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ALTER(下)
「早苗はね、早紀ちゃんのいとこなの。だから、早苗を早紀ちゃんと似てるって思うのは当然だと思う。それに、早苗は早紀ちゃんが好みそうな服とか真似して着ているから、余計にそう思っちゃうよね」
「そうやったんや・・・」
 ライブ時の溌剌さとは違って、素で話す早苗はどこかおっとりしていて、物事をきっぱり言い切る早紀とは決定的に違った。早紀と早苗は全然違う、そのことに安心する一方、どこか物淋しさを一也は感じた。
 一也は意を決して、早苗に一番訊きたかったことを口にする。
「じゃあ・・・、何で早紀が自殺したか、その理由・・・知ってる?」
 一也の問いに、早苗は首を横に振る。
「ごめんね。早苗も知らないんだ。何故早紀ちゃんが自殺したのか、早苗もその理由を知りたいんだけど。でも、当の本人は死んじゃってるから・・・。さっき、早苗は早紀ちゃんの抜け殻だって言ったよね?それはね、早紀ちゃんが好きだった音楽をやってみたり、好みの服装を真似してみたりして、もし早紀ちゃんが生きてたら、こんな風にするかなって思ったの。だから抜け殻・・・。全然早紀ちゃんを愚弄するつもりとかないんだよ?ただ・・・、もしも早紀ちゃんの真似をしていたら、早紀ちゃんの気持ちがちょっとでも解るかなって。早苗バカだよね?解る訳ないのに・・・」
 早苗はそう言って困った様に微笑む。
「何でそこまで・・・」
 さっきまで黙りを続けていた俊樹は堪らず訊いていた。
「早紀ちゃんはね、早苗の憧れなの。小さい頃、早紀ちゃんがまだ東京に住んでた頃、よく一緒に遊んでたんだ。早紀ちゃんは早苗の二つ上で、一人っ子だった早苗にとって、お姉ちゃんみたいな存在だったの。活発で明るくて。優しくて。みんなに愛されていた早紀ちゃん。うん。訂正!さっき早紀ちゃんの真似をしていたら、早紀ちゃんのことが解るかなって言ったけど、ううん、違う。早苗は早紀ちゃんになりたかったんだ。うん。やっぱ早苗はバカだね」
 早苗ははにかんだ笑顔でライブハウスの中へ入って行った。
 残された俊樹と一也は目が合うと、お互い笑い出した。
「俺らいつまで引きずっとんねん」
「ほんまやな。前に進もうって決めたのに・・・」
「おっしゃ、ライブ頑張るべッ」
「おう!」


 ホールに戻ると、ニルヴァーナをコピーしている、高校生らしき若い連中が、楽しそうに演奏をしていた。
 渋いな。
 俊樹は空いている壁に肩を持たせかけぼけっと眺める。美羽が最前列で熱い声援を送っているのが見えた。
 そういや、あいつニルヴァーナ好きやったな。
 そんなことを考えていると香奈が側にやって来た。
「なぁ、あんたら何バンド目に出るん?」
「ん?6バンド目やけど。バンプロ貰ってへんの?」
「うん、邪魔や」
「あっそ」
「なんやねんその態度ッ。誰かに訊いた方が楽やろ?取りあえず、他のバンドとかどんなんか教えてや」
「えー、めんどい」
「なんでやねん!」

 わいきゃいはしゃぐ二人から少し離れた所で、千佳は一也に勘ぐりを働かせていた。
「なぁ、カズ君?あの二人怪しいと思わん?なんかねー、千佳レーダーに引っ掛かるんよ」
「あー?千佳レーダーってなんやねん」
「なんかね、こうビビっと来るんよ。俊樹さんは姉御のこと友達やって言うけど、絶対なんかあるよね」
「やっぱお前電波系も入ってるんか」
「何よそれー!」
「ハハハッ、冗談やって。うーん、あの二人なぁ。怪しいっちゃ怪しいけどなぁ。お前も知ってると思うけど、元々あいつらは敵同士みたいなもんやったやん?けど、ある日を境にめっちゃ仲良くなってんねん。そのことトシに訊いてみても『別にー』って言うだけで、何も教えてくれん」
 何それ〜、っと言う千佳に一也は思い出した様に答えた。
「そう言えば、いつやったか忘れたけど、トシが香奈ちゃんを家まで送って行った次の日に、香奈ちゃんの満足する曲つくる約束したとか言ってきたことあったなぁ」
 一也の言葉に千佳は目を輝かせた。
「それはそれは、つまりあれですね?男と女がいれば、することは決まっている、的な?その後に、君を愛する曲を作ろう、ってなノリになって・・・」
 エンジン全開な千佳に一也は苦笑いを浮かべ、やんわり制す。
「けどなぁ。トシには美羽ちゃんがいてるしなぁ。俺的にはそうあって欲しくはないねんけどなぁ」
 一也は美羽と会った瞬間に、この子は俊樹を救ってくれるだろうと感じていた。自分が美加子に救われた様に、きっと俊樹も美羽に救われる。そうあって欲しい。

