第16話:少女は世界に音を鳴らして
「誰……?あと白くんって僕のこと?」
白髪の少年は少女に話しかけられ、つい思わず言葉を投げかける。
「私?私のことはどうだっていいじゃない。それに、今私とあなた以外に誰がいるって言うの?つまり、白くんって言うのはあなたのことよ」
「……何で、白くん?」
「この雪みたいな色の髪だから白くん。それ以外に理由はないでしょ?」
そのままだったが、少年にはその理由が分からないらしく、不思議そうにキョトンとしていた。
「……僕の家族も、知り合いも、みんな白い髪。そんなのが理由だったらみんな『白くん』だよ?」
彼にとっては白い髪は普通だったらしい。
しかし、少女は驚くことなく言う。
「知ってるよ」
少しだけ真剣な眼差しで。
「あなた、『白の一族』なんでしょ?白い髪だもの、すぐにわかったわ。なんでも旅をしていた一族が、その旅をやめて今日から私たちの集落に住むんだって。扱いは王様と同じなんだって」
「……よく知ってるね」
彼は一族の話を嫌うのか顔を背ける。
「父さんから聞いたの。もしかして、『白の一族』って言われるの、イヤ?」
「……嫌も何も、ここの人間はこの髪を見て一族って知っただけで奇妙なモノを見るような視線をしてくるから」
だからこそ、彼は彼女に話しかけられて驚きだったのだけれど。
少年はここで話は終わりだというように背中を向け、どこかに行こうとした。
「待ってよ、白くん。お友達になろっ?」
少女は彼の前に回り込み、両手をギュッと握って言う。
この雪の寒さのせいで、お互い冷たい手をしていた。
「……友達?」
彼は友達ということに興味が無かった。けれど、目の前の少女が、自分を一族の者だと分かってもなお関わろうとするのに、興味を惹かれ始めていた。
「そう、友達。みんなきっと自分たちと違うから、白くんたち一族と話し辛いだけなんだよ。だけど私と仲良くしてたら、いつか集落の人たちも慣れてくれると思う」
「そんなの、綺麗事じゃないかな」
「やってみなきゃわからないよ。でもとにかくさ、どんな理由だろうと、私はあなたとお友達になりたいな」
手に込める力を少し強めて、にこっと笑いかけた。
その笑顔があまりにも綺麗だったから、少年はやや頬を薄紅色に染め、顔を背けた。
「……っ」
「どうかな?ダメ、かな……?」
少年の方がやや背が高いので、少女の表情は綺麗な笑顔に加えて上目遣いに見えている。
余計少年は彼女の顔が見られなくなる。
「べっ、別に勝手にすればいいよっ!」
思わず強く言いすぎたと思ったが、彼女の表情は変わらない。それどころか、ますます嬉しそうに顔をほころばせる。
「なら、勝手にお友達になっちゃいまーす♪あ、そうだ。こんなに話して何だけどさー、白くんのお名前教えて?」
「……虚白。字は、虚しい、白色」
「んー、虚白かぁー。やっぱり呼び方は白くんのままでいいかなー」
少女は何か考えているのか「うーん」と唸っている。
しばらくすると手をポンっと叩いた。何もないはずなのに頭に電球が浮かんで見える。
「虚しいって言い方は無いんじゃないかなぁ。まるで自分をけなしてるみたい。……勝手な予想だけどさ、白くんの名前はこの雪みたいに綺麗っていう意味なんじゃないかなぁ?」
虚白と呼ばれた少年は、この少女の言葉に耳を傾ける。
「雪ってさ。こうやって手で触ると溶けちゃうよね。……儚くて、虚しいよね。けれどその儚さが、虚しさがあるから綺麗に感じるんだ。ね、虚白って名前もそういう考えと同じだと思えば印象も変わらない?」
「……わ、わからないや」
彼女は怒ることもせず、ただ天使のような微笑みを絶やさないまま。
「きっと、いつか白くんもわかるようになるよ」
「そうかな」
「そうだよ」
もう一回、彼女は虚白の手を握る。今度は少し温かく感じたように思った。
虚白は彼女の名前を呼ぼうとして、呼べないことに気がついた。
「え、えと、名前は……?」
「あぁ。そういえば言ってなかったね。言わないと白くん私のことなんて呼んだらいいのか困るもんね」
「音嘉。字は音に……何て言ったらいいのかな。うーんとねー……」
少女はさらさらの雪の地面に名前を書いてみせる。
少し不格好だが『音嘉』という字が刻まれる。
「これでオッケー。白くん、分かった?」
「うん、分かったよ、音嘉……」
遅れて小さく「ちゃん」と付けて言った。
「音嘉ちゃんなんて言わなくていいよー。音嘉って呼び捨てでいいよ?」
「音嘉」
復唱するように呼ぶと、少女が照れくさそうにしている。
「……何だか変な気持ちだなぁ」
「……どうして?」
微笑みも苦笑へと変わっているような気もする。
「音嘉って名前だからね。私のあだ名、インコなの」
「インコって鳥の?」
「そう。名前を一文字変えただけだから余計に言われる。鳥繋がりでカナリアとも言われたりするけど」
音嘉は「私には似合わない」と謙遜気味だった。
「鳥って綺麗だからいいと思うけどなぁ……」
「それは白くんの考えよ。私はあまり好きじゃないわ。私は私だもの、どんなものでも別の何かと比較されるなんて真っ平」
今度は虚白が何かを考えようとしているのか、わずかな時間押し黙る。
「カイン、とかは?音嘉の嘉の字を最初に持っていっただけなんだけど」
言った途端に少女がぱあっと笑う。虚白にはまるで一輪の花が咲いたみたいに見えた。
「カイン!インコよりよっぽどいいわ!じゃっ、白くん限定の呼び方ね!」
虚白はむずがゆい気分になった。まるで昔からの友人のように話しかけてきた少女に不信感があったはずだったのに、今はこんなにも体の奥底が熱いような、分からないような何かがこみ上げてきそうだった。
暖かな、感情。
この集落に来てから、家族以外に抱くことの無かった感情。
彼女の存在が、冷たい雪に触れると溶けるように、虚白の凍てついた感情が解きほぐされていくようだった。
音嘉ちゃん登場の巻。彼女の名前はインカローズからデス。この過去話は伏線ペタペタ貼る予定なので……後々全部回収出来るといいなと思ってイマス。……回収できるかなぁ……((ぇ
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