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  烈風のアヤキ 作者:海乃
一章 ~龍の神子~
『夜営警護』


ツキ・ルベルは商人である

彼女は渡商人としょうにんと呼ばれる部類の商人に入る

一定の場所に居座り続け、そこで生活を営む商人とは違い各地を渡り歩きながら物を売って生活する商人の事を渡商人と呼ぶのである

そして渡商人は町から町へと渡り歩き、他の地域では手に入らないものを買ってそれを別の地域に出向いて売るという形をとっている

手に入らない物をわざわざ遠くに行かなくても手に入れることができるため、町などに定住する人達にとって渡商人はありがたい存在なのである

渡商人はある程度の人数を集めてから町を出る

これは渡商人にとっては当たり前の行為である

人の気配から、つまり町から遠ざかれば遠ざかるほどに多くの魔獣が外をうろついているからだ

渡商人は費用節約のため、共同でお金を出し合って(まぁ要するに割り勘)ギルドを雇う

ギルドは3人以上の人が集まって組むチームのような物である

ギルドといっても決して元の世界のような商工業者の独占的、排他的な同業者組合では無いらしい

ギルドの統括組織のようなものは国ごとにあり、ギルドは国に申請することで依頼を受ける権利を手にする

ギルドもこれまた魔物と同じようにランク付けされており、上からSS S A B C Dとなっている

こちらは見たとおりプラスとマイナスのランク付けがされていない

何故そうなっていないかと言うと、たとえばランクBを基準に考えてみよう

ランクBが受けられる依頼はA、B、C、Dの四つ

自分の居るギルドのランクの一つ上までの参加が認められている

だが代わりに上位のランクをクリアするのはかなり難しい

このランク分けは全部で6段階評価であり、その一つ一つのランクの差が激しい

もしBランクのギルドが同じランクのBを受けたとしても、Bランクの中でも達成内容の難しさに高低が出てしまうのだ

そして理由はもう一つある

それはギルドそのものが上位の依頼を受けたがらないのだ

何故か?それは自分の所属するギルドより上のランクの依頼を受け、依頼を達成した時にもらえる報酬が半額以下となってしまうからだ

ギルドへの依頼は簡単な物から危険の高い物までいろいろと入ってくる

掃除、子守などがある中で、中には人捜し、護衛、農村を荒らす魔獣の討伐なんてものも混ざってくることも少なくはない

故に、Aランクを受けるギルドはほとんど居ない

ランクの付け方が曖昧な中で上位のランクを受ければ、しかもそれが危険度の高い場合だったとき、それは命の保証ができない

無駄な死を減らすためにも上位のランクをできる限り受けられなくする事が大切なのだ

だがもし国を挙げての一大事、それこそ俺が味わったばかりの龍の襲来のような

そういった予想外の突然の事態にも対応できるように一つ上のランクまで受けられるようにしてあるのだ

もちろん受けるか受けないかは自由だが

そしてさすがにギルドだけで生計を立てるには無理がある

他にも多くのギルドがある中で、成功料金だけをもらって生活するにはきつすぎるのだ

ギルドの依頼板には依頼が朝昼夜と3回に分けて張り出される

大体一度に張り出されるのは10ほどである

そんな数少ないギルドへの依頼をすべてのギルドが受けきることはできない

つまり、大抵ギルドをやっている者は他にも職業に就いている者が多いということになる

要するに、それはある種のギルド同士が自然と行う調整のようなものなのである

そしてそんな中でこのギルド『赤銅の器』はツキ・ルベル達商人が割り勘してギルドに依頼した護衛の任務を受けることになったのだ

本来ならこのような渡商人にはギルドが二つほどつき、人数は20は超える

依頼書には依頼する人数とギルド数の限度がかかれている

今回の依頼書には定員数15、ギルド数1という珍しい内容であった

これはツキ達が持つ資産が残り少ないことを指していた

渡商人といえども売れるときと売れないときぐらいはある

集まった商人は皆そのような感じであり、売れ行きに悩みが出ていたのである

売った物は生活費に変わってどんどんと無くなっていく

そこがつきる前に次の町へ行き、物を売らなくてはいけない

売れない町に長くとどまる理由は無いのだ


「と、いうわけだ」

「へー・・・やっぱり仕事って大変なんだなぁ」


彩輝は遠くから来たためにこの辺の事がわからないと言う設定で突き通していろいろと話を聞いていた

おかげでギルドの簡単な仕組みや渡商人という存在も知ることができた


「ってことはやっぱり海産物とかは喜ばれるんですかね?」

「そうだな。海でとれた物は保存食にするか魔術で凍らせて運ぶかのどちらかなんだが冷凍した場合、それを長期間保つために氷の魔術師を雇わないといけないし、それに重くなると持ち運びに時間がかかるからなぁ」


