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  再転の姫君 作者:須磨彰
チャプター2
大切な人たち




「和也は大丈夫なんですか?」


和也が病院につくと、知らせを聞いて駆け付けたのか母の好美よしみが手術室の前で医者の一人に声をかけていた。


「御子息は、偶然病院の近くで事故にあったことで処置も早かったため今夜の峠をこえれば何とか持ち直すことでしょう。

しかし、事故で全身を打撲しているので、息を吹き返したとしても、これまでのような生活を送るのは難しいかもしれません。」


今までもたくさんの事故などに巻き込まれてきた和也の体、それにより生命力は高まっていたので命を取り留めることはできるようだが、あまりにも酷使されたからだは今回の事故に耐えきれず、身体的なハンデを負うことになったようである。


『俺の立場の変化ってこれのことか、確かにこれは生活が変わるかもしれないな。
まぁ今後まだ600回近く臨死体験するんだから動けなくなるほどのものではないだろう。』


和也の読みは正しく今回は(・・・)左腕の骨折がひどく少し動かしにくくなるだけなのだが、
エンマ帳には今後の身体で動かなくなる個所がまだまだ記載されていた。


「母さん。」


好美の肩を抱くように立ったのは和也の父、利也としやだ。


「和也は何度も死にそうになりながらも生きてきた。きっと今回だって大丈夫さ。
それに少年を助けるために飛びだしたなんて和也らしいじゃないか。和也を信じて待っていよう。」


このやり取りはもう何度も聞いたやりとりなのだろう。
和也も、その通りだとばかりにうなずいている。
それでも息子のことが心配なのだろう、好美はその場から動こうとはしなかった。


「少し、電話をかけてくる。家へ帰れとは今さら言わないが、座って気を落ち着けてまっているんだよ。
最近では実家にいないからと母さんの方が心配しすぎてまいってしまっているんだから。」


そう言うと利也は、公衆電話の置いてあるロビーの方へ歩いて行った。
しばらく、好美の側にいた和也だったが、帰ってこない利也が気になり、ロビーの方へ向かった。


「ああ、それじゃあこんばんはこちらに泊って行くから、家のことは任せたよ。」


和也が利也を見つけるとちょうど電話をかけ終わったところのようだった。
内容から家で待機している兄の武満たけみつだろう。
受話器を置いてすぐ戻るのかと思ったら、利也はもう一度受話器を持ちどこかに電話を始めた。


「あ、いつもお世話になっています。蟹津です。保険のことで相談したいことがありまして。また息子が事故にあいまして、ええ、はい。え?どういうことですか?」


毎回入院や手術というわけでもないが、今回のように大きな事故の場合負担は大きく、それらを毎回払うことはできないので、利也はこうして保険会社に連絡をいれているのだ。


「うちの息子が当たり屋のような、そんなことするわけがないでしょう!!」


いつもは温厚な利也が珍しく病院にも関わらずどなり声を上げている。

どうやら、あまりにも事故などの件数が重なったため保険のグレードをあげて収入の入るようなものに変更していたのだが、それが実は保険会社の思惑だった。

毎回保険金を払うのをやめる口実として多額の保険金を狙った当たり屋の詐欺だと訴えることによって契約の解消を迫っているようだった。


「はい、わかりました。では今回限りの契約ということで、できれば別の保険会社を紹介していただきたいのですが。」


これは意外と簡単なことで、訴訟内容など保険会社の間で連絡を取り合うことも多く、実はこうして紹介してもらったのもこれで3度目だったりする。しかし、


「そうですか、取引先でうわさに・・・・」


当たり屋のまねごとなどと噂がたてばどこの保険会社も厭うわけで、全額補償ではなく、部分保証のところなら断られることはないだろうなどといったわかりきったアドバイスを残し、電話が終わったようである。


「はぁ、とりあえず今後もこんなことがあるとは限らないのだし、今回の保険が下りただけでもよしとしよう。」


前向きに考える利也だが、側で聞いていた和也はそのようには考えられない。


『今36回目だから今後664回も臨死体験するんだろ、そのうち今回みたいな入院費とかが掛かるのは今まで6回あったんだから六回に一回としても110回以上、
それを全部負担するなんて絶対にむりだよな。』


