伝えたい、言葉
忘れ物って何だよ! こんな夜に!
家を飛び出しながら佐山の携帯に何度もかけた。
『あなたのおかけになった電話は、電波の届かないところにいるか、電源が入っていないため……』
携帯の意味がねぇじゃねぇかよ!
さっき見ていた夢がまさか……。背筋が震え、鳥肌が立つ。
違う! そんなことあるはずはない!
佐山を見つけられればわかることだ!
走った。
学校。
……誰もいない。
よく行くコンビニ。
一人のサラリーマン風の人が立ち読みをしていた。店員に聞いてみたが、若い女の子は来ていないと言う。
カラオケボックス。
店は2時までだった。シャッターが下ろされ、閉まっていた。
プラタナスの並木道。
誰一人歩いていない。
さっき来た神社。
露店も仕舞われ、誰もいなかった。
走り回った。
佐山と行ったところ。行きそうなところ。
いない。
どこにもいない……。
一人、走り続けた。
どこへ行ったんだよ!
何度も佐山の自宅に電話を入れたが、佐山は帰ってきていないと訊いた。
佐山の携帯にかけても、同じアナウンスが流れるだけだった。
一晩中走り回って……。
道端で、仰向けに倒れた。
ぜーぜーと自分の息が聞こえる。
ここはどこだろう。
空が明るくなって。遠くで鳥の声がしている……。
「馬鹿……。どこに行っちまったんだよ……」
――――
その日の学校。
俺はまさかとも思い、重い体を引きずって、学校へと向かった。
また明日、学校でって言った約束を胸に。
しかし、やはり佐山は学校に姿を見せなかった。
家に帰り、佐山の自宅に電話しても、誰も出なくなっていた。
次の日も。そのまた次の日も。
まったく同じ、佐山のいない毎日が過ぎた。
「なあ、佐山さん、どうしたんだ? 最近、学校に来ていないじゃないか」
心配そうに俺に訊く吾妻。
「うるせぇよ。俺に聞くんじゃねぇよ」
「お前ら、何かあったのか?」
「しらねぇよ!」
癪にさわって、前にあった机を思いっきり蹴った。
すごい音の後、喧騒が静かになり、視線が俺に集中したのがわかった。
「お、おい……」
「……。すまん……」
イライラが募って、八つ当たりしている。
どこへいっちまったんだよ。
何度もメールもした。何度も電話もかけた。
でも、メールは返ってこなかったし、電話も同じアナウンスをするだけだった。
あの夢のことがすごく気になって。
今すぐにでも、佐山の元気な姿を見たいというのに。
一週間が過ぎた頃。
明日から夏休みという日だった。
担任の先生が、佐山が学校を辞めたことを告げた。
――――
学校の帰りに佐山の家に行ってみたが、表札がはずされ、空き家になっていた。
連絡もなくて、突然いなくなってしまった。
あの夏祭りの日、この玄関でみた佐山の笑顔が思い浮かぶ。
あのとき、俺にしたことは、なんだったんだよ。
なんで、何にも言わねぇんだよ。
また明日って約束したじゃねぇかよ。
胸をかきむしりたくなるような焦燥感。
佐山に逢いたくて。
佐山の笑顔が見たくて……。
『秋月鏡だって。似合わない〜』
『うるせー。俺が望んだわけじゃねぇ』
『あはは。そうだよね。でも、秋月ってなんか読みにくいし。鏡って呼ぶ』
『ああ、好きにしろ』
屈託のない笑顔で俺をそう呼んで。
なにかと俺を呼んで。
『鏡。駅前に新しいカラオケボックスが出来たんだって、行こ』
『あー。何で俺なんだよ』
『暇そうだから』
『うるせーよ』
『いこー』
『あーわかったわかった。安いんだろうな』
『うん』
馬鹿……。
俺は、お前がいてくれて、毎日、すごく癒されていたんだよ。楽しかったんだよ。
俺、お前に、伝えたいことがあるんだよ。だから、いつものように、俺に笑顔を見せてくれよ。今まで言えなかった言葉があるんだよ。それを聞いてからでもいいじゃねぇかよ。
それも、何も言わずいなくなっちまうなんて。何か言ってからでもいいじゃねぇかよ……。
俺……、ふられちまったのかな。
携帯を握り、電気もつけない薄暗い部屋でうずくまる俺に、一冊の本が目に入ってきた。
手にとってみる。
『鏡』という小説。
借りてからもうだいぶ経って、返却期限がとうに過ぎてしまっていた。
忘れていたのも無理はない。
でも、あの日、佐山がどうしても読ませたいって言っていた本。
今はまだ本なんか読む気分にとてもなれなかったが……。
開いて、みた。
+注意+
・特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
・特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)
・作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。
この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。