この世界には冷凍したまま物を運ぶことが難しいということになる

これもまた、一儲けのネタの一つになるなぁと彩輝はそっと心にとどめておく

異世界に来てからというもの、もとの世界のいろんな物がありがたく思える

自分で火を起こすことはままならないしな

魔法つかえたら楽なんだけどなぁ〜

俺はそう思いながら歩く

それはもう、ひたすら歩く

歩いているのだ

どれだけ歩いたことか

想像もつかない

万歩計の限度ってどんなもんだっけか?持ってないからわかんねぇけどたぶん結構な数字をたたき出したと思う。持っていたらの話だが

夜が近づき始め、そろそろ何処で夜を明かすのかを皆が考え始めた頃だった






「結局お前はどこから来たんだ?」

「え?えっと・・・たぶん知らないところだと思いますよ?日本って国なんですけどね」

「ふーむ・・・確かに、この大陸には無い名前だな。海を渡ってきたのか」

「ま、まぁそんな感じですかね」


暗闇の中で二人の男が焚き火を挟んで小さな丸太に座っている

残った渡商人は荷馬車の中で、ギルド『赤銅の器』面々は荷馬車に近いところで軽く布をかけて眠っている

ただいま夜

太陽が沈み、どれだけたっただろうか

焚き火にうつされた影が地面に伸び、火が揺れては影も揺れる

二人は小さな乾燥した豆のようなものをぽりぽりと食べる

この世界での保存食のようなものなのだとか

不味くはないがおいしいとも言い難い微妙な味だった


「いつまで起きてる気?二人とも」

「カゥッ!!」

「ごめんなさい。三人だったわね」


にこっと笑いながら荷馬車から降りてきたツキがこちらに歩いてくる

そして自分を抜かすなと言わんばかりの顔で足下にいたソーレが鳴く

ソーレは翼をたたみ、犬のように丸まりながら地面に寝ている


「にしても珍しいよなぁ。龍の子供なんて。何者だよ・・・まさか盗賊とか言うなよな?」

「盗めるような代物じゃないでしょ・・・普通に行ったらだけど・・・」

「親龍が追いかけてくるってこともあり得るかもしれないな」

「あー、たぶんないと思いますよ」

「なんでだ?」


んー、どう説明しようか

親公認と言っても信じてもらえる訳ないし・・・


「まぁ、ね。まぁ事情があるって事で・・・・ね?」

「・・・まぁいい。にしてもいいよなぁ。龍の子はランクBだがそれなりにおとなしいと聞くからなぁ。人気もあるだろうに」


まぁ確かにかわいいと言われればかわいいし、かっこいいと言われればかっこいい

ドラゴン自体珍しいもんな

確かに親の龍の事を考えると盗んでくるなんて事はできないしな


「さーて、俺の見張り時間は終わりだ。ツキ、後頼む」

「はい」


ツキの片手には昼見た薙刀のような武器が握られている

