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鬼の目にも

作者: 椎名 朝生

いったい何なのよ。どうしてこんな事になっちゃったわけ?

だいたいさ、これは何処からどう見たって冗談でしかないじゃない。

それはね、ちょっとばかりやり過ぎたかな、とは思わないでもないわよ。

でもでも、言い訳させてもらえるなら、ほんの少し燥いじゃったってだけで。

悪気なんて、これっぽっちもなかったんだから。ホントだってば。何よ、疑り深いわね。


「だからごめんって言ってるじゃない。他にどうすれば良いのよ」


項垂れたまま崩れ落ちている相手に、私は精一杯の謝罪を口にする。

これでも誠心誠意、謝ってるんだからね。せめてそれだけは、判ってくれないかな。


目の前で崩れ落ちている相手。何年か振りに出来たばかりの年下の彼氏。

人数合わせで誘われた合コンで知り合ったの。いつもなら絶対に断ってるんだからね。

合コン好きだなんて思われたら心外だわ。そんなに暇じゃないのよ、私だって。

でも、よくよく話を聞いたら、今回の参加メンバーは『鬼ヶ島出身』が揃う、って言う

じゃない。それなら話は別よ。カップル成立なんて高望みはしないけど、生粋の鬼を

目の前で見られるチャンスなんて、逃す手はないもんね。ハーフやクォータの鬼なら

今となっては珍しくもないけど。完全な鬼の血筋なんて、鬼ヶ島に住む箱入りくらい

しか、もう残ってないでしょ。

ただの興味本位だけで参加したはずなのに、やたら話の合うヤツと意気投合。

気付いたら、ちゃっかり私の彼氏に収まっていたのよね、これが。


「だって、ほら、鬼の角って不思議でしょ。真ん中に一本しかなかったり、両脇に二本

あったり。だからさ、三本だったらどんなかなぁ、って……」


想像すると面白いでしょ。それならいっその事、実物を見てみたくなるのが、

心情ってものじゃない。

曖昧な表情で笑う私に、アイツは恨めしそうな視線を送ってくる。

ふんっ、メゲナイもんね、それくらいじゃ。


「自分ではまだ見てないんでしょ。私の鏡、貸してあげる。結構似合ってるから、

大丈夫だってば。これからの流行りは三本だよ」

「そんなお情けなどいらないのですよ。どうせ、僕の角がおかしいからなのでしょう。

いつもそう言っているではないですか。筍が芽を出したばかりだとか、誰かが通っても

気付かずに躓くとか」


よく覚えてるわね、そんな細かい事をいちいち。そんな小じんまりした出っ張り、

角って言わないのよ。だから立派な角を頭の両脇に付けてあげたんじゃない。

これで誰も躓いたりなんてしないわ。頭の上を歩くヤツなんていないと思うけど。


「おかしいなんて言ってないでしょ!! 変わってるとは言ったかも知れないけど。

だけどそれ、象牙なのよ。それも本物。すっごい高かったんだからね」

「値段の問題ではありませんよ。僕が眠っている間に、こんな酷い事……」


言い訳を口にすればする程、アイツの恨みがましい視線が痛くなる。

それもうっすら涙目になってるし。


「大丈夫だってば、すぐに取れるから。……まぁ、それまでに数年は掛かるけどね。

だってこれ、強力接着剤なんだもん」

「……っ!!」


手にしたチューブを、アイツの目の前に翳す。

どうやらそれが、ダメ押しだったみたい。

大きく見開いた瞳から、これまた大粒の涙が、ポロポロと零れ落ちていく。


「あんまりです。モモちゃんは、99対1の割合のツンデレだと思っていましたけど、

本当はただの鬼畜だったのですね。どうしたら良いのですか。僕はもう、お婿には

いけない身体になってしまいました。このまま鬼ヶ島に帰ってしまいたい気分です」


そう言って、今度は本当に泣き崩れた。

うわっ、私、鬼を泣かせてしまった。挙句の果てには鬼畜と罵られてまでさ。

まったく、大袈裟だったらないわよね。それくらいでお婿にいけないなんて、

あるわけないじゃない。たかが数年我慢すれば良いだけなのに、なんだって言うのよ。

それでも、お婿にいけないって言うなら、その時は私がもらってやるわ。

でもまぁ、今すぐ鬼ヶ島に帰られたりしても、寝覚めが悪いってものよね。

それに、なんだかんだ言って、傍に居てくれないと淋しいって思っているのは、

私の方だったりするんだから。


「悪かったわよ。ごめん、本当に謝るから。じゃあ、お詫びに黍団子を作ってあげる。

アンタ、あれ、好きでしょ。ねっ、だからそれで許して」

「……本当に作ってくれますか?」

「作る、作る。ちゃんと作るから、任せておいて。そのかわり、黍は採ってきてよね。

今の時期なら、裏山にたくさん生えてるでしょ」

「僕がですか? それ、本当に謝罪の意味が、含まれています?」

「煩いわね。この“私”が作るって言ってるのよ。とびっきり美味しい黍団子を。

それも、“アンタ”の為に」


人称代名詞を強調する。

そうよ、この私が“わざわざ”作ってあげるんだからね。材料の調達くらい、

してくれても、バチは当たらないと思うわ。


「判りましたよ。それでは、美味しい黍団子を頼みますね。僕、モモちゃんが作る

黍団子が、一番好きなんです」

「まっかせなさいって」


胸を張って請け合うと、象牙の角を生やした年下の彼氏は、満面の笑顔を浮かべた。



完(2013.08.09)


*****

お題:

『鬼を泣かせてしまった。挙句の果てには鬼畜と罵られ』or

『お情けなどいらないのですよ 』【年下の彼】


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