表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
邪神アベレージ  作者: 北瀬野ゆなき
【前篇~邪之章~】
21/82

21:邪神アベレージ

 ダンジョンコアに手を翳し、久方振りの階層増築を行う。

 しかし、今回行うのはこれまで何度も行ってきたものとは根本から異なる。これまで行ってきたのは通常の階層増築、洞窟型のダンジョンであるこのダンジョンでは地下階層を増やすことになる。それに対して今私が行っているのは、ダンジョンの型に反する特殊な階層増築だ。

 初回に3000万ポイントと言う嫌がらせのような魔力値を費やす必要があるが、これによって地下ダンジョンでも地上階層の増築が可能になる……嗚呼、折角溜めてたのに。ドラゴンが遠退いた。

 一度特殊階層増築を行えば、以降は通常の階層増築で地上階層を増やすことが出来る。地上階層は部屋だけでなく外装も設定しなければいけないから面倒だが、概ねのデザインは決まっているためテキパキと設定を進めていく。

 隣でレオノーラが引き攣った表情をしているが、気にせずに最後のプロセスを終了する。


 この部屋には何の変化もないが、これでパフォーマンスは成った筈と思って横に置きっぱなしの鏡から外の光景を見る。



◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆



 布陣を終えた王国軍も、それに相対して殉教の覚悟を決めた邪教徒も、その場のあらゆる者が驚愕と畏怖に硬直してその場所を見詰めている。

 先程まで建造中の神殿の基礎部分が剥き出しになった状態だった広場に、突如天を衝くような巨大な建造物が姿を現したのだ。

 黒を基調にしたその宮殿は神聖さと禍々しさが絶妙なバランスで融合した意匠で、それ自体が一個の芸術作品のようだった。

 きっと誰もが本能的に理解しただろう、この建造物が邪神の住まう神殿であることを。


 そう、私は地上階層に5階建の神殿を創造したのだ。

 必要な魔力値が多過ぎることから他のダンジョンマスターはまず地下ダンジョンに地上階層を作ることなどしていない筈。故にそんなことが出来ること自体知られていないと思うので、十分に派手なパフォーマンスとなっただろう。

 邪神故の力とでも勘違いしてくれれば更に効果的だ。


 私はトドメを刺すためにレオノーラとテナを連れて最上階層に転移する。

 尖塔のバルコニーからは呆然と立ち尽くす王国軍と邪教徒の姿が見える。


「レオノーラ、テナ、お願い」

「ああ、分かった」

「はい、アンリ様」


 レオノーラとテナが同時に魔法の詠唱を始める。

 彼女達に頼んだのは場の演出の手伝いだ。


 レオノーラが唱えたのは戦闘域を強制的に夜に変えて闇魔法の効果を高める魔法。

 テナが唱えたのは空中戦用の足場を構築する魔法だ。

 神殿を中心に半径数kmが夜の闇に包まれる、そんな中を私はレオノーラとテナを連れてバルコニーから空中へと歩き出す。

 本来ならそのまま地上に真っ逆さまになる行動だが、今そこにはテナの魔法により黒い煙で出来た(きざはし)が作られており、私はそこをゆっくりと降りて行く。


 足元がフワフワして頼りないし、墜ちないと分かっていても怖いものは怖い。

 内心では心臓が生まれてからこれ以上は無い程の音を鳴らしている。

 出来ればレオノーラでもテナでもどちらでもいいから手を握って欲しいんだけど、この状況ではそうもいかない。


 (きざはし)は地上まで続いているが私は中程の踊り場で歩みを止め、改めて地上を見下ろした。

 私の視線の先、地上にてそれぞれの陣を設けている王国軍と邪教徒は1人の例外もなく私を見上げている。

 さあ、仕上げの時間だ。


 私は静かに目を閉じると魔力を練り上げる。

 場の演出をレオノーラとテナに頼んでまで温存した魔力を使い、1つ派手な花火を空に打ち上げて見せようじゃないか。

 圧倒的な力の差があると思い込んで、二度と攻め込む気にならなくなってくれればいい。

 私はカッと目を開くと魔法の詠唱を────








 ────って、あれ? 王国軍がいないぞ、何処行った?








 見せるべき観客が居なくなってしまった舞台で、私はどうしていいか分からずに硬直する。


「あの、アンリ様?

 もう終わったみたいですよ」

「王国軍ならお前を見た直後に逃げていったぞ」


 何ですと?

