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邪神アベレージ  作者: 北瀬野ゆなき
【前篇~邪之章~】
16/82

16:賠償請求

 突然玉座の間に響き渡った拍手の音に、レオノーラ嬢は弾かれたようにその方向──玉座へと視線を向ける。先程までノーライフキングが座っていた場所には継ぎ接ぎだらけの不気味な人形が置かれていた。


 暇だった私が作った人形だけど。

 テナをモデルに手慰みに作ってみたのだが、どうも裁縫は昔から苦手で思ったように出来なかった。ちょっと反応が見てみたくてテナに見せてみたら本気で泣かれてしまった。自分がモデルの人形があんなだったことがショックだったのか、それとも単に人形が怖かったのかは分からない。

 捨てようとも思ったのだが……と言うか何度か捨てたのだが、いつの間にか戻ってきてしまう。うん、呪われてるみたい。製作時間1時間だったので加護付与してしまったせいだ。


 転移の応用で玉座の上にそっと置いたのだが、正直あの人形にはあまり意味は無い。何やら知らぬところで恨みを買っているようなので彼女と話がしたかったのだが、眼前に出て行くのは怖かったのでダンジョンコアを通して音声受信の応用で声だけ届けることにしたのだ。しかし、そうすると彼女は何処に向かって話せばいいか分からないだろうから、目印兼寄り代として適当な物を置いただけだ。

 話をすると私の存在をバラすことになってしまうが、まぁ最悪の場合でも先程の戦闘を見る限りノーライフキングと同レベルの魔物を複数体用意して投入すれば何とかなる筈。


『何だ、貴様は』

『このダンジョンのダンジョンマスター。

 人形は単なる寄り代だから攻撃しても無駄。

 欲しければ話が終わった後あげる』

『そんな不細工な人形、要るか』


 まぁ、そうだろうな。この呪いの人形、持っていってくれると私としては非常に嬉しかったのだが。あげても戻ってきてしまう可能性も高いのだけれど。


『それにしても、ダンジョンマスターだと?

 先程のノーライフキングがここの主ではなかったのか』

『あれは10階層の中ボス』

『成程、そして不死者の王が従う主人が貴様か。

 あやつめ、魔王にも膝を折らぬと大言壮語を吐いておきながら、結局は狗だったとはな』


 狗、か。彼──彼女だったかも知れないけど──には10階層の守りを任せたがそれ以外については放置状態だったので、主従関係なんてものがあったのか今となっては私にも分からない。


『まぁそれは今はいい。

 それよりも……つまりは私が目的としていた不遜の輩は貴様ということだな』


 ギラリと人形を睨みつけるレオノーラ嬢。ノーライフキングとの死闘で全身ボロボロながら凄みのあるその眼差しに映像越しとは言え私は身震い……しなかった。彼女は人形を通して私を睨み付けているつもりなのだろうけど、ダンジョンコアの映像は人形の視点じゃなくて斜めの視点から表示しているので睨まれている実感が全然しない。


『貴女が何に怒っているのか知りたい』

『フン、知れたこと!

 私は邪神を名乗る愚か者に誅罰を下すために来たのだ』

『邪神……?』

『? 何故そこで不思議そうな反応をする。

 街の者はこのダンジョンには邪神が棲み付いていると噂していたぞ!』


 何だそれは。


『私がダンジョンマスターとして話をしたのは貴女が初めて。

 邪神なんて名乗った覚えは無い』

『何……?』


 仮に名乗る機会があったとしても邪神なんて名乗るつもりは一切ない。それにしてもリーメルの街での噂は気になるな、何故邪神なんて話が広まったのだろう。何かしらの切っ掛けがなければ、そんな噂は立たないと思うのだが。