 そんなこととは露知らず、俊樹は香奈とはしゃいでいた。そこへ美羽がやって来て。
「またトシ君にちょっかいかけてる〜!」
と、喚き出す。
「ちょっとぐらい良いやん」
「ダメです。トシ君の半径50m以内に入らんといてください」
「はぁ〜?何それ。無理に決まってるやん」
 美羽は俊樹と香奈の間にずいっと割って入る。
「ちょっと、何よ」
「ガード」
 俊樹は、何やねんこの展開ッ、っとツッコミを入れるか入れないかで迷っていた。いつの間にか千佳が側にいて、三人のやり取りを嬉々とした顔で観察している。
「ふーん、焼きもち焼いてんの?可愛いなぁ」
 香奈は徐に美羽の頭をなでなでする。
「ちょっと、何するんですか!」
「あたしな、君と仲良くなりたいんよ。決めた、あたしこれから君のこと美羽って呼ぶわ。そん変わり、あたしのこと香奈って呼び捨てにして良いで」
「ちょっと、勝手に決めんといてよッ。私と仲良くしたいとか・・・。わかった、将を射るにはなんたらってやつやね?」
「ちゃうちゃう、ほんまに美羽と仲良くなりたいんよ」
「信じられませんッ」
「まぁまぁ、香奈と仲良くしたれよ、な?」
 俊樹が間に割って入って、やんわり美羽を促す。
 それを良く思わない千佳が
「美羽ちゃん、ダメやよ、戦わな。それやなきゃ、どろどろの三角関係やなくなるやんッ」
と、二人の仲を引っ掻き廻そうとする。
「おいおい、荒らすなッ」
 一也が慌ててツッコミを入れた。
 そこへ祐介がやって来て。
「おい、お前らッ。ちゃんと演奏訊けやッ。失礼やろ!」
と、いつも穏やかな顔を真っ赤にして怒っていた。
 祐介は誰よりも他人の音楽に対して真面目だった。
「すいません」


 PM8:40
 インターミッション。
 休憩中、客たちは思い思いにくつろいでいた。
「俺はやっぱパンクやな〜」
「なぁ、3バンド目のボーカルの人見た?めっちゃカッコいい〜」
「私うるさい系苦手やねん」
 がやがやホール内がやかましくなる。
 俊樹達も後ろの方でくつろいでいた。
 女子連中がトイレに行っていたので、自然と会話がやらしい方向へと移っていく。
「スピーカーの近くで輪になってる女連中レベル高いな。巨乳だらけやし」
「おー、ほんまやな。一番左の子、おっぱいの形めっちゃキレイや」
「俺、右から2番目の子、好みやわ〜」
「ふーん、亜梨沙ちゃんに言っとこ」
「ちょッ、やめてや〜!」
 一也が祐介をからかっている横で、俊樹は丸テーブルの上にぽつねんと置かれた財布を見つけた。
 こんな所に置いていたら誰かにパクられるだろうと思い、持ち主を確認する為に財布の中身を調べようと開いてみると、ひらり、と一枚の写真が床に落ちた。
 手に取って見ると、そこに移っていたのは若かりし頃の俊樹と、一見地味目な眼鏡をかけた少女だった。ライブハウスをバックに二人並んで写っている。髪の毛の色から、4、5年くらい前の、まだバンドを組んで間もなくぐらいの頃だった。
 こんなんいつ撮ったっけ、と思いながら持ち主を確認した俊樹は、見てはいけないものを見てしまったと思った。
 財布の持ち主は香奈だった。
 俊樹は写真を財布の中へ戻し立ち上がる。
「どないした?」
と、一也が訊いて来た。
「いや、別に。こんな所に財布置いてたから」
「へー、パクろや」
「おいッ」
 俊樹は笑う一也にツッコミを入れる。
「これ香奈のや」
 女連中がトイレから帰って来たので、俊樹は香奈にすっと財布を渡す。
「おー、サンキュ〜!」

