表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
邪神アベレージ  作者: 北瀬野ゆなき
【前篇~邪之章~】
17/82

17:ガールズトーク

「そう言えば、レオノーラは魔王の娘で合ってる?」

「ん? ああ、そうだ。

 現魔王は私の父に当たる」


 友人契約を交わしたレオノーラを居住区に招いてお茶をする……前に浴場に叩き込んだ。埃や汚れに血と酷い格好だった彼女もさっぱりした格好になり、居間に場所を移してテナの淹れた紅茶を飲む。

 最初はぎくしゃくしていたが、徐々に慣れたのかお互いに名前で呼び合えるようになった。ただ、目は合わせてくれないけど。どうやら邪神オーラは本能の強い獣や魔物には効果覿面だが、理性が強い魔族には人族と同じで効果が薄いらしい。一方で、魔眼の方はしっかりと効くらしく、目を合わせると途端に土下座されてしまう。逃げられないだけまだマシなのだろう。私も彼女にうっかり目を合わせてしまわないように気を付けている。


「魔王は死んでも復活するって聞いたけど本当?」

「そんなわけあるか!」


 怒られた。

 詳しく聞いてみると、別に倒された魔王が復活しているわけではなくて単に代替わりしているだけらしい。テナが言っていた何十年前かに倒された魔王は先代でレオノーラの祖父に当たるそうだ。倒されても次代の魔王が登場することから人族の間では変な風に伝わっていたのだろう。


「魔王の娘なら魔族の姫……何故こんなところに?」


 魔族領に程近いとはいえ、ここはれっきとした人族領だ。彼女がこの地に居るのは不自然に思える。


「ロマリエル家の慣わしでな、魔王の後継者は一人前になるために1人で旅をすることになっているのだ。

 旅の行き先は特に決まりは無いが、私は一度人族領を見てみたいと思っていたので来てみた」


 どこかで聞いたような風習だな。それにしても、仮にもお姫様がたった1人で敵地に乗り込むとは大した行動力だ。


「魔王は魔王城に居るものだと思ってた」

「いや、その考えは間違ってないぞ。

 魔王は影響力が大きいからな、魔王の座に着いてからは気軽に外出は出来なくなる。

 だからこそ後継者に過ぎない今の内に、という意味もあるのだろう」


 成程、最後のモラトリアム期間でもあるのか。大学の卒業旅行みたいなもの……ちょっと違うか。


「旅の期間は?」

「特に決まってない。

 何らかの功績を上げるまでは戻る気はないが」

「功績?」

「魔族の敵となる者を倒したり、あるいは益になる者を味方に引き入れたりだな」


 何故か苦々しい表情をするレオノーラの様子にピンと来た。


「このダンジョンに来た目的もそれ?」

「ぐ……そうだ。

 邪神を騙る者に制裁を下し、場合によっては配下にしようと思ってた」


 成程、魔族にとって邪神というのがどういう位置付けなのかは分からないけれど、少なくとも勝手に邪神を名乗る者は許せない相手なのだろう。だからと言って、名乗ってもいないのに勘違いして襲われては堪らないので、彼女は猛省して欲しい。


「逆に聞いてもいいか、アンリ?」


 彼女の問い掛けに私は無言で頷いた。


「お前は邪神にその力を植え付けられたと言っていたが……」


 異世界云々は信じて貰えるか分からないのでテナと同様に話していないが、私が邪神によって称号やスキルを植え付けられた人間であることは既にレオノーラに話していた。


「正確には当人が邪神と名乗ったわけじゃない。

 私に付けられた称号やスキルからの推測」

「ふむ……」


 レオノーラは私の返答に何やら深く考え込んでいる。私が無言で説明を要求すると、彼女は目を逸らしながら語り始めた。


「いや、お前の言葉を疑うわけではないが……邪神などと言う神は実在しない筈なのだ」

「? 貴女やリーメルの住人は『邪神』という単語を使っていた。

 存在するからそう呼ばれているのではないの?」

「確かに、邪神という言葉や概念は存在する。

 しかし、邪神という神は実在しない」


 それは何かの謎掛けだろうか。彼女の言う「実在しない」というのは神の存在否定とは少しニュアンスが異なるように感じる。レオノーラは「神」は居るが「邪神」は居ないことを確信を持って告げているように思えるのだ。


「邪神とは人族が提唱した架空の神なのだ」

「架空の神?」


 あの邪神が架空?

