行方
図書館に行くことにした。この本を頂くことは出来ないかと。
しかし、佐山に連れられて行ったはずの場所は、なにもなかった。
驚いた。目を疑った。
ここは確かに、佐山の後を付いていって辿りついた場所だ。
でも、今、俺の前にあるのは、砂利に草が生えている、空き地だけ。
ここにはあの涼しかった図書館があったはずだ。俺の右手に持つ本を借りたはずだから、夢を見ていたとかそんなことはないはずだ。
場所を間違えたのだろうか。
近くの歩いている人にこの辺に図書館がなかったかと訊いてみた。ここではなく、ずいぶん遠くにあることを聞いた。ここからバスに乗って行かなければならないくらい遠いという。
どういう、ことなのだろう。
佐山といたカラオケボックスはここだ。この先にプラタナスの並木道がある。
並木道の先の交差点を右に曲がって……。
おかしい。
記憶を頼りに歩いてみても、その先はやっぱり空き地だった。
遠いと言われた図書館に行ってみた。
でも、あの時見た図書館とは形が全然違っていた。
中もあのときじっくりと見た本棚とはかけ離れていて、俺の頭より低かった。
本の事を司書さんに聞いてみても、この本は蔵書にはないと言われた。
わからない。どうしてだ?
あのとき、借りた本は確かにここにある。
ただ、借りたという手続きの痕跡だけがなくなっている。
混乱する。
まるで、俺が、別の世界に紛れ込んでしまったような……。
背筋がぞくりとして鳥肌が立ってくる。
もしかしたら、いなくなってしまったのは佐山ではなくて……。
俺、が……?
頭を振る。
そんなこと、現実であるわけは無い。何かの勘違いだ。
きっと、どこかで道を間違えて、図書館っぽいところが他にもあったのだろう。
借りたことは事実なんだし、返却を忘れていたりしたら、図書館から連絡が来るはずだ。手続きのときに電話番号とか書いたはず。
釈然としないところがあるが、この本はしばらく持っていることが出来そうだった。
この本を持っていれば、佐山とのつながりが、いつかきっとできる。なぜだかそう思える。
佐山は生きている。
いまも、きっと、どこかで。
俺は絶対忘れない。
そして、佐山を探し出してみせる。
そして、あのとき、言えなかった言葉を、伝えたい。
何年経っても。思い出となっても……。
――――
あれから、どのくらい時間が経ったのだろう。
体中が痛くて。
生臭い、栗の花の匂いが、私の服に、体にこびりついていて。
暗い中に、ひとり。
自分に起こったことが信じられなくて。
頭が真っ白で。
歩いても、体が痛くて。
いくら体を洗っても、栗の花の匂いがした。
何度も洗った。流した。
けれど、私の体の中に染み付いていて。
生きていられたことは嬉しかったけど。
心も、体も、嫌気が差して。
死んでしまったほうが、良かったかも、なんて思って……。
気がついたら、この病室で、天井を見上げているだけだった。
そんな、ある日。
いつの間にいたのか、女の子が寝ている私をのぞきこんでいた。
「こんにちはっ」
屈託の無い笑顔を見せて。
「ねぇ。この本を、読んでみてよ」
「あなたは……?」
「きっと、この本が、あなたの未来を変えてくれると思う」
「私の、未来?」
「うん。きっと」
手をさし伸ばして。
その先には。
『鏡』と書かれた本があった。
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