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終末の異世界育児 作者:あつ
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藤堂カゲロウはお父さんである

夢のようだった。
眼前に広がるその光景は、まさにわたしが憧れてやまないそのもの。
飲みかけのカップにいつ淹れたかわからぬコーヒー、床に散らばる書物は無作為の配置の妙でもはや芸術。
埃のパウダースノーで化粧されたなんだかよくわからない物体はなんだかよくわからないので恐れ多く触れることなどとてもできない。

「すみませんね、汚くて」

いえそんなことはありません。わたしは本当にこれがいい。
あなたと過ごしたこの場所がいいのだ。
本当に夢のよう。これが夢であることを知っているから。
どうか、もう少しだけ「あー」ここで「あーーっ」ああ、無体な。

「呼んでるよ」

わかってます。一緒にいこうよ。

「そっちは綺麗にしてね」

この汚さはあなたでなければ無理「あーーあーーっ!」あらもう限界。

「よろしくね」

よろしく、されます。
寂しいけれども。どうぞよろしく。


「おはようございます、ハナちゃん。」
「あーあー」

お日様も起きてこない時間、愛しい娘の要求の声で朝を迎える。
これがわたしのお父さんとしての一日の始まりである。




不肖、藤堂カゲロウは日本生まれ日本育ち、現在は故あっていわゆる異世界で生まれたばかりの娘、藤堂ハナと暮らしている。

異世界、ここハーネイケルンは異種族あり、魔法あり、妖精ありの魔物あり。要するにトールキンの物語にある世界観に準じた世界だ。
彼はきっと実際にこの異世界を見て創造したのだろう。わたしは冥王の没後に来て本当に良かった。

どんな国でも、文化でも、異世界でも子供は生まれ、育ってゆく。場所は何処であろうと育児をできないことはない。もしできないことがあるとすれば、それは親の問題だ。
そして今、わたしはその問題に直面していた。

「おむつかぶれだ…」

おむつというものは、当然ではあるが水分を受け止めるものなのでそれはもうよく湿る。
そして湿ったものが肌に触れ続けるとそれはもう、それはもう、蒸れてそしてあかちゃんの肌はかぶれるのだ。

現世界の紙おむつは吸水性に優れた素材と通気性に優れた素材を使いこのおむつかぶれを最大限に防いでくださるが、異世界ハーネイケルンにおいて、そんなものはない。
あるのは、圧倒的な手作り品質で作成された布おむつである。
こんなことなら爆買いしておいていつ召喚されてもおむつもっていけるよう備えておくべきであった。

「こんなかわいいおしりが真っ赤になって…かわいそうな…ああ…
あぁぁかわいいー!かわいいよぉ!尊い!まっかなおしり!」
これはかわいい。全てがかわいい。かわいいは正義である。

「やめてよ不審者」
え、うそ!新生児が喋った!
いやそんなことはない。こんな口さがない者は一人しかいない。

「尊さを前にしたパパはこうなってしまうんです、ティエラ」
「あなたが変態なだけでしょう?」

ティエラは近所に住むエルフの娘で、時折こうして家に来てはわたしに厳しい言葉をかけてくださる。
ツンツンするのは耳だけにして欲しいものである。
もちろんわたしも言われるがままではない。こう強く言い返すのだ。

「今日もハナちゃんを見ててくださいお願いしますティエラ様」
「頼まれてあげる」
見よ、礼を知り、尽くすこの父の姿を。お父さん、がんばってるよ!


「また家、空けるの?」
「少しだけ。今日中には帰ります」
そして握りしめるは、旅の道具と武器、防具。そして届いた一枚の手紙。

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理想の素材、発見せり。

湿原の洞窟にて待つ。



〜 N 〜

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「見つかったんだ、素材が」
そう、素材。
それは問題を解決する素材。
もちろん、その問題は

「理想のおむつをつくる素材を、これから採りに行く」

ティエラが呆けた顔をしている。
きっとわたしの志の高さに感動しているのであろう。

「いや、おむつかぶれは乾かしなよ。おむつとったあと、こう」
ぱたぱたとあおぎハナちゃんのお股に風を送るエルフが正論を言う。
そうなんですけどね。

不肖、藤堂カゲロウは日本生まれ日本育ち、異世界在住のお父さんである。
今、おむつのために、戦いに赴く。
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