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邪神アベレージ  作者: 北瀬野ゆなき
【後篇~神之章~】
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07:ダンジョン再始動

 先日の啓示以降、急ピッチで神殿の周囲に街作りが進められている一方、私は暫くの間放置してしまっていたダンジョンの整備に取り組んでいた。

 私が邪神になってしまったあの日以降、上に神殿が建ってしまったこのダンジョンに侵入者は一人も来ていない。別に何かを停止していたわけではないので、その点においては今すぐ来客があっても問題は無いのだが、折角なのでこの期に色々と整備しておきたい。


 さて、前置きはこれくらいにして、早速だが念願のイベントへと移りたい。

 そう、待ちに待ったドラゴン召喚の時だ。



 ドラゴン──それはファンタジー世界における生物の頂点に位置する最強の象徴だ。ある時は最悪の敵として、ある時は頼もしいことこの上ない味方として、そしてある時は世界を管理する神として、立場は違えど常に最強の存在としてドラゴンは描かれる。

 勇壮な体躯に鋭い牙、あらゆる物を斬り裂く爪に強固な鱗、そして大空の覇者の名に相応しい力強い翼。ブレスを吐けば一撃で大軍を薙ぎ払い、時として強力な魔法すらも自在に操る最強のモンスター。

 蜥蜴の姿に似た西洋竜と蛇の姿に似た東洋龍の2種類に分類出来るようだが、やはりドラゴンと言えば西洋竜だと私は思う。ドラゴン好きにも色々な人が居ると思うので異論はあるかも知れないが、少なくとも今回召喚するのは私なのだから私の好きに選ばせてもらう。



 ほんの少しばかり浮かれていることを自覚しながらも、私はドラゴン召喚の準備を進めることにした。


 やはりドラゴンなのだから相当な巨体であることは間違いないだろう。

 ダンジョンコアが安置されているこの執務室で召喚するのは少々危険だ。実は20階層ボスのオリハルコン製リビングアーマーを召喚した時にその失敗をやらかして、部屋が半壊したという苦い思い出がある。同じ過ちは二度は繰り返さない。

 私は最下層から動かせないダンジョンコアではなく移動可能なサブコアを持つと、これから召喚するドラゴンを配備することを予定している30階層のボス部屋へと転移した。どうせ他の部屋で召喚してもその後でこの部屋に転送しなければいけなくなるのだから、最初からこのボス部屋で召喚するのが手っ取り早い。



 以前レオノーラと対面した時に使用した30階層のボス部屋は、あの日のまま何も変わっていない。玉座もこれから召喚するドラゴンにはそぐわない人間サイズの大きさだが、この辺りの内装はドラゴン召喚後に合わせて改装を検討しよう。


「ダンジョンクリエイト」


 サブコアを手に持ち呟くと、ウィンドウが立ち上がる。

 私はその中で「召喚」の項目を選んで、数多の魔物の分類中から「竜種」を選択する。そうすると、様々なドラゴンが画像とパラメータ付きで列挙される。火竜に水竜に地竜に風竜、並んでるラインナップを見るだけで思わず顔がにやけてしまいそうになるが、努めて平静を保つ。

 どうせなら一番強い奴にしよう。魔力なら神族になった日から特に大きく使用する場面もなくて只管溜め込んでいたので、どんなドラゴンでも選びたい放題だ。召喚に必要な魔力値でソートすることが出来たので、一番数値が大きいものを見る……格好いい、強そうだ。これに決めた。


「サモン・ドラゴン」


 別に掛け声は要らないのだが、ついつい口から出てしまった。

 召喚を実行すると私の前の床に直径20メートルはあろうかという巨大な魔法陣が展開される。魔法陣が明滅するとその上に膨大な魔力が集束し空間が歪み始めた。そして、その歪みから黒い巨大な何かが徐々に姿を現し始める。

 期待しながら見守る私の前で、その巨大な存在は雄叫びを上げた。


「ピギャアアアァァァ――――ッ!!」




◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆




「……………………」


 どうしてこうなった。

 まさにその一言が相応しい。私はただただ呆然としたままその惨状を眺めるしかなかった。


 勇壮な体躯に鋭い牙、あらゆる物を斬り裂く爪に強固な鱗、そして大空の覇者の名に相応しい力強い翼──を持ったドラゴンが部屋の隅っこで壁に頭を向けながら怯えている。まさに、頭隠して尻隠さず。