『貴様が名乗ったのではなかったのか?』

『名乗ってない』

『そ、そうか……』


 ピシャリと否定すると、レオノーラ嬢は冷や汗を掻き始める。途端にそわそわと落ち付かない様子になり、視線は彼方此方を彷徨い出す。


『つまり……思い込みの勘違い?』


 私の指摘に彼女はビクッと反応すると動揺が激しくなる。まるで親に叱られることに怯える幼子のようだ。


『ええと……その……そう思わなくもないことも無きにしも非ずというか……』

『魔力値100万をつぎ込んだノーライフキング』

『ぐっ……それは……』


 嘘は言っていない。1日最大3体まで生み出せるから別に大して気にしていないけど。


『弁償』


 気にはしていないが、彼女の反応が面白いのでちょっと畳み掛けてみる。レオノーラ嬢は私の言葉に苦虫を噛み潰したような顔をして呻く。


『し、仕方ない……償いはするが、何をすればいい』

『代わりに10階層の中ボスやって』

『な!? それは貴様に服従しろということか!?』


 あ、まずい。ちょっと調子に乗り過ぎたか。途端に彼女が顔を赤くして憤りを露わにした。


『一時的な雇用、主従関係は無くていい』

『しかしだな……』


 どうやらレオノーラ嬢は主従というものに強い拘りがあるみたいだ。先程のは冗談半分だったので撤回したいのだが、今更嘘でしたって言ったらそれはそれで怒るだろうな。


『……分かった』


 ん?


『ノーライフキングの代役、務めてやろう』


 げ、本気にされても困るんだけど。


『ただし! 顔も見たことない相手の下で働くつもりはない!

 直接会って私が従っても良いと判断すればの話だ! これは絶対に譲れん!』


 つまり、私と対面したいということか。騙し討ちするための策……ではなさそうだな、彼女そういう小細工は苦手そうだし。まぁ、直接会えば落胆して従う気を無くしてくれるだろう、私レベル1だし。


『分かった。 それなら──』


 今からそちらに行く、と言おうとした私を遮って彼女は決意の表情で宣言する。


『よし、それならすぐに最下層まで到達してやる。

 しばし待っていろ!』


 ちょ、ちょっと……。慌てて止めようとする私を余所に、レオノーラ嬢は玉座の後ろにある通路から先に進んでしまう。彼女、どうも思い込んだら一直線というか微妙に話を聞いてくれない人みたい。

 幾ら彼女が強いとは言っても、現在の最下層である31階層まで到達するまでには少なく見積もっても2日は掛かるだろう。加えて、中層である11階層から20階層は力押しでは通れない謎解きフロアだから詰まると延々と時間が掛かる筈だ。それまでずっと待ってなくちゃいけないのだろうか。

 とは言っても、あの調子だと今更言っても聞いてくれなそうだ。仕方ない、彼女が満足するまで先に進んで貰って、諦めたらここに招待することにしよう。



◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆



 10階層まで1日で到達という快挙を成し遂げたレオノーラ嬢だが、案の定11階層以降はなんとか1日1階層攻略するペースまで落ち込んだ。


 1日目、11階層クイズフロア。

 ランダムに出題される10問の3択問題によって正解の通路を進んでいく階層だ。回答を間違えるとその時点で階層の入り口に強制転移させられて最初からやり直しとなる。


『ああ、折角8問目までいったのに!?』

『残念、振り出しに戻る』

『おのれーーー!!!』



 2日目、12階層動く床フロア。

 矢印付きのパネルに乗るとその方向に自動で運ばれる、飛び越え禁止。何処に乗ると何処に運ばれるかきちんと計算しないと思った方向には進めない。ゲーム画面で俯瞰して見ることが出来るなら少し考えればすぐに正解に辿り着ける程度の仕掛けだけど、自分の目の前に広がっていると結構難しいかも知れない。


『ぐぬぬ、目の前に階段が見えているというのに……っ!』

『急がば回れ』



 3日目、13階層回転床フロア

 至る所に床が回るギミックが設置されている。部屋の形が全て円形で通路が均等に繋がっている為、回転してしまうと向かうべき方向が分からなくなる。ついでに、あまり回り過ぎると……