 PM9:00
 インタミが終わり、5バンド目が出て来た。
 総勢8人のスカバンドだ。普段、なかなかお目にかけることのないトランペットやバイオリンが注意を惹いた。
 俊樹達は、一曲だけ見届けて、自分たちの出番へ向け控え室に入った。
 俊樹はエフェクターケースを開け、予めシールドなどをエフェクターにある程度接続しておく。こうすることで、ステージでの設置時間を短縮するのだ。
 祐介は脇にペダルとスネアーを置き、スティックを握って、机の上でコトコトとリズムを刻んだ。
 一也はテンションを上げるため、ビールを煽りながら、ベースをカリカリ指弾きする。
 俊樹もビールを煽りながら、首筋に指を宛、フレットをなぞる様に集中力を高めようとする。
 しかし、先程見てしまった写真のことが頭に過って、中々集中出来なかった。
 どうして香奈は自分と写った写真を持っているのだろうか。

 写真に写る少女。眼鏡をかけた幸薄い黒髪の少女は、申し訳程度にカメラにピースサインを送っていた。
 その姿から、金髪で、耳に何個もピアスを開けている今の香奈とは、どうしても結び着かなかった。
 それでも、目鼻立ちや、背格好が香奈とそっくりで、あの少女に一体何があって、ああなってしまったのだろうか。
 そもそも、何故香奈は自分と写る写真を財布に入れているのだろうか。
 疑問ばかりが頭の中に浮かぶ。

 俊樹の疑問はある人物の言葉で一瞬にして吹き飛んだ。
「おつかれ」
 ロデオ@ボーイのギターボーカル、真伸が声をかけて来たのだ。
「お疲れさまっす!!」
 突然の来訪者に3人は一気に緊張する。
「ははは、そんな緊張せんでも良いで」
 そう真伸は言うが、緊張しない方がどうかしている、と3人はぎこちなかった。
「君ら次やんな?」
「はい!」
「俺ら君らに期待してるんやで?リハん時見せてもらったけど、そのへんのインディーズバンドよりも勢いあって良い感じやったで」
「うひーッ、そんな期待されるとかマジ嬉しいっすけど、俺らそんな大したことないっすよッ」
「ははは、謙遜謙遜。マジ次楽しみにしてるから頑張れ!」
 真伸はプレッシャーを与えるだけ与えて、控え室を出て行った。
「はは・・・、期待してる、やって・・・」
「おお・・・、頑張るしかないな」
「俺、帰ってもいい?」
 祐介が本当に帰りたそうな顔で言った。
「おいおい、ここまで来たら、もう退けんやろ。行くとこまで行くしかないで」
「そやな、俺らの音楽、見せたろやんけ。な、ズケ?」
「お、おうッ。やったろうやんけッ」
 ホール内に大きな拍手が起こり、前のバンドがはけて来た。
 俊樹達は機材を担ぎ、ステージへと向かう。
 さっきまで考えていた香奈のことも、真伸からのプレッシャーも、もうどうでもよかった。
 自分を取り巻く全てのしがらみを振り払おう。
 男だろうが女だろうが、子供だろうがじじいだろうが、リストラされたサラリーマンだろうが浮気妻だろうが、音楽を奏でるにあたって、そんなことはもう別次元のものなんだ。
 自分の声があって、ギターがあってアンプがあって、仲間がいて。自分の内で鳴り続けている音楽をやる。ただ、それだけでいい。
 音楽なんてものは、根本的な所では、そんなものなんじゃないのかと俊樹は思った。
 自分の目の前に道があって、ただただひたすら突き進むのだ。一歩。また一歩。
 さぁ、今日もその一歩を踏み出そうか。
 俊樹はステージへの扉を勢い良く開け放った。


はい、
次はやっとこさ、久しぶりの俊樹たちのライブです。
ALTER(中)を変な所で切ってしまって、(下)が長くなってしまうので、
途中で切ってしまった・・・
次のサブタイどうしようかな・・・


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