06:その日世界が震撼した
「アドミニストレーション」
初めて、管理者としてのスキルを使うことになった。
スキルを行使すると、ステータス画面と同じようにウィンドウが浮かび上がってきた。
メニュー:権能行使
情報閲覧
加護付与
啓示
神の力と言うわりに随分とシンプルだが、先日の光神や闇神の話から考えると神族の力の行使の大半が『権能行使』に拠るものなのだろう。
『情報閲覧』とは文字通り世界で起こったことないしは起こっていることを知ることが出来るものという話だ。流石に神族であっても未来の情報は得られず、あくまで参照出来るのは過去と現在の情報だけらしい。
『加護付与』は神の力を加護と言う形で分け与える行為……なのだが、私が既に持っている加護付与スキルと機能的には変わらないようだった。強いて言えばこちらは任意行使のみで勝手に付与されてしまうことはないらしいが、私にとっては使い道がない。私としては、むしろ今ある加護付与スキルを止める方法が欲しい。
そして今回私が使用しようとしているのが『啓示』──自身の信者に対して言葉を伝える能力だ。
正直しょぼい……。
いや、光神や闇神なら大陸全土の信者に言葉を伝えられるのは有効なのかも知れないが、私の場合は大半が神殿内に居るからあまり意味がない。ダンジョンマスターの能力でも意志伝達は可能だし、あまりする気はないけど直接話すことだって出来ないこともない。訂正しよう、「あまり意味がない」ではなく「全く意味がない」。
ないのだが、他の2柱が啓示を齎しているのに私だけ他の方法というのもこう、あるのかどうかも分からない威厳とかに関わるので、私も同じ方法を採らなければならない。
私はメニューの中の項目を意識し、呟いた。
「啓示」
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「ダンジョンが勝負方法とはどういうことですか?」
「意味分かんねぇぞ、お前寝惚けてんじゃねぇだろうな」
私の提案に対して、2柱は非常に胡乱気な表情で答えを返してきた。
彼らの気持ちは分かる、私も自分で一体何を言ってるんだと思って後悔しているところだ。一つ言い訳をさせて貰うなら、長時間の会議で精神的に疲れていたのだ。
しかし、一度言い出してしまった以上はやっぱり無しとは言えない雰囲気だ。押し切ろう。
「私が神族になる前に作った地下のダンジョン、31階層まであるけど未だ攻略者ゼロ。
人族が攻略したら光神ソフィア、魔族が攻略したら闇神アンバール、決められた期間内に攻略出来なければ私の勝ち」
思い付きだったけど、案外いけるような気がしてきた。
いつぞやの勇者パーティーにレオノーラ、人族と魔族の中でそれぞれ最上級に近い人物であっても半分も攻略出来なかったのだ。おそらく人族や魔族でこのダンジョンを攻略出来る人物はこの世界に居ないと思う。主に実力面よりも脳筋度合い的な意味合いでだが。
光神や闇神と直接争わなくていいのも大きい。直接対決だと経験で劣る私がどんな勝負方法でも不利になってしまうだろうが、この方法であれば相手は人族や魔族達なので、不利は少ない。
「へぇ……面白そうじゃねぇか」
「人族を我々の争いに巻き込むのですか?」
闇神は乗り気のようだが、光神は私の提示した案に難色を示してきた。彼女にとって人族は守護する対象であるため、自身のために危険に晒すのが忍ばれるのだろう。それについては闇神も一緒の筈だが、性格の差によるものだろうか。
「世界の運営方針を決めるのだから、彼らだって無関係じゃない」
「……分かりました、いいでしょう。私は賛成します。
アンバール、貴方はどうですか?」
「俺も構わねぇぜ」
よし、2柱とも乗ってきた。後は細かいルール決めだ。
その後、少しばかり議論を交わして詳細なルールが決定された。最初に『権能』の押し付け合いをしていた時に比べれば、遥かにスムーズに話が進んだ。
1.ダンジョン「邪神の聖域」を誰が攻略するかで競い合う。
人族が攻略すれば光神ソフィア、魔族が攻略すれば闇神アンバール、どちらも攻略出来なければ邪神アンリの勝ち
なお、攻略とは31階層に設置する『攻略の証』に最初に触れることを指す
2.勝者となった管理者は『サブ権能』の配分を決める権利を得る
但し、3柱のバランスにある程度配慮した配分を行うものとする
3.勝負の期間は1年間
4.『権能』を以って直接的に攻略の支援や妨害を行うことは禁止とする
5.邪神アンリは期間中に階層を追加してはならない
6.邪神アンリは期間中に固有の魔物を追加召喚してはならない。
但し、ドラゴン一体のみ可とする
7.邪神アンリは攻略に挑戦する人族や魔族に死者が出ないよう、最大限の配慮を行う
8.光神ソフィアおよび闇神アンバールはそれぞれ人族と魔族に、期間中の神聖アンリ教国への戦闘行為や破壊工作を禁止させる
9.邪神アンリは攻略者から入場料を取っても構わない。
但し、挑戦者1人当たり1回銀貨1枚を上限とする
「俗物が」
「守銭奴だな、おい」
聞こえない。
「『攻略の証』って、それか?
