髪天を衝くといった表現が相応しく、全身から憤りを露わにしている。そして、映像に映るイジドの姿を見ると、その怒りは更に燃え上がった。

 レオノーラは私の両肩をガッと掴むと、目を合わせないながらも強い調子で睨んできた。


「頼む、アヤツを徹底的に叩き潰してくれ」


 痛たたた!? ちょ、レオノーラ、強く掴み過ぎ。


「何かあったの?」


 元々彼のことは嫌ってはいたようだけど、今日の彼女は昨日までとは様子が違い過ぎる。私は気になって、レオノーラに聞いてみた。


「本国に問い合わせたのだがな、イジドの奴はこのダンジョンの攻略を成功させたら私との婚姻を認めると父上から言われてるらしい」


 成程、それで彼は異様に気合が入っているのか。意中の相手が手に入る上に魔王の娘と結婚出来て権力も得られるとなれば、必死になるのも頷ける。

 魔王の発言は彼には無理だと分かった上で発破を掛けているとしか思えないけど、レオノーラは怒りで冷静な判断が出来なくなっているようだ。


「王族に生まれた以上、政略結婚を否定するつもりはない。

 否定するつもりはないが、それでも嫌なものは嫌だし、アヤツとの婚姻が国のためになるとも思えん。だから、阻止してくれ」


 私の肩を掴む手に一層力が入り、ギリギリと音が鳴る。このまま肩を砕かれては堪らないので、私は慌てて何度も頷いて何とか解放された。


 放っておいても彼がこのダンジョンを攻略するのは無理だと思うけれど、レオノーラに納得して貰うためにも何かしらの行動してみせる必要がある。私は心を鬼にして、取り出した一冊の経典を彼の前に転送した。


『ん? 何だこりゃ』


 合掌。

風「イジドの奴が墜ちたか」

水「フン……彼の者は四天王の中でも最弱」

火「ボスまで辿り着くことすら出来んとは魔族の面汚しよ……って、死んではおらんぞ。

  10円ハゲを気にして引き籠ってるだけだ。

  私としてはこのままずっと引き籠っててくれると有難いのだが」

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