二人のキモチ
花火大会も終わり、帰り道を二人で歩いていた。
佐山の家は知っている。
こんなに遅くなってしまったからには、佐山といえど、家まで送ってやったほうが良いだろう。
俺が、誘ったしな。
「思ったより、楽しかったな」
「うん」
「たまには、こういうところに行くのも楽しいな」
「そうだね……」
しばらく、誰も通らない、暗い並木道を歩く。遠くでカエルの鳴く声がする。
俺の2歩くらい後ろからついてくる佐山。
からころと佐山のはいている下駄の音が聞こえる。
何も話さなくて。さっきまで、元気だったことを思い出して、しんみりとしてくる。
佐山は今、何を考えているんだろう。
「……鏡。私を何処かに誘ってくれたの、初めてだよね」
「えっ? そうだったか?」
「うん。初めてだよ」
そうか。いつも何処かに出かけていたの、佐山が俺を誘っていたからか……。
「そうか。でも楽しくてよかったな」
「うん。ほんと、楽しかった。このお祭りに誘ってくれて。鏡、私を初めて褒めてくれたし」
聞こえていたのか、あれ……。
「勇気出して、着てきてよかった」
後ろから、佐山の声が聞こえていて。
俺は佐山に、なんて言ってあげたら良いんだろう。言葉が浮かんでこない。
いつも見ていた佐山だったから。
それがいつしか当たり前のようになっていて。
佐山は、俺の……。
わからない。
こんな気持ち、初めてだ。
心臓がドキドキして張り裂けそうになる。
自分が何を思って、意識しているのか理解できない。言葉に出来ない。
ただ、そばにいてくれるこの女の子のことだけが、俺の頭の中を駆け巡っていた。
やがて、佐山の家についた。
「鏡。今日はほんとありがとう」
「ああ。俺も楽しかった」
「また……。あしたね」
「そうだな。また明日、学校でな」
「うん……」
俯いたまま、家に入ろうとしない。
「どうしたんだ?」
ふと、俺を見上げた。
「……鏡」
すごくまじめそうな顔になって。
俺を見つめて。
まるでいつもの佐山じゃないみたいだ。
一歩。佐山が前に来る。
佐山はじっと俺をみつめていて。
俺もじっと佐山をみつめていた。
何かを望んでいるような。
何かを言いたいような。
でもどこか切なくて。
街灯に照らす彼女の瞳は輝いて。
瞳がかすかに揺れている。
いつも知っていた佐山。
でも、今日は、俺の知らならなかった佐山をたくさん見て。
すごく、女の子を感じて。
自分でも、すごく緊張しているのがわかる。
手を伸ばせば、届く距離。
俺は、そっと、佐山の手を取って……指を絡めた。
佐山は、ここにいる。
「佐山……」
佐山は何も言わなくて。
ただじっと俺の瞳を見つめていた。
佐山は、きっと、俺と同じ気持ちなのかもしれない。
どうしてだかわからないけど、それがわかる気がした。
ふと。
握っていた手を胸の前に寄せて。
佐山が背伸びして。
佐山が、俺の目の前にいて。
俺の唇が。
暖かくて、柔らかい感覚に包まれた。
「……おやすみっ!」
踵を返し、玄関に入っていく。
そして、扉の前で振り返って。
「また……あしたね」
玄関の明かりが消えても、俺はそこにしばらく佇んでいた。
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