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   作者:星桜なつき。
佐山沙希
『ココロに〜 残った〜 少しだけの気持ちを〜 私だけに〜 伝えて〜』

 ちょっと前にテレビとかで聞こえていた旋律。その曲に合わせて澄み渡る綺麗な声が部屋に流れていた。
 この歌の主は、大きな画面の前にあるステージに立って、手を前に出したりポーズをつけたり、半ば踊るように振り付けをしながら楽しそうな声を出している。
 これで連続4曲目。
 この賑やかで明るい女の子は、
佐山沙希さやまさき
 この真夏の中、避暑地を求め、佐山に誘われて俺は嫌々ながらもこのカラオケボックスに来ていた。
 佐山は歌がかなり上手い。歌いたがるのも良くわかる。
 歌の歌い手に似せて歌っているのだが、声は綺麗だしよく響く。強弱のつけ方。メリハリとビブラートの響き。何処かのアーティストがカバーを歌っているようだ。
 正直なところ、俺はほとんど歌えなくても、佐山の歌を聞いているだけで心地良い。
 しかし、そんなふうに佐山を褒めたりしたら、佐山はきっとつけあがるだろうから、口が裂けても言うわけにはいかないが。
 佐山が歌うたび、ふりをつけているのでさらさらの黒いショートの髪が舞っている。白いノースリーブのブラウスに、短めな赤のチェックのプリーツスカートという服装。
 この服装も良くない。
 ステージに立って踊っているので、佐山のスタイルの良い体が否応なしに目に付いてくる。肌の露出が多くて、細くて長い手足が強調されているので、少しだけ、俺も男だと思ってしまう。
 くそ、なんで、佐山にドキドキしないといけないんだ。
 夏だから仕方が無いといえば仕方が無いが。
 だから俺は、いつものように、聞いていない、見ていないふりをして歌本に視線を落としていた。

「こらー! 私の歌を聴けー!」

 間奏の間に俺の姿を見てマイク越しに言う。
 微妙にエコーがかかった大きな声が癪に障る。

「うるせー! マイクで大声を出すな! 歌わないなら俺が歌うぞ!」

「音痴なんだから、おとなしく私の歌を聴いて上手くなるようにしなさい!」

「うるせー! うるせー! ほら、次が始まるぞ」

「むー」

 再び、佐山の綺麗な歌声が部屋に流れていく。
 佐山と俺はいつもこんな調子だ。
 俺と佐山とは腐れ縁……。こう説明するのが一番しっくりいくか。

 佐山とは結構前からの付き合いだ。
 高校に進学したときに、前の中学で一緒であったやつは佐山だけだった。それもたまたま同じクラスになっていて。昔の学校の話が合ったことから始まりだったような……気がする。
 いつの間にか俺の話相手には佐山がいて。今みたいにからかったりふざけあったり……。 
 そうそう、こうして二人だけでカラオケボックスに来たりしているが、くれぐれも、佐山は俺の彼女とかじゃない。
 いつも俺につっかかってきて憎たらしいくらいだ。
 でも、なにかとこいつとは話が合うし、どこかほうっておけないところもあるし、一緒に遊びに行ったりすることは嫌じゃなかった。
 手を焼かせる妹って感じか。
 まぁ、そんな関係だ。

『いつか〜 きっと〜 それが勇気にな〜って〜 風に舞う〜 翼に変わる〜』

 佐山の歌も、終わりを告げていた。



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