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13.待ち望んだ始まり
「蘭姉ちゃん。大丈夫?」
「…あ、コナン、君……。」

俺と博士は、蘭が入院している杯戸中央病院へとやって来た。
蘭は思ったより顔色も良く、怪我も無いようだった。

「随分心配したんだよ?どこか具合の悪いとこはない?」
「うん。大丈夫だよ。心配掛けてごめんね。」

来てくれてありがとうとニコニコしている蘭。
しかし、俺はその笑顔に違和感を感じた。……何だ?

「……蘭姉ちゃん、何も覚えてないんだって?」
「…うん。何か…何か重要なことがあったような気がするんだけど…。」

思い出そうとすれば頭痛がして、記憶を取り戻すのを邪魔するらしい。
今も記憶を手繰り寄せているようだが、やはり頭痛がするのか、若干顔をしかめている。

やっぱり、蘭を当てには出来ないか…。

そんなことを考えていると、ジーっと蘭の視線を感じた。

「どうしたの?」
「あ、ごめんね。よく分からないけど、コナン君のことが気になって…。」
「僕のこと?」
「うん、変だよね。ごめんね。気にしないで。」
「?…うん。」

…誘拐されている間に何があったんだ?
俺のことが気になるってことは、俺自身に関することで何かあったっていうことか?
だから記憶が無いと言っても、無意識のうちに反応してるのか…?



「ねぇ、博士。哀ちゃんは一緒じゃないの?」

突然蘭が灰原の話題を振り、油断していた博士は面白いくらいに慌てふためいた。

「いやー、そのー、あ、哀君は…。」

博士はチラチラ俺の方へ視線を送り、助けを求めている。
…慌て過ぎだろ、博士。

「灰原なら、ちょっと風邪をこじらせちゃって、家で休んでるんだよ。」

ったく、ホント博士は嘘がつけねーな。でもこればっかりは怪しまれちゃダメだろーが。

「そう…なの。じゃあ仕方ないね。…哀ちゃんに会いたかったんだけど。」
「灰原に何か用事?」
「ううん。そんなんじゃないんだけど、何だか顔が見たくなっちゃってね。」

やっぱり私、何か変だよねーと苦笑する蘭。

……もしかして蘭のヤツ……。

「私は大丈夫だから、早く哀ちゃんの所に帰ってあげて。風邪なら一人ぼっちは心細いよ。」
「…うん。じゃあ、蘭姉ちゃんもゆっくり休んでね。」
「ありがとう。哀ちゃんにお大事にって言っといてね。」

また来るね、と言って病室を出た。
駐車場までのちょっとした距離を、博士と二人で歩きながら自分の考えをまとめる。

「新一?どうしたんじゃ?」
「…。」
「新一?」
「…やっぱりそうなのか……?」

いや、絶対にそうだ。
疑惑が確信に変わった。

蘭は灰原と顔を合わせたんだ。
だから蘭は灰原のことも気にしている。
蘭が言う「重要なこと」とは恐らく、俺達の正体に関してのことだろう。
どんな遣り取りがあったのかは分からないが、俺達の正体を知らされた蘭が、ショックのあまり記憶を失った―――――そんなとこだろう。

「それにしてもいいのかね?色々聞きたいことがあったんじゃないのか?」
「…ああ。今の蘭には何も聞けないし、記憶が戻ったら戻ったで、かなり厄介なことになりそうだからな…。」

とにかく、次の作戦を早急に立てなければならない。
蘭が無事に返されたことを思うと、灰原もとりあえずは無事なのだろう。
しかし、のんびりしている時間はない。
灰原の身が危険だということは、何ら変わりが無いのだ。


とっておきの切り札からは、未だ連絡は―――――ない。


「とりあえず戻ろうぜ。」

博士の家へ向かう車の中で、これからしなくてはならない行動を、一つ一つ頭の中で整理していった。






「あーっ、帰って来た。コナン君!博士!」

博士の家の前には、コナンとして馴染みの3人。

「元太、光彦、歩美ちゃん…。オメーらどうしたんだ?」
「どうした、じゃねーよ。今日は午後から博士んちで遊ぶ約束だったじゃねーか。」
「もしかしてコナン君?忘れていたんですか?」
「あ、いや…、ハハ…。」

すっかり忘れてた。
そういや昨日の学校帰り、そんな話をしてたっけ。

「博士の家に来てみたら誰もいないみたいだし、コナン君ちに今から行こうって思ってたところだよ。…そういえば哀ちゃんは?」
「…灰原、風邪こじらせちゃって。わりーけど、遊ぶのは無理だな。」
「え!灰原さん、病気ですか?それじゃあお見舞いしないと。」
「あー、無理だな。相当しんどそうだし、うつるといけないからそっとしといてやってくれ。」

まさかこいつらに、灰原が居ないことを言うわけにはいかない。
来週からの学校も、風邪を理由に休みにしとけば、取り合えずは問題ないだろう。

「…そんなに悪いの?哀ちゃん。」

歩美が本当に心配そうにしている。
歩美だけじゃない。光彦も、元太も、心から灰原を心配している。


―――良かったな、灰原。オメーはちゃんと必要とされてるんだ。


「…コナン君?」

歩美の瞳には涙がじわじわと滲んでいる。
そう、こいつらの為にも、絶対に灰原を連れ戻さなければならないんだ。

「……ありがとな。」
「え?」
「灰原を大事に思ってくれて、本当にありがとな。」


なぁ、灰原。
お前の帰ってくる場所は、やっぱりここしかねーよ。
みんながお前を待ってるんだ。
―――早く帰ってこい。


ギャアギャア騒ぐ探偵団の3人をどうにか宥めて、ようやく家の中へと入ることが出来た(騒がないから哀ちゃんの顔を見たい、と散々ごねていたが。てか、もう騒いでんじゃねーか)。
博士は気疲れしたのか、少し休む、と寝室へ籠ってしまった。


―――ブルルッ


誰も居ない静かなリビングで一人コーヒーを飲んでいると、マナーモードにしていた携帯のバイブレーションが鳴った。
そこには、待ち望んでいた人からの1通のメール。

「…フッ、了解。」

ピッとボタンを押してメールを閉じる。そしてすぐさまアドレス帳を呼び出した。



―――――さぁ、ここからが俺達の逆転勝利へのスタートだ―――――



「行動開始、だ。」


ずっと追い続けてきた黒の組織との直接対決の為、俺はある所へ電話を掛けた。



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