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   作者:星桜なつき。
素直な心。

「ごめんね。誘ったの私なのに。私ばっかりはしゃいじゃって、秋月君に迷惑ばっかりかけちゃって……」
「気にするな。俺もすごく楽しかったしな」
「私、こうして出かけてお酒を飲んだりするの、初めてだったから……」

 並木道に響く遠くからのカエルの声。他には俺と沙耶の足音だけが聞こえている。
 あの時と、同じ、夜の道。あの時と同じように、数歩後ろを歩く沙耶。

「でも、ほんとありがとう。楽しかったよ」
「ああ。俺もだ。また飲みにいけたら良いな」
「あはは。うん」

 しばらく、俺も沙耶も何も話さなくて。楽しいことが終わると寂しい気持ちになってくる。
 沙耶も、同じ気持ちなのかな。

「いつか~ きっと~ それが勇気にな~って~ 風に舞う~ 翼に変わる~」

 いつしか、優しく呟くように沙耶が歌っていた。
 この歌は、佐山が好きだった歌……。

「その歌、好きなのか?」
「うん……。なんか、この歌がずっと心に残ってる」
「思い出の歌とかなのか?」
「思い出? そうね……。この歌に、励まされたから、好きになったのかな」
「歌、上手いな。聴いているだけで心地いい。声も綺麗だ」
「えっ……。ありがとう」

 俺は、佐山と居た頃を思い出して。
 こうして、楽しい時間を過ごして、あの時と同じ夜の並木道を歩いていて。沙耶を送ったら、また彼女は居なくなったり、してしまわないだろうか。
 不安で、怖くなる。

「……秋月君。あなたはとっても不思議な人だよね」
「不思議?」
「うん……。不思議だと思うよ」
「どうして?」
「あはは。だって、私が、そう思ったんだもの」

 俺の前に出て、いたずらっぽく舌を出して、俺にはにかむような笑顔を見せていた。
 やがて、俺の左側に来て、並んで歩き始めた。

「私ね……。本当は、男の人が怖いんだ」
「男の人が、怖い?」
「うん……。でもね、秋月君にはそう思わなかった。だから、こうして一緒に居られるの」
「でも、俺も男だぞ?」
「あはは。うん……」

 男の人が、怖い、か。
 佐山もそんなことを言っていたな。

「秋月君ってさ……。どうして、いつもそんな顔をしているの?」
「えっ?」
 俺の顔を覗き込んでいる。さっきとは違って、少し寂しげな瞳をしている。
「そんな顔をして……。私を見ていないよね」

 沙耶が、歩みを止めて、少し離れた。
 振り向いて、沙耶を見る。
 胸元で両手を握り締めて、俺を見つめていた。
 瞳を細くして、今にも泣いてしまうんじゃないかって表情をして。

「あなたは、いつも、私じゃなくて、違う人を見てる。わたし、あなたの思ってる人じゃ、ないんだよ」

 沙耶の言葉に、背筋が凍りついたように震えた。
 何か答えようと言葉を捜しても、何も出てこなかった。

「でも、優しい瞳で私を見てくれて。優しい言葉をかけてくれて。私だって、女の子なんだよ? そんなあなたに何も感じないなんて、そんなこと、あるはず、ない……」

 沙耶の肩が、遠くからでも震えているのがわかった。

「それなのに、いつもあなたは誰かのことを思ってる。あなたは、私を何だと思っているの? 昔好きだった人の代わりなの? 私、どうしたらいいの? どうなればいいの? ねぇ、答えてよ……」

 沙耶が、泣いている。小さな肩を震わせて。

 そうだよな。
 俺、何をしているんだろうな。

 沙耶は、あの女の子じゃない。
 違う、女の子なんだ。

 本当にそっくりだったってことで、いつも傍に居てくれるこの女の子のことを、彼女が言うように、俺は代わりとしてしか見ていなかったのか?
 彼女の言うように、俺がいつも沙耶に接していたのは、佐山の代わりだったからか?
 俺の本当の気持ちは何だ。
 代わりって。違うだろ。
 沙耶も佐山も、一人の女の子じゃないか。
 それなのに、俺は、いつも沙耶を比べてしまって。沙耶に佐山を探してた。
 それは何故なんだ。何故、沙耶が佐山だったらって思っているんだ。
 そうか。俺。

『怖かった』んだ。

 いつしか沙耶のことを……。想っている俺がいる。
 とても綺麗で、かわいくて。素敵な女の子。
 話をして。仕事をして。傍に居てくれることが嬉しかった。
 想っているからこそ……。同じ女の子でいてほしいと、願っていたんだ。
 ずっと傍に居て欲しいから。
 離れて欲しくないから。

 それは。彼女のこと……。沙耶のことが、好きだって、ことじゃないか。

 佐山と似ているってことをきっかけとした……。俺達の出会い。
 たとえ、似ていなくても、たとえ、全く知らなくて出逢っていたとしても。俺はきっと彼女のことを。

 だけど、もう一つだけの、心残り。

 佐山。俺はお前のこと、忘れても、いいのか?
 お前のこと忘れて。この女の子のことを、愛しても良いのか?

 誰も覚えていなく、消えてしまった女の子のことを、俺が忘れてしまっても、いいのか?
 お前は、それで、すべて消えてしまうのじゃないか?
 それでも、いいのか?
 そのとき。声が聞こえたような気がした。

『素直になって、この人を愛してあげて。それが出来るのは、鏡だけなんだから』

 そうか。
 お前は、幸せなんだろうな。
 なら、俺も幸せになってもいいよな。
 好きになった女の子のことを、幸せにしてやってもいいよな。

 俺はもう、お前を探さない。
 ただ、俺達幸せになって。
 お前にやきもち焼かせてやるからな。

 泣いている沙耶の手を取って。俺は両手でぎゅっと包み込むように握り。
 今まで思っていたことを、全て伝えた。


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