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12.揺れる心
ワケが分からなかった。

私より数歩前に立っている、長い髪で長身の男の人が言い放った言葉。


―――お前と工藤新一を引き離したのはシェリーだ。

―――シェリーはお前達の言う、灰原哀の本当の姿だ。

―――江戸川コナンは工藤新一だ。


「……。」

つまり、今私と向かい合わせに立っていて、女の私でも見惚れそうなプロポーションと容姿を持った綺麗な女の人が、「シェリー」という人物で。

その「シェリー」は、「灰原哀」ちゃんで。

「灰原哀」ちゃんが、実は私と新一を引き離した人物で。

…そして、「江戸川コナン」君が「工藤新一」……。


「…っ!そんなの嘘よっ!!」

そんなことあるはずがない。
そりゃ、何度かコナン君が新一ではないかって疑ったことはあったけど、どう考えてもコナン君と哀ちゃんは小学生にしか見えなくて。
コナン君と新一が、学園祭の時には同時に存在していたんだし。
第一、人間の身体が縮んでしまうなんて考えられないし。

…それにそれに、哀ちゃんが不幸の元凶だなんて、絶対にあり得ないし。


「嘘かどうかは、そこのシェリーに直接聞いてみるんだな。」


長髪の男は可笑しそうに口元を歪めて、シェリーと言われる人を見つめていた。
シェリーさんはずっと俯いたままで、両手を握りしめながら何かに耐えているように見えた。

「…シェリー、さん。今その人が言ったことは全部ウソですよね?貴女は…灰原哀ちゃんじゃないよね?」

シェリーさんの肩がビクッと震えたのが分かった。でも、全く視線を合わせようとはしてくれない。

「ねえ、何か言ってよ…。」

嘘だと信じたい。
全てはこの男の戯言だと。とんだデマだと。
でも、シェリーさんの怯えるような仕草が、全てを肯定しているようだった。

「貴女は、哀ちゃんなの?」

ゆっくりと、シェリーさんが私に瞳を合わせてくる。
雪のような真っ白い肌に、赤みがかった茶髪。大きなくるみ型の綺麗な瞳は、吸い込まれそうなほど深い深い翡翠の色。

身体の大きさ以外は、本当に哀ちゃんそっくりだった。


「……ジンが言った通りよ。私は灰原哀。私が作った薬を工藤君が飲まされ、その結果工藤君は幼児化し、江戸川コナンとなった。」

さっきまで怯えていた様子はどこへやら、淡々と事実を述べているその姿に、一切の感情は見えてこない。


「私が、貴女方を引き離した張本人よ。」


そこにいるのは、私が知っている灰原哀ちゃんじゃなくて、何も知らない大人の女性だった。




「どうしてっ!何で貴女が…っ!!」
「申し訳ないけれど、これ以上私から話すわけにはいかないわ。ここまで巻き込んでしまったのに随分勝手で悪いけれど、もう、私達に関わらない方がいいわ。貴女が知る必要のない世界だもの。」

本当に勝手だ。
私達の日常を奪っておいて、巻き込んでおいて、関わるなと言ってくる。

「新一はっ!?新一が関わっているのに、じっとなんかしてられない!」
「…工藤君なら大丈夫よ。近いうちに必ず貴女の元へ返すわ。とにかく、見たこと、聞いたこと全て忘れなさい。でないと、貴女の命は保障できないわ。」

私のことはいくら恨んでくれても構わないから…と小さな声で囁く哀ちゃん…いや、シェリー。



なんで貴女がそんなに悲しそうなの?
貴女のせいでこんなことに巻き込まれたんでしょ?
辛いのは貴女なんかじゃない…っ。



「悪いが、お前の命はここでお終いだ。」


ジンと呼ばれた人が、私に向かって拳銃を向けていた。
後ろで私を拘束していた男の人も、ニヤニヤしながら拳銃を突きつけている。

「ジンッ!!やめて!!!」

シェリーが必死な形相で私と拳銃の間に入り込む。

「どけ。秘密を知ったからには、生かしてはおけんだろう。」
「蘭さんは組織のことについては何も知らないわ。殺す必要なんかないじゃない。」
「…甘いな、シェリー。俺達の顔を知られただけで十分な理由じゃねーか。」
「ジン!!」


