11.嫉妬と正体
歩き始めて数十分。ようやく目的の施設が見えてきた。
ここは子供の頃に何度か訪れたことのある研究所。私が関わった施設は全て焼かれてしまったと思っていたから、こうして残されているなんて少しばかり驚いた。
まぁ関わったと言っても、ここで私が研究をしていた訳ではないし、単に後学の為の見学のようなものだったから、証拠隠滅する必要はなかったのかもしれない。
表向きは民間の化学研究所。数年前に倒産という形でその活動は停止していた。
しかしその実、組織の施設として地下活動は行われていた。
住宅地からは随分と離れた所にあり、誰もその実態に気がつかない。
「まさか、こんな形で戻って来ることになるなんてね…。」
5階建ての古ぼけたビル。表からは人気も何も感じられない(まぁ、真夜中ということもあるだろうが)。
どこに行けばいいのかしら…なんて考えながら、ビルの周囲を歩いてみる。
不思議と、恐怖心は無くなっていた。それどころか、ぼんやりと懐かしささえ感じている。
―――やっぱり、黒は所詮、黒にしかなれないんだわ。
口元に自嘲した笑みが浮かぶ。灰原哀としての生活は、やはり私にとっては異常であったのだ。
幸せだと思っていた毎日は、幻。
犯罪者には似合わないあの光り輝く温かい日々は、もう二度とは戻ってこない―――。
「!!」
突然、あの突き刺さるようなプレッシャーを背に感じた。
この重苦しい、どんな思考も止められてしまうような冷徹な視線。
間違いない。
この気配は、
すぐに息さえも止められてしまいそうな殺気の持ち主は―――――
「……久しぶりだな。シェリー。」
「…ジン。」
振り向いた視線の先には、目隠しをされ、ロープで身動きが出来ないように括られた蘭さんと、その蘭さんを更に拘束するウォッカ。
そして。
私を殺気だった冷たい瞳で見下ろす銀の長髪の男、ジンがいた。
「賢い選択だな、シェリー。自分から命を捨てに来たんだな。」
「…どうせ、研究の続きをしろって言うんでしょ?」
「…くくっ。やはりお前には分かっていたか。組織がお前の頭脳を欲しがっているのを。」
「APTXは、父から唯一引き継いだ研究だもの。私にしか進めることはできないわ。」
「やはりお前はバカじゃないな。賢い女は好きだぜ?……シェリー…。」
「…。」
全身を舐めまわすような視線がとてつもなく不快だ。
それに、さっきまで忘れていた恐怖心が蘇りつつある。
―――ダメよ。しっかりしなさい!宮野志保!!蘭さんの命は私に懸っているのよ―――!!
震えそうになる両手を握りしめた。
こんな奴らに弱さなんか見せられない。
「私は組織に戻る為に、ここにやって来たの。…わざわざ解毒剤を飲んでね。だから、さっさとその女性の身体を離してもらえないかしら?」
わざと強気に言ってみる。大丈夫、声は震えていない。
するとその時、私の声に初めて蘭さんが反応した。
「………え?…私を……助けに来てくれたの……?」
暗闇の中、ポツリと聞こえる綺麗なソプラノの声。
―――良かった。思ったよりは元気そうだ。
目隠しと拘束をされた蘭さんの様子がイマイチ掴めなかったが、声だけで判断すれば、さほどひどい扱いは受けてないらしい。
何か薬品でも嗅がされて力が入らないだけだろう。怪我もほとんどないようだ。
「ある人から、貴女を助けるように依頼されたの。貴女は何も心配いらないわ。」
「もしかしてっ!もしかしてそれって新一ですかっ!?工藤新一ですかっっ!!?」
蘭さんの顔が一気に笑顔になる。
そう…。やっぱり貴女はどんな状況に置かれていても、工藤君のことを信じているのね。
眩しい…。
貴女の、まっすぐで眩しすぎる笑顔は、暗闇しか知らない私には痛すぎるわ。
まるで真っ白な天使に、真っ黒な悪魔の私が焼かれていくみたい……。
「…ごめんなさい。それは教えられないの。」
「そう……ですか…。」
途端に笑顔が消えていく、蘭さんの素直な心。
ああ、そんな顔をしなくていいのに。
貴女の大切な彼は、いつだって貴女のことを見ていた。想っていた。大切にしていた。
貴女が彼の気持ちを知らないだけで、ホントは想い合っている二人なのに、どうして私の前でそんな顔をするの?
何もかも持っている貴女が、何も持っていない私に対して、そんな素直な心を見せつけるなんて、あまりにも残酷じゃない。
「教えてやればいいじゃねーか。」
いつの間にか嫉妬に駆られていた私の耳に、ジンの声が飛び込んできた。
「本当のこと、教えてやれよ。」
ウォッカ、とジンが合図すると、ヘイ、と返事しながら蘭さんの目隠しを取っていく。
急に目隠しを取られたせいで視界が霞むのか、瞳をパチパチさせている蘭さん。
ようやく落ち着いたのか、ゆっくりとこちらに視線を向けた。
「毛利蘭。お前の言うように、この件には工藤新一が関わっている。」
蘭さんはビックリしたような表情を浮かべ、ジンと私の顔を交互に見ていた。
「そして、この女がお前達に降りかかった不幸の元凶、シェリーだ。」
「元…凶…?」
「そうだ。お前と工藤新一を引き離したのはシェリーだ。」
蘭さんの視線が私に向いているのが分かった。でも怖くて視線を合わせられない。
「…そしてシェリーは、お前達の言う、灰原哀の本当の姿だ。」
「まさか…。」
蘭さんも私も、文字通り立ちすくんでいる。
私はジンの言葉に反論する気さえ奪われていた。
「そしてもう一人、江戸川コナンは工藤新一だ。」
何だかダラダラです。スランプです。ごめんなさい。
書きたいことがうまく書けなくて、モチベーションが下がり気味です…。
やはり文才のない私には、連載小説を執筆すること自体失敗だったかも、と気分は下降するばかりです。
何とか完結させたいけど……。
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