集団自殺の村
文学なのか推理なのかホラーなのか?
書いた自分も良く分からないので、文学にしてしまいました。
ご指摘いただければ変更します。
なぁ聞いてくれよ、高橋!!
そう言って、ミス研の部室に入ってきたのは、友人の伊藤だった。
大学で出会った伊藤とは、推理小説好きから入学翌日にミステリー研究会の部室を訪ねた時からの仲だ。
「俺さ、夏休みにすごいもん見ちまったんだよ!」
こいつの悪い所は、なんでもかんでも怪奇とかミステリーとかに結びつけたがる所だ。
これまでも何回と騒ぎを起こしている。
「あっ、その顔はまただとか思っているんだろ!?
今度は今までとは違う!
本当に怪奇っていうかミステリーっていうか・・・
俺以外にもおかしいって思ったんだって。
その証拠に、この話を怪奇系の雑誌に投稿したら金一封くれたんだぜ?
来月刊行の雑誌にも載るんだ。
これって、プロが認めたってことだろ?」
まぁ、そこまで言うのなら聞いてやらんでもないか。
あれは先月のことなんだ。
俺は友達3人とドライブに出た。
昔、一夜にして集落が消えたっていう伝説が有名な山奥に行ったんだ。
その途中で、山の中腹にある村に通りかかった。
あっ、ちゃんと地図にも載ってる村だからな。
古い家から新しい家まで、それなりにあって、全部の家に小さな畑と大きな倉庫があった。
一家に何台も車が止まっていて、意外に人が多い村なんだって思った。
雑誌に載っていた伝説によると、村から少し行ったところにある小さな山道の先にある神社が消えた村への目印だってあったから、俺達は村人に道を聞こうと車を止めた。
そして、一番近くにあった家に近づいたんだ。
そこでまず気づいた。
村中にグオングオンっていう音が響いていたんだ。
こんな何もないような、山の中の村に不思議な音が響いている。
そこで俺らは少し不気味に感じた。
そして、玄関先から呼びかけても誰もいないみたいだった。
鍵は開いていて、中に入って呼びかけても誰もいなかった。
車は3台あったから、こんな山奥車もなく移動なんて出来ない。
そこで少し怖くなった。
いや、倉庫で家族全員で何かしているんだって一人が言い出して、倉庫を覗いたんだ。
そしたら、そこにはグオングオンって音を立てる機械があって、その横には5本の太いロープが垂れ下がっていた。しかも、ロープの先は人の首と同じくらいの輪が作ってあったんだ。
俺達は怖くなった。
これって、首吊りのひもじゃないのかって。
それで俺達は隣の家に向かった。
そこでも同じような状態だった。
次の家も
その次の家も
全部の家が無人で、すべての倉庫にロープが垂れ下がっていたんだ。ちゃんと輪っかを作って。
俺達は走って車に戻った。
どうしようって思ったよ。
その時、突然グオングオンって見て回った家全部にあった機械が出していた音が止まったんだ。
そして、救急車の音が山中から聞こえてきた。
何台も、何台も。
近くから、遠くから。
俺達は逃げたよ。
車に乗って、来た道を引き返した。
そこでも誰にも擦れ違わなかった。
音がしているのに、救急車とも会わなかった。
「ほら、すごい話だろ?」
それまでの、おどろおどろしい雰囲気が一気に消え、伊藤はキラキラとした目で俺を見てきた。
これは知っている。
犬が飼い主に褒めてもらいたい時の目だ。
俺は呆れてため息が出た。
確か、伊藤は都会の出だったな。
両親の親も、そのまた親も都会で生まれ育ち、地方に親戚もないって前に言っていた。
駐車場がないコンビニしか見たこと無いとか、
家の誰も車を持っていないとか、
地方出身の俺には考えられないようなことを出会った当初言っていた。
だったら、知らないのもしょうがないか。
「伊藤。
お前、それって先月の半ば辺りの事だろう。」
今は10月。
大学の夏休みが明けて二週間がたった。
「そうだよ。
夏休みが終わる前頃が子供たちがいなくなって道がすいているからいいだろうって行ったんだ。」
「だったら話は簡単だ。
それは怪奇現象でもなんでもない。」
おぉ、伊藤の目が面白い程に広がっている。
こういうのを突きたくなるってことは、俺はSの素質があるってことなのか。
「えっえぇ~」
「まず先月、9月の半ばでも台風が来る前あたりだった。違うか?」
先月の半ばには、大型の台風が日本海を通過する、被害が凄いと散々テレビで注意を促していた。
それこそ、沖縄より下にある頃から。
「そうそう。天気が良くて、台風が来る前にって行ったな。」
「お前、日本人として9月に地方を賑わす大イベントがあるが知っているか?」