 実際に遭って話しているんだけど。


「ああ、アンリは神々について何処まで知っている?」

「この世界を創造した光の神──聖女神ソフィアが世界を破壊しようとする邪神と戦っていて、加護や啓示を齎して人々を導くと聞いている」

「噂程度に知ってはいたが改めて聞くと呆れるな」


 何だか凄く可哀相なものを見る目をされた、目を合わせてくれないから想像だけど。ただ、この世界の伝承についてはテナに聞いたぐらいしか情報源が無いのだ、そんな目をされても困る。


「いいだろう、少し長い話になるが魔族に伝わる真の神話を話してやる」


 長くなりそうなので、テナを呼んで紅茶のお代りを淹れて貰う。ついでだからテナにも一緒に聞いて貰おう、私だと人族に伝わる神話と照らし合わせたり出来ないし。



◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆



「世界は唯一の神である創造神によって生み出された。

 創造神は生み出した世界の住人として様々な動物を創造し、そして最後に自身の姿に似せた人族を創り出した」


 テナもここまでは異論が無いらしく頷いている。元の世界にも様々な神話があったが、創世記については割とどの神話も似たようなものだったと思う。


「人族は創造神の寵愛を得て繁栄を極めるが、すぐに行き詰ることとなる。

 天敵の居ない人族が増え過ぎて、食糧を得ることが出来なくなったためだ」


 食物連鎖のバランスが崩れたってことか。天敵が居なければ確かにそうなるだろうけれど、神話にしては随分と科学的だ。


「助けを求める人族に創造神は食糧を与えたが、同時にこの事態を憂えてある対策を取った。人族の天敵となり世界の調和を整えるもの……魔族の創造だ。

 魔族は生み出された役目に従い人族と敵対し、人族を攻撃して数を減らした。人族よりも強い代わりに人族よりも子供が出来難い、そんな魔族が人族の天敵となることで調和が生まれた」

「そんな……」


 テナが自分の知る神話と大幅に異なるレオノーラの話に呆然としているが、確かに少数の強者が上に立てば食物連鎖のバランスは取れるし、テナに聞いた人族側の神話よりは理屈は通る。


「しかし、創造神は自身の行いに苦しめられる。

 愛する人族を繁栄させる為に苦しめなければいけない……その二律背反の葛藤の果てに創造神は自らを3つに分けた。力の大半を世界の維持のために切り離し、残った力と心を2つに分けたのだ。

 分かたれた心はそれぞれ光の神と闇の神になり司るものを2分した──創造と破壊、太陽と月、昼と夜、人族と魔族といった具合にな」

「………………」


 既にテナは言葉も出ない様子だ。彼女の知る常識とは既に大きく掛け離れているのだろう。


「これが魔族に伝わる神話だ。神と呼ばれるものは光の神と闇の神だけだ。

 邪神などと言う神は存在しない」


 確かに、魔族の神話が正しいとすれば2柱の神は両方とも創造神から生まれた存在で、善悪や正邪で分けられるものじゃない。闇の神というといかにも邪悪そうに聞こえるが、日本神話で言えば月読尊のようなものだ。


「そもそも人族の言う聖女神とは人族が自身の信仰する光の神の権威を高めるために後から付けたものだ。そしてその為に架空の敵である邪神という存在を提唱し、光の神がそれと戦っているとした」

「闇の神と戦っていることにすれば良かったのではないの?」

「おそらくだが、流石に闇の神そのものと明確に敵対する度胸が無かったのだろうな」

「あの、聖女神が戦っている邪神は闇を司るって聞きましたけど……」

「ああ、ハッキリと明言していないだけで邪神が闇の神を意識して生み出された概念であることは明白だ。故に魔族では邪神という言葉もそれを信仰するものも、忌むべき存在とされている」


 成程、自分達の信仰する闇の神を貶める概念だから嫌っていると。レオノーラが邪神を騙るものに制裁を加えようとしていたのもそのためだったのか。

 しかし、彼女の言葉で気になる所があった。


「信仰するもの? 架空の神なのに?」

「架空だがそれを知っているのは生み出した人族でも一握りだろう。虚構の話であっても上位者が喧伝すれば真実と思い込むのは無理もない。酔狂な話だが、本気で邪神を信仰する人族も居るらしいぞ」


 元の世界でも悪魔信仰とかあったし、そういう人が居てもおかしくはないか。

 共感は出来ないけれど。


「邪神については分かった。

 私が遭った相手が何者なのかは分からないけれど……」

「そうだな、ここで議論をしても憶測の域を出まい」


 取り合えず、あの邪神は邪神(?)程度に思っておこう。


「光の神と闇の神のことは分かったけれど、勇者と魔王はどうなるの?」

「魔王は魔族を統率する為に闇の神が生み出した存在だ。そして、魔王の脅威に怯えた人族の為に光の神が生み出したのが勇者と呼ばれる者達だ」


 それは本末転倒なのでは?

 魔王の脅威は人族が増え過ぎないようにする調整役のためにあると言う話なのだから、脅威を排除してしまっては問題な筈だ。

 私の疑問を察したのか、レオノーラは苦笑しながら続きを話し出す。


「言いたいことは分かる。

 魔王や魔族が倒されてしまっては結局元の木阿弥になる、そういう意味では創造神の思惑と光の神の行為は矛盾している。闇の神と分かれたことで人族贔屓に特化したのが光の神だからな、そんな事態が起こってしまうんだ」