お金という面でも和也の生活は今後大きく変化してしまうようだ。
実際エンマ帳でたしかめたところ、元々蟹津家はかなりの資産をもっていたためなんとか捻出可能な額ではあるが、やはり法律改正と日本1長寿となって国からの援助をうけられるようになるまでに、

かなりの金額が必要となり、財政を圧迫することは避けられないようだ。



ロビーで和也が考え込んでいると、ずいぶんと遅い時間になっていた。
夜の10時を回ろうという時間に靴音がコツコツとなり、誰かがこんな時間に病院を訪れたようである。


和也が音のした方を振り返るとそこにはよく知った三人がいた。
大学で知り合った彼女の恵美えみとそれを両脇から支えるように立っているりゅうつかさだった。

恵美が彼女になってから親友である竜や司とはよく遊ぶし、正直こういう時に絶対にはち合わせてしまうので、お互いにかなりの交流が出来上がっていた。

もう36回目ともなると昔からしっている二人は比較的おちついているものの、大学から知り合った恵美は眼を赤くし、今も二人に支えられてやっとといった状態でロビーに着くと椅子に体をあずけまた泣きだした。


「飲み物かってくるわぁ。なにがええぇ?」


司が言うと、竜は答え、泣いている恵美の分は司が選ぶ様子で自動販売機の方に歩いて行った。


「そんなに泣かないで恵美ちゃん。和也は何度もこんなん乗り越えてきてるやん、絶対大丈夫やって、また4人でカラオケでも行こな」


竜が声をかけると、いくらか落ち着いたのか少ししゃくりあげるのが減った。


「わた・・し・グズ・もう・・むりかも・・」


嗚咽をあげながらもゆっくりと話しだす恵美に竜と魂だけの和也が耳をそばだてた。


「こん・・かいだ・・って・・ヒック・・」


大学に入ってからも臨死体験の絶えなかった和也は何度も恵美がこうして泣いているのだ。
和也は泣かせている自分になさけなくなりながらも、こんなに思ってくれる皆に感謝の気持をこめてお辞儀をしている。


「恵美ちゃん、俺と司は、なれとるんやわ、困ってる人見て巻き込まれて死にそうになっても結局また同じように元気になって繰り返す、馬鹿なやつやけどさ。
そんな和也やから俺らはずっと心友やし、これからも心友なんや。」


「私は・・そんな・ヒック・ふうには・・なれない。」


実際2年近く付き合ってきたが、恵美は頑張ってくれた方だと思う。
この2年で6回も臨死体験を経験していて、そのたびに泣いている恵美、自分の彼氏がこう何度も死にそうな体験をして平気でいられるはずがない。

もう、精神的にも限界だったのだろう。


「買ってきたよぉ。恵美ちゃんはお茶でいいやんねぇ。」


三人分の飲み物をもって司が現れ、飲み物を渡されると恵美も少し落ち着いたようである。
竜は司に礼を言うとおもむろに語りだした。


「これで俺らのしっとるだけで何回目やっけ?」


「30回は超えてるかなぁ。」


「そやな。毎回人をかばったりばっかで、自分の過失みたい片手でかぞえれるけどな。」


「うん、和也らしぃよぉ。」


しばらく、和也の話で二人が盛り上がっていると、お茶と話で落ち着いたのか恵美が話しかけてきた。


「二人は、怖くないんですか?和也さんいつ死んじゃうかわからないんですよ?」


「怖いよ。でも心友をやめたいと思ったことはないな。」


「竜の言うとおりだねぇ。何度もこんなんになるんは勘弁してほしいけどぉ、和也だしぃ。」


「そうですか・・・私、今日は帰りますね。」


いつもは和也が起きるまで三人で残っていくのに恵美は珍しく一人立ち上がった。


「恵美ちゃん、無理やったらええと思うよ。和也には俺からいっとくわな。
和也も大事な心友やけど、今はもう恵美ちゃんも俺らの仲間やから、無理して彼女してなくてもええとおもうしさ。」


「俺らこういうのなれてるからねぇ。きにしんといてぇ。」


和也は理解した。
恵美にはもう耐えきれなくなっていたことを、そしてそんな風に離れていく人たちを竜や司がうまくフォローして俺のために苦労してくれていたこと、三人にもう一度深く深く頭を下げる和也だった。


夜も遅いこともあって結局恵美を車でおくっていくことになり、ロビーにはまた和也一人になった。






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