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邪神アベレージ  作者: 北瀬野ゆなき
【前篇~邪之章~】
15/82

15:ラスボス戦

 戦慄の勇者パーティ襲来からまた数日が経った。

 予想を斜め下に裏切ってくれた彼らの行動は、拍子抜けも相俟って緊張しまくっていた私の心に激しい徒労感を与えてくれた。戦いもせずにダンジョンマスターにダメージを与えるとは……勇者恐るべし。

 もうあの脳筋達は勇者(笑)でいいや。


 しかし、1つ理解出来たこともある。

 元の世界のゲームでダンジョンと言えば謎解きが当たり前だったが、この世界ではそうではないと言うこと。期せずして勇者パーティを追い払ってしまったわけだが、考えてみればこのダンジョンの攻略難易度が上がるのは私にとって安全性向上として歓迎すべきことだ。

 と言うわけで、11階層から20階層までを謎解きやギミックを設置するように改装してみた。

 昔やったロールプレイングゲームのダンジョンの仕掛けを思い出しながら参考にして色々盛り込んでみる。クイズ、動く床、回転床、トロッコ、順番通りに押すスイッチ、わざと落とし穴に落ちないと進めない構造、見えない床、2つの入れ物の水量を均等に調節する仕掛け、決まった順路に進まないと最初に居た部屋に戻される無限回廊。

 うん、ちょっとやり過ぎたかも知れない。まぁ、これでも一応命が掛かっているのだから、自重は要らないだろう。少なくとも、あの勇者パーティはもう一生最下層に到達することは無さそうだ。

 あ、持ち逃げされた石板もちゃんと補充しておいた。


 満足してダンジョンの改装を終えた私の耳にアラームが響き渡る。

 また4階層に到達した者が……って、まさか勇者パーティがもう来たのか? 

 そう思って映像を表示すると、そこには銀色の長い髪をたなびかせた美しい少女が映っていた。甲冑とドレスが合わさったような紅い衣装をまとったその少女は武器も持たずに素手で黒鋼ゴーレムを引き裂いている。


  名 前:レオノーラ=ロマリエル

  種 族:魔族

  性 別:女

  年 齢:16

  職 業:魔導拳士

  レベル:24

  称 号:魔王の後継


「魔王……?」


 勇者に引き続いて今度は魔王!? 呪われてるんじゃないか、このダンジョン。って、よく見ると「魔王」ではなくて「魔王の後継」だった。後継と言うからには娘か何かなのだろうか。


 魔族は初めて見るけれど、物凄い美少女であることを除けば人族と外見上の違いは無い。しかし、その強さは桁が違う。これまでの侵入者でも彼女と同じくらいのレベルの者は何人か居たけど、どう見ても彼女は先日の勇者パーティと同じかそれ以上の強さに見える。

 どうもレベルは種族毎の強さであって、同じレベルでも種族が異なれば強さには差がある様だ。そもそも、たった1人で4階層まで来られる時点で人族のレベル20との間には隔絶した差がある。

 恐ろしい事に物理攻撃が効かない筈のレイスですら素手で消し飛ばしている……って、そんなバカな。

 あ、もしかして魔力を手に纏って攻撃しているとかそういうのだろうか、それなら触れない筈の死霊に触れられることも納得がいく。どっちにしても人間業じゃないけど。


『フッ、こんなものか』


 甲冑ドレスの裾を手ではたいて埃を落としながらひとりごちるレオノーラ嬢。威風堂々としたその仕草は魔王の後継という称号を見て居なければ戦乙女かと見間違えそうだった。


『この分なら邪神を名乗るダンジョンマスターも大したことは無さそうだな。

 すぐに辿り着いて叩きのめし、我ら魔族に喧嘩を売った事を後悔させてやろう』


 はい?

 何か全く心当たりのないことで物凄い敵意を受けている様だ。邪神を名乗る? 私がいつそんなことをした。魔族だって彼女が初めて見た魔族なのに喧嘩なんて売った憶えがあるわけ無い。

 混乱する私を余所に、彼女は5階層へと進む階段を発見し降りて行った。



◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆



 彼女の進撃の勢いは凄まじく、1階層当たり1時間という驚異的なスピードで進んでいる。途中を阻む魔物達も鎧袖一触で、全く足止めになっていない。

 まさかその日の内に10階層まで到達するとは予想もしていなかった。


『フフン、こんな子供騙しの仕掛けでこの私を止められるとでも思ったか』


 どこぞの勇者(笑)と異なり10階層の台座の仕掛けも無事にクリアしてくれた。何だろう、仕掛けを突破されたのに「ありがとう」と言いたくなるこの気持ちは。

 1時間近く悩んでたことは言わぬが花。

 3つの石板を台座に嵌めると、正面の石壁が2つに割れて玉座の間へと進む道が開かれる。


『いよいよご対面か』


 レオノーラ嬢は躊躇することなく玉座の間へと足を踏み入れる。豪奢な赤い絨毯の先、一段高くなったそこには玉座があり不死者の王が鎮座する。


『よくぞ参った、客人よ。

 ここまで辿り着いたのは貴様が初めてだ』

『成程、台座に書かれていた通りのノーライフキングか。

 増長するだけのことはあるようだな』


 玉座の正面に立ちノーライフキングを見据えるレオノーラ嬢に対して、ノーライフキングは鷹揚に話し掛ける。これまで余裕を崩さなかったレオノーラ嬢が初めて緊張しているように見えた。


