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  烈風のアヤキ 作者:海乃
間章 ~鳥と狼~
『生と死の化身』


「な、なんだこれはっ!?」


ガルトニール軍総司令官であるレイグウッドはトトルの手綱を握りながら、目の前で燃えさかる炎の壁の前で足止めを喰らう

突如目の前に炎の壁ができ、それらは大きな円を描いて自分たちを炎の中へと閉じこめていた

炎の円はいくつもあり、それぞれに軍が分断されてしまっていた

まず最も外側の炎の壁が軍を二つに分断し、また炎の内側には何重にも炎の壁が生まれており、縦に伸びていたガルトニール軍は完全にその数を活かすことができなくなっていた


「わ、分かりませんがレイグウッド総司令官!前方より膨大な魔力を感じます!」


魔術師の一人がそう叫んだ

前方、それは今まさに駆け上ろうとした丘の方角であった


「まっ、魔術は使えないのでは無かったのか!?」


普通に考えればもはやこの戦場は殆どのマナが消費されており、これほど大規模な魔術は発動できないはずである

しかし、今この戦場には火のマナが満ちあふれている

一体このマナはどこから来たのか?そしてこれほど大規模な術式を一体誰がどうやって行使したのか

この規模の魔術を使おうとすれば優秀な炎の魔術師が100名近くは必要である

しかし、その人影はどこにも見あたらず、ましてやそれほどの魔術を使いながら何故未だにマナが戦場に満ちあふれているのか

それほどまでに大量のマナがこの戦場を満たしているというのか


「分かりませんが・・・とにかくこのままでは危険です!」

「ぐ・・・だがこの状況でどうしろというのだ!?」

「この場に留まっても良いことは無いでしょう。ですからあの炎を突破する必要があります。しかし、炎や熱が苦手なトトルが火に向かって走ってくれるかどうか・・・」

「トトルなどこの場に捨てて降りればいい!全員トトルを捨て後方の炎へとつっこめ!後ろの炎の勢いの方が薄い!」

「トトルを捨てれば今後のロルワート侵略の作戦に支障がでます・・・が、命あってのものですね。しかたありません・・・か」


そう呟いて魔術師の一人がトトルから飛び降りた

それに続いて他の騎士や魔術師もトトルから降りて後方の炎を見つめた

燃えさかる炎の高さは身長よりも高く、またその火力は見ただけで後ずさるほどの熱を放出して騎士達を怖じ気づかせる


「う、うおおおおお!」


しかしそこで騎士の一人が意を決して炎へ向かって飛び込んだ

炎の勢いは衰えることを知らないかのように勢いよく燃えさかり、向こう側の様子は分からない程である

ただ、その向こう側からは先ほど飛び込んだ騎士の叫び声だけが聞こえてきた

苦痛に悶える、我を忘れた叫び声だ

その声がより一層に騎士達を怖じ気づかせる


「お、おい!?大丈夫か!?」


レイグウッドが炎に飛びこんだ男に向かって声を掛けるが、返事は無い

叫び声がやがて消え、全員が沈黙した

そこへ、背後から炎を突き抜けて男が一人飛び込んできた

ガルトニール軍の鎧を着けているその騎士の全身は炎に包まれていた


「うああああああ!!あついいいい!!」

「うわあ!?」


自分たちよりも少し前を走っていた騎士が外へと向かって脱出を試みた、というところだろうか

その炎は異質だった

鎧が燃えている

体中が燃えている

たった一瞬炎に触れただけで、全てが燃えている

その男の炎を消そうと一人の騎士が駆け寄ってトトルに積まれていた布で叩いて消そうと試みる

しかし、その炎に布が触れた瞬間、一瞬でその男へと炎が伝い、叫び声が二重となる

普通の炎とは違うようにこの場に居た誰もが感じ取った


「だ、駄目です!」


咄嗟に先ほどの魔術師が叫んだ


「この炎は触れただけで伝染します!炎のマナが地面と空気以外の物に触れた瞬間、マナが伝わって燃えるみたいです!」

「バカな!?そんな魔術、き、きいたことも見たことも無いぞ!?」


魔術師はそこで顔をうつむかせて


「しかし・・・私にはそう・・・見えました」


そう伝えた

マナを黙視できない司令官は歯ぎしりする


「こんな・・・物質へ潜り込んで破壊するマナ見たことありません・・・」

「で、ではどうしろというのだ!?ここで俺に死ねとお前は言うのかぁ!?」


崩れ落ちた魔術師の襟首を掴んで持ち上げるレイグウッド

その目に映ったのは男の涙と、そしてその背後に映る炎の壁


「私には、わかりません・・・総司令官ッ・・・!!」

「くっ・・・!!」


その魔術師を地面へと叩きつけ、歯ぎしりするレイグウッド


「こんな、こんなところで死んでたまるか!俺は・・・俺はこんなところで死んで良い人間じゃないんだ!そうだろう!!俺はもっと、もっと、こんな、こんなはずじゃ・・・あ、ああぁぁ・・・誰か・・・誰か俺を助けろっ!!」