 黒龍ヴァドニール。

 魔力値5000万ポイントという嫌がらせを通り越して最早絶対に召喚させる気ないだろうという膨大な魔力、それと引き換えにこの世に現出させたその最強最悪のドラゴンは、魔法陣から姿を見せた瞬間悲鳴を上げると脱兎もかくやという勢いで私から離れるように逃げていった。


 うん、私も薄々この結果を予想しなかったわけじゃない。

 最近は効果の薄い人族や魔族、それから全く効果の無い神族としか会っていなかった為に私も存在ごと忘れかけていたが、邪神オーラのスキル説明に「ドラゴンが裸足で逃げ出す程度の効果」と確かに書いてあった。

 それは認める。認めるけど、やっぱり酷い。

 楽しみに……ずっと楽しみにしてたのに……。


 最強のドラゴンを召喚して更にその上に加護付与なんてしたらどうなってしまうのだろうと、柄にもなくワクワクしながら夢想したりもした。しかし、黒龍のこの様子ではどう見ても私を心から受け入れてくれそうには見えない。実際、私が立っていた位置から一歩前に進んだだけでビクッと震え、必死に逃れようと更に壁にその身を押し付ける有様だ。

 あ、とうとう仰向けにひっくり返ってお腹を見せ始めた。

 要らない、最強のドラゴンの服従のポーズとか要らない。お願いだからこれ以上私のドラゴンへの憧れを粉々にするのはやめて欲しい。


 どう考えてもこれ以上ここに居ても状況は好転しそうにないので、私は失意と共にその場を後にすることにした。




◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆




 執務室には戻らず、神殿の地上5階層の自室へと転移する。

 ドラゴン召喚以外にも色々とやらなければならないことは多いのだが、大きくやる気を削がれてしまった。

 自室の天蓋付きベッドに横になると、枕を抱き抱えて顔を押し付ける。


「アンリさま?」


 舌っ足らずな声を掛けられてそちらを……向かずに様子を探る。どうやらリリが私の部屋で本を読んでいたらしい。彼女の部屋はテナと同室なのだが、日中はテナが忙しくて構えない為に私の部屋に居ることが多い。気が付かなかったせいでちょっと格好悪い姿を見せてしまった。

 私は身を起こすとリリに向かって返事をしようとした、が何と返せばいいのか分からずに躊躇ってしまった。

 そんな私の様子に気付いたのかどうか、リリは読んでいた本を閉じると、テーブルから離れて私の方へと駆け寄ってくる。


「アンリさま、どうしたの?

 かなしいの?」


 どうやら、私が落ち込んでいるのが雰囲気で伝わってしまったらしい。

 そんなことを言いながら私の頭を撫でてくれるので、思わず目頭がツンとなる。


「大丈夫、ちょっとツライことがあっただけ」


 私はそうやってリリをなだめると、彼女の栗色の髪を逆に撫でた。リリはその感触に心地良さそうに目を細める。

 私はリリの仕草に微笑ましい気持ちになると共に、彼女の首に着いたままの首輪が目に入り思わず眉を顰めた。

 彼女はテナと異なり私の加護付与を受けては居ないので、未だ人族のままだ。それ自体は別に良いことだと思うが、問題は未だに奴隷身分のままということである。テナは私が神族になった時に一緒に使徒族へと種族が変わり、その時に奴隷身分から解放された。リリにも加護を付与すれば同じように奴隷身分から解放されるのではないかと推測しているが、使徒族が不老だったりする可能性がある為に今の彼女の年齢でそれをするのは憚られる。

 私が神族の『権能』を十分に使えるようになれば、人族のまま奴隷身分から解放したりすることも出来るようになると予測しているが、現状では不可能だ。


 私は彼女の首輪から目を離すと、気持ちを切り替えて話し掛けた。


「リリはお勉強?」

「うん、ご本を読んでるの」

「偉い、少し読んであげる」

「ホントに!?」


 本当は勉強であることを考えると自分で読んだ方が良いのだろうけど、励ましてくれたお礼に少しくらいはよいだろう。

 目を輝かせるリリに微笑ましい気持ちになりながら、頷いて返した。ショッキングな出来事でささくれていた心が癒されていくのを感じる。


「どんな本、読んでるの?」

「これ」


 リリは先程まで読んでいた本を差し出してきた。

 私は差し出されるままに本のタイトルを見た。



『ドラゴンと少女』



 もういや。

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