バンッと乾いた音が響いた。

恐る恐る瞳を開けると、シェリーが右肩を真っ赤に染めて、その場に蹲っているのが見えた。

「次はないぞ、シェリー。…そこをどけ。」


…なんで?
なんで貴女が私を庇うの?
貴女はこの人達の仲間なんでしょ?
なんで貴女が傷つくのよ―――――哀ちゃんっっ!!


「相変わらず強情な奴だな。まぁいい。……ウォッカ!!」
「ヘイ。待ってやしたぜ。」

後ろの男が、嬉しそうに私に向かって引き金を引こうとしている。
ここまでなのね…と諦めかけたその時。


「待って!!」


哀ちゃん…シェリーが突然立ち上がり、ジンに向かって思い切り睨みつけていた。

「蘭さんの記憶が無くなればいいのね?」
「…そんなことが可能なのか?」
「ジンこそ忘れたわけじゃないでしょ?私は組織も認めた天才化学者よ。」

シェリーが地面に落したバッグを取り、中から何かを取り出した。

「それは?」
「私が密かに研究開発した薬よ。これを飲めば数日間の記憶が無くなるわ。下手に殺して大騒ぎにさせるより、記憶を無くさせて帰した方が、より安全だと思うけど。」
「…記憶の操作か。何故これを?」
「………ちょっと思うところがあったのよ。」

そう言うと、シェリーはゆっくり近づいてきた。右肩の血はまだ幾分流れてはいるが、そんなことは気にも留めていないようだった。

「いいわね?ジン。」
「…フン。お前の好きにするがいいさ。」

後ろから「兄貴、ホントに良いんですかい?」という声が聞こえてきたが、それを全く無視したシェリーは、私に一粒の白い錠剤を見せた。

市販の風邪薬と、一見何も変わらない。

「…蘭さん。今回は貴女を巻き込んでしまって本当にごめんなさい。貴女に何を言われようとも、私には何も弁解することが無いわ。」

綺麗な瞳で私を見つめる視線は、どこか優しさを湛えた、私がよく知っている哀ちゃんのそれと同じだった。

「工藤君にね、貴女は絶対に無事に返すと約束してきたの。だから今だけでいい。私を信用して貰えないかしら?」
「…貴女、は…?」
「私のことなら心配いらないわ。貴女は自分のことだけ心配してればいいの。これを飲めば数日間の記憶が失われる…。人としての倫理に反するかもしれないけれど、貴女を助けるにはこれしかないわ。…大丈夫。身体そのものには何の影響もないはずよ。」
「…。」
「これを飲んで、早くお家に帰りなさい。ここは貴女の居場所じゃないわ。」

口を開けてと言われても、少し躊躇う。
確かにこれを飲まなければ殺されてしまうかもしれない。
でも、この人を置いていって本当にいいの?

「蘭さん。戻ったら博士達のことよろしくね。あの人達、無茶ばっかりするから…。」
「…哀…ちゃん…。」
「今だから言うけど、貴女、私の姉にどことなく似ていたわ。…姉はもういないけれど、どうか貴女は生きて…。」

うっすらと涙に滲む翡翠の瞳。
私はこの人に従うしかなかった。






そして飲まされた一粒の薬。






気がついた時、そこは病院のベッドの上だった。

やっと蘭ちゃん発見までの話が繋がりました。
あー、疲れた…。

えっと、この前話の11話なんですが、かなり気に入らないので書き直すかもしれないです。
内容は変わらないと思いますが…。
ただし予定は未定。やっぱり無責任でスミマセン^^;


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