『いかにも、この身は数多の眷属を束ねし不死者の王。

 たとえ魔族の王族が相手であっても膝を折るつもりは無い』

『どうやら私が何者かは分かっているようだな。

 叩きのめすだけのつもりだったが、気が変わった。

 ダンジョンマスターを辞めて何れ即位する私の配下となるがいい』

『膝を折ることはないと言った、図に乗るな小娘』


 穏やかに話しながらも2人の間の緊張感が高まっていく。


『ならば力尽くで屈服させてやろう!』

『来るがいい、魔王の娘を眷属に加えるのもまた一興!』


 高まり続ける緊張感は2人が同時に放った魔法によって弾け、激しい戦闘が始まった。



◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆



 戦闘は熾烈を極めた。

 ノーライフキングが闇弾を放てばレオノーラ嬢はかわし、レオノーラ嬢が牽制に放った炎はノーライフキングが召喚したゾンビやスケルトンが盾になる。デュラハンやスペクターといった高位のアンデッドも召喚されレオノーラ嬢を囲むが、レオノーラ嬢は臆することなく両手に視認できる程高い密度の魔力を集中し薙ぎ払う。

 戦いはレオノーラ嬢の有利に見えたが、長引く事で徐々にその様子が変わってくる。ノーライフキングや眷属のアンデッドは生者ではないために疲労することはないが、レオノーラ嬢は魔族であっても生者であるため体力には限界がある、長期戦は彼女にとって避けるべきことだった。

 息を切らして集中を欠いた彼女の足首を、斬り飛ばされたデュラハンの手が掴む。予想外の手にレオノーラ嬢はバランスを崩して斜めに倒れ込む。眷属との連携に秀でたノーライフキングがその隙を逃す筈もなく、これまでで最大の闇の塊をレオノーラ嬢に向けて放った。

 体勢の崩れたレオノーラ嬢はかわせずに直撃し、10メートル近く吹き飛ばされて地面に叩き付けられた。


『ぐ……うぅ……』

『ここまでのようだな』


 うつ伏せになり激痛に悶えるレオノーラ嬢に、ノーライフキングは勝利を確信したのかゆっくりと歩み寄る。


『掛かったな!』


 しかし、うつ伏せのまま起き上がらなかったのは演技だったのか、ノーライフキングが間合いに入るとレオノーラ嬢は身を起こしその手に炎を生み出す。


『フン、悪足掻きを……何!?』


 間合いに近付いたとは言え、苦し紛れに放つ魔法など幾らでも対処が出来ただろう。しかし、レオノーラ嬢はその手から放つと見せ掛けた火魔法を敢えて暴発させた。制御を失った炎は彼女自身の右腕に燃え広がる。

 驚愕に固まるノーライフキングに向かって彼女は飛び掛ると、炎に包まれたままの拳を叩き付けた。


『喰らうがいい!』

『ば、ばか……な……』


 予想外の攻撃にノーライフキングは反応出来ず、胸部に直撃を喰らう。骨の砕ける甲高い音がし、加えてレオノーラ嬢の腕に纏われていた炎が彼の身に纏ったローブへと燃え移る。

 ノーライフキングは後ろに倒れるが、乾坤一擲の一撃を放ったレオノーラ嬢も姿勢を維持することが出来ずに前に倒れ込む。彼女はそのまま地面を転がって腕の炎を何とか消すことに成功する。


『づぅ……っ!』


 激痛に上げそうになった悲鳴を噛み殺しながらも彼女は立ち上がった。彼方此方に傷を作り右手に大火傷を負ったその姿は控えめに見てもボロボロと言っていい按配だが、それでも彼女は凛々しく美しかった。

 レオノーラ嬢は倒れたまま炎に包まれて崩れていくノーライフキングの元に歩み寄り、彼を見下ろす。周囲に居たアンデッド達もまた主の敗北により崩れていった。


『まさか余を倒すために自らを焼くとはな。

 狂している娘よ』

『好きでこんな真似をするものか。

 滅ぼさずに屈服させるつもりが、その余裕も無かった。

 私をここまで追い込んだことを誇るがいい、不死者の王よ』

『何処までも傲慢な……まぁ…よいわ。

 …ン…リ…さ……申し……御座……せん』


 ノーライフキングはやがて崩れ去り、王冠だけがその場に落ちたがそれもやがて塵となっていった。


 レオノーラ嬢はそれを黙ってただ見下ろしていた。





 次の瞬間、玉座の間に拍手の音が響き渡った。

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― 新着の感想 ―
自重は要らないだろう > でも非殺傷なんでしょ? 命が掛かっていると解っていて、自重は要らないと思っていて、でも非殺傷なダンジョン? なにそれ?
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