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下ネタ多いかも。
Lock'in Diveへようこそ♪
 陰鬱で湿っぽくて、だけどどこか高揚させられる、『控え室』と張り紙のされた狭い四畳半のBOXの中で、俊樹はどことなく落ちた様な表情で、けれど瞳には情熱と欲望を滾らせて、これから起こるであろう劇薬に似た陶酔に思いを馳せながら、何回、何十回と繰り返してきたおまじないをしていた。
 左手を首筋にあて、フレットをなぞる様に指を動かしていく。初めてライブに出た時、緊張をほぐすため何となく首筋をなぞって見た所、意外と緊張がほぐれたので、一種の元担ぎ的に毎回行う様になっていた。
 バンドメンバーの一也と祐介も同じ様におまじないをやっていた。
「客、めっちゃ入ってる?」
と、俊樹は訊いてみた。
 舞台袖からステージを覗いて来た一也は嬉しそうな顔で
「めっちゃ入ってんで。さすがan hallやな。今演奏してるバンドも良い感じに場暖めてるし、最高の状態になってるで。早く演奏したいわ」
と、はしゃいでいた。
「Lock'in Diveさーん、そろそろ出番なんで、準備の方お願いしまーす」
 PAの人がやって来て俊樹たちの出番を知らせてくれた。
「おっしゃ行くか!」
 三人は円陣を組み、気合いを入れて四畳半のBOXを出た。

「あかん、めっちゃ緊張して来た」
 舞台袖で、祐介はカチンコチンの顔でひとり言を言っていた。
「ズケ、そんな緊張すんなよ。いつも通り楽しも」
「緊張すんな言うたかて、緊張するもんしゃーないやん」
「あのなー、お前ライブ出んの何回目やねん?早よ、そのあがり癖直せよ」
「そう言うトシちゃんこそ緊張してるやんかー」
「うっさいわアホ、緊張せん方がおかしいわ。あのな、俺とお前とでは緊張のレベルが違うねん。俺はお前みたいにガチガチちゃうもん」
 二人がわいわい騒いでいる横で、舞台を覗いていた一也が奇声を上げた。
「どないしてんカズ、急に奇声発して。チンコでもぶつけたんか?」
「ちゃうわアホ、こっち来てみい」
 一也にそう言われて二人は舞台を覗いてみた。
「最前列でヘドバンしてる女見てみ?」
「どれや?」
「あの、金髪の髪の長い女いるやろう?超ド級もんやで」
「うおおおッ、ほんまや、めっさカワイイやんけ。俺ライブ終わったらあの子に声かけよッ」
「アホかトシ、最初に声かけんのはあの子見つけ出した俺や。お前には不釣り合いや、出直してこい」
「おっ、俺も声かけたいわー、ほっ、ほんで速攻ホテルにゴーや」
「お前やったら無理や、やめとけ」
 そう二人に揃って言われた祐介はいじけてしまった。
 三人がくだらない会話をしていると、ライブハウスに一際大きな歓声が上がって演奏していたバンドがはけて来た。
 「お疲れ様でーす」と声をかけて、三人は意気揚々とステージ上に上がっていった。ステージに上がるなり観客から大きな歓声が上がった。結成して5年、地元ではかなり有名で、滑り知らずになっていた。ライブに呼ばれる数も増え、向かう所敵なしだった。
 愛用のギブソンのレスポールをアンプに繋ぎながら、ようやくここまでたどりついたか、と俊樹は思った。結成当時はライブに出る度に失敗を重ね、ひどい時には帰れコールと共に、ペットボトルやら、タバコやら、使用済みコンドームやら、いろんなものが飛んできた時もあった。今となっては、このとてつもないバッシングの数々が俺たちを育てたんだと思えるぐらいになっていた。
 アンプのスイッチを入れ弦を弾いてみる。真空管の入ったマーシャルから音圧のある歪んだ音が返ってくる。適当に思うままにコードを弾きならして指を暖める。そして、他の二人を見てみる。ベースの一也もドラムの祐介もいつでもいいで、と目で合図を送って来た。