何つーか……お前、趣味悪くねぇか」
「別に私の趣味じゃない」
『攻略の証』については30階層からの階段を降りた31階層の最初の部屋に円柱状の台座を創って設置しておく。居住区まで入って来られて荒らされたりするのは嫌だから、『攻略の証』を取ったらダンジョン外に転移するようにしておくつもりだ。
「やけにドラゴンに拘ってましたが、何か意味があるのですか?」
「ドラゴンはロマン」
色々なことがあって後回しになってしまっていたが、折角魔力は十分にあるのだから夢だったドラゴン召喚はやっておきたい。それに、30階層のボスが空席のままなのは格好が付かないだろう。
何だか話が進むにつれて2柱の眼差しが生温かくなってきたような気がするけど、多分気のせい。
なお、どさくさに紛れてこの国に対して期間中の戦闘行為や破壊工作を禁止させることをルールに盛り込んだ。ダンジョン攻略に見せ掛けて攻めて来られたりしたら困るので必須の条項でもあるのだが、これで国家建設にも猶予が出来た。国を創るとなると正直1年の猶予期間では到底足りないと思うが、人口も少ないことだしある程度の形くらいは整えることが出来るだろう。
光神と闇神に国家として認めて貰ったことも、今後の各国との付き合いにおいて大きな意味を為すだろう。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
啓示を以って、国内外に居る信者達へと言葉を伝える。
大半の人族は知らないであろう闇神のこと、光神と闇神と私の間で勢力争いを始めたこと、その一環として各国や魔族からダンジョンへの挑戦者がやってくること、国民はその挑戦者の妨害をしてはならないこと。
なお、勢力争いとは言ったが、通常その言葉でイメージするものとは逆に仕事の押し付け合いをしていることについてはわざわざ触れることはしない。これは今頃それぞれの種族にダンジョン攻略を指示する啓示を齎している光神や闇神も一緒だろう。
国民による挑戦者の妨害はルール上禁止されていないので出来ないこともないのだが、少々思うところもあって禁止しておくことにした。彼らが妨害をすることで諍いになっても困るし、何よりもこれは国家としてもチャンスなのだ。
光神や闇神から直々にダンジョン攻略を指示された人族や魔族は、躍起になって攻略しようとするだろう。私のダンジョンは基本的に脱落者は外に放り出されるだけで再挑戦も可能だから、きっと何度も何度も繰返し挑戦してくる。そうなれば、自然と挑戦者はダンジョンの近くに滞在して攻略に挑むようになるだろう。一番近くの街はリーメルの街だが、更に近くに宿泊場所があれば利用しない手はない筈だ。神殿の周囲に宿屋を開業すればきっと客は入る。
挑戦者がダンジョン内で倒れた場合は武器やアイテム、お金はこれまで通り回収するつもりなので、商店や預り所なども開けば間違いなく流行る。商品は回収したものをそのまま回せばいい。
ダンジョン内の階層の地図を売って、階層の構造を定期的に変更するのもありかも知れない。階層の追加はルールで禁止されているが、既存の階層を改装する分には問題ない。価格設定次第だが、一定の売上げが期待できそうだ。
そう、この勝負は外貨獲得のチャンスなのだ。
と言うか、主産業の存在しないこの国にとって、そうでもしないといつまで経っても自給自足の村レベルから脱却出来ない。国家運営は基本的に教皇達に任せて関わらずにいたかったが、この絶好の機会を逃すのは悪手だろう。
だから、私は啓示の最後をこの言葉で締め括った。
「これより我が国は『ダンジョンの街』として観光業を促進させる」