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第3話 ハーフエルフの女の子がピンチだよ!

 掲示板で死ねって書かれたことを師匠に半泣きでグチったら、「だから半年ロムれ」って言っただろう」と言われてしまった。

 詳しく聞くと、どうやら「半年ロムれ」とは、掲示板の雰囲気やルールを理解するまでは書き込まず、ただただ黙って見ていろ、ということだったらしい。

 しかも俺が『すれ』建てた場所は恋人のいない男ばかりが集まっている場所だったそうで、そこの住人にとって『【悲報】ビッチの許嫁ができた件』は自慢話でしかなかったそうだ。


 そう師匠に説明されたいまならわかる。

 わかるけど、見ず知らずの相手に「死ね」はないだろうと思う。

 俺の思春期な心はかなり傷ついてしまったぞ。


 そんな俺を見て師匠は、「掲示板じゃ『死ね』は挨拶みたいなもんだよ」と笑っていたけどね。

 「死ね」が挨拶とか、掲示板のある異世界の住人はどんだけ心が荒んでるんだよ。

 きっと『ようちゅーぶ』で見た、『ばいく』とかいう鉄の馬にまたがって、火を噴くマジックアイテムで「ヒャッハー」いいながら汚物を消毒しているような世界なんだろうな。


 うん。あんなイカレタ世界へウェルカム状態だったら、心が荒んでしまうのも納得だ。

 そりゃ「死ね」が、こっちの世界で言う「こんにちは」と同じ意味合いにもなるってもの。

 そして力こそがすべての異世界からやってきた師匠が、すっごく強いのも納得がいった瞬間でもある。


 ちなみに師匠に許嫁であるドロシーのことを相談したら、「お前の問題なんだから自分で解決しろよ」と突き放されてしまった。

 師匠は基本的に放任主義者で、よっぽどのことがない限り相談にのってくれないのだ。

 でもその代わりに、掲示板の使いかたをより詳しく教えてくれた。


 『すれ』を建てるなら、その『すれ』に沿った場所に建てなくはならなかったらしい。

 俺は掲示板の使いかたを教わったあと、師匠の指導のもと本日の修行をはじめるのだった。





「はぁ、今日も死ぬかと思ったぜ……」 


 本日の危険極まりない修行を終えた俺は、屋敷へ帰るため森を引き返していた。

 師匠は森に隠れ住んでいる。

 なんで隠れてるのか教えてくれないんだけど、たぶん後ろめたいことがいっぱいあるからだと俺は思っている。


 森から屋敷までは一刻ほど。

 異世界基準だと2時間ぐらいだ。

 昔はしょっちゅう危険な魔物モンスター魔獣ビーストが森から出てきて付近の村を襲ったりしてたんだけど、10年前に師匠が住みついてからは被害が出ていない。


 それもこれも、師匠が修行と称して俺に狩りをさせているからだ。

 おかげでかなり強くなっちゃったよ。

 もし俺が冒険者になったら、よゆーで高位の冒険者の証である金等級ぐらいにはなれちゃうだろうな。


 父上に俺の実力がバレたら、きっと「将軍になれ」とか言って騎士学校に放り込むに違いない。

 かたっ苦しい騎士学校生活なんてまっぴらなので、俺は家族の前では貧弱なフリしてんだけどね。


「早く帰らないとみんなが心配しちゃうな」


 俺を溺愛しちゃってる母上はもとより、心配性な兄上たちに教育係の爺や。それにやたらと胸元を見せつけてくるメイドたち。

 早く帰らないと屋敷をあげて俺の大捜索がはじまってしまう。


「しっかたない。ちょいと走るか」


 脚に力を込め駆けだそうとしたその時だった。

 森の出口付近から話し声が聞こえてきた。


「森に……ひとがいる?」


 ここ数年はモンスターの被害が出ていないとはいえ、この森が危険なことを領内で知らないものはいない。

 なんたって冒険者たちでさえ近づかないぐらいなのだ。

 それなのにこの森に入ろうとするのは、英雄譚に憧れたどっかの貴族の子どもぐらいなものだろう。


 俺は気配を殺し、声のする方へ近づいていく。

 これが領民なら問題ない。

 ちょっと注意して追い返せばいいだけだ。


 でも、もしこれが俺の考える相手だったとしたら……。

 近くの木にはりついた俺は、そっと聞き耳をたてる。


「おい。誰にも見つかってないだろうな?」

「もちろんでさ。この森に近づくヤツなんていませんよ」


 ちらりと盗み見ると、どうやら複数人いるようだ。

 全員武装していて、薄汚い恰好をしていた。


「くっくっく、ならいい。女を連れてさっさとずらかるぞ」

「へへ、頭ぁ……このハーフエルフ、売っちまう前に自分らも楽しんでいいんですよねぇ?」

「くっくっく、しかたのない奴らだ。まあ、いいだろう。ただし、オレの後だからな?」

「へいへい。それはわかってまさぁ!」


 ハーフエルフだって!?

 よく見れば、武装した男たちの足元には女の子が倒れていた。

 気を失っているのか、ぐったりしている。


「あいつら……野盗か?」


 どうやらあの野盗たちは、倒れてる女の子にひどいことをしようとしているみたいだな。

 マーグスウェル家の人間として、なによりひとりの男として見過ごすわけにはいかない。

 俺はすぐ行動に移した。


「はぁー!!」


 隠れていた木からとび出し、問答無用でとび蹴りをくらわす。


「な、なんだきさ――ぎゃぁぁぁぁぁっ!!」


 頭と呼ばれていた男が俺の蹴りで吹き飛び、木に叩きつけられて目を回す。


「おま、お前どこから――」

「うっさい! 父上の領内で好き勝手してんなボケぇ!! スリープ(眠りの魔法)!!」

「んがっ…………」


 狼狽える下っぱのみなさんには眠りの魔法をプレゼント。

 みなさん、一発で夢の世界へと旅だっていった。 


「ふぅ……。ちょろいもんだぜ」


 とかい言いつつも、人との実戦ははじめてだったから心臓バクバクだったんだけどね。

 森のモンスターよりぜんぜん弱くて拍子抜けしたけど。


 俺は白目を剥いてる野盗たちを縛り上げてから、いまだ目を覚まさない女の子に目を向けた。

 こんだけ騒いでも起きないってことは、薬でも盛られているのかも。

 でも、まずは――

 

「……『きゅうぼ、しょたいめんのえるふとのはなしかた』っと」


 背負いカバンから『たぶれっと』を取り出した俺は、画面に指を滑らせて掲示板に『すれ』を建てるのだった。

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