「成程、そうすると魔族は勇者のことをどう思っているの?」


 魔族からしてみれば神から与えられた役目として人族を攻撃しているのに、神の下僕が襲ってくるのだから理不尽と言えば理不尽だ。


「光の神の思惑なんぞどうでもいい。我らにとって信仰する神は闇の神だけだからな。勇者も単なる手強い敵対者というのが魔族の見解だ」

「成程。 勇者と言えば、以前このダンジョンにも来た」

「何? どんな奴だった?」


 私は以前このダンジョンに侵入してきた勇者(笑)パーティのことをレオノーラに説明する。10階層まで来ながら石板の仕掛けを前に退散していった脳筋っぷりを話すと彼女はお腹を抱えて爆笑した。


「ぷ、くくく……あ、あの仕掛けでスゴスゴと諦めて帰ったのか……あはははははっ!」

「聖剣の導きも謎解きには対応してないみたい」

「た、頼むからこれ以上笑わせないでくれ……は、腹が捩れる……く、苦し……くくく……っ!!!」


 涙まで流しながら笑い続ける彼女の姿にちょっと悪戯心が湧いた。


「貴女も1時間くらい悩んでたけど」

「ブフッ!? み、見ていたのか!?」


 私のツッコミに驚愕して途端に顔を真っ赤にして目を逸らすレオノーラ。勇者(笑)パーティを笑い物にしていたことがブーメランのように彼女に突き刺さる。


「は、話を聞く限りではその勇者は正勇者のようだな」


 あ、誤魔化した。更に突っ込んであげても良いが、彼女の言った言葉が気に掛かったので今は止めておく。


「正勇者って何?

 勇者にも色々種類があるの?」

「ああ、魔族側で付けている分類だから人族には馴染みが薄いか。

 一般に勇者と呼ばれる者を魔族では3つに分類している。この世界の者が光の神の加護を受けてなる正勇者、異世界から召喚される召喚勇者、そして勝手に名乗る自称勇者の3つだ。召喚勇者、正勇者、自称勇者の順番に厄介さが増していく」


 異世界召喚って一般的なのか。もしかすると、この世界に他にも私と同じ立場の人間が居るのかも知れない。わざわざ探す気にはならないけど、もし会えたら話してみたいな。

 それにしても、レオノーラの言う厄介さの順番はおかしいのではないか。


「順番、間違ってない?

 自称勇者は一番弱そうだけど」

「ああ、一番弱いぞ? 強い方から順番に並べても召喚勇者、正勇者、自称勇者の順だな。異世界から召喚されたものは強力なスキルを持っている確率が高いから正勇者よりも強い者が多い」


 この世界でも異世界召喚で呼ばれる者はチートなスキルを持っているのが一般的か。チートスキルと言えば私のスキルもある意味そうだけど……正直、誰かに渡せるならあげてしまいたい。


「なら何故自称勇者が一番厄介なの?」

「弱いくせに後から後から際限なく湧いてくる。加えてならず者と大差ないような者が多いからな、殺すわ犯すわ盗むわで盗賊と変わらん。

 魔族の間では最優先の討伐対象だ」


 ああ、確かに資格もないのに勇者を自称するような人間だと性格も自己顕示欲が強くて自分勝手なのばかりになるか。


「成程、じゃあ召喚勇者が一番与し易いのは?」

「強いスキルを持っているから戦えば手強いが、元々この世界の住人じゃないからな、戦う理由が乏しいんだ。搦め手や懐柔策で回避出来る場合が殆どだ。魔王が女性だったり妹や娘が居ると8割以上の確率で寝返るという統計もある」


 ……それはひどい。

 まぁでも、いきなり拉致されて世界や人々のために戦えとか言われて納得する方が少数派か。



◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆



「ところで、1つお願いがある」

「ん? 何だ?」


 勇者についての話が一段落したところで、彼女に頼みたいことがあったのを思い出した。


「私とテナに闇魔法教えて」


 折角闇魔法が使えそうな相手と友好的に話せるようになったのだから、この機会に教えて貰いたい。私もテナもスキルだけあって知識が皆無なので宝の持ち腐れ状態だったのだ。例えて言うなら、プロ野球選手並みのバッティングが出来るけど野球のルールが分からない、みたいな。

 闇魔法もダンジョンマスターのスキルみたいに何となくで使えればラクだったのだが、そう何でも都合良くはいかないらしい。あるいはダンジョン関連の能力が何となくで使えるのはスキルじゃなくて称号のおかげだったのかも知れない。


「教えられんことはないが、闇魔法は魔族の専用魔法だぞ。

 お前達は一応人族だろう?」


 一応は余計だ。


「大丈夫、スキルはある」

「何? ああ、それも『邪神』に植え付けられたスキルか。

 ならば構わん」


 よし、講師ゲット。

 これで私も魔法少女デビュー、邪神少女テリブルあんり始め……ないから。


 魔法を使う機会は今後もあまり無いと思うけど、いざという時の護身のために覚えておいて損は無いだろう。どちらかと言えば、引き籠もりの私よりも街に出るテナの方が必要性は高いだろうけど。





 なお、3時間後にレオノーラが体育座りで遠い目をするようになってしまったのは私のせいではない。


「テ、テナにも負けた……」

「その、すみません?」

「どんまい」


 弟子は師匠を超えていくものなのだよ。まぁ、勝てるのは魔法だけだけどね。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