 って、それじゃあこの練りに練った魔力はどうすれば?

 許容量とか無視したから暴発寸前なんですけど。


「ほら、いつまでそうしてるんだ?

 さっさと戻るぞ」


 いいや、撃っちゃえ。

 見掛け倒しの花火にするつもりが詠唱し損ねたせいで普通に攻撃力あるけど、街とか無い方角にやれば大丈夫だろう。


「なっ!? 何をする気だ!?」


 無理、もう止められない。


「ば、ばか! やめろおおおぉぉぉーーー!!!」


ちゅどん。















『資格者「アンリ」の信仰と恐怖が一定量を超えました』

『種族が「人族」から「神族」に変更されました』

『職業が「魔導士」から「管理者」に変更されました』

『称号「邪神の御子」が「戦慄の邪神」にクラスアップしました』

『称号「第三管理者」を獲得しました』

『スキル「アドミニストレーション」を取得しました』















 は?












◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆



 どうしてこうなった。


 いや、自分自身の考えなしの行動のせいなので自業自得以外の何物でもないが、それでもこんなことになるなんて誰が予想出来ただろうか。今更何を言っても後の祭りかも知れないが、海より深く反省している。

 反省しているから──


「そろそろ赦して」

「ダメだ、もうしばらく正座していろ」


 ──おに。




 王国軍と邪教徒の睨み合いに横槍を入れて一世一代の茶番劇を繰り広げた後、唐突に聞こえた『声』に呆然としながらも何とか体面を保ってダンジョンに戻った私を待っていたのは、激怒するレオノーラによる制裁だった。

 彼女の剣幕に圧された私はそれ以降数時間に渡り、食事もトイレに行くことすらも許して貰えずに正座させられている。ただ、何故かお腹は空かないし、トイレにも行かずとも平気なところが不気味だ。

 ちなみに、正座なんて知らない筈のレオノーラがこんな罰を下したのはテナが入れ知恵したせいだ。テナ……この前のこと根に持ってるでしょ、絶対。そしてそうだとすると、正座が終わった後にどんな目に遭わされるか想像するだけで背筋に冷たい汗が流れる。

 正座の文化がある日本人とは言え数時間の正座は流石に堪え、既に足の感覚はなく僅かに動かそうとしただけでも痺れが全身に広がる。

 この状態でつつき回されたら……ぶるぶる。



 なお、レオノーラが怒っているのは私が邪神になってしまったから……ではなく、そうなった原因である溜め込んだ魔力を抑えておけずに明後日の方向に放ったことだ。

 当初の予定では派手なだけでダメージの無い魔法を使って王国軍を脅かすつもりだったが、いつの間にか逃げ去っていた王国軍の行方に気を取られている間にタイミングを外してしまい、許容量を超えた魔力が暴走するところだった。

 抑え切れなくなったのでやむなくそのまま放ったわけだが、無害な魔法ではなく魔力をそのまま放つと当たれば被害が出てしまうので、その程度の分別は残っていた私は街の無い方角に放った。




 そりゃ街もない筈だ、「魔族領」の方角なんだから。




 私の仕出かしたことに気付いたレオノーラは慌てて魔法による通信で魔族領の被害状況を確認すると同時に私への説教を始めた。そんな器用なことしなくていいから、被害状況の確認に専念して欲しい。


「聞いてるのか、アンリ!」

「聞いてる」


 別のことを考えてはいるが、少なくともちゃんと耳には入っている。

 レオノーラの説教を右から左に聞きながしつつ、私は口の中でこっそりと「ステータス」と唱える。



  名 前:アンリ

  種 族:神族 [New]

  性 別:女

  年 齢:17

  職 業:管理者 [New]

  レベル:1

  称 号:戦慄の邪神 [New]、ダンジョンマスター、第三管理者 [New]

  魔力値:27193018

  スキル:邪神オーラ(Lv.5)

      悪威の魔眼(Lv.5)

      加護付与(Lv.7)

      状態異常耐性(Lv.9)

      闇魔法(Lv.9)

      アイテムボックス(Lv.9)

      ダンジョンクリエイト(Lv.7)

      アドミニストレーション(Lv.5) [New]

  装 備:悪鬼の短刀

      邪神の黒衣

      堕落のベビードール

      淫魔のスキャンティ

      闇のパンプス

  巫 女:テナ [New]