「えっ?何?そんなの聞いたこともない」
ため息が再び出る。
最近の子供は切り身の魚がどうやって海を泳いでいるか知らないって馬鹿げた話を聞いたことがあるが、それと同じくらいに呆れた話だ。
「稲刈りだよ。
農村にとっては、年に三度ある一族全員がそろう大イベントだ。」
正月、田植え、稲刈り。
農家にとっては忙しい、そして嫁泣かせの日だ。
一年間の主食をタダで確保しようとする近しい親戚たちが集まり、嫁はひたすらに食べ物や飲み物を用意し手伝いをしなくてはならない地獄のような一日、いや親戚を賄おうというのは多分毎週のように稲刈りをやる家だな。それでも、一日で終わるとしても嫁にとっては地獄には変わりない。
「お前が見た、大きな音を立てる機械。それは多分収穫した米を乾燥させる乾燥機だ。
美味い米を食べたいと思っている農家は自前で持っている。
持っていない農家は、農家が多い地方には必ずあるライスセンターに持ち込むが、
そういった所は順番が詰まっているから機械の中で他人の作った米と混ざる。
違う作り方、肥料、品種の米が混ざったものほど不味いものはない。
一般的に売っている米は、さすがに品種はそろえているだろうが大半がこうだ。
特に安い米はな。
そして、順番が決まっているせいで収穫時期が過ぎることも多い。
この米も不味い。
だから、場所と金、米にこだわりを持っている農家を乾燥機を始めとする機械を買う。
お前が見た、首吊りの紐もその機械に関わってくる。
収穫した米は乾燥機で乾燥させた後、
籾摺り機で玄米にし、未熟米と選別し、決められた量ごとに袋に詰める。
最低でも3つの機械が必要だ。
それらを繋いで米を送るのに、大きいサイズで人の頭程の筒を使う。
天井から垂れ下がった紐は、その筒を支えるのに必要なものだ。
機械のせいで振動しているから、ある程度太い紐のほうがいい。
機械の音が消えたのは、ただ単にブレーカーが落ちたんだろう。
それだけの機械を使っているんだ。
少しでも他で電気を使おうもんなら、すぐに落ちる。
次に救急車だが、
村の位置が山の中腹というのなら、その山を下った辺りに田んぼがあるんじゃないのか?
稲刈りってのは重労働だ。
重い物を持つこともある。腰を曲げて稲を切ることもある。
ぎっくり腰なんて、よくあることだ。
しかも天気が良かったのなら、熱中症ってこともあるな。
帰り道に会わなかったのも、他の道があったんじゃないのか?
そして、何台も救急車がってのは山彦だ。
村中の家に人がいなかったってのは、台風のせいだな。
田んぼの水を抜いて米も適度に乾燥している。
天気も晴れが続いていて、田んぼに機械を入れてもいい状態だろう。
そして台風が来たら稲が倒れて大変なことになる。
ましてやテレビで脅しまくっていたし、日本海を通るのなら風も雨も激しいことになる。
家に残っていた車に、軽トラックはあったのか?
そうか、やっぱり無かったか。
山奥の農家が軽トラを持ってないなんて滅多にないことだ。
家族総出で稲刈りに行っていたんだろ。」
長々と説明していたら喉が渇いた。
まぁ、集団で消えたって噂の村を目的に行って、米作りを知らない人間が遭遇したら勘違いするかもな。
思い込みってのもあるだろう。
来年、こいつを家の稲刈りに連れて行くのも良いかもしれないな。
何事も経験だし、
人数は何人いても足りるってことはない。
特に、家は稲刈り機が古くて、収穫した米を自分で軽トラに積み込まなきゃならないからな。
問題は、こいつに30kgの米を持てるのかってことか。
「・・・・じゃ、この金一封・・・どうしよう・・・」
俺だったら別に気にしないような事も伊藤には気になるのか。
迷惑な奴だが、こういう人が良いところがあるから付き合える。
「別に貰っておけばいいだろ。
どんな話を使うのかを決めるのは、あちらの仕事だし判断だ。
あっちだって分かってて載せるのかも知れないし、
農家なんて知らない人間ばかりかも知れない。
そこに、お前は関係ないだろ。」
まぁ、農家の事情なんて知っているのは地方の、やったことのある人間だけだし。
知らなかったってのも有り得るかも知れないな。
「で、俺に何か言うことは?」
「教えて頂きありがとうございます。
このお金で一緒にご飯を食べに行きませんか。
俺、こういうお金持ってたくない」
別に詐欺でもなんでもないのに。
まぁ、一人暮らし金欠の俺には嬉しい誘いだ。
先日、籾摺りを終えた我が家の倉庫を覗いた友人が「集団首吊り自殺」と言い放ちやがったので(笑)
ふと思いついてしまいました。