プリン♪
あの日のライブ以来、これまで俊樹に味方してきた『運』と言うものが、全てそっぽを向いた様に、ついていないと言うか、不運と言うか、最悪の連続だった。
まず、あのライブの次の日に、立て続けにライブが入っていて、昨夜のへこみからまだ立ち直れていない俊樹は、失敗を重ねまくった。ライブの滑り出しの頭がズレてしまい、立て直すことが出来なかったし、前日の打ち上げでやけ酒をしていまい、喉がガラガラで全然声が出なかった。速弾きはもたるし、MCは全く受けなかった。
ライブハウスは『nojo』と言う、京都にあるライブハウスで、Lock'in Diveにとって、京都は未開の地だった。初上陸ライブで大転けをやらかしてしまい、久しぶりにバッシングを浴びた。
飛んできたペットボトルが一也に当り、一也がそれにキレて客と乱闘。『nojo』出禁。3人でやけ酒。二日酔いでバイトを休む。
厄災はこれだけに留まらず、ギターの音は出なくなるは、財布は落とすは、タンスの角に小指をぶつけるは、全く持ってついていなかった。
あの金髪女、絶対厄病神やわ。今度神社か寺に行って、お祓いしてもらお。
そんなことを考えながら、冷蔵庫の中を開けて、昨日買っておいたお気に入りのプリンを探す。
「プリン、プリン♪まんまる美味しい、とろけるプリン♪って、あれ?おかしいな。どこや、俺のプリン。確か、この段に入れといたと思うねんけど・・・。っかしーなー、ほんまどこやねん俺のプリン〜。プリンちゃーん、どこでちゅかー?早よ出てこんと、電子レンジにぶち込んで爆発させんぞッ」
「何してんの?トシ君。冷蔵庫と会話とか、面白そう。私もやるー!」
プリンに半ばキレ気味の俊樹に、美羽が話しかけてきた。美羽はライブで知り合った天然女で、いつのまにか俊樹の家に住み着いている。
「お前、俺のプリン食ったやろ?」
「プリン?うん、食べた。あれトシ君のやったん?」
「当たり前やろ。お前の以外やったら、俺のしかないやろ。この家におんの俺とお前しかおらんのに」
「あっ、そっか」
「チッ」
俊樹は冷蔵庫の扉を乱暴に閉めて、ソファーに腰をかける。ててててっ、と美羽が俊樹の側に駆け寄って、腕に巻き付いた。
「なぁ、なんでそんな怒ってんの?」
「別に怒ってへん」
「何でー、怒ってるやん」
「怒ってへんってッ」
俊樹は腕に巻き付いている美羽を振り払った。
美羽はしばらく考え込んで、ぱぁっと顔を明るませ、解ったという風に
「昨日エッチできんくって、機嫌悪いんや。ごめんな、私生理やったんよ」
と言った。
「は?」
「けどもう今日は大丈夫。好きなだけエッチできるよ?」
もうトシ君ったら、と美羽は可愛い可愛いと俊樹の頭をなでなでした。
俊樹は美羽の手を乱暴に払いのけ、
「お前の言ってること、根本的におかしいねん!」
と怒鳴った。
「そんなに怒鳴らんでもいいやんかッ、トシ君のアホ!」
「誰がアホやねんッ。大体な、何でお前この家に住み着いてんの?お前一体何なん?ホームレスか、迷子か、どっちや?!」
「どっちもちゃうよ〜」
「それやったら、自分家帰れよ」
「帰る家なんかないよ・・・」
「それやったらホームレスやんけッ。ほんまお前意味わからんわ。もうええって。出てけよ、お前の顔なんか見たないねん!」
俊樹が怒鳴ると、美羽は目に涙を浮かべて家を飛び出しっていった。
俊樹は女に八つ当たりしている自分に腹が立って、ティッシュ箱を思い切り蹴り飛ばした。ティッシュ箱はくの字に拉げながら、テーブルの上のコップに突っ込んでいった。中身の麦茶が辺りに飛び散る。
「・・・」
タオルでこぼれるたお茶を拭き取っていると、ケータイが鳴った。主は一也だった。
「もしもし」
「なぁ、お前暇やろ?」
開口一番、一也にそう言われて俊樹はムカついた。
「暇ちゃうわッ」
「何で?」
「何で?って、今ギター弾いてんねん。忙しいねん。んじゃ」
「嘘つくなって」
「は?」
「お前ギター弾いてる時、絶対電話でんやんか」
「・・・」
バレバレか。
「暇してんねんやろ?なぁ、楽器屋行こや」
「どこの?」
「心斎橋の二木楽器。1時集合。遅れたら死刑。んじゃ」
そう言って一也は有無を言わさず電話を切った。
1時半を少し過ぎた頃、俊樹は楽器屋に入った。店内は所狭しと楽器類が並べられていて、休日もあってか、男も女も学生もじじいも、人間でごった返していた。
俊樹は人々をかき分け、階段を降りてギターやベース類が展示してあるフロアーへと進んだ。
ベースコーナーで、買う気もないのに一也がベースを物色していた。
