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小さくなった女王様

作者:渡部なこ
 あるところに、小さなお城の建つ国がありました。
 小さな国ではありますが、人々の声の絶えない国でした。その国の季節の変わり方は少し特殊でした。
 四人の女王様が代わる代わる季節の変わり目ごとにお城の近くにある塔に住むことで、季節は変化するのです。
 四人の女王様は国民に愛され、国民を愛するとても優しい女王様達です。
 そして、女王様同士も仲が良いと有名でした。


「それじゃあ、次は頼むわね」
「ええ、勿論です!」


 橙色の髪を緩く束ねた秋の女王様は、銀髪のショートカットの髪を揺らす冬の女王様へとバトンを渡しました。
 冬の女王様はやる気満々の背中を秋の女王様に見せながら、いそいそと塔の中へと入って行きました。
 そんな彼女の背中を微笑ましそうに見送った後、秋の女王様は自分の帰る場所へと帰っていきました。
 冬の女王様が塔へと入ったことで、周りの季節は順調に寒さを増していきました。


「もう冬なのねぇ」
「そろそろ沢山薪を割っておかないとな」


 冷え込む季節に国民たちは進んで冬支度をし、これからの寒さに備えました。寒さは日に日に増し、雪が降り出す日もありました。


 しかし、そんなある日。


「まだ春の女王様の番ではないの?」
「もうすぐ薪を使い切っちまうよ」


 一向に暖かくなる気配は無く、しんしんと冷える日が続くばかり。いつもなら終わるはずの冬が何故か終わらないのです。
 不安と疑問に駆られた国民は王様のいるお城へと詰め寄ります。


「王様、まだ冬は終わらないのですか?」
「このままじゃ食べるものが無くなっちまうよ!」
「春は、春の女王様はまだ塔へ入られないのですか!?」


 しかし、いくら王様に訪ねても王様自身初めての経験なので分かることなどありません。
 使いの者を塔へと向かわせますが、何故か中へ入れてくれないのです。


「何故だ⋯!冬の女王は塔の中で何をしておる⋯!」


 寒さに震える王様は遂に、国中にお触れをばら撒きました。


『冬の女王を春の女王と交替させた者には好きな褒美を取らせよう。
 ただし、冬の女王が次に廻って来られなくなる方法は認めない。
 季節を廻らせることを妨げてはならない。』


 お触れが出された頃、塔の中は大慌てでした。


「ああっ、どうしましょう⋯どうしましょう⋯!!」


 買い物をしていた塔の使用人がたまたま拾ったお触れの一枚を握りしめ、塔へと一目散に走って帰ってきました。使用人は裏口から塔の中へと入ると女王様のいる部屋へと向かいました。


「女王様!冬の女王様っ!」


 乱暴にならないように、しかしとても大きな音で扉を叩きました。中からはかん高く幼い声が返ってきました。


「何ですか?騒々しいですよ?」


 大きな扉を開けて出てきたのは、使用人の腰くらいまでの身長の女の子。女の子は絹の様な銀髪を一撫でしてから使用人を見上げました。


「どうしたのです?」


 神妙な面持ちの使用人に声をかけると、震える手で一枚の紙を差し出してきました。女の子はその紙に目を通す前に一言。


「きっと、冬の女王関係なんですよね⋯」





 お触れが出された次の日から、塔にはひとだかりが出来ていました。皆、女王様を交替させるために集まった人たちです。
 まず最初に出てきたのは、見るからに力のありそうな大男です。


「こんな扉、一発で開けてやるぜ!」


 意気込み、扉の取っ手を掴み力の限り引っ張ります。しかし、扉はびくともしません。
 大男は仲間を呼び、今度は五人の男で扉を開けようとします。


「うおぉぉっ⋯!」


 男たちの手が真っ赤になりますが、扉はびくともしません。いっそのこと扉を破壊してしまえば、という考えに至り皆それぞれ、斧や畑を耕すクワを持ち出してきました。
 傷は付きますが、開くまでには至りません。ただの木の扉がどうしてこんなに硬いのか王様に聞きに行くと、


