09:彼らが帰ってきた
『ここが……本当にあの時のダンジョンなのか?』
『場所は間違っていない筈ですが……』
『噂には聞いていたけど、流石にこれは魂消たね』
『やっぱりヤバいところだったみたいだな』
客引きを適当にいなして入口の前に立ち神殿を見上げる4人のパーティの姿が、情報閲覧画面越しに見えた。
短い金髪をしたイケメン剣士に美少女シスター、妖艶な魔導士のお姉さんに体格の良い剣士の4人パーティ。
そう、石板どろぼう達が帰ってきたのだ。
……間違えた、勇者パーティだった。
かつて私がまだ人族だった時にこのダンジョンに襲来し、10階層のボスであったノーライフキングに挑……まずに直前で引き返した脳筋勇者パーティ。いつ再挑戦して来るかと思っていたのに知らぬ間に何処かへ旅立っていた彼らだが、どうやら再びこのダンジョンへと挑戦するつもりのようだ。
「これは貴女の差配?」
「ええ、人族全体への啓示とは別に、聖剣を通じて個別に依頼しました」
私と並んで椅子に座って映像を見ていた光神ソフィアに問い掛けると、彼女は微笑みながらそう答えた。その表情からは彼女の自信の程が窺える。確かに、彼女が動かせる中では彼らは最高の人材なのだろう。勇者というのが彼一人なのか他にも何人か居るのかは知らないが、人族という括りの中では最強の一角であることは間違いない筈だ。
挑戦者の悉くが10階層まで辿り着くこと無く倒れている現状を考えれば、彼らくらいの実力者でないと意味が無いというのは頷ける。
尤も、私としては前回の結果を知っているだけに、どうして彼女がそこまで自信満々で居られるかが分からない。
「色々騒動があっても介入して来なかったから、何処かに旅立ってたと思ってたんだけど」
「ええ、魔族領に入って魔王城の近くまで進んでいました」
「そういや、結構直前まで来ていたな」
これからラスボスに挑もうとしている勇者を呼び戻したのか、鬼だな。
「聖女神様」の加護を受けて勇者になった彼としては、彼女直々の依頼は絶対に断れなかったことだろう。
『それにしても、聖女神様直々に依頼が来るなんてな』
『ああ、魔王討伐よりもこちらを優先するようにというお言葉だし、余程重要なことなんだろう』
『魔王討伐よりも重要……ちょっと想像出来ないね』
『聖女神様のお言葉です、私達には理解し得ない深謀遠慮によるものなのでしょう』
重要なことであるのは事実なのだけど、なんだか彼らに本気で同情したくなってきた。
名 前:アーク
種 族:人族
性 別:男
年 齢:26
職 業:剣士
レベル:41
称 号:聖剣の勇者
名 前:ジオ
種 族:人族
性 別:男
年 齢:28
職 業:剣士
レベル:35
称 号:なし
名 前:フレイ
種 族:人族
性 別:女
年 齢:24
職 業:魔導士
レベル:35
称 号:なし
名 前:ウィディ
種 族:人族
性 別:女
年 齢:20
職 業:修道士
レベル:34
称 号:なし
試しにステータスを見てみた。以前の細かい数値までは流石に憶えていないが、アークのレベルが30台だったことは憶えているので、レベルが上がっているのは間違いない。
それだけの激戦を潜り抜けていざ魔王と決戦を……というところで呼び戻された彼らの苦労を想像すると、思わず涙が零れそうになる。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
前回の反省を活かして野営の準備も万端に整えてきた彼らは、順調に攻略を進めて2日目に10階層まで到達した。しかし、彼らは既に一度10階層まで攻略しているのだから、この結果は予想出来る範囲だった。問題はここからだ。
果たして彼らは、以前乗り越えられなかった仕掛けを今回は乗り越えられるのだろうか。固唾を飲んで見守る私の視線の先で、彼らは仕掛けのある台座の前へと辿り着いた。
「あの台座は何ですか?」
「10階層のボス部屋を開けるための仕掛け、石板を集めて嵌め込まないと開かない」
「ああ、あれか……」
光神ソフィアの質問に私が答えると、隣に居たレオノーラが額を押さえた。そう言えば、彼女もあの仕掛けで1時間くらい頭を悩ませたんだった。
ちなみに、闇神アンバールの方は今日は姿を見ていない。
『……? 以前と文章が変わってないかい?』
『そうですね、後半は一緒ですが前半が違います』
『まぁ、そんなことよりもどうやって道を開くかの方が大事だろ。
聖剣の方はどうなんだ、アーク』
『ちょっと待ってくれ……。
成程、この階層に隠された石板を嵌め込めばいいらしい』
!?
