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「ほんとーに、あんたじゃないの?」
「だから違うってば」
 桜並木を歩きながら、桜は不信感たらたらの目を勝に向けていた。
 少し前かがみの体勢から、目を細めて勝を見つめる桜。相手を威圧するためにそうしているのだろうが、そこは女の子。迫力に欠ける。というか、勝は照れてうつむいてしまっているので、迫力もクソもない。しかし、強面なその顔にその照れた仕草は似合わない。というか、完全に二人の役どころが反転している。
 さて、二人が何の話をしているのかというと、話は昨日にさかのぼる。
 昨日の晩、桜が風呂から上がり自分の部屋に戻ってみると、得体の知れない小包がベッドの上に置いてあったというのだ(桜談)。桜が部屋を空けたのは1時間ほど。風呂に入るために部屋を出る前までは、当然そんな小包は部屋にはなかった。両親に聞いてみても、そんなものは知らないと言う。不審に思った桜は、しばらくその小包をじっと観察した。
大きさは両手の中に納まるぐらいの比較的小さなもの。プレゼントか何かのつもりなのか、その小包はご丁寧にも鮮やかな彩の包装紙できれいにラッピングされている。
 念のため小包を耳に当て、爆発物ではないことを確認した後桜は小包を開けた。ちょうちょう結びをされた紐をゆっくりと解き、慎重に包装紙をはがす。出てきたものは、何の変哲もない正方形をした小箱だった。少し迷ってから、もう一度箱に手を伸ばす桜。開かれた箱から出てきたものは、ケースに収まった謎のCDと「不幸の手紙」と銘打たれた謎の封筒だった。
 封筒の表に記された文字を見て桜の頬は引きつった。箱をよく調べてみると、ご丁寧にも「あなたに不幸お届けします」という文字まで用意されていた。そして、肝心の封筒の中身は――。
「開封して1分以内にこの手紙と同じものを100通知人に送ってください。できなければあなたを含めあなたの周りの人は不幸になります。送っても不幸になります。ギャハハ――。」
 そこまで手紙を読み終えると桜は封筒を裏返した。差出人の名などあるはずも――いや、あった。そして、そこに刻まれていた名が
「西条勝ってわけよ」
「……」
「ねえ? 楽しい? こんな嫌がらせして楽しい?」
「だから、僕じゃないって!」
 どうやら、朝のラリアートの原因はそのことらしい。しかし、勝にはまったく身に覚えのない話だ。
「ふーん。あくまでシラをきるってわけ? いい度胸してるわ」
 ――桜は自分のことを棚にあげた。
「だから、僕じゃな――」
「いいわ! そこまで言うなら分かりやすく説明してあげようじゃない!」
 そう言って、桜は勝の言葉をさえぎった。
「さっきも言ったとおり、私が小包を発見したのはお風呂から上がって部屋に戻ってから。つまり、犯人は私が部屋を空けた1時間の間に犯行を犯したことになる。私がお風呂に入ったのは9時過ぎだったから、犯行時刻は9時から10時の間。勝。あんたその時間なにしてた?」
「なにって……自分の部屋でテレビを――」
「つまり、アリバイはないわけね」
「いや、アリバイって」
「さらに問題は」
 勝を無視して先に進む桜。
「犯人はどうやって私の両親に気づかれずに私の部屋に侵入したのかよ。9時から10時の間、両親は二人ともリビングにいた。リビングから玄関は筒抜けだから、玄関からの進入は不可能。かといって、私の部屋は2階だから、窓からの侵入も不可能よ」
「じゃあ、僕だって無理じゃない」
「いいえ。犯人はあんたよ、勝!」
「ええ! なんで!」
「ふふ……。勝。私たち、幼稚園の頃からの付き合いよね。家が近所で家族ぐるみで付き合ってきた。そうよね?」
「う、うん」
「それがあんたが犯人である何よりの証拠なのよ!」
「そんな無茶苦茶な!」
「ふん。よく聞きなさい。この事件、確かに私の両親に気づかれずに家に侵入するのは不可能だけど、もし両親が犯人に気づいていたとしたら、どう?」
「どうって言われても」
 自信満々に腕を組んでみせる桜を見て、勝は言葉を濁すしかなかった。
「どうやら、図星をつかれて反論もできないようね」
「いや、そうじゃなくて」
 ――しかし、桜には勝の声は届いていない。
「そう。犯人は堂々と玄関から家に上がりこんだのよ。変質者としてではなく、両親の顔見知りの人物としてね!」
 ――犯人=変質者となった。
「夜の9時という遅い時間帯にも関わらず両親が家に上げているという点。私に恨みを持っているという点。そして、このせこいやり口。犯人はあんた以外に考えられないわ!」
 ――桜は勝に対する普段の自分の行動が恨みを買われても仕方ないことだと自覚していた。
「ちょっと、待ってよ! おじさんもおばさんも、その小包のことは知らないって言ってたんでしょ? 第一、僕は昨日の夕方から今朝まで一歩も外には出てないよ!」
「ふん。もはやあんたの言葉に信憑性はかけらもないわ。それに、私がそのことを聞いた時、母さんたちなんか含み笑いしてた(様な気がする)し。大方、あんた私にプレゼント持ってきたとか何とか嘘でもついたんでしょ」
 ――桜は自分の記憶を都合のいいように編集した。
「ねえ、勝? あんた私にこんななめた真似して、ただですむなんて思ってないわよね?」
 桜は満面の笑顔を勝に向けてそう言った。
 ――しかし、勝はすでに飛びつきラリアートを入れられて断片的に記憶を飛ばされている。
「だから、誤解だってば!」
「言いたいことはそれだけ?」
 ボキボキと拳を鳴らす桜。一見して華奢で小さな手は、見た目からは想像もつかない生々しい音を響かせた。桜は幼い頃から祖父の指導の下武術を叩き込まれているので、その腕前はそこら辺の男よりもよっぽど上だ。そして、その拳の恐ろしさは勝が誰よりも身に染みて知っている。
「ち、ちょっと待って! 冷静に考えてよ! 封筒に僕の名前が書いてあったからって、それを出したのが僕とは限らないでしょ! 大体、不幸の手紙に自分の名前書き込む奴なんていないよ!」
 勝の言葉に桜はピタリと動きを止めた。確かに勝の言うとおり、不幸の手紙にわざわざ自分の名前を書き込むような馬鹿はいない。特に、勝の場合は桜の性格上、必ず報復されることは分かっているので、わざわざ自分が犯人であるような証拠をご丁寧に残すとは考えづらい。
「……そう言われてみれば、そうね」
 そう言って拳を解く桜を見て、勝はほっと息をついた。
「でも、勝じゃないなら、一体誰の仕業よ」
「そんなこと僕に言われても――」
「……そうね。とりあえず、謝っとくわ。私の勘違いだったみたい。ごめんね」
「あ、うん。気にしてないよ。何もされずに済んだしね」
 ――しつこいようだが、勝は飛びつきラリアートを食らわされている。
「そう。よかった」
 こうして桜はシラを切り通し、勝とともに高校の門を仲良くくぐったのだった。
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