「あの塔は昔から建っていてな。壊れてはいけないと頑丈に造ってしまったそうだよ」


 汗を流しながら申し訳なさそうに話していました。






 外が大騒ぎになっているのを窓から銀髪の女の子は憂いを帯びた顔で見下ろしていました。


「はぁ、どうしましょう⋯」


 窓から離れ、部屋の中を行ったり来たりします。綺麗な形の眉を八の字にさせ、口元に手を当て考えます。


「女王様!」


 バァンと派手な音にびくりと方を震わせた女の子は、音を立てた張本人の使用人を涙目で睨む。


「何ですかっ!大きい音をたてて!」
「も、申し訳ございません⋯。あの、お話⋯というかもう手遅れというか⋯」


 歯切れの悪い言い方をする使用人に女の子は、首を傾げ話の続きを待ちます。少しすると、申しにくそうに使用人が口を開きました。


「塔の裏口に、王様がいらっしゃいました⋯」


 とりあえず王様を塔の中へと入れた使用人は、冬の女王様の部屋へと案内しました。王様は口元の豊かなヒゲを撫でます。


「悪いね。急に押しかけるような形になってしまって」
「いえ、滅相もございません」


 使用人と王様、それから王様の護衛一人が冬の女王様の部屋へと歩いて行きます。塔の中でも冷え込みは厳しく王様はぶるりと震えてしまいます。


「うーん⋯塔の中でもこの寒さか⋯」
「申し訳ございません」


 使用人と比べ厚着をしている王様ですが、寒さは堪えるようです。しばらく歩いていると使用人が一つの扉の前で止まりました。


「こちらが冬の女王様のお部屋でございます」
「うむ。道案内ありがとう」


 使用人は立ち去るのかと思いきや、その場に留まり王様が部屋の扉を開けるのをソワソワとして待っています。王様は不思議に思いながらも二、三度木の扉をノックしました。


「冬の女王様。入ってもよろしいですか?」


 なるべく物腰の低い感じで話しかけると、中から鈴の音の様な声が返ってきました。


「ええ、どうぞ。お入りになってください」


 ドアノブを掴み勢いよく押し開けると、そこには白を基調としたドレスを着た女の子がいました。王様が困惑気味に女の子に背を屈めて聞きました。


「あの、お嬢さん。冬の女王様はどちらに?」
「王様。私が冬の女王です」


 胸元に手を当て自己紹介をする女の子もとい冬の女王様に王様は訳が分からず、混乱してしまいました。





「どういうことか、説明してもらえるかね?」


 近くにあった椅子に腰をかけ、王様は使用人を見ます。しかし、使用人が口を開く前に冬の女王様が止めます。


「自分のことですので、自分で話します」
「⋯それでは、説明を」


 冬の女王様は一つ深呼吸をして、経緯を話し始めました。


 冬の女王様が塔に住み始めた次の日、近くに子供の姿を見つけました。その日は特に言葉を交わすこともなく終わりました。
 しかしその次の日も、また次の日も同じ子供の姿を見かけるのです。不思議に思った冬の女王様は声をかけてみることにしました。


「あのっ!」


 びっくりした子供は驚いた表情で冬の女王様を見上げます。


「こんなところで、何してるの?」


 なるべく優しい聞き方をした冬の女王様に答えたのは、三人いる子供のなかで一番体の大きい男の子でした。


「ここに、冬の女王様がいるっていうからどんな人か見に来たんだ!」
「そうなの。私が冬の女王です」
「えー?」


 自慢げに冬の女王様が名乗ると子供たちは疑いの声を出しました。


「な、なんで疑うんですか!?」
「なんかイメージと違う」
「魔法とか使えねえの?」
「魔法見たーい!」


 次々と飛ぶ子供たちの声に頭を悩ませながら、冬の女王様は人差し指をくるくると回し雪の結晶を作り出しました。
 それを子供たちの近くまで持っていくと楽しそうにきゃっきゃっとはしゃぎました。