 うわぁ……え〜と、うわぁ……。

 ダメだ、言葉が見付からない。

 一体どうしてこんなことになってしまったのか。

『声』が聞こえた時点で分かってはいたけど、改めて見ると色々酷い。



  <戦慄の邪神>

  恐怖の権能を司る邪神


  <第三管理者>

  世界の管理者の第三席


  <アドミニストレーション>

  管理者の基礎スキル。

  世界の法則や環境の操作を行う。

  Lv.は権限の及ぶ範囲を定義する。

  Lv.5は世界システムの根幹及び他の管理者の専任以外の全てについて権限を持つ。



 私が第三席と言うことは他の管理者が2人(2柱?)居るわけで、レオノーラから教えて貰った神話が正しいなら光の神と闇の神がそれに当たる筈だ。

 世界システムの根幹と言うのは、創造神が世界の維持の為に切り離した力の事かな。

 思えばこのステータスや称号、スキル、それにダンジョンコアの機能なんかも、そのシステムの一端なのだろう。

 神にされてしまった私すらその管理対象から外れていないのだから、他に思い当らない。



  名 前:テナ

  種 族:使徒族 [New]

  性 別:女

  年 齢:14

  職 業:巫女 [New]

  レベル:1

  称 号:アンリの巫女 [New]

  魔力値:187530

  スキル:状態異常耐性(Lv.6)

      闇魔法(Lv.6)

  装 備:邪神の巫女服



 共連れでテナまで人族の枠から外れてしまった、ごめん。

 おまけに奴隷から解放されて私の巫女になってる。



『……以上がこちらの状況です』

「そうか、分かった。

 また何かあったら連絡する」

『承知致しました』


 レオノーラの確認していた魔族領の被害状況が分かったみたいだ。

 私が縋る様な目で彼女を見ると、目を逸らしつつ教えてくれた。


「幸いにして、人的被害は出ていないそうだ」


 よかった。私は内心でホッと安堵する。

 説教は真面目に聞いていなかったけれど、それは被害状況が気になって心配で集中出来なかったためでもある。一応、本気で心配はしていたのだ。あんな間抜けなことで被害を出してしまったら、申し訳ないにも程がある。


「が、山が1つ半壊したそうだ」


 マジですか。確かに暴走寸前になる程の恐ろしい量の魔力が集まっていたけれど、まさか山を砕いてしまうとは。

 まぁいいか、人に被害を出してないなら。最悪、付与されてしまったスキルで多分直せるし。


 そんなことを考えていた私を影が覆う。不思議に思って見上げると、レオノーラが私の前に立って俯いている。銀色の髪に隠れて目元が見えないが、口元がひくひくと引き攣っているのが見えた。

 何だか拙い雰囲気だ。


「……話を聞いていなかったようだな?」

「聞いてた」

「それなら、私が何を話したか言ってみろ」

「………………」


 ……ごめんなさい。


「テナ、アンリが足をマッサージして欲しいそうだ」

「分かりました、レオノーラさん!

 リリも手伝って」

「ん」


 本気でごめんなさい!?

 ちょ、待って。 今それは本当にマズイ。

 手をワキワキさせながらにじり寄って来ないで!

 ぴぎゃーーーーーーー!!!










 テナがこれまで見たことが無いくらいのイイ表情で笑っている。




 テナと一緒になって遊んでいるリリも、怒っていた筈のレオノーラも楽しそうだ。




 私が邪神なんてものになってしまっても彼女達はこれまでと変わらずに接してくれている。




 何とも威厳の無い光景ではあるけれど、多分これは幸せなことなんだと思う。




 平均的な人生になる筈が邪神基準の平均にされて、最後にはとうとう本当に邪神になってしまったけれど、




 彼女達と一緒なら、きっと楽しく過ごせる。




 邪神初心者の私だけど彼女達と一緒に笑って過ごすため、せめて平均的になれるように頑張ろう。











「ここはどうですか、アンリ様」

「つんつん」

「よし、私も手伝ってやる」


 もうホントに赦して……

ご読了ありがとうございました。

アンリさんが邪神になってしまったところで、邪神アベレージ【前篇~邪之章~】完結となります。

なお、この後はここまでのお話の別視点を場面ピックアップした【邪之章外伝】を展開します。

理由は、一人称だとどうしてもアンリさんが見ていない部分の描写が不足するためです。

あいつら何処行ったとか、あいつあの時何考えていたんだ等、本編では分からなかった部分も明らかになる、かも。


そしてその後、後篇である【神之章】に突入します。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