外伝03:ある冒険者の災難
依頼の完了を報告を終えて報酬を受け取り、小休止を兼ねてギルドのテーブルと仲間達と談笑する。
報告した依頼はフォレストウルフの群れの討伐……俺達にしちゃ結構な難易度の仕事だった。フォレストウルフは森の中に群れを作って棲息する魔物だが、最近数が増え過ぎて森の中の街道を通る商人達を襲ったりしていたため、領主から討伐の依頼が来たって話だ。
フォレストウルフは一頭一頭はそこまで強くはねぇが、常に群れで行動して敵を囲んで襲うっつう厄介な相手だ。普通なら視界の悪い森の中で囲まれないように慎重に相手をする必要がある魔物なんだが、昨日は何故か森の入口近くまで出て来てやがったので簡単に狩ることが出来た。どうも何かに怯えているような様子だったのが気に掛かったが、一体何があったってんだ。
「しっかし、今回は思ったよりラクだったな」
「狼共が何故か森の入り口に居たからな、それに統率も全然取れていなかった」
仲間達も俺と同じことを考えていたらしい。俺もそこに乗っかる事にする。
「獲物を探してたって感じじゃねぇよな。
っつーか、何か怯えてたように見えなかったか?」
俺の言葉に、仲間達は頷いた。
「確かにそんな雰囲気だったな。
もしかして、強い魔物が森に棲み付いて逃げてきたとかか?」
「知らねえよ。だが、それなら納得出来るだろ」
魔物が縄張りを変えるのは数が増え過ぎて餌が取れなくなった時か自分達よりも強い魔物が棲み付いた時が殆どだ。今回みたいに急な移動で、しかも怯えた様子となると後者の可能性が高え。
「まさか、森にドラゴンでも棲み付いたんじゃねぇだろうな」
「ハハ、流石にドラゴンはねぇよ」
ドラゴンなんざ長年冒険者をやっていても見たこともねぇ。魔族領の奥深くには居るっつう話だが。
「ま、何にせよ森に行く依頼があったら気を付けた方がいいだろうな」
「そうだな、命あっての物種だぜ」
死んじまったら何にもなんねぇ。
冒険者ってのは身分も技術も不問なかわりに命が危ねぇ仕事だが、新人の中には英雄に憧れるガキが結構居て無茶をやっては死んでいきやがる。目の届く範囲でなるべく俺らみてぇな熟練者が世間ってもんを教えてやって死なねぇようにしてやってんだが、それでもそういう奴は後を絶たねぇ。
そうそう、丁度あんな感じに……っておい。
「カードの記載内容を転記させて頂きま──」
「おいおい、こんな小娘が冒険者志願だと?
世も末だぜ」
見ると、黒いローブで全身を隠した奴が受付で冒険者登録を行っていた。しかし、隠して居てもその華奢っぷりにまだ尻の蒼いガキ、しかも女であることは一目瞭然だ。こいつ、女のガキのくせにパーティも組まずに冒険者やろうってのか?自殺行為だぞ。このまま放っておいたら2〜3日後にはゴブリンの巣で苗床になってるのが関の山だ。
俺は思わず立ち上がって横合いから口を挟んだ。
「おいおい、ガルツ。
また新人に絡んでんのかよ」
「毎度毎度飽きねえな」
仲間達が呆れたように言ってくるが仕方ねぇだろ、ガキがばたばた死んでいくのは寝覚めが悪ぃんだ。軽く焼き入れてやって俺らの下で下積みからやってった方がコイツの為でもあんだよ。
小娘は俺にビビったのか顔を隠したまま無言で立ち竦んでいる。
こうして見ると、ホント小っけぇな。
「おら、何とか言ったらどうなんだ。
いつまでも顔隠して黙りこくってんじゃねぇ」
そういうと俺は小娘のフードを手で払って顔を露わにした。
──────っ!?
そいつの顔を見た瞬間、俺は思わず硬直する。
目が合った瞬間に、自分が死んだと思った。
魔族ですらこんな酷ぇ目はしていないだろうっていう、暗く澱んだ目だ。
次の瞬間、腕にチクッとした痛みを感じたかと思った時には、女は禍々しい黒い短刀を構えてやがった。
ヤベェヤベェヤベェ! 殺される!
「ヒッ!?」
俺は思わず情けない声を当てて尻餅を突いた。
気付いた時には目の前の存在は既に人間の女の姿をしていなかった。全身からヘドロ状の何かが噴き出した化け物だ。
俺は少しでもそいつから離れようと後ずさった。
「$%、&$&%’#!」
すると後ろから、何か聞き取り難い不気味な叫び声が聞えてきた。
振り返ると、後ろにも似たような化け物が俺に向かって触手を伸ばしてきやがる。
「!? うおおおおぁぁぁぁーーーー!!!」
「@#、*?#$&$&%!」
俺は全力でその化け物に殴り掛かったが効いた様子がない。
それどころか、いつの間にか化け物に囲まれていて一斉に俺を襲って来やがった。
何とか振り払って外に出たが、そこには似たような化け物が溢れ返っていた。
「一体、この街はどうなっちまったんだよ!?」
誰に言った言葉か自分でも分からねぇが、吐き捨てると俺は化け物で溢れ返っちまってる街から外に出ようと走り出した。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
気が付くと俺は地面に横たわっていた。
ガンガンと痛みが走る頭に手を当てながら身体を起こして周囲を見る。どうやら、ここはリーメルの街の外の平原みてぇだ。街の近くとは言え、魔物が全く居ないわけじゃねぇ。こんな風に寝っ転がっていて喰われなかったのは運が良い。
取り合えずこうしていても仕方ねぇから街に戻ろうとする。何かとんでもねぇことを忘れている気がするが、思い出せない。
衛兵を殴り倒して無理矢理街の外に出たとか言われて街の入り口で揉めたのを皮きりに、色んな奴から身に覚えのない言い掛かりを付けられて四苦八苦する羽目になったのはそのすぐ後のことだった。
一体ぇ俺が何したってんだ!?
ガラは悪いですが実は気のいい人です。