「信じてくれた?」
「うん!」
「信じるー!」
「また明日も来るなー!」


 子供たちは無邪気な笑い声を響かせながら、街の方へと帰っていきました。それと入れ替えで扉をノックする音が聞こえました。


「冬の女王様」
「なに?」
「子供が来ていた様ですが⋯。迷惑でしたら来ないように言ってきましょうか?」
「いいえ、迷惑なんて思ってないわ」


 冬の女王様がニコリと笑いながらそれを言うと、使用人は会釈をして出ていきました。

 次の日も、また次の日もあの子供たちはやって来ました。そんなある日、窓の下でいつもの様に魔法が見たいとせがむので、冬の女王様は指を回して魔法を使います。
 冬の女王様の指から青い光がキラキラと舞い、出てきたのは小さな雪だるまです。


「わぁ!」
「可愛い!」


 ふと、冬の女王様は気づきました。昨日よくはしゃいでいた体の大きな男の子がいないのです。


「ねぇ、いつもの子は一緒じゃないの?」


 そう聞くと子供二人はどことなくしょんぼりとしてしまいました。


「熱が出ちゃったんだって⋯」
「女王様に会うの、毎日楽しみにしてたのに⋯」


 それを聞いた冬の女王様は少し待っててと子供たちに声をかけ、部屋に戻り小さな瓶に魔法で作った氷を入れ子供たちに優しく投げました。


「早く元気になってね、って伝えてくれるかしら?」
「こんなに氷⋯女王様ありがとー!」
「ちゃんと伝えるからねー!」


 子供たちは急いで体の大きな男の子の元へと走っていきました。


「失礼いたします」


 それと入れ替えくらいで使用人は紅茶の入ったトレーを持って入って来ました。
 椅子に座って疲れている様子の冬の女王様を見て、使用人は違和感を感じました。


「あの、冬の女王様」
「なにかしら?」
「一つ、気になったことがあるのですが⋯」


 おずおずと、口を開く使用人を不思議に思いながら彼女の言葉を待ちます。


「失礼ながら⋯少し小さくなりました?」
「は?」


 言っている意味が分からず素っ頓狂な声を上げると、使用人は冬の女王様を凝視しながら確信した様な声を出します。


「やはり、昨日より小さくなっていますよ」
「そ、そんなわけないですよ!」


 椅子から立ち上がると、確かに冬の女王様の背は低くなっていました。
 目線も下がっており、冬の女王様は困惑をかくせません。


「な、なんで!?」
「王様にご報告した方が⋯!」
「⋯いえ、明日になればきっと元に戻りますよ。大丈夫です。多分」


 冬の女王様がそう言うので、使用人はしぶしぶといった様子で下がり、明日になるのを待ちます。
 しかし、次の日もまた次の日も、冬の女王様が戻る事はありません。
 そうして時間は流れ、今の子供の姿になるまでになってしまいました。


「これが、私の今に至るまでの説明です」
「ふぅむ⋯」


 王様は話を聞けば何か解決策が、と思いましたが何も思い付きません。
 どうして小さくなったのか、冬の女王様ですら心当たりが無いのではどうしようもありません。


「とりあえず、城にいる魔法使いに話を聞いてみるか。一緒に着いてきてくれますか?」
「もちろんです」


 王様と冬の女王様は席を立ち、部屋を出てお城へと足早に向かいました。
 お城につくと、あまり人目につかないような場所にある地下への階段を下って行きます。
 コンコンと木製の扉を叩くと中からどうぞ、と声がかかりました。


「失礼するぞ」
「失礼します」


 そこは湿度が高いのか、じめっとした空間で全体的に薄暗く足元を注意しなければ転んでしまいそうです。
 そんな中に黒いローブを羽織り、床に座り込んで長めの髪の間から様子を窺う男性がいました。彼がお城に仕える魔法使いです。
 王様は手短に魔法使いに説明をして、冬の女王様を前に出します。