『……き、きぼちわるい』

『武士の情け、目と耳を塞いでいてあげる』


 あ、私いつだったか武士じゃないって言ったっけ。流石に憐れなのでコップに水を入れて転送してあげる。



 4日目──


『そろそろ諦めない?』

『ふ、ふざけるな。 わ、私はまだいける……』


 そうは言うけど、どう見ても以前と比較して大分覇気がなくなっている。傍目から見ても心が折れ掛かっているのが見て取れた。


 ちなみにレオノーラ嬢は浅い階層のダンジョンを想定していたため殆ど手ぶらで訪れており、当然食糧なんかも1食分くらいしか持っていなかった。お腹を鳴らしながらクイズに挑む彼女の姿に見かねてパンとスープを転送してあげた。1日目は意地を張って食べようとしなかったレオノーラ嬢だが、2日目になると空腹に耐えかねたのか渋々と口に運んでいた。


『だ、大体なんだ! この陰険な仕掛けの山は!』

『脳筋対策』

『誰が脳筋だ! 貴様、最下層に着いたら一発殴るからな!』

『食事送るの止めようかな』

『なぁ!? ひ、兵糧攻めとは卑怯だぞ!』


 兵糧持って来なかった奴が言うな。大体、ダンジョンで1日3食付きなんて他には無い好待遇なんだから、少しは感謝して欲しい。


『ちなみに1つ聞きたいんだが、このダンジョンは一体何階層まであるんだ』


 あ、ようやくそこが気になったのか。正直、最初に聞くべきことだと思うんだけど。ダンジョンの階層が幾つまであるかは攻略のヒントになってしまうのであまり公言したいことではないのだけど、彼女だけならいいか。これまで会話した感触で言い触らしたりするような人物じゃないことは分かってるし。


『31階層』

『さ……っ!?』


 絶句して青褪めるレオノーラ嬢。苦労しながら進んできたにも拘らずまだ半分にも到達していないのだから、当然だろう。とはいえ実のところ、21階層から30階層の下層フロアは階層はあっても未完成なので、現状一番難易度が高いのは今彼女が居る中層フロアだったりするのだけど、敢えて言わない。


『諦める?』

『ぐ……確かにこの調子ではそこまで到達するのが難しいことは認めざるを得んが……。

 最下層まで到達しないと貴様と対面出来んではないか』

『10階層で話した時、私はそこまで出向くつもりだった』

『何だと!?

 だとしたら、私のこの3日間の苦労は……』

『話を聞こうとしなかった貴女の自業自得』


 ぐぅの音も出ないと言った様相で黙り込むレオノーラ嬢。


『分かった。

 悔しいが到達は諦める』


 渋々と言った面持ちで言う彼女に私は内心でホッと胸を撫で下ろした。11階層以降の攻略で大分鬱憤を溜めてたようなので、自力到達されたらボコボコにされそうで密かに戦々恐々としていたのだ。攻略を諦めて招待されたのに殴り掛かる程、彼女は厚顔無恥ではないだろう。

 中ボスやってもらうつもりは最初からないけれど、この3日間で気持ちのいい人物であることは分かったし友好的な関係を築けたら嬉しい。


『了解。 転移陣を用意するのでそれに乗って』


 最初はこの居住区に招待するつもりだったけれど、万が一にも話が拗れて暴れられたりしたら嫌なので別の場所で会うことにする。まぁ、彼女の人柄から無いとは思うけど。

 30階層のボス部屋は部屋だけ創ってまだボスを配備していないので、そこが丁度いい。

 ちなみに、20階層のボスは配備済だ。オリハルコン製のリビングアーマーを召喚してついでに加護付与を行ってみたらちょっと酷い事になってしまった。

 30階層はファンタジー世界おなじみのドラゴンにしてみようと思うのだが、どうせなら一番強そうなのにしてみようと思って魔力をダンジョンコアに溜めている最中だ。

 え? 侵入者を殺さないように非生物限定にしていたんじゃないかって?まぁ、ここまで来るような猛者なら大丈夫だろう。

 ……ん? 非生物の魔物は自我が無いから命令には逆らわないと思って安心してたけど、レオノーラ嬢に倒されたノーライフキングは喋ってたな……はて?



◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆



 30階層に移動すると玉座にちょこんと腰掛ける。中身も服装も威厳なんか無いから、少しでもまともに見られるようにしないと。

 そう言えば、10階層と同じように20階層と30階層のボス部屋にも玉座を創ったけど、よく考えればどちらも人間サイズの玉座に座れるようなボスじゃなかった……無用の長物になってしまった。まぁ、こうして役に立ったからいいか。


 考え事をしていると、ギィっと音を立てて入口の大扉が開く。レオノーラ嬢の転移先はこの部屋の1つ手前の部屋にしておいたので、着いたのだろう。入口に目を向けると紅い甲冑ドレスを纏った銀髪の少女の姿が見えた。

 部屋に入ってくるのを待つが、彼女は中々動こうとしない。もしかして入ってくるように言わないと駄目なのかと思ったが、やがて彼女はゆっくりと部屋に足を踏み入れる。

 見ているこちらが不安になるくらい真っ青な顔をし、顔からは冷や汗がダラダラと流れる様子が見て取れた。彼女の足取りは重く数分掛けて私の座る玉座から10メートルくらいの場所まで来ると、その場に立ち止まってしまった。話し難いからもう少し近付いて欲しいんだけど、まぁ聞こえない距離でもないからいいか。


「はじめまし「申し訳ございませんでした!」……て?」


 いきなり土下座されたし。そう言えば、確か魔眼の説明に魔王が土下座する程度とか書いてあった気がする。魔王の娘にも土下座させてしまう程の恐怖……なのだろうか。


「あの「ご無礼の数々、深くお詫び致します! 私に出来ることであれば何でもします! ですから、どうか……どうか国の者達にはお慈悲を!」」


 何で私が魔族領に攻撃し掛けるみたいになってるのか。そんなことする気は毛頭無いぞ。


「いや、だから「何卒制裁は私だけで収めて頂きたく」……話を聞け」


 話しが進まないのにイラッときて思わず短刀を取り出して投げてしまった。呪いの短刀は彼女の眼前に突き刺さり、レオノーラ嬢は声にならない悲鳴を上げた。


「頭を上げて、立って」

「し、しかし……」

「いいから」


 少し強めに言って強引に立って貰う。レオノーラ嬢は弾かれる様に直立不動の姿勢を取った。


「私は怒ってない」

「え?」

「制裁もする気は無い」

「ほ、本当ですか!」


 本気で安堵した様子のレオノーラ嬢、目に涙を浮かべてすらいる。これまでのことは怒ってないけど、寧ろここでのやり取りの方がイラッとしたよ。


「それで、10階層のボスの話だけど……」

「は、はい! 勿論誠心誠意務めさせて頂きます!」

「しなくていい」

「はい?」


 先日は冗談半分で言ってしまったけれど、実際そんなことをされても困るのだ。魔王の娘を中ボスなんかにした場合、人族と魔族の双方から敵視される恐れがある。10階層の中ボスはノーライフキングをまた作れば良い。と言うより、レオノーラ嬢が11階層に進んだ後、既に新たに生み出して配備済だったりする。不思議なことに最初から私の名前を知ってたけど、何故だろう。


「代わりに頼みたいことがある」

「な、何なりと!」

「私の友人になって欲しい」

「ゆ、友人……?」


 映像越しにだけど彼女と話をした3日間、結構楽しかった。スキルのせいで怯えられてしまっているのは残念だけど、それでも逃げられないだけ仲良くなる余地があると思いたい。

 最悪の場合は直接目を合わせない映像越しであれば普通に会話が出来ることは分かったし、私自身の気持ちとしても魔王の娘と言う彼女の立場を考えても、出来れば彼女とは仲良くしておきたい。


「わ、分かりました!

 友人にならせて頂きます」

「友人だから敬語は要らない」

「分かりま……分かった」


 この世界初めての友人ゲット。

 脅迫はしていない。

 ……していないよね?

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