映像越しに聞こえてきた予想外の会話に、私は思わずバッと振り返って光神ソフィアの方を向いた。すると、彼女はサッと目を逸らした。その様子を見て、私は瞬時に状況を把握した。
……この女、私から聞き出した情報を啓示で勇者に流したな。
「卑怯者」
「心外ですね、啓示での助言は禁じていなかった筈です」
確かにルール上は問題ない。『権能』を用いての支援は禁止にしたが、啓示を使用することは禁じていなかった。しかし、ズルいことに変わりは無いと思う。
それにしても、これは拙いかも知れない。脳筋には中層フロアの仕掛けを攻略出来ないだろうと思って高を括っていたけれど、光神ソフィアが助言役として加担するとなると話が変わってくる。
管理者は情報閲覧でこの世界のあらゆる情報を見ることが出来るから、彼女の助言があれば仕掛けの類はあっと言う間に攻略されてしまう。
いや、待てよ?
それならどうして彼女はわざわざ私に質問したのだろうか。仕掛けの解き方が分かるなら、あんな質問をする必要は無かった筈だ。つまりは、彼女は仕掛け自体は見ることが出来ても解き方は分からなかったということなのだろう。
それなら、私が解き方を教えなければ助言の幅も狭められる。
「もうヒントはあげない」
「それは残念ですね」
それほど残念そうには見えない表情で返してくる光神ソフィア。まぁ、彼女も私がそう何度も口を滑らせると思うほど楽観視はしていなかっただろうし、最初だけ儲けものといった感じだったのだろう。
明確な回答までは持ち合わせていなくても、俯瞰的に見ることが出来る助言者が居るだけで大分攻略の難易度は下がるのも事実だ。
中層の謎解きフロアで一年間凌げると思っていたけれど、これは下層フロアの出番もあるかも知れない。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
一時間後、10階層を回って石板を集めた勇者パーティは再び台座の前へと戻ってきていた。4枚の石板を4人がそれぞれ1枚ずつ石板を持って台座の前へと並んで立つ。
ん? 4枚?
なんで4枚? 3枚しか設置していない筈なのに。
あ、もしかして前回持ち逃げした1枚を後生大事に持ち続けていたのか。既に別のマークに切り換えて石板も補充してるから、前回の石板はもう役に立たないのだけど。
『さて、早速石板を嵌め込んじまうか』
『ああ、この3ヶ所の窪みに……あれ?』
『石板は4枚ありますが……残りの1枚は何処に嵌めればいいのでしょう?』
『他に嵌め込む場所は無さそうだね』
勇者パーティも枚数がおかしいことに気付いたのか石板を嵌め込む直前で頭を突き合わせて悩み、台座の他の場所に嵌め込む場所がないかを探し始めた。
勿論、そんな場所がある筈ない。
台座をくまなく探して見付からず、部屋の中を捜索し始める彼らの姿に頭を抱えたくなった。そして、当然の流れのようにアークが聖剣の柄を額に当て始めた。光神ソフィアからの助言を求めているのだろう。
これ、彼らが中層フロアに行ったら彼女は付きっきりで誘導する羽目になるんじゃないかな。心なしか、彼女の後頭部に大粒の汗が浮かんでいるように見えた。
「ソフィア、彼らに以前の石板は除外するように伝えて」
「アンリ!?」
「……いいのですか?」
私の申し出にレオノーラと光神ソフィアが驚きの声を上げる。確かに前言撤回になってしまうが、まどろっこしくて見てられないのだから仕方ない。それに、前回の石板が混ざってしまうと言うのは流石に想定外でヒントも殆どないから、この程度のフォローはしてもいいと思う。
また、私としても彼らを先に行かせることにメリットがないわけではない。果たして彼らがこの先にいる10階層のフロアボスを突破出来るか否か、それは勝負の行方を予測する上で一つの目安になるだろう。と言うか、二度も肩透かしを喰らわされるのは御免だった。
決して、答えが分からなくてまごついている光神ソフィアに同情したわけではない。
「分かりました。
それでは言葉に甘えます、アンリ」
光神ソフィアが啓示を以ってアークに助言すると、彼は仲間達にその内容を説明して、以前の石板を脇に放り出して残り3枚を台座へと嵌め込んだ。
って、要らなくなったからと言って前回の石板をそこに捨てていくな。余計に紛らわしくなるじゃないか。
意図せず後発部隊を撹乱する置き土産を残したアーク達は、開いていく入口を潜り玉座の間へと足を踏み入れた。あの石板、後で回収しておかないと……。