「どうだろうか?」


 魔法使いはじろじろと値踏みをするように冬の女王様を見たあと、一言。


「魔力不足じゃないですかね」
「魔力、不足?」


 オウム返しの様に聞き返すと、魔法使いは少し面倒くさそうに頭を掻いたあと説明をしてくれました。



「魔法が使えるのは自分の中の力を使うから。その力だって無限にあるわけじゃないし、使えばそれと比例して減っていく。寝れば多少回復はするけど、それも本当に少し。それが原因で縮んじゃったんじゃないんですかね」


 早口で説明され、冬の女王様はところどころ聞き逃してしまいましたが、王様は慣れているのか魔法使いに質問をします。


「手っ取り早く回復するには何か方法があるのかね?」
「⋯⋯ありますよ」
「どうすればいいのか教えておくれ」


 魔法使いが王様に苦手意識を持っているのに気付いているのか、王様はニコニコとしながら返事を催促します。


「内からの回復は少量なので魔法を使う人はいつも薬草を持ち歩いたりなんかしてます。お城の近くの森にも生えてたりするってこの間知り合いに聞きました」
「そうとなれば早速取りに行くとするかの」


 その発言にびっくりして冬の女王様は王様は凝視しました。その視線に気付いた王様は小さな冬の女王様に合わせ屈んで話をします。


「何故そんなに驚いた顔をする?」
「王様はここで待っていてください!薬草は私が取りに行きますから!元はと言えば私の失態なので⋯!」


 むぅ、と顎のヒゲを撫で名案を思いついたように手のひらをポンっと叩きます。


「それならば、皆で取りに行こう」





 お城の地下に残ろうとする魔法使いを引っ張り出し、王様は意気揚々と森の中へ入って行きます。


「どうして俺まで⋯」


 久しぶりに出たらしい魔法使いは既にぐったりとしており、杖を支えにしなければ立っていられないほどです。


「お主しかどんな薬草か分からんじゃろう?」
「それなら絵でも描きますから⋯」
「お主には絵心が無いではないか」


 あっはっはと笑いながら王様はどんどん森を進んで行きます。その後ろは気だるそうな魔法使いと冬の女王様が続きます。


「あ、王様足元」


 魔法使いの声に王様はその場で足元を見て、魔法使いの方を振り返ります。


「どれじゃ?」
「その、少し茶色っぽいやつです」


 冬の女王様は王様は小走りで近づき、王様と一緒にしゃがみこみ足元の草をかき分けます。
 二人にはどれも同じに見えてしまい困っていると、魔法使いが一束掴みそのまま引っこ抜きます。


「それですか?」
「はい。俺も取りにこなきゃいけなかったんで、助かりました」
「それでは城に帰るかの」


 三人は並んで歩き、冬の女王様は魔法使いに薬草の飲み方を教わってから塔へと帰りました。

 塔に帰るや否や冬の女王様は直ぐに台所へと行き、すり鉢を借りました。


「それ、どうするんですか?」
「よくすり潰して、水を加えてねる前に飲むらしいです」
「⋯苦そうですね」
「⋯やっぱりそう思いますか」


 冬の女王様が作業している間に日は傾き、辺りは暗くなり始めていました。
 冬の女王様は夕食を食べ、やることをやり終え自分の部屋へと帰って行きました。
 コップに入れた薬草汁に嫌そうに口を付けます。


「⋯にっっがぁぁ!!」


 うえー、と涙目でベッドに潜り込みそのままゆっくりと体を休めました。


 次の日。
 ひやりとした冷たい空気に起こされ、冬の女王様は目を覚まします。
 眠い目を擦りながら姿見の前に立つと、なんとその体は元の大きさまで戻っていました。


「戻った⋯。戻ったわ⋯!」


 嬉しくて寝間着のまま部屋の外へと出て、台所へと向かいます。元に戻った冬の女王様を見て台所にいた人たちは嬉しそうに拍手をしました。


「これで春の女王様と替われるわ!」


 表情の明るくなった冬の女王様は朝食を食べ終えたあと、身支度を整え既に塔の近くへとやって来ていた春の女王様と交替しました。

 それからというもの、冬の女王様は魔法の無駄使いをやめ、季節が止まってしまうことはなくなりました。

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