奇妙な冒険者
「(どうしたらいい? 一体どうしたらいいんだっ!?)」
その理解出来ない光景を目の当たりして、男性冒険者は思った。
その光景は最近自分達のパーティに入った1人の男性冒険者が、探索にきた
迷宮の壁に額を繰り返しぶつけている行為だ。
「ファイア来い ファイア来い ファイア来い ファイア来い
ファイア来い ファイア来い ファイア来い ファイア来い
ファイア来い ファイア来い ファイア来い ファイア来い
ファイア来い ファイア来い ファイア来い ファイア来い
ファイア来い ファイア来い ファイア来い ファイア来い
ファイア来い ファイア来い ファイア来い ファイア来い
ファイア来い ファイア来い ファイア来い ファイア来い」
その言葉を、ただ繰り返し、繰り返し、何かの詠唱の様に呟きながら、
壁に額をぶつけているのだ。
新加入をした時、その男性冒険者はそれなりの攻撃系魔法を拾得していると
言っていたのだが、まさかこのような行為をしないと唱えられないという事は
言ってはいなかった。
「おいっ、早く魔法を唱えろって言えよっ!! 」
前方からパーティを組んでいる男性冒険者が吠えるように告げてくる。
「だったら、あなたが言いなさいよっ!!」
甲高い声の女性冒険者が応えた。
その女性冒険者は、回復魔法を習得しているため心強い仲間だ。
だが、その心強い女性冒険者も、ひたすら迷宮の壁に額を繰り返しぶつけて
いる行為は、理解出来ない物がある。
普通なら、魔法を唱えるにもそのような行為はしない。
ただ、この新加入した男性冒険者は、なぜか壁に額をぶつけながら、
うわごとの様に、「ファイア来い」と言っているのだ。
そんなやりとりをしている間に、壁に額をぶつけるという行為を行っていた
男性冒険者がその行為をやめ、迷宮の床を爪先と踵で踏み鳴らし終える。
その行為を見ていた2人は、どう反応していいのかわからなかった。
誰も理解出来ない行為を終えた男性冒険者は、額から血を流しながら大きく
息を吐く。
「ファイア来たので唱えます。『ファイア』」
そう告げると、その男性冒険者の掌に水晶玉よりかなり大きい炎の玉が浮か
んだ。
「(いやいや!! それファイアはファィアでも、ファイアボールじゃないのかっ!?)」
理解出来ない光景を目の当たりしていた、男性冒険者がそう思った。
「おいっ、魔法唱える準備終わったのなら、さっさとしろよっ!!」
前方からさらに叫び声が聞こえてくる。
そのため、理解できない光景を目の当たりにしていた男性冒険者が、何か言おうとしたが出来なかった。
「ふえふえ では、飛ばすので」
その理解できない行為を行っていた男性冒険者は、前方に向かって炎の玉を
飛ばす。
炎の塊が微かな炎の尾を引き、前方に飛んでいく。
「(ああ・・・今更だけど、冒険者ギルドの職員が微妙な表情していたのは、
これが原因か)」
理解出来ない光景を目の当たりしていた男性冒険者が、ふっと思い出した。
冒険者ギルドパーティ人員募集の掲示板に、「攻撃魔法習得した冒険者求む」
の張り紙を出し、それに名乗りを上げたのが今、額から血を流している男性
冒険者だった。
その事についてギルド職員が伝えにきた時に、微妙な表情を一瞬だけ浮かべていたのだ。
しかし、その表情に気づいたのはこの男性冒険者だけだ。
また、この新加入した男性冒険者はつい最近冒険者になったばかりだと言って
いた。
「(まさかとは思うが、魔法唱えるたびに、あんな事するんじゃないだろうな)」
光景を目の当たりしていた男性冒険者が、額に汗を浮かべながら思った。
まだ、この迷宮での探索は始めたばかりだ。
これから、遭遇する魔物との戦闘のたびに、新加入した男性冒険者が魔法を
唱えるたびに、壁に床に額をぶつけるという行為をするとなれば嫌すぎる。
前方で派手な爆発を見ながら、男性冒険者は溜息を出しそうになった。
その隣にいた女性冒険者は、何か現実逃避をしているような表情を浮かべていた。
ただ、なんとなく思い浮かびました・・・・。
暑いと妙な事を思うものですな(W