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邪神アベレージ  作者: 北瀬野ゆなき
【邪之章外伝】
28/82

外伝07:ある不死王の忠誠

 何かに引き寄せられるような感覚を感じた。

 これは……召喚?


 ふむ、こうして喚び出されるのは久方振りよ。

 確か以前は何処ぞの宮廷魔導士だったか、今では我が眷属だが。

 願わくは、此度の召喚者は余が応じるに値するだけの人物であって欲しいものよ。



 余は──王だ。

 数多の眷属を束ねし不死者の王。

 例え相手が召喚主であろうと、王は膝を付かぬ。

 余を配下にしようなどと企む浅はかな小物であれば、即座に息の根を止めて逆に我が眷属に加えてやろうぞ。



 膨大な魔力と引き換えに我が身が実体化していく。

 成程、これほどの魔力を無理なく行使出来る存在であれば、少なくとも実力はあるようだ。

 そうして、余はその身を顕現させた。




 眼球の無い眼窩から見える光景は何処かの部屋のようだ。目の前には蒼いクリスタルが台座に安置され、その横には黒いローブを纏った人族の少女───っ!?


「……………ぁ………」


 不死者である余は既に心臓の鼓動など無い。しかし、その瞬間だけは遥か昔に味わった鼓動が高鳴る感覚を確かに感じていた。呼吸も要らぬ身体だが、動揺に乱れて言葉にならない空気だけが漏れた。



 嗚呼、嗚呼、嗚呼……余には分かる。

 暗く禍々しい瞳に圧倒的な力、そして何よりもこの気配。

 人族の少女の姿を模しているが、見紛う筈など無い。この御方は、この御方こそは余らが崇めるべき神だ。

 かつて余が未だ人であった時に信仰し、終ぞまみえることの出来なかった神。悠久の時の中で忘却の果てに追いやられていたが、思えば余がこの身を不死者と為したのも、いつか神にまみえることを夢見た為だった。


「……………ぉ………」


 何か申し上げなければと思うほどに焦りが喉を滑らせる。


「私はアンリ、貴方にはこの階層の守護を任せたい」


 言葉を発することが出来ない余に対して、神から言葉が掛けられた。

 アンリ様! それが神の御名か!

 しかも、私に任を命じて下さるとは!


「よろしく」


 そう仰ると、アンリ様は蒼いクリスタルに手を翳し余を転移させた。

 結局一言も話すことが出来なかった余は、せめてもの忠誠の証として転移されながらも膝を付き深々と頭を垂れた。




◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆




 アンリ様から賜った玉座に座し、侵入者を待つ日々が続いた。

 この玉座は余が受け持つこととなった部屋に、わざわざアンリ様が創って下さったのだ。歓喜と共に忠誠を新たにしたが、中々その忠誠を発揮出来る機会が来ない。

 余が守護を任されたのは10階層。大半の侵入者は3階層までに倒れ、それより深い階層には殆ど訪れない。

 先日、漸く一組のパーティが10階層まで降りてきたのだが、何故か余の待つ部屋の前で引き返していった。気配を感じ取っただけなので何故引き返していったのかは分からぬが、ふむ、さては余の気配を察知して戦いを避けたか。中々に賢明な判断だが、このままではアンリ様に忠誠を示す機会に恵まれない。


「……来たか」


 だが、それもここまでだ。渇望していた機会が漸く訪れたのだ。余の待つ部屋の前で何やら暫く手間取っていたが、扉が開かれ招かれざる客が入ってきた。入ってきたのはまだ若い銀髪の少女一人だが、ここまで来られる者が弱者である筈がない。それにこの気配……成程、魔族、それも魔王の血脈か。


「よくぞ参った、客人よ。

 ここまで辿り着いたのは貴様が初めてだ」

「成程、台座に書かれていた通りのノーライフキングか。

 増長するだけのことはあるようだな」


 増長……? 成程、増長か。

 確かに、アンリ様と出会う前の余は増長していたと言えるだろう。自らよりも上の存在など端から認めていなかった。勿論、今ではそのような考えは捨てている。


「いかにも、この身は数多の眷属を束ねし不死者の王。

 例え魔族の王族が相手であっても膝を折るつもりは無い」


 そう、余はアンリ様に忠誠を誓った。以前の自らを頂点とする考えも捨てた。

 しかし、それでも余が不死者の王であることに変わりは無いのだ。余が膝を折るのは唯一アンリ様の御前のみ、例え魔王の血脈が相手だろうと断じて屈しはせぬ。


「どうやら私が何者かは分かっているようだな。

 叩きのめすだけのつもりだったが、気が変わった。

 ダンジョンマスターを辞めて何れ即位する私の配下となるがいい」

「膝を折ることはないと言った、図に乗るな小娘」


 その傲慢な言葉、後悔するぞ。


「ならば力尽くで屈服させてやろう!」

「来るがいい、魔王の娘を眷属に加えるのもまた一興!」




◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆




 何かに引き寄せられるような感覚を感じた。


 魔王の娘に敗れた余はその身を滅ぼされたが、何故か拡散する筈の意識が残り漂っていた。その意識が今、引き寄せられている。先日の召喚とは異なる感覚だ。まるで……そう、まるで別に召喚されている何かと同化しているような感覚だった。


 そして余は再び実体化した。

 目の前には先日の焼き回しのように、余が忠誠を誓った我らが神の姿が見受けられた。

 これは……アンリ様が余を復活させて下さったのか。嗚呼、使命を守れず敵に破れた余に何と慈悲深い御方であることか。


「アンリ様………」

「………………?」


 余は即座にその場に膝を付き、忠誠を示した。いつぞやは衝撃の大きさに醜態を晒したが、二度目であるが故に今回は行動することが出来た。

 何やら戸惑っておられたアンリ様だが、すぐに言葉を下さった。


「貴方には10階層の守護を任せたい」

「承りました、この身の全てを掛けて敵を排除して御覧に入れましょう」


 以前と同じ使命を頂いた。一度は不覚を取ったが、二度は無い。


「あと……念の為。 受け入れて」


 アンリ様はそう仰ると、余に向かってその手を伸ばして額に触れた。

16話の復活フラグ⇒回収

強化フラグ⇒ON

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