 ライブハウスの熱気と汗の臭いと脳内から溢れ出す大量のアドレナリンを噛み締めて、俊樹は右手を高く突き出してPAに合図を送る。流れていたSEが止まり、辺りが暗くなった。しんと静まり返り緊張が走る。いつもこの瞬間が一番緊張するのだ。始まってしまえばこっちのもんだが、一曲目の滑り出しがライブ全体を左右するのだ。今日の入りは祐介からであった。見せたれズケ、と俊樹は心の中で叫んだ。祐介はためらうことなく16分のロールを繰り出した。
 俊樹と一也もそれに続き、オクターブ違いで適当にオルタネイトを繰り返す。
 そして、クラッシュの一撃で怒濤の演奏を始めた。
 全体をパワーコードで構成した2ビートのハイテンポな曲である。全財産をつぎ込んで買った俊樹の16万のギターと、一也のオーダーメイドのベース、そして祐介の大きながたいを活かしたパワフルなドラムの音が、これでもかと言わんばかりにライブハウス全体を震わせていた。
 爆音でかき回すリフが終わり、高速ミュートに入る。
 俊樹はマイクに向かい、ピーキーでよく通る声で歌い始めた。このつんざく様な声は俊樹の自慢だった。神様なんか信じていなかったが、この時ばかりは神に感謝せざるを得なかった。観客達は興奮の嵐だった。目の前で繰り広げられる演奏に心奪われ、その場にいてもたってもいられずはしゃぎまくっていた。全員で前のめりになり明日のことなんか知るもんかとヘドバンを繰り返していた。
 俊樹は軽く二人とアイコンタクトを取り、キャッチャーなサビへと移った。
 客はさっきとは一変、ぴょんぴょん飛び始めた。
 最高だ、俊樹はつんざく歌声を発しながら思った。今日は行ける。朝からチンコはビン起ちだったし、目覚ましテレビの星占いは1位、梅田までの電車の乗り継ぎ完璧。おまけに超ド級の大物発見。客たちはもう俺らの虜。俺はどこまでもブッ飛んでいける、そう思った。
 一曲目が終わり立て続けにもう一曲。今度もキャッチャーな2ビートサウンド。来て欲しい所で客たちが大盛り上がりではしゃいでくれるので、三人は顔を見合わせ思わずにんまりしてしまうぐらいだった。張り裂けんばかりの熱気の渦の中で二曲目が終わった。
「どーも、Lock'in Diveでーす!」
 俊樹がそう言うと、客から歓声が上がった。祐介はすかさずバスドラを連打した。
「いやー、ほんま最高やな。ほんま気持ちいいわ。バンド初めて以来の盛り上がりちゃうか?」
と、一也。
「ほんまになー、めっちゃうれしいで。結成当時は罵倒のほうが多かったからなー」
と、祐介のフリ。俊樹はすかさずしゃべり出した。
「ほんまにそれ。バッシングよう浴びたわ。ひどい時なんか使用済みコンドーム飛んで来たからな」
 俊樹の一言で、客にどっと笑いが起こった。
 誰が投げ込んでん、と言う俊樹に、俺やー!と客の一人が言った。
「お前かコラボケッ。誰とヤッたんや、由美か、亜紀か、法子か?」
「法子!」
「お前、俺の一番お気に入りの女盗りやがって」
「三股かけとったんかいッ」
と、すかさず一也がツッ込む。
「ちゃうわ、四股やッ」
 そう言うと、またどっと笑いが起こった。
「このヤリチンー!」
「チンポたれー!」
 客から罵声が飛び交う。
「そんなこのヤリチンからお前らにぜひ贈りたいものがある」
 そう言って、俊樹はズボンから、あらかじめ自分のメルアドを書いておいたコンドームを取り出した。
「いらんわボケー!」
「今ここでつけろ!」
「今装着してどないすんねんッ。これはなー、お前ら野郎共に贈るんちゃうねん。俺の愛すべき女性たちに贈るんや。俺と今晩にゃんにゃんしたい子、受け取れーッ」
 俊樹はそう言って、コンドームを金髪女に目がけて勢い良く投げた。投げられたコンドームに俊樹の熱烈な女性ファンたちとそれ阻止すべく男たちが群がった。
 ごった返すライブハウスの中、歓声がわき起こった。コンドームを手にしたのは狙い通り金髪女であった。コンドームを受け取った女は無言で俊樹を睨みつけていた。反応悪っ、と思ったが、後でいくらでも挽回できると思い、自分のコントロールの良さに、心の中でガッツポーズを取った。
「ええなぁ、俺も女の子とにゃんにゃんしたいわ」