ガッドが立ち上がり、背伸びをしてあくびをしながらふらふらと荷馬車の方へと歩いていった


「おやすみ〜」

「おやすみなさーい」

「お休み」

「あーでも確かに眠いなぁ・・・俺も早く寝たいや・・・次の交代まで1時間か」


二時間交替で一人ずつ1時間ずらしている

先ほどまではガッドさんが二時間、そして1時間後に俺が到着

そして1時間が経過してガッドさんは眠りについた

代わりにツキが夜営警護についた

そして俺が最後に話した言葉で会話がしばらくとぎれてしまう

うら若き男女がこうして夜中に二人っきりっていうのもなんだか気まずいものだ

アヤキはさすがに直視するわけにも行かず、視線をはずして横になるソーレをなでていた


「ツキさん、確かファンダーヌの騎士団にいたんですよね?」


口が勝手に動いてしまった

視線と手は未だにソーレを向いている


「えぇ。騎士団には1年ほどいたわ」

「若くて女子なのによく入れましたね。あ、魔術師ってのも関係してたのか。でもなんでやめたんですか?」


言った後で後悔したのだが聞いて良かった事だったのだろうか?


「えっと、言いたくなかったらいいですけど」

「別にたいしたことじゃ無いわ。気を利かせなくてもいいわよ」

「あ、そっすか」

「嫌になっただけよ。騎士になったのは私が住んでた城下の治安をもっと良くしたいと思ったから。でも、現実はそうもいかなくて・・・で、やめた」

「城下の治安・・・か」

「それから数ヶ月は城下で地域を自主的に警備していた。だけどふと自分の今のあり方を疑問に思って・・・」

「疑問?」

「このままずっと、この地にとどまっていていいのか、ってね。外の世界を、知りたくなった・・・ってことかな?うん、たぶんそんな感じだと思う」

「外の世界?」

「そう。世界は広いのに、そしてもっともっと知るべき事があるんじゃないかなって。それを知れたら、うん、もっと自分は成長できるなって思って」

「それで渡商人を?」

「そ。各地を回る職業は少ないからね。これならいろいろな地域を回れるし、いろんな人たちとも関わりを持てるなぁと思って」


世界が違うだけで、人はこうも違う物なのだろうか


「前向きだねぇ・・・宿題で悩んでる自分が情けないよ」


彩輝は頭を掻いて焚き火の火に瞳を奪われた

音を立てながら燃えるその赤い火の熱が体を暖める

手をかざして暖をとる彩輝に向かいに座るツキはふぅとため息をついて空を見上げた


「この世界にも、星があるんだなぁ・・・」

「この世界?」

「え、あ、いや、何でもないよ」

「ん、そう・・・」

「ただ、星はやっぱりきれいだなぁって思ってさ。俺の家からはここまできれいに星は見えなかったからさ」


こちらの世界にも宇宙が存在するのだろうか?