「よお」
俊樹が声をかけると、一也は
「遅い!30分も遅刻しやがって。遅れたら死刑って言ったやろ?まぁ・・・、さすがに死刑は可哀想やから、マクドおごりで勘弁したるわ」
と、半笑いの顔で言ってきた。
「アホ抜かせ。お前もどうせ5分くらい前に来たんやろ?」
俊樹がそう突っ込むと、「バレたか」と一也は笑った。
「ほんで、今日はどんな用でここ来たん?」
「ん?ああ・・・、今日は、俺も足下揃えよ思てな。トシは足下いっぱい持ってるやん?俺もそろそろ音創りにこだわっていかんとなぁ、って思ってな」
「ふーん。で、何か良いのあった?」
「いや、これから。トシにも音聴いてもらおうって思ってな」
「それやったら、ズケもいるやろ。あいつ今日は?」
「ああ、ズケは何かノロウイルスにかかったっぽくて、家で寝てるらしい」
「マジで?!あいつアホやな。めっさおもろいやんけッ。後で電話したろ」
二人でケラケラ笑っていると、横を店員が通っていった。
「すんませんッ」
「ハイ、何か?」
「あの、ベースのマルチって、どこにありますか?」
一也の質問に、「それだったら」と店員は二人を案内した。
「ここらへんがそうですね」
案内された所に、BOSSやKORGやらDIGITECやらがあった。
「これ試奏できますか?」
と、一也がBOSSのマルチを指差して言うと、「良いですよ」と店員は手際良くベースとマルチをアンプへと繋いで、ベースを一也へ手渡した。
「操作とか解りますか?」
「大丈夫ッス」
店員に軽く受け答えする一也に、俊樹は「ほんまかいッ」と心のなかで突っ込んだ。
終わったら声かけてください、と言って店員はどこかへ行ってしまった。
「なぁ、トシ。これどやっていじんの?」
「おいッ」
俊樹は一也の頭を叩く。
「ッて。何でや!」
「それは、こっちの台詞や」
「えー、だって、説明聞くのめんどいやん。なっ、取りあえず適当にいじってや」
「いじるったって、音色色々あるし」
「そやな、取りあえず歪みいらってや」
一也の要望で、俊樹は適当にディストーションをいじってみた。
一也がボーンと弾いてみる。アンプから割れた音が聴こえてきた。
「おおッ!歪んでる。でも、音割れてんな」
「これでどうや」
「あっ、いい感じ。でも、ちょっと重たいな。もうちょっと、軽い感じで、丸まってる感で」
「注文多いやっちゃな」
俊樹は歪みをディストーションからオーバードライブへと変えた。
「おっ、ちょいこもった感がいい感じや。やっぱ、歪みはこれくらいが丁度ええなぁ」
「ほう、気にった?」
「あかんな。多分、スタジオとかライブで使ったら、音痩せするやろうな。やっぱプリアンかな〜」
「じゃあ何で試奏してん?!」と言う俊樹の突っ込みに一也は笑うだけだった。
そんな二人に「どうでしょう?」とさっきの店員が声をかけてきた。
「うーん、また今度にします」
と言う一也の返答に店員は、残念っという顔だった。
「腹減ったなー」
楽器屋を後にした二人は、遅めの昼食をマクドナルドで済ますことにした。
注文時、一也は「スマイル0円で」と、女性店員の怒りのこもった笑顔を頼んでいた。
窓際の席に腰をかけハンバーガーを頬張る。俊樹はフィレオフィッシュを、一也はメガマックを頼んだ。ボロボロ中身がこぼれるメガマックに、一也はしきりに舌打ちしていた。なら頼まんかったらええのに。
あらかた食い終わり一息ついていると、「そう言えば」と一也が話し始めた。
「そう言えば、何か美羽ちゃんから『トシ君に捨てられた』ってメール来たで。何かあったんか?」
一也の問いにズキッとなった。今日はそれが目的やったんか。
俊樹は懐からタバコを取り出しくわえようとした。
「何しとん?!」
急に一也に腕を掴まれて、俊樹はタバコを落とした。結構な力が加わっている。眉間には皺が寄っていて、かなり怒っている様だ。
「離せよ」
一也は俊樹の腕を離し、窓の方を向く。
「いつから吸っとん?」
「京都のライブ終わりから」
「俺とバンド組む時、約束したよな?タバコやめるって。それが、俺とバンド組む条件やったやろ」
「・・・」
俊樹は無言でタバコの箱を握りつぶした。
俊樹の行動に幾分か気を取り直した一也は俊樹の方に向き直り
「それで、美羽ちゃんに当ったんか?」
と、訊いた。
「ああ・・・、俺が全部悪い」
俊樹の謝罪に完全に気を取り直した一也は
「そんなに金髪女にふられたんが堪えたんか?」
と、痛い所をついてきた。
「そんなんちゃうわ」
「ほな何やねん?」
「うっさいねんお前ッ、ほっとけやッ」