その哀れな総司令官の姿を見た騎士達は―――彼を見限った

なぜ自分たちはこの司令官の下で働いているのだと

騎士の一人は思わず口にしてしまった


「貴方は、私たちの上に立つ人間じゃ無かったんだ。私たちより下の、人間だった・・・」


そう、誰もかが思わざるを得なかった

この場にいた騎士と魔術師はその司令官を見限ったのだ

幻滅した、と


「き、きさまぁあああああ!!」


レイグウッドがそう呟いた騎士に向かって剣を振り上げた瞬間―――炎が全てを塗りつぶした



深紅に染まる炎は外側の円から順に塗りつぶされていく

命が果て、燃え尽きる

骨は、肉は、皮膚は、内臓は、心は、全て灰となって中央へと渦を巻く。燃えさかる炎の熱気に巻き上げられるように灰は竜巻を作る

炎で赤く染められた灰の竜巻は摩擦で雷が起こり、周囲にその音をとどろかせる

まるでその竜巻は竜のように鳴き、竜のようにうねりながら天へと舞い上がる

その光景はまるでここが普段小鳥がさえずり、小動物が草を囓る穏やかな日常を脳裏から吹き飛ばすかのような勢いでこの場にいた全員の脳裏に焼き付けた

その巨大な竜巻に、影が映り込む

巨大な影だ

それは大きく左右に翼のような物を広げ、自身を包み込む竜巻を一気に吹き飛ばした

それは確かに鳥であった

巨大で、まるでその炎を羽毛にしたかのような色をした鳥だ

長い尾羽、チリチリと空気を焦がす翼、鋭い眼光が眼下の人間達を見下ろした

死と生の狭間から、それは見下ろしていた





「―――ッ!!」


咄嗟に目を背けた

一瞬で、目の前にあった命がこの世界から消えたのを感じた早苗は背けた目を閉じてこれが夢であることを願った

戦争を指揮する立場になったとはいえ、命を奪う事には躊躇いを無くし、悲しみを失う事は無かった


「なんで・・・」


鎖が全て吹き飛び、空中に消えていく

魔術か何かで捉えられていたそれは大きく火の粉をまき散らしながら高らかに叫んだ



「こいつは・・・でけぇな・・・」


その巨大な火の鳥の大きさに、見上げながらそう声を漏らした男の表情を見て早苗は理解に苦しんだ

何故、笑えるのかと

そして神原はその巨大な火の鳥を見て、早苗の姿を被らせた

先ほどの、炎の翼を纏ったかのような彼女の姿を思い出させるその火の鳥を見上げる

何か、関係があるのだろうか・・・?

そこまで考えいや、勘違いだろうと神原は痛みを堪えながら早苗へと視線を移す

関係あるわけが無い。あるわけが無いんだ



『我を起こしたのは誰だ?』

「俺だ!!」


四人の脳内に響くその言葉は恐らく頭上の巨大な火の鳥が問いかけたものだろう

その問いかけに、間髪入れずに男は火の鳥に向かって叫んだ

その光景を早苗、神原、そして男の妹であろうニェカもが黙ってその光景を見つめていた

ただ黙って、見つめるしかできなかった


『我は不死鳥。生と死を司る神獣にしてこの地を治める者。何を望み我の封印を解いた?』

「見返りを望んで」

『見返りか・・・。良いだろう。我に再び空を見せてくれたお前に一つだけ、我ができる事をしてやろう』


ラインドールはニヤリと笑った

まるで目論み通りという文字が顔に出ているかのようだと早苗と神原は思った


「なら、俺の使い魔となれ!!」

「な・・・!?」

「使い魔!?」


その言葉は二人が住んでいた世界でも耳にしたことがある言葉だった

日々の生活において使われる事は少なかったが、それでも漫画やアニメや小説などで見聞きした覚えが二人にはあった

そしてこの世界に置いて、二人の耳にこの世界の言語が日本語になって聞こえている以上何らかの翻訳をされている事は明らかである

もし、此方の解釈と同様の翻訳をされているならば、その言葉はアニメや小説などと同じ意味で扱われる事になるだろう

ならばこの男が言っている事はつまり、この巨大な火の鳥を手下にしようと言う事なのか


『それはできない』


しかし、火の鳥はそれをできないと拒否した

男は小さく舌打ちし、「何故だ!?」と叫んだ


『我は支配することを望まず、また支配されることを望まない。何故なら私は過去に支配され、そしてその支配者に封印されたからだ。故に我は自由を望む。自由を失い、その自由を取り戻せたことには感謝しよう。しかしお前の使い魔となるという事は、お前に支配される事になるからだ。支配に関わる願いは叶えられない』

