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千佳ちゃんの、ズケさん童貞卒業計画!
 商店街へと続く信号で待つ、祐介と亜梨沙。
 その少し離れた所から、俊樹達は生暖かい眼差しで彼らを見守っていた。
 休日の難波は人々でごった煮になっている状態で、行き交う人々は肩をすぼめて通る始末だ。
 派手な装飾を施したバンをバックに時代遅れを超越した右の方々が拡声器片手に熱弁を振るっている。
 そんな騒然とした中で、祐介と亜梨沙はどことなくぎこちない様な、それでいてほんのり甘酸っぱい様な雰囲気を醸し出している。エスコートする祐介に、おう頑張ってるやん、と俊樹は心の中で祐介を褒めた。
 祐介はポケットから紙切れを取り出し、亜梨沙にバレない様に千佳の指示を確認する。
 千佳のプランによると、まず商店街の中にあるスタバでコーヒーを戴くらしい。
 俊樹にしてみれば、もう祐介に今後の予定を伝えているのであれば、わざわざ自分達がこっそり後を着けて見守らなくても良いんじゃないのかと思った。
 そのことを千佳に告げると
「甘いですね。作戦の如何をこの目で確かめないとこには...。それに、もしものことがあった時、早急に対処出来るでしょ?」
 と、千佳はチッチッと指を振るのだった。

 店内は若者たちで賑わいを見せ、時折甲高い笑い声がこだまする。
 祐介達から少し離れた席に腰を下し、俊樹はだれた様にコーヒーを啜った。一也も暇を持て余した様にストローを銜えては外し銜えては外ししている。
 そんな中、千佳と香奈は亜梨沙を見つめて「むむぅ」と唸っていた。
 彼女らの行動が奇異に思えて、俊樹は
「さっきから何を唸っとんねん?」
 と訊いてみた。
「いやぁ、亜梨沙可愛いなぁって...」
「そうそう、亜梨沙良い感じですよね。今日の服装もそうだけど、毎回あの子の服装には心動かされるものがあります」
 そう彼女達が言うので、俊樹はまじまじと亜梨沙を観察してみた。
 亜梨沙の服装は淡い暖色系で纏められていた。薄い橙の丈の長いワンピースに、白地のカーディガンを羽織っている。要所要所の黒系のワンポイントが引き締まった印象を与えていて、無理にタイトに仕上がらず、その容姿に合っている。化粧もキツくなく、どことなくはんなりした雰囲気に、なるほど言っていることに一理納得するものがあった。
「羨ましいなぁ...」と口を揃える彼女達に、そら無い物ねだりや、と俊樹は言いたかった。
 香奈も千佳も美人な方だ。
 香奈は言わずとしれたパーフェクト美人だし、千佳は美人と言うよりも、どちらかと言えば可愛い部類に入る。
 お互い顔つきは整っているし、そのスタイルだって驚くほど良い。そんなにも関わらず、自分にない他人の良さを羨ましがるのだから、女の美への飽くなき欲求に舌を巻くばかりである。こう言う女達が今の日本を駄目にしているのだと、俊樹は本当にそう思った。

 スタバで小一時間だべった後、二木楽器へと向かう。どうしても外せないのだと、計画をねじ曲げてまで行きたいと言う祐介に、千佳は「ドラムバカッ」と罵った後、何とか練った計画を狂わない様に時間を設けてやった。
 祐介の目当ては恐らくスティックだろう。ドラマーにとってスティックは、ギターで言うところのピックや弦と同じく消耗品で、祐介はリムショットを多用するので、直ぐにスティックが折れてしまうのだ。
 祐介は絶対に一本は新品のスティックが無いと落ち着かないらしく、ちょくちょく楽器屋に足を運んでは購入しているらしい。以前まとめ買いを進めた俊樹は、「邪道だッ」と怒られたことがある。祐介曰く、多々あるスティックの中から最高のモノを常に選び出すのだと。つまりその中には一本しか最高のモノがなくて、後は駄目なのだ。よってまとめ買いは出来ないらしい。祐介の意味不明な拘りを思い出し、改めてコイツは変なヤツだと思った。
 道頓堀にかかる通称「ひっかけ橋」と呼ばれる橋の上で、亜梨沙はすれ違い様に、「邪魔やデブッ」と男二人組に言われていた。それなりに道幅はあるにしろ、人間の量は計り知れないぐらいに多く、よく肩がぶつかったなどで諍いが起きる場所である。
 罵る男共に、コイツら死んだな、と俊樹が思っていると、亜梨沙は苛ついた表情を見せながらも、すっと横に避けた。祐介はひくつきながら亜梨沙の肩に腕をまわした。
 おいッ、そこは男共に突っかかって行くとこやろッ。でもズケやったらしゃあないかぁ。
 にしても...。
「あいつらムカつくな」
「おう」
 俊樹に頷く一也。
 横を通りすぎる時、俊樹は思い切り睨みつけてやった。
「何やお前」
 一人が俊樹に突っかかってくる。
 そこへヤクでラリった様な顔つきで
「クヒヒヒ...」
 と、一也が歩みよった。
 そんな一也を見て、もう一人が「ええやん、もう行こや」と促し、去って行く。
「お前ほんまその役うまいな」
 ほんまにヤクでもキメてんちゃうか、と疑いのこもった視線を送っていると
「めっちゃ練習したからな」
 と、一也は自信満々に胸を張る。
「カズ君にそんな才能があったなんて知らんかった。千佳も練習してみよう」
 そう言って、千佳もラリった顔になる。
「姉御も俊樹さんも練習しましょう。はい、みんなラリった顔つきで、せーのッ、クヒヒ〜」
 千佳と一也につられて俊樹もラリった顔になっているのを、本物のバカ共がいる、と香奈は侮蔑のこもった視線を投げつけていた。
 二木楽器に着き、亜梨沙そっちのけでスティックを物色する祐介。亜梨沙は手持ち無沙汰に近くにあるハイハットを指で弾いていた。
「嗚呼もうッ、亜梨沙ほったらかしにしてぇ。ドラムバカがッ...。死んだらええねんッ」
 親指の爪を歯噛みして憤る千佳に、おいキャラ変わってんぞッ、と俊樹はツッコミを入れたかった。
 店を出る時、無言で圧力をかける亜梨沙に、祐介は焦りながら何とか宥めている。
 それにしても、今日の亜梨沙は大人しいなぁと俊樹は思った。いつもだったら無言で胸ぐら掴んで投げ飛ばしているのに。祐介のアホさ加減は際限知らずで、亜梨沙もそれを解っているのだろう。だから今日は、亜梨沙なりに気を使っているのかも知れなかった。
 俊樹は何となく二人がとても良いカップルに見えて嬉しかった。

