第三章:問屋の正体は……
女子と肩を並べて下校する。どこかの青春ドラマでなくてもありそうな風景であり、健全な青少年であれば誰だって一度は思い浮かべる光景だろう。その相手が十人いれば十人が振り返る美人となれば尚良いものである。
しかしだ、学校を出てからこれっぽっちも会話が無いのはどういうことだろう? たしかこいつは、俺に話があったのではなかったか?
「とろこで……話しって何だったんだ?」
傍から見れば誰もが羨む光景――女から見れば羨ましいというような光景でもないだろうが――の中、沈黙空間に耐え切れず口を開いてしまった。
「えっと……」
またしばらく沈黙が続くのかと思いかけるほどの時間が経過しようとした時、
「男はさ、近くで女の子が大変な目にあってたら助けたくなるものなのかな? って」
「人によるんじゃないか?」
「人による……か。そうだよね」
意味深な表情をして言うのは止めてもらいたい。物凄く気になる。
「そんなもんだろ。というか、何でそんなこと俺に聞くんだ? 俺じゃなくても、お前に言い寄ってくるアホ共に聞けばいいことだろ」
「それはそうなんだけどさ……あんな下心丸出しの連中に聞いても、帰ってくる答えなんて全部一緒でしょ?」
もっともな意見であり、返ってくる返事など俺でも想像がつく。「男だったら助けるのが当然だ。山形さんがそんな目にあっていたら命をかけてでも助けるよ!」とまぁ、こんな感じだろう。まったく男ってやつは――もちろん俺を除いて――どいつもこいつもアホばっかりだな。
「だから、あたしに一番興味なさそうな君に聞いたわけさ」
「そうかい」
限りなく無関心を装い返事をしたわけだが、山形に興味が無いわけではない。ただ、無謀にもアタックして男心を粉砕機でもかけられたかのように絶望している奴らを間近で見ているが故、話しかけたところでどういう結果になるか解りきっている。だからこそ、お前に話しかけるなんて愚考な行いをしてないだけなんだがな。
「で、君は女の子が大変な目にあってたら助けるんだよね?」
「さあな。その時々だと思うぞ」
事実、あのとき山形を助けたのはお前が女だからとかいうのは全く関係なく、異能の力を身につけたからと言って、今まで以上に態度のでかくなった佐伯がムカついたから以外に理由もなかったしな。
「そうなの?」
「そうだ」
「ふーん」
何なんだその表情は? 俺の答えに不満でもあるのか? あるなら言ってみろ! 聞くだけならいくらでも聞いてやる。
それからしばらく山形と他愛もない話しをしていたのだが、思っていた以上に普通の女なんだなとつくづく実感させられることとなった。話し方が若干アレなのが気になるところではあるが。
そうこうして我が家に帰った俺は、晩飯が出来上がるまでの間、自分の部屋で時間でも潰そうとしたのだがそうは問屋が卸さなかった。問屋なんて言い方を現在でもするかどうかなんてことは、全く興味のない本の発売日ぐらいどうでもいい話だが、少なくともこの問屋が何者なのかは十分に理解している。姉貴だ。
「宗一ー」
ニヤニヤと笑うその姿は、数日間獲物を見つけることが出来なかった獣が、突如獲物にでくわしたかのような表情である。
「今日一緒に居た可愛らしいお嬢さんは何処のどなたかな? 宗一に彼女が出来たなんて、これっぽっちも知らなかったんだけど?」
「見間違いだろ? 俺は女と一緒になんか歩いていない」
「へーそうなの? 歩いてないねー」
先ほどと同じようにニヤニヤしていることに変わりはないものの、今度の表情は獲物を罠に嵌めたかのような表情だ。何が面白くてそんな顔が出来るのか知りたいものだ。
「女と『歩いて』ないんでしょ? 私は、一緒に居たのは誰? って聞いたんだよ? その意味が宗一にわかるかなー」
「あのな、歩いて帰ってきたからそう言ったんだ。どこに寄り道していたわけでもないし、仮に女が一緒だったとしても俺の反応におかしな点は微塵もないと思うがね」
すると姉貴は、さらに怪しくニヤつきながら自分の鞄の中身を物色するや携帯を取り出し、なにやら操作した後携帯の画面を俺の目の前に持ってきた。
なにか飲み物でも飲んでいたなら、盛大に噴出していたのは間違いないだろう。何を見せられたか……わかるだろ?
その後、晩飯が出来るまでの時間どころか晩飯中までその話題を振られ続け、話しを聞いていた親父にまでニヤニヤと笑い出されてしまった。
少しでいい……頼むから俺の話も聞いてくれ。 |