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   作者:星桜なつき。
仕事の中で
 この会社に入って一ヶ月が過ぎていた。
 仕事にも慣れ、一人で仕事を任せられることも多くなってきた。

 沙耶との間柄も変わりが無く。でも、心の中にある違和感は無くせなくて。
 気持ちは抑えようとしても、宙ぶらりんのような足元がつかないはっきりしない気持ちが今の俺を包んでいる。
 佐山への気持ちも、消せなくて。
 沙耶に、どうすれば良いのか、どうしたいのか、自分でもよくわからない。

 ふう、と一息ついて書類をとんとんと束ね、留める。

「……うん、俺の仕事はばっちりだ」

 だから、こうして、仕事に集中しようとして、日々を過ごしていた。

 営業といっても取引先を回ったりということだけじゃなくて、プレゼンなどでの資料を集めたり、色々な統計を取ったり、そうした書面を起こすなどの仕事が色々あった。売り込む仕事もある。
 仕事を知るにつれ、忙しいということがわかってきた。
 今の俺にとって、こうした忙しさは悪くは無かった。

 ふと、沙耶のしていた書類を見てみると、さすがに彼女はしっかりと終わらせているようだった。
 今日は沙耶は家の事情ということで、お休みになっている。俺一人で仕事をするのは初めてかもしれない。
 色々落ち着かせる時間が出来て、安心したような淋しいようなそんな気持ちだった。

 俺は、終えた仕事を顧みて間違っているところは無いかとチェックしてみた。

「……あれ? 何処かおかしい?」

 統計のところ。よく見たら合計の割合の数字がおかしい。ありえない数字が出ている。
 計算はパソコンでしてくれるので間違いは無いはずだ。

 沙耶の作った表がおかしいのか?

 電卓を取り出し、計算してみる。
 と、そこまで行かなかった。

 表の一つ目から数字がずれている。全部一つずつ。
 それで合計が合わない。

 この表を見て、可笑しくなってしまった。笑みがこぼれる。
 そういえば、佐山もテストの答案、一つずつずれてしまい、0点を取ったことがあったっけ。
 こんなところでも、似ているなんてな。
 佐山よりしっかりしているように見える沙耶だけど。こんなところもあるんだな。
 っと、こんな書類を見ていてニヤニヤしている場合じゃない。
 この表が間違っているとしたら、ほぼ全部の書類を書き直さないといけなくなる。
 この書類を使うプレゼンは明日のはず。

 時計を見た。
 時間は終業時刻。

 しょうがないか。
 佐山のことを思い出して、心が暖かいうちに、終わらせよう。
 でも、頭に思い浮かべたのは、佐山の笑顔ではなく、あの女の子の笑顔だった。

――

 次の日。

「おはよう。今日は早いな」
「秋月さん!」
「鏡でいいって」
「も、もう。それより、ごめんなさい。大変なことが」

 朝、出社して、沙耶の顔をみたとたん、沙耶が切羽詰ったような慌てたような表情で俺に詰め寄ってくる。

「どうしたんだ?」
「あの、私、書類間違えててしまって……」
「書類?」
「そうなの、今日これからのプレゼンの、書類が」
 おろおろして、何を言いたいのか自分でもよくわかっていないのだろう。
 いつも整頓されている沙耶の机が書類でごった返している。
 こんな一面も持っているんだな。
 沙耶をかわいいと思ってしまった。
「その書類って、このことか?」
 俺はかばんの中から昨日の書類を取り出した。
「そうなの! それが、この書類から間違っていて……」
「どこも間違えていないぞ。見てみて」
「えっ……?」
 俺の書類を受け取り、目を動かしている。
「あれ……? あってる……」
「な。大丈夫だろ?」
「でも、私のこの書類、間違えていたの。秋月さんに渡したの、私の書類のコピーだし」
「気がついちまったか。ちょっと残念」
「えっ?」
「実はさ、昨日仕事終えたときに気がついたんだ」
「それじゃ、直して、くれた……の?」
「プレゼン終わるまで黙っておこうと思ったけど。さすがに仕事熱心だな」
「そんな、私、秋月さんに迷惑を……」
「ちげーよ。俺はもうちょっと邪で腹黒だからな」
「えっ?」
「俺も多分、仕事をいつか間違えたり失敗してしまうことがあると思う。でもそのとき、一緒にいてくれている沙耶がいてくれるから、俺は間違えたりしてしまう不安を持たなくて安心して仕事が出来ているんだ。だから、今度俺が間違えたりしたら、頼みたい。そんな画策してた」
「秋月さん……」
「だからな、もっと俺のことも信用してくれ。俺も沙耶を頼るから。二人でやってる仕事だろ?」

「ありがとう……」

 恥ずかしそうに、でも、俺の方に、笑顔を向けてくれた。
 今まで見たことの無い、沙耶の笑顔だった。


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