 アメリカ村でウィンドウショッピング。盛り系ギャルやお兄系ギャル男がごった返す。
 休日の人の多さに辟易して、俊樹は三角公園の石段に腰を下し一息ついた。
 周りにはどいつもこいつも同じ様な格好した中身薄な奴らが行き交いしている。
 ビルにかかる大型のテレビに、某ブートキャンプのおっさんが目に黒い線をあてられ何やら効果について熱く語っていた。
 見るともなしに周囲を観察していると、少し離れた所で香奈がギャル男二人組にナンパされているのが見えた。
 香奈はあからさまに面倒くさそうな顔で適当にあしらっている。
 ナンパしている男共は皆潰れたアンパンみたいな顔つきで、お前らやったら無理やろうなぁ、と俊樹は可哀想にと男共を見つめた。
 しつこい男共にムカついたのか、香奈は何やら啖呵を切る。
 そんなんしたら...、ほら見ろ、男逆上してもうたやんか。
 面倒くせぇ...、と思いながら重い腰を上げ、やかられている香奈の元へ。
「お前ら何やっとん!?」
 取りあえず睨みつけて牽制する。近くで見ると、ようそれで声かけれたなぁ、と思える程の不細工で、外見ばかりチャラくて中身の無い、俊樹が一番嫌いなタイプだった。
「何やねんお前ッ」
 髪の毛を金髪にした男が突っかかってくる。
「お前こそ何?こいつ俺の女やねんけど」
 嘘やけど、と思いながら言ってやると、金髪は「グッ」と唸った。
 まぁこれでさいならって感じで。
 そう思っていると、もう一人のロンゲの男が俊樹を無視して
「なぁ、こんなんより俺らの方が良いやろ?どっか遊びに行こや」
 と言って、長い髪の毛を掻き揚げる。
 こんなん!?俺をこんなん呼ばわりしましたねあなたッ...。
「そんなん言うんは...、この口かッ!!」
 ガシッと力の限り頬を鷲掴みにする。締め付けられた男は激痛に顔を歪めた。
 ふははッ、これがギタリストの握力や。
 笑っていると、「ていッ」と金髪に手刀で腕を叩き落とされた。
「痛てッ」
 解放されたロンゲは頬を擦りながら
「殺すッ...」
 と、ギラついた眼で俊樹に掴みかかる。
 やってもうたッ...。
 女連れで暴力沙汰は勘弁やのにッ。
 そう思っていると
「どうしたのだ同士よ」
 と、一也と千佳がラリった顔つきで側に来る。
 またそれか...、と思ったが成り行きに任せてみよう。
「千佳隊員、コイツらはもしや...」
「はい隊長ッ。恐らくコイツらはブッ細工星人かと思われます」
「ああ!?ナメとんのかお前等ッ!?」
「ナメテル?なめてる...。ああ舐めてる舐めてる。舐めてるともさ、コイツをな!!」
 そう言って、一也は丸いタブレットを取り出し口に含んで
「漲ってきたぁッ!!」
 と叫んだ。
 千佳も真似してタブレットを噛んで「フンガ〜!!」と叫ぶ。
 ロンゲは呆気にとられたのか、掴んでいた力を緩めたので、俊樹は手を払いのけて距離を取った。
「俊樹隊員ッ。君もこれを舐め給え」
 明らかに楽しんでますオーラを放ちながら、一也はタブレットを差し出してくる。
 俺もやるんかいッ!
 無言で一也を睨みつけ、受け取ったタブレットを口に放り込む。
 ミントな清涼感が口いっぱいに広がる。
「まいう〜ッ!!」
 しょうがないとばかりに叫ぶ。
「おおッ!来る...、俺の人差し指にピラミッドパワーが集まってくるッ。はいッお前等どーん!!」
 一也はビッと人差し指をギャル男達に向けて叫ぶ。
 ギャル男達はタブレットが本物だと勘違いして、ヤバい奴らに関わってもうたと顔を青ざめた。
 そこへ。
「貴様等何やっとんじゃー!!」
 騒ぎに気づいたのか警官が、近くにある交番から怒鳴り声とともに走ってきた。
 それを契機にギャル男達は逃げていった。
「お前等何騒いどんじゃ!?」
 50代くらいの警官が顔を真っ赤にして怒鳴る。
「え?僕ら何もしてませんけど」
 取りあえず誤摩化そう。
 そう思いすっとぼける俊樹を押しのけて
「OH〜ポリスマンファック!!」
 と、一也が先程のノリで警官に中指を突き立てる。
 何しとんねんッ!!
 警官は真っ赤な顔をさらに赤く染めて、近くの交番に俊樹達を連行していった。





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