もしかしてブラックホールに吸い込まれた星とかってこっちの世界に来てたりってことは無いよな・・・・さすがに

いや、そもそも世界ってなんだろうか

世界が違うとは、星が違うのとどう違うのだろうか

自分がいる場所が分からない。だから別の世界に居ると思い込んでいるが、ここが同一世界の別の惑星なのだとしたら

考えてもきりがない

前の星空は、数え切れないほど無数にある

とりあえず宇宙を飛んで地球を探すという案は無しだ。それだけは確実だ


「あーぁ、眠いなぁ。眠気覚ましのブラックコーヒーが欲しいぜ」

「ブラックコーヒー?」

「あー、まぁそうだな。苦い飲み物だと思ってくれれば」

「苦い飲み物ですか・・・。デス茶のような物ですか?」

「なんだその名前からして飲んだら死んでしまいそうな飲み物は?」

「一部の人には人気あるんですよ、デス茶。飲みます?」

「あるの?」

「デスの葉の在庫はまだ残ってたと思います。二人分くらいならあるかと」

「じゃぁもらおうかな」


眠気が飛ばせれれば俺はそれで良かったのだ

そう。目的としてはそれだけだったのだが・・・


「どうぞ」


一番茶が俺の目の前にコトリと置かれる

焚き火で沸かしたお湯を器に注ぐ

なんだか昔の茶器のような器だ

見た目は石をくりぬいたように見えるがたぶんそんな面倒くさいことはしていないと思うのでやはり粘土のような物を焼いたと思われる

うーん・・・そりゃぁ確かに夜だし暗いって言うのもあると俺は思う

しかし、異常だ

器にそそがれたのは漆黒の飲み物

飲んだら即、暗黒面に落ちてしまいそうな気がする

湯気まで黒いのはたぶん錯覚だろう。そうであって欲しい

臭いはたいしたことは無いが見た目がデスだ


「飲めるの?これ?」

「初見ですか?」

「これは流石に見たことが無いなぁ・・・。っていうか見たくなかった。これ飲むのか?俺?死ぬぞ」

「いやですね、死にませんよ」


笑顔なのが怖い

怖いよツキさん


「と、とりあえず頂くぜ。見た目で判断しちゃだめだもんな。うん。先生も言ってた」


人を見かけで判断しちゃだめなんだぞ!

顔はブスでも心は白雪姫かもしれないじゃないか!!

ん?なんか違うって?気にしない気にしない

訂正。見た目は悪くても美味しい可能性はゼロじゃ無いはずだ。てかそうであってくれ!

最後のはもはやお願いだった


「いただきます・・・」


ズズズ


ん?


ズズズズ


んんん?


ゴクゴク


もしかしてそこまで酷くない?

あれ?意外に大丈夫?俺生きてるのか?俺のさっきまでの前振りは?ここはパターン的に思いっきり吹く場面だろうに・・・ん?

あれ?あれあれ?あれれれれ?

あ、やべ、後から効くタイプか

ふっ、油断したぜ



「ガハッ!!ゲホゲホッ、ウォエッ!!!?」


盛大に吹いた

吹いたと言うよりもはや吐いたに近かった

クスクスと笑うツキがデス茶をズズッと軽く啜った


「そこまで思いっきり飲む人は始めてみました」

「ゲホッ、ウーェェェッ、やべぇ、ゲホッ、死ねる。余裕だ、イチコロだ、喉が死んだ」


水ー!と叫ぶ俺に水が満たされた器が手渡される

その水を一心不乱に飲む俺を見てツキがニヤニヤと笑っている


「ゲホッ・・・あー酷い目にあった、喉がもうだめだ。暗黒面に落ちた」


喉の奥に違和感が残る

前にティリアさんにもらったフルーナのお茶より20倍ぐらい苦かった

後から来るって先に言ってくれよぉ・・・

本気でやばかった

マジでやばかった

ソーレが心配そうにこちらを見上げている

やめろ、そんな某CMのワンちゃんみたいな瞳で俺をみるなぁ〜!!


「どうぞ。喉の苦みがとれますよ」


そういってツキが渡してくれたのはフルーナのお茶


「またこれか・・・」

「消化を助けるだけじゃなくて口の中の苦みを和らげるんですよ」

「なんというか、あれだろ。とてつもない苦みで感覚麻痺した舌で苦い物を飲んでもそれほどまでに苦みを感じないみたいな感じだろう。あれだ、前に食べた高レベルよりもレベルが低いときの原理みたいな」


後半はもはや自分で言っておいて何を言っているか彩貴にすらわからなくなっていた

どうやら舌だけでなく脳まで麻痺しかかっているとみた


「カウガーッ!」

「んへ?どしたソーレ?」


突如ソーレがバタバタと飛び起きて羽ばたいて俺の肩に止まった

まだあの大きなドラゴンのような咆吼は出せなく、なんというか逆にかわいい気がするその鳴き声が夜闇に響き渡る


「お、おい、静かにしないとみんな起きちまうぞ」

「いや、起こした方がいいと思う。すぐに」

「え?」


ツキは武器をとり、立ち上がる

それと同時に魔法陣が地面に広がった

ツキは置いてあるコップすべてを手に取り周囲にぶちまける


「足りるかな・・・。優麗たる、白銀の、音色。ディフュージョントーン」


その音色は、周囲に居るものたちすべてに向けて放たれた






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