図書館
図書館は、佐山の言うとおり中は涼しかった。
本屋とは違い、本棚が高い。俺の身長以上の高さまで本がずらっと並んでいる。
俺達のほかにも数人いるようだが、誰も何も話をしていなくて静かで。誰かがページをめくる音や本を探す音がかすかに感じ取れる。インクか、紙の匂いだろうか。独特の香りもする。
本の中にも『ライバルに勝つ! カラオケ編』とか『相手を出し抜く100の方法』とか、読んでみたいような本がいくつかある。
さっきはなんとなく場違いな気がして嫌だったが、好奇心のほうが先にたった。
「鏡。なにうろうろしてるの。こっちだよ」
所在なげに本棚の間を行ったりきたりしていたら、小声で佐山にとがめられた。辺りにいる人の視線が痛い。
涼しいって言っても、違う意味で涼しくなれた気がした。
でも図書館って結構興味をそそられるものがあるんだな。俺もまた来てみたくなった。
佐山に促され、司書さんがいるカウンターに名前とかを記入とかしたりして手続きをすませた。
「はい。これで鏡が借りたことになりました」
「なんか遠回りした気がするぞ」
「物事には、ルールってものがあるんだから、ちゃんとしないとだめなんだから」
「はいはい」
同じようにしていた佐山から本を受け取る。
その佐山が面白いって言って聞かないのが、この、『鏡』という本らしい。ハードカバーの白い表紙にでっかく黒い文字で『鏡』とある。
俺の名前、
『秋月鏡』と一緒だから、興味を引かれたのだろう。
あるいは、俺をからかっているだけなのかもしれない。
『かがみ』と読むそうだが。
ありきたりな題名だな。
「俺が読まずにそのまま返すってことがあっても、文句言うなよ?」
「いいもん。読まないって言っても読ますもん」
「日本語になってないぞ」
「いいもん」
ふくれた顔をして俺を覗き込む。からかっているわけじゃなさそうだ。
「わかった、わかった……。ちゃんと読んでおく」
「うんうん。あとで感想とか聞くからね。ちゃんと読んでおくんだぞ」
にこにこして、ほんと嬉しそうだ。俺にそんなにまでして読んで欲しいって……。この本にちょっと興味が出てきた。
「それにしても、佐山、お前、本を読むんだな」
ぱらぱらめくったら字ばかりで、挿絵もほとんど無い小説だった。厚さもかなりある。佐山がこんな本を読んでいたなんて知らなかった。
「なに? なにか悪い?」
本を見て、佐山を見たら何かいぶかしんだようだ。俺の想像が表情に出ていたのだろう。
佐山は成績が良いから、本当はこんな本を読んでいたのかもしれないが……。
「いや、あまり想像できなくてな。佐山が本を読んでるところ」
「……それってー。ばかにした?」
にこにこしているが、目が笑っていない。
「なんかほら、佐山のイメージからするとマンガとか読んで大笑いしているところが見えてな……」
「鏡。殴られたい?」
「あはは。すまんなー」
怒ったり、笑ったり。表情がころころ変わって面白い。佐山をからかうのは楽しい。
まあ、暇なときにでも読んでみるか。
外はだいぶ夕方になってきて、涼しい風が流れていた。
涼しかった図書館から出ても、暑さはそんなに感じなくなっていた。
――――
「鏡。花火大会があるんだね」
図書館の窓の外側に張られた1枚のポスター。それが佐山の目に写ったのだろう。近所にある神社で……。日付は、今日だった。これからあるのか。
「そうみたいだな。行ってみるか? これを見るとお祭りみたいだな。露店とか出てそうだな」
お祭りみたいなことはあまり好きではないが、今はなんとなく佐山と行きたい気持ちがあった。
「ほんと? 鏡と一緒に行ってもいいの?」
目をキラキラさせて嬉しそうな顔で俺を見上げる。
「まぁ、俺もたまにはこういう地元の伝統風靡な行事に参加したいしな」
たまには俺も頭の良いところを言ってやらないと、佐山にバカにされる。
「なにいってんの? 全然似合わないし」
頭おかしくなっちゃった? というような目で俺を見る。
こいつ……。
「……じゃあいかね」
「あー、うそうそ。ごめんね。傷ついた?」
案外、さっきの俺の仕返しなんだろう。やっちゃったって顔をしている。
「うるせー。もういかねぇよ」
「ごめんね。せっかく誘ってくれたのに」
半分涙目で俺を見つめる。
本当に行きたくないわけじゃないのに。
しょうがないな。
「佐山は行きたくないのか?」
「……えっ? そんなことないよ。行きたいよ」
俯いて、声が小さくて。
「そうか。でもまだ時間があるな。出直して来るとするか。俺はこの本を置いて、並木道で6時まで待つからな。それでいいな」
「えっ……。うんっ」
ほんと、嬉しそうな笑顔を俺に向けた。日も落ちればもっと涼しくなるだろう。
高校生活最後の夏に、色々しておきたいしな。
嬉しそうに家路に向かう佐山の姿を見て、誘ってよかったと思う自分がいた。
+注意+
・特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
・特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)
・作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。
この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。