「そうか、そうか。金髪女にふられて意気消沈か。おまけに、癒しの美羽ちゃんにまで当り散らして、美羽ちゃん可哀想に」
「もうそろそろ、やめてください。タバコ吸ってすんません。美羽に当ってすんません」
「解ればよろし。で、女にふられて何でそんな落ち込んどん?俺らようふられてるやん」
「別にふられたことはどうでもいいねん。ただ、あいつ・・・」
「音楽性否定されてショックやった、と?アホやな、音楽なんて、肯定するもんもおれば、否定するもんもいるやろう。それともあれか、俺らのやってる音楽は全世界の奴らが絶賛するほど凄いんや、ってガキ臭いこと思っとんのか?」
「そんなん思っとらんわ。ただ、あいつは俺と同じ匂いがしてん」
「は?」
「何かあるやん。こいつ俺と同じやわって、なんか直感的にくんの」
「なるほど、俊樹君は匂いフェチか」
「おいッ、人が真面目に話してんのに茶化すなッ」
「サーセンッ。・・・でも、それやったら、もっと凄い曲創ろや。金髪女も、ましてや、全世界の人間が目ん玉ひんむく様な曲を」
「カズ、お前クサすぎ。まぁけど、金髪女くらい振り向かせる曲、創ったろうやんけ」
「じゃあ、ズケが復活したら、スタジオ入りまくるぞ」
一也の一言で、急に俊樹は暗澹とした表情になった。
「って、おいッ、どないしてん?!そこは『おう!』って、気合い入れる所やろ」
「ギター、音出んくなった・・・」
「えッ?!」
「あの金髪、厄病神やねん」
俊樹は、金髪女にあってからの厄災の顛末を聞かせた。
「うわ、そら災難やったなぁ。うん・・・、けどまぁ、気を取り直してこれから頑張るしかないやろ」
「そやな」
一也と灘波で別れて、俊樹は自宅に戻った。美羽は帰ってきとるかな。ちゃんと謝らな。
玄関の戸を開けて中に入ったが、美羽の姿は見られなかった。
ソファーに腰掛けながら、美羽に電話をかけるか否かで、一時間くらい問答していると、「がちゃ」っと戸の開く音がして、美羽が帰ってきた。
「美羽・・・」
美羽は居心地悪そうに立っていた。
謝らな。
俊樹が口を開こうとした時、美羽が「私な・・・」と、ぽつりと言った。
「私な・・・、トシ君に追い出されて、真剣に考えたんよ。トシ君とプリンの関係について」
「お、おぉ」
「カズ君にもメールして相談したんやけど、『俺がなんとかしたる』って言ってくれて、凄い安心した。でも、それやったらなんも解決せんと思ったから、一人で死ぬほど考えてん・・・」
美羽のいつにない真剣な表情に、俊樹は、論点がズレていると思ったが、美羽の次の言葉を待った。
「それでな、トシ君とプリンの関係って、アダムとイブの関係やと思ってん。例え神様があかん言うても、リンゴ食べてまうんやって。けど、私神様ちゃうし、アホやし。どうしたらいいか解らんし・・・。だから、これ・・・」
美羽はすっとコンビニの袋を俊樹の前に突き出す。コンビニの袋を開けると、中には、今朝美羽に食べられたであろうプリンが二つ入っていた。
「美羽・・・」
「ごめん。こんなんしか思いつかんくって。トシ君とプリンの関係に気が回らんくって、ほん・・・ま・・・ごめ・・・な・・・」
最後の方は言葉にならなくて、美羽はボロボロ泣き出した。
「ちょッ」
俊樹は慌ててティッシュで美羽の涙を拭う。
「ごめん、美羽。謝らなあかんのは俺の方や。くだらんことで美羽に八つ当たりして、ほんまごめん!」
「何で謝るん?私、トシ君とプリンの深い関係にアホみたいに突っ込んで、悪いのは私や・・・」
「俺とプリンなんて地球と木星くらいかけ離れてて、全然深くないよ。美羽と俺の方が全然深いって。だから、な?ごめんやから、泣き止んで」
「ほんまに?」
「おう」
夕飯に美羽が作ったソースの味が濃い焼きそばを二人で食べた。
そのあと、プリンを二人で食べた。
「ふふ、おいしい♪」
美羽は笑ってプリンを美味しそうに頬張った。
は〜、小説書くの楽しい。
ギター弾く次に楽しい。
就活したくねーなぁ・・・
+注意+
・特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
・特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)
・作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。
この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。