「・・・そうか。ならもう一つの方を選ぶとするか」


あらかじめ二つの考えがあったのだろうか

この不死鳥を使い魔にする。その願いは叶えられなかった

叶えて貰っても困る願いだったが、それはもう一つの方も大差ないだろうと早苗は予想した


「お前の魔力を俺によこせ」

「そんな!そんな事をして体が持つわけ無いだろう!!」


早苗は思わず叫んだ

僅かではあるが、魔力や魔術については戦争に関わってくる事として勉強した早苗はその無謀な願いに叫ばずにはいられなかった

生身の人間が耐えられる事ではない

その不死鳥が纏っている魔力がどれほどのものなのか、それが早苗には分かったのである


『それもできない』

「・・・」

『何故ならこの力は人であるお前が扱うことができないからだ。魔力であり、魔力ではない。我の力の源は生であり死である。生が死となり、死が生となる瞬間に生まれる莫大な力こそが我の力の源。ならば生の力だけで動く人はその生と死の入れ替わりに耐えきれない。我の力を扱えるのはそこの我が神子のみだ』


そう呟いて小さな火の粉がポッと早苗の目の前で灯った

その灯火はゆらりとゆれ、そして座り込んでいた早苗の両手に収まった

暖かな炎、冷たい炎とが一瞬ごとに入れ替わりで現れる不思議な炎だった


「神子・・・?なんだそれは・・・」

「神子?え?私?私が神子?え?神子って何?」


早苗を見下すラインドール、そして突然不死鳥の神子だと言われて戸惑いを隠せない早苗


『この地で生まれ、そして散っていった瞬間に生まれるその力はこの大地へと返される。お前がその鍵である。そしてそれこそが本来の我の役目』

「私が・・・?」

『この地も緑豊かな森となろう。豊かな川が流れ、生命で溢れ、死で溢れる大地となろう。その当たり前の自然の為に、お前が我の初めての神子となったのだ』


不死鳥が一体何を言っているのか、早苗には全く理解できていなかった

しかし、自分が何らかの責務を負っている事だけは感じ取れた

そしてその事に、男が苛立っている事も感じ取った


「ふぅん。ま、言うこと聞かないなら仕方ないな。それ以外に特に願いなんて無かったし」

『我の肉体の為にお前は多くの生が死となる力をを生け贄に、そして我の肉体の復活を促した。扉の封印が砕かれた事で我はこの世界に舞い戻った。冥界の扉を開く鍵、一体何処で手に入れた?』

「ん?あぁ、種火の事か。扉ってのは閉めたときの鍵が無いと開かないっていうからな。ならあの種火はお前を閉じこめた奴が使ってたものなのか?」

『・・・そんなものがまだ残っていたとはな。何処で手に入れた?』

「さぁね。変な男がくれたのさ」

『誰だ』

「知らない男さ。通りすがりのただの男。ついでにこれもくれた」


ラインドールは懐から何かを取り出した

それは氷の入った瓶だった

氷は瓶の中でカラリと音を立てて不死鳥の放つ炎の色に染まる


『それは・・・』

「おや、これが何かご存じで?」

『あぁ、知っている。一度だけその氷を見たことがある』

「ほうほう。じゃぁあの男の言う事は案外本当なのかもな。さっきの種火の話だって本当だったし」

『なるほど。それで我を殺す気か』

「ご名答。抵抗されたときの保険って事でね。でもまぁ、ねぇ・・・なるほどねぇ。それでお前を殺すという表現になるのか。生は死。死は生。なるほど。死ぬことが無い不死鳥にとってはこれが死ぬことに値する訳か」

『やってみろ。人間風情が、そのような欠片で我を殺せるかどうか、試してみるが良い』


不死鳥は全員の脳内にそう言い残して巨大な翼を広げた

火の粉が舞い散り、その巨大な尾羽を棚引かせて不死鳥は上空へと舞い上がった

と同時に重く熱い空気が4人の体を吹き飛ばした

真っ先に体勢を立て直したのはラインドールであった

そのラインドールの横をニェカが転がっていく

突き刺した剣を抜き、そして丘の上空へと舞い上がった火の鳥を見上げてラインドールはニヤリと笑う

そんな男とは反対方向に飛ばされた神原と早苗はというと、こちらもやはり神子化して疲労する早苗と足を怪我している神原もごろごろと丘を転がった

人が転がるほど急激な斜面では無かったがあまりの風力に三人はなすすべもなく、急激に丘の中心から離れてしまう

その風は瞬く間に丘を駆け抜け、全ての炎を消し去ってしまう

それまでそこにいた筈の人影が、一つも無くなっている

文字通り、跡形もなく


「さぁ、盛り上がりはここからだぜ!」


男はそう言って小瓶の蓋を開けて中の氷の欠片を取り出した



毎度のように遅くなって楽しみにしている方々には何と言っていいやら・・・


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