 ぼそっと祐介が言ったので、客たちに大爆笑が起こった。
「あのなーズケ。よう訊けよ。女の子と簡単にやれる訳ちゃうねんで?」
「ほんまやで。俺もトシも血の滲む様な努力の末、ようやく女の子にダイブインできんねんで?それになー、自分の顔、鏡でよう見たことあるか?お前みたいな中途半端な顔で、天然キャラの図体デカイでくの坊に誰が声かけんねんッ」
「お前ら、酷いわッ。俺かてな、俺かて女の子とにゃんにゃんしたいんじゃー!誰か。この俺を哀れと思う女の子。この俺を少しでも可哀想と思ってくれる優しい子。今夜俺とどないやー!」
 祐介の悲痛な叫びに客たちは笑い転げた。
「あたしー!」
 そんな中、一際良く通る女の声が聞こえた。どよめき渡る客の中を押し分けて現れた女は、飛び切りのおデブちゃんだった。
「ズケー!あたしのとっておきのヴァージン、あんたに上げる!」
「いらんわボケッ、このブッ細工がー!」
「何やとコラボケッ、誰がブッ細工やッ、お前ケンカ売ってんのか!」
 客たちは二人のやり取りに腹を抱えて笑った。
 俊樹はマイクを握った。
「ハハハッ、ほんま可笑しいわ。ズケはやっぱりアホやな。うん・・・、けどな、お前ら。ズケだけを笑ってられへんで。お前らかて女とヤリたいと思ってるはずや。俺らかてそうや。男共はどうしようもないエロでアホでカスや。そんなエロスなお前らやけど、でも、そんなお前らやからこそ、この曲をお前らに捧げたいと思う。聴いてくれ、『Fuck me, please ?』」
 祐介はシャンシャンとハイハットを鳴らす。4発目でスローテンポな演奏が始まった。F系でまとめたコードで8ビート、メロコア系で、特にサビ部分はかなりノリのいい感じに仕上がっている。
 Lock'in Diveの曲は歌詞が全部英語で、訳さないと意味が分からないので、メロディー勝負だった。この曲はエロい歌詞なのだが、バラードチックに仕上げてあるので、サビ部分では、ファック、ファックと連呼していても、女たち、特に俊樹ファンはうっとり恍惚の表情を浮かべるのである。
 最後のサビは、半音上げで畳み掛けるようにして終わった。
 終わった後、歓声が沸いた。何故かズケコールが始まっていた。
「ズケ、お前大人気やな」
 苦笑まじりに一也が言った。
「ほんまやー、俺こんなコールされたん初めてやで」
 ズケコールを送っている大半はおもしろ半分にちょくっているだけなのに、祐介は、自分にもようやく人気が出て来たのだなと勘違いして、得意げだった。
 そんな祐介に、俊樹と一也が揃って笑い出した。客たちもその真意を読み取り、ゲラゲラ笑っていた。祐介も意味が解らなかったが何となく笑っていた。
 苦笑まじりに俊樹は
「次は二連続で一気に畳み掛けるでッ。ズケがおもっきり頑張るところあるから、お前らよう目ひんむいてズケの勇姿を焼きつけろッ」
と、祐介にプレッシャーをかける。
「ちょー、ハードル上げんなやー、ただでさえ緊張しいやのにッ。・・・おっしゃ、行くでッ、お前ら、俺のスピードについこいよッ」
 ハイハット5発目でtempo200を越える超ハイスピードの曲が始まった。空気を切り裂くディストーションサウンドと大地を揺るがす重低音サウンドが、これでもかといわんばかりに疾走感を煽りまくる。音程もクソもなにもないシャウトが客たちの鼓膜をかっ切っていく。
 間奏に入る前に、祐介は怒号の雄叫びを上げた。そして、信じられない速度で6連符のロールを繰り広げていった。俊樹もそれに伴い早弾きを披露した。そして、そのままのスピードで次の曲へと移っていく。この曲も、前の曲同様、メタルに近い曲だった。シャウト系ではないものの、脳みそをかき回す様な曲だった。2曲合わせて3分もかからずに終わった。
「ハァ・・・、疲れたー。誰や、こんなんやろう言うたんわ?ほんま手ーつるか思たわ」
「悪かったな、俺や。俺もほんまはこんなんやりたくなかってん。早弾き嫌いやし。けど、夢の中で死んだじいちゃんにこれやれって言われたもんしゃあないやん」
「怖いわ!」
「まぁ、嘘やけど」
 嘘かよッ、と客の誰かが突っ込む。このノリの良さは本当に救いだった。MCに行き詰まらなくてすむのだ。くだらない会話でも客たちはノリノリでついてくる、いや、くだらない会話だからこそ受け入れてくれるのかもしれなかった。
「あと何分?」
「あと・・・、5分くらい」
「5分か。丁度良いぐらいやな。次の曲は最後の曲になるんやけど、マジ本の曲やで。これは実際にあったことを歌詞にした曲やねんけど、マジ泣けるわ。まぁ、カズの失恋の曲やねんけどな。俺的には最後は暴れれる曲にしたかったんやけど、カズがどうしても最後がいいんやって聞かへんから、しゃーなしで持ってきました。まぁ、みんな退屈やと思うけどしゃーなしで聴いてください」
「おっしゃ、聴いたる」
「カズ、男はな、失恋を通して大きくなるもんや」
「カズー、何か言えや」
「脱げ、脱いでしまえ。そして楽になれ」
 客たちは一様に一也をおちょくり始めた。何故か一也は野郎共に人気が高かった。
「お前らうっさいねん。この気持ちがお前ら単細胞に分かってたまるか。この曲は俺と美加子の愛の軌跡や。そう、あれは去年の春先の頃、さくら散る花吹雪の中、俺と美加子は運命的出会いを果たす・・・」
「長くなりそうなんで、最後行きまーす。今日はありがとうございました」
 俊樹は一也の話しを途中で切り、演奏を始める。一也が、「おいッ」と叫んだが、無視してギターを弾き続けた。
 Lock'in Diveには珍しい、本当にバラードな曲だ。クランチ気味に作り上げた軽い歪みと、ゴーストがかかったドラムの優しい音色。そして、珍しく一也が歌う、掠れた声が、曲調とマッチして物悲しい雰囲気を作り上げていた。
 客の中の一人の女子が、涙腺が緩んだのか、ぼろぼろと泣いていた。
 そんな、客を見て、思わず一也はもらい泣きしそうになった。
 美加子はどうして自分じゃなく、あの男を選んだのだろうか。
 思い出すと本当に泣いてしまいそうだったので、瞼を閉じて、何も考えずに叫んだ。
「Don’t cry ! Don’t cry ! So , someday , baby bird have gone to anywhere !」
 歌い終わった一也は感無量といった感じで、俊樹はそんな一也に複雑な気持ちになりつつ、一也の背中をバシっと叩いて、ステージからはけた。

 ライブハウスの外に出るとLock'in Diveの出待ちをしていた女の子達に囲まれた。一也は最後の曲でぼろぼろ泣いていた女の子に話しかけられていた。祐介はおデブちゃんに絡まれていた。二人ともちゃっかりしている。自分も負けていられないと思い、俊樹も目当ての女の子を探した。もちろん、金髪美人。辺りをきょろきょろ見回すと、十メートルくらいはなれた所からこっちを伺っている金髪美人と目が合った。相変わらず睨んでいた。チョー怖ぇ、どうしたもんか、と考えていると、ツカツカと金髪美人が俊樹の方に歩いてきた。そして、俊樹の前に立ち
「あたし、あんたの曲嫌いやねん!」
と、一言。+ 左頬に強烈なビンタ。
 パシーン!と痛そうな乾いた音が辺りに響いて、俊樹は仰向けのまま地面に倒れた。「大丈夫か?」と、一也と祐介が俊樹の側に駆け寄る。
 金髪美人は踵を返し歩いて行った。
 惚けた表情でズキズキ痛む頬を抑えながら、俊樹は何故ビンタされたのか全く解らなかった。何か気に障ることをしたのだろうか。ていうか、俺の曲が嫌いだと?!
 自分の音楽を否定された俊樹は、腸が煮えくり返るほどムカついて、大声で
「何なんじゃあの女はーッ?!」
 と叫んでいた。
 俊樹の叫びは、すっかり日が暮れてしまった梅田の夜空に消えて行った。

初の連載です^_^
評価・感想・不満等
なんでもいいんで、何か書いてくれると嬉しいかな。
てな